東原佑翔
執筆者:東原 佑翔(ひがしはら ゆうと)
弁護士法人 直法律事務所 弁護士
はじめまして。
2022年4月に当事務所に入所致しました、東原と申します。
本記事では、訴訟や家事事件の当事者が、その行為を代理人に委任する際に必要になる「委任状」に関して、みなさんにご紹介しようと思います。
ぜひご一読ください!
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「委任」について
委任は、「当事者の一方[委任者]が法律行為をすることを、相手方[受任者]に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」ものです(民法第643条)。
訴訟委任又は手続代理委任がされる際も、本人と代理人との間に委任契約が締結されることが通例となりますが、その際に裁判所に提出することとなる委任状の記載事項・書き方について、以下でご説明します。
訴訟委任状に記載すべき事項
以下のとおり、訴訟委任状には、一般的に、包括的な委任事項(委任事項には、「原告がする一切の行為を代理する権限」と記載することが多いです。)に加えて、民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項を記載することとなります。
訴訟委任における特別授権事項は
- 反訴の提起
- 訴えの取下げ、和解、請求の放棄及び認諾、訴訟脱退
- 控訴、上告、上告受理の申立て及びこれらの取下げ
- 手形異議の取下げ及び同意
- 復代理人の選任
となります(民事訴訟法(以下「法」といいます)第55条第2項)。
なお、控訴においては、実務の運用上、控訴裁判所に訴訟委任状を提出し直さなければならない点は注意しなければなりません。
訴訟代理権の範囲は、法に明文の規定が置かれており、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができます(法第55条第1項)。
この規定は例示列挙であるとして、訴訟代理人の権限は、当該事件において当事者を勝訴させるために必要な一切の行為を含むとするが通説です。
このように訴訟代理人の代理権が包括的なものとして法定されている趣旨は、手続の安定性と、弁護士資格を有する者に対する信頼という二つの点が指摘されています。
つまり、訴訟手続は、継続的、連鎖的に行われるものですから、個々の訴訟行為についていちいち代理権の有無を確認することとなれば訴訟手続の円滑な進行を害することとなるし、後に当該行為の適法性について争いが起こる可能性も大きくなります。
そこで、代理権の範囲について、一律かつある程度包括的に法定すべきだといえます。
他方で、弁護士は、第1に、法律専門家として訴訟追行に関して適切な処置を行うことが期待できること、また第2に、厳格な職業倫理に服する者として当事者に対して誠実に職務を行うことが期待できることから、そのように広範な代理権を与えても当事者に不利益を生じるおそれは小さいとされています。
以上に対して、前述した1~5の事項については、包括的な代理権に含まれず、当事者本人による特別の授権が必要であるとされています(法第55条第2項)。
これらの事項が、特別の授権を必要としているのは、本来、当事者は代理人に対して勝訴に向けた訴訟行為について委任していると考えられるところ、上記特別授権事項は、勝訴に向けた訴訟行為とは異なる目的に向けた事項となるからです。
また、上記特別授権事項に関しての行為をすることによって、当事者本人に重大な結果をもたらすことになります。そのため、別途、当事者は代理人にこれらの特別授権事項については委任しなければなりません。
また、訴訟代理権を行使するためには、代理権の存在及び範囲を、書面で証明しなければなりません(民事訴訟規則第23条)。このようなことが求められるのは、代理権の存否に関する審査を簡易迅速に行うためです。
したがって、訴訟代理人がいる場合には訴状に付属書類として表示する必要があります。
手続代理委任状に記載すべき事項
以下のとおり、手続代理委任状には、一般的に、包括的な委任事項(委任事項には、「委任を受けた事件について、申立人手続代理人としてする一切の件」と記載することが多いです。)に加えて、家事事件手続法(以下「家手法」といいます。)第24条第2項の特別授権事項を記載することとなります。
特別な授権が必要な事項として
- 家事審判(又は家事調停)の申立ての取下げ
- 家事調停における合意(又は、調停案の受諾、調停に代わる審判に服する旨の共同の申出(調停に係る授権がない場合))
- 即時抗告、特別抗告、許可抗告の申立て
- 合意に相当する審判(又は調停に代わる審判)に対する異議
- 上記各抗告又は異議の取下げ
- 復代理人の選任
が挙げられます(家手法第24条第2項)。
まず、家事事件において、当事者の代理人となる者を手続代理人といいます。
家事事件において、手続代理人となり得るのは、弁護士の他、家庭裁判所の許可を得たものです(家手法第22条第1項)。
弁護士が手続代理人の権限を証明するための委任状(家事事件手続規則(以下「家手規則」といいます。)第18条第1項)は、手続代理委任状と呼ばれます。(なお、手続代理委任状の書式はこちらにも掲載されています(東京弁護士会Webサイト)。
もっとも、民事訴訟法の訴訟委任状の書式を用いることも否定されるものではありません(最高裁。条解家事事件手続規則45頁))。
訴訟委任状の項目でもご説明しましたが、家事事件においても、代理権の存在及び範囲を、書面で証明する必要があります(家手規則第18条第1項)。
そして、家事事件の代理権の範囲は、委任を受けた事件において手続行為をすることのほか、参加、強制執行、保全処分に関する行為や、弁済の受領は、当然に代理することができます(家手法第24条第1項)。
一方で、前述の1~6の事項は、特別な授権が必要な事項として、委任状に記載することになります。
以上のことから、手続代理委任状に記載すべき事項としては、一般的に、包括的委任事項に加えて、家手法第24条第2項の上記特別授権事項となります。
例えば、遺言書の検認申立てについては、検認自体が遺言の有効又は無効を判断するための手続ではないので、検認手続自体に対する不服申立手段はありません。
そのため、不服申立てに関する記載は不要になると思われます。また、遺言書の検認申立ては、審判事項であり調停事項ではないため(家手法第39条、244条)、調停に関する特別授権事項の記載も不要となります。
したがって、特別授権事項の記載としては、遺言書の検認申立ての取下げと復代理人の選任のみになるでしょう。
「捨印」について
「捨印」は必要か?
そもそも、「捨印」は何のために必要なのでしょうか?
捨印とは、契約書を作成した後の加筆や訂正に備えて、あらかじめ契約書の上欄余白部分に、契約当事者全員が押す印のことをいいます。
「捨印が押していない委任状は無効ではないか?」と思われる方もいるでしょう。
捨印とは、記載の誤りの訂正にあたり、訂正印の捺印に代えて使用する印影で、委任者(依頼者)からすると、相手に書類の記載の訂正を委ねてしまうことになるので、依頼する側からすると、むやみやたらに捨印を押したくないという人もいるかもしれません。
捨印を押していないから委任状が無効になる、というようなことはありませんが、訂正がスムーズにできるため、あらかじめ押すことが多くはなっているでしょう。
ご相談は東京都千代田区直法律事務所弁護士まで
訴訟委任状及び手続代理委任状のいずれにおいても、原則として、委任を受けた当該事件において必要な一切の代理権限を有することから(法第55条第1項、家手法第第24条第1項)、その旨の委任についての記載をすることになります。
また、特別授権事項についても、別途授権が必要になるため、それらについても委任を受ける可能性がある場合には、訴訟委任状又は手続代理委任状の委任事項欄に記載する必要があります。
委任事項についての記載漏れがあると、事後的に改めて当該委任事項についての委任状を裁判所に提出しなければならず、手間を要することとなります。
そのため、なるべく委任事項については、網羅的に記載しておくことが望ましいでしょう。
また、委任状は、保険金請求等の代理で、保険会社と交渉する際にも、要求されることが多いので、その際にも、何についての委任を受けているのか明確に示しておくことが望ましいでしょう。
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