澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「改正民法で変わる実務2 ~保証~」
について、詳しくご解説します。
改正概要
保証債務とは、主債務者が債務の支払をしない場合に、これに代わって支払をすべき債務のことをいいます。
そして通常の保証は、契約を締結したときに特定している債務を保証することをいいますが(例:住宅ローンの保証)、根保証とは将来発生する不特定の債務の保証をいいます(例:継続的な事業用融資の保証)。
この度、改正民法では、この通常の保証、根保証について、実務上大きな影響がある改正がなされました。
とりわけ、保証に関する改正で実務上影響がある点は以下のとおりです。
①事業主借入れを対象とする個人(根)保証に関する制限制度の新設
②保証人保護のための情報提供義務の新設
③個人根保証に関する規律の適用対象の拡大
④連帯保証人に対する履行請求の相対効化
以下解説していきます。
①個人保証の制限
概要
保証制度は、特に中小企業向けの融資において、主債務者の信用の補完や、経営の規律付けの観点から、重要な役割を担う一方、個人的な情義等から保証人となった者が、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれる事例が後を絶ちませんでした。
そこで、改正民法では、事業のために負担した貸金等債務を対象とする個人保証・個人根保証(正確には、事業のために負担した貸金等債務を主債務とする保証契約、又は主債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約)は、保証契約の締結日の1か月以内に、公正証書(保証意思宣明公正証書といいます)で「保証債務を履行する意思」を確認しなければ、原則として無効とされました(改正民法第465条の6)。
ただし、個人保証人が主債務者の経営者である場合等、改正民法第465条の9で定める適用除外に該当する場合は、このような保証意思宣明公正証書の作成は不要とされています。
事業とは
個人保証が制限される「事業」とは、一定の目的をもってされる同種の行為の反復継続的遂行をいい、「事業のために負担した貸金等債務」とは、借主が借り入れた金銭等を自らの事業に用いるために負担した貸金等債務を意味します。
例えば、製造業を営む株式会社が製造用の工場を建設したり、原材料を購入したりするための資金を 借り入れることにより負担した貸金債務が「事業のために負担した貸金等債務」の典型例とされます。
このほか、いわゆるアパート・ローンなども「事業のために負担した貸金等債務」に該当するものと考えられます。 他方で、貸与型の奨学金については「事業のために負担した貸金等債務」に該当しません。
なお、借主が使途は事業資金であると説明して金銭の借入れを申し入れ、貸主もそのことを前提として金銭を貸し付けた場合には、実際にその金銭が事業に用いられたかどうかにかかわらず、その債務は事業のために負担した貸金等債務に該当します。
また、借入時において、借主と貸主との間で、例えば、その使途を居住用住宅の購入費用としていた場合には、仮に借主が金銭受領後にそれを「事業のために」用いてしまったとしても、そのことによって「事業のために負担した」債務に代わるものではありません。
保証意思宣明公正証書の作成手続(改正民法465条の6第2項)
それでは、保証人となる者の保証意思を確認する公正証書(保証意思宣明公正証書)はどのように作成するのでしょうか。
保証意思の確認
まず、公証人による保証意思の確認がなされます。
保証人になろうとする者が保証しようとしている主債務の具体的内容を認識していることや、保証契約を締結すれば保証人は保証債務を負担し、主債務が履行されなければ自らが保証債務を履行しなければならなくなることを理解しているかなどを検証し、 保証契約のリスクを十分に理解した上で、 保証人になろうとする者が相当の考慮をして保証契約を締結しようとしているか否かを見極めることとされています。
※ 公証人は、保証意思を確認する際には、保証人が主債務者の財産状況について情報提供義務に基づいてどのような情報の提供を受けたかも確認し、保証人がその情報も踏まえてリスクを十分に認識しているかを見極めます。
ここで、保証人の保証意思を確認することができない場合には、公証人は、無効な法律行為等については証書を作成することができないとする公証人法26条に基づき、 公正証書の作成を拒絶しなければなりません。
公正証書の作成手続について代理人による嘱託はできず、必ず保証人本人が出頭しなければならないとされています。手数料は、1通1万1000円を予定されています。
公正証書の作成手続
次に、保証意思宣明公正証書は、保証契約の締結の日前1か月以内に、以下の方式に従って作成される必要があります。
① 保証人となろうとする者が、保証契約については改正民法465条の6第2項1号イ、根保証契約については同号ロに定める事項を公証人に対して口授すること(改正民法465条の7)。
② 公証人が保証人となろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
③ 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し押印すること。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、その事由を付記して、署名に代えることができる。
④ 公証人がその証書は①から③までに掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、署名し、押印すること。
なお、保証意思宣明公正証書を作成した後、保証契約締結までに保証債務履行の意思が失われた場合には、原則として、保証契約を締結しない対応をとることができるのはもちろん、公正証書による保証意思を撤回することもできると考えられます。
また、保証意思宣明公正証書は、保証契約の契約書(保証契約公正証書)とは別のものであり、保証意思宣明公正証書自体には執行認諾文言を付けることはできません。
公正証書の作成が不要な場合
主債務者の事業の状況を把握することができる立場にあり、保証のリスクを十分に認識せずに保証契約を締結するおそれが類型的に低いと考えられる方は、公証人による保証意思宣明公正証書の作成は不要とされました(改正民法465条の9)。
具体的には、以下の方となります。
主債務者が法人である場合
① その理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者(同1号)
② その総株主の議決権の過半数を有する者
(その議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社等を含む。)及び株式会社以外の法人である場合にこれらに準ずる者(同2号)
主債務者が個人である場合(同3号)
① 主債務者と共同して事業を行う者
② 主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者
主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者は、個人事業主については経営と家計の分離が必ずしも十分ではないと考えられ、配偶者が事業に現に従事している場合には事業の状況をよく知りうる立場にあって、保証意思宣明公正証書の作成を義務付ける必要はそれほど高くないと考えられたことにより例外とされました。
もっとも、「事業に現に従事している」とは、共同して事業を行う者と実質的に同視される者に限定されるべきと考えられており、個人事業主が行う事業に実際に従事している必要があり、例えば、経理業務しか行っておらず、経営に関与していないといった場合や、書類上従事しているにすぎない場合は、これにあたらないと考えられます。
②保証人保護のための情報提供義務の新設
現行民法において、保証人に対する情報提供に関する規定は存在せず、情報提供義務や違反時の保証の効力については、信義則等の一般条項や錯誤等の意思表示に関する規律の解釈に委ねられていました。
そして、保証人になるに当たって、主債務者の財産状況等(保証のリスク)を十分に把握していない事例が少なくなく、現状では、主債務者は、自らの財産状況等を保証人に説明する義務を負っておらず、また、債権者も、主債務者の財産状況等を保証人に伝える義務を負っていませんでした。
そこで、改正民法では、主に保証人保護の観点から、
①保証契約締結時の主直務者の情報提供義務(改正民法第465条の10)
②主債務の履行状況に関する債権者の情報提供義務(改正民法第458条の2)
③主債務者が期限の利益を失った場合の債権者の情報提供義務(改正民法第458条の3)
の三つの情報提供義務を新設しています。これらの義務の対象や時点等については、以下のとおりです。
①保証契約締結時の主債務者の情報提供義務(改正民法第465条の10)
改正民法465条の10第1項は、主債務者が事業のために負担する債務(貸金債務の保証に限らない)について、保証ないし根保証を委託する場合には、個人の保証人に対し「① 財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、③ 主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容」について、情報提供しなければならないとしました。
同第2項は、債権者は主債務者の情報提供義務違反を当然に知る立場にないことを考慮し、主債務者による上記の①から③の事項に関する情報提供義務違反のために、委託を受けた者がその事項につき誤認し、それによって保証の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、かかる情報提供義務違反があることを債権者が知り又は知ることができたときに限り、保証人は保証契約を取り消すことができるとしました。
②主債務の履行状況に関する債権者の情報提供義務(改正民法第458条の2)
現行民法では、保証人にとって、主債務の履行状況は重要な関心事ですが、その情報の提供を求めることができるとの明文の規定はありませんでした。
また、銀行等の債権者としても、保証人からの求めに応じ、主債務者のプライバシーにも関わる情報を提供してよいのかの判断に困り、対応に苦慮していたという実態がありました。
そこで、改正民法458条の2は、主債務者から委託を受けた保証人(法人も可)から請求があった場合には、債権者は保証人に対し、遅滞なく主債務の元本及び主債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない旨を新設しました。
この情報提供義務違反については、債務不履行一般の法理に従い、損害賠償請求ができると思われます。
③主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
改正民法458条の3は、保証人が個人である場合には、主債務者が期限の利益(※)を喪失した場合、 債権者はそれを知ったときから2か月以内にその事実を保証人に通知しなければならず(同条第1項、第3項)、その通知を怠った場合には、 保証人に対し期限の利益を喪失したときから通知を現にするまでの遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)を請求できないとしました(同条第2項)。
※ 期限の利益とは、例えば、分割払の約定がされ、弁済が猶予される結果、期限が到来しないことによって債務者が受ける利益をいいます。 期限の利益の喪失とは、例えば、主債務者が分割払の支払を怠り、特約に基づいて、保証人が 一括払の義務を負うことなどをいいます。
例えば、支払を1回でも怠れば直ちに一括払の義務を負うとの特約が付いている分割払の貸金債務について、保証がされたものの、主債務者が分割払の支払を怠り、一括払の義務を負った場合を例にします。
この場合、改正民法では保証人に対して通知する義務が発生しますが、例えば、債権者が2か月以内に通知せず、3か月後に通知をした場合には、一括払い前提での3か月分の遅延損害金の請求を保証人にすることはできないことになります。
保証人の範囲 | 情報の内容 | 違反時の効果 |
---|---|---|
事業の為に負担する債務について委託を受けた保証人(個人のみ) | 主債務者の財産、収支、履行の負債の状況等 | 債権者が悪意又は有過失である場合に、保証人による保証契約の取消しが可能 |
委託を受けた保証人(個人・法人) | 主債務(元本・利息等)の不履行の有無・残額等 | 規定なし |
保証人(個人のみ、委託の有無を問わない) | 主債務の期限の利益喪失 | 通知時までの遅延損害金相当額の保証履行の請求不可 |
③個人根保証に関する規律の適用対象の拡大
現行民法は、根保証のうち、主債務の範囲に貸金等債務(金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務)を含む個人による根保証契約を「貸金等根保証契約」と定義して、極度額や元本確定に関する規律を設けていました(現行民法第465条の2 ~第465条の5) 。
これに対し、改正民法は、個人根保証人の保護の観点から、現行民法における貸金等根保証契約の規律の一部を、貸金等根保証契約以外の根保証契約(例えば、賃貸借や継続売買取引の根保証)にも及ぽすこととしました。
具体的には、現行民法第 465条の2 の適用対象を個人根保証一般に拡大し、「一定の範囲に属する不特定の債務」を主債務とする個人根保証について、極度額の定めがない限り無効としています(改正民法第465 条の2)。
また、改正民法は、貸金等根保証契約の元本確定事由として定められていた事由のうち、
①保証人の財産についての強制執行等の申立て、
②保証人についての破産手続開始の決定、
③主債務者又は保証人の死亡) を個人根保証一般の元本確定事由としています(改正民法第465 条の 4 第 1 項)。
他方、
④主債務者の財産についての強制執行等の申立て、
⑤主債務者についての破産手続開始の決定については、引続き貸金等根保証契約のみの元本確定事由とし(同条第2 項)、個人根保証一般の元本確定事由とはされていません。
例えば不動産の賃借人の債務を根保証の対象とする場合、主依務者である賃借人についてこれらの事由が生じても、引き続き賃貸が維持される楊合が想定され、このような場合の保証契約継続の必要性を踏まえたものと説明されています。
なお、現行民法における貸金等根保証契約の規律のうち、元本確定期日を最大5年後とする規律等を定める現行民法第465条の3の規定は、貸金等根保証契約以外の根保証には拡大されておらず、現行民法の規律は変更されていません(改正民法第465条の3)。
これは、包括根保証禁止の既存のルールをすべての契約に拡大すると、例えば、賃貸借契約について、最長でも5年で保証人が存在しなくなるといった事態が生ずるおそれがあるためです。
個人根保証に関する規律の適用対象の拡大事項をまとめると、以下のとおりとなります。
~貸金等債務以外の根保証の例~
・不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務の一切を個人が保証する保証契約
・代理店等を含めた取引先企業の代表者との間で損害賠償債務や取引債務等を保証する保証契約
・介護、医療等の施設への入居者の負う各種債務を保証する保証契約
改正ポイント
- 極度額の定めの義務付けについては、すべての根保証契約に適用(改正民法465条の2)
- 保証期間の制限については、現状維持(賃貸借等の根保証には適用せず)(改正民法465条の3)
- 特別事情(主債務者の死亡や、保証人の破産・死亡など)がある場合の根保証の打ち切りについては、すべての根保証契約に適用。ただし、主債務者の破産等があっても、賃貸借等の根保証が打ち切りにならない点は、現状を維持。(改正民法465条の4)
④連帯保証人に対する履行請求の相対効化
連帯債務者の一人に生じた事由の効力が他の連帯債務者にも及ぶかという絶対的効力・相対的効力に関する規律は、連帯保証の場合に準用されますが(改正民法第458条)、改正民法ではこの効力が変わります。
具体的には、改正民法の下では、連帯債務者の一人に対する履行請求、免除、時効の完成は、原則として他の連帯債務者に及ばないとされたため(相対的効力の原則、改正民法第441条)、連帯保証人に対する履行請求、免除、時効の完成の効力も、主債務に及ばないことになりました。
その結果、現行民法では連帯保証人に対する履行請求により主債務についても時効中断(改正民法では更新)の効力が生じていましたが、改正民法では当然にそのような効果が認められなくなりますので注意が必要です。
もっとも、この点は債権者と主債務者の間の合意により、絶対的効力に変更することも可能とされていますので、このような合意をすることが債権者の債権管理の姿勢として極めて大切になります。
なお、絶対的効力があるとされた規定は以下のとおりです。
・相殺
改正民法439条1項が準用され、主債務者ないし連帯保証人が相殺を援用したときは、絶対的効力があるとされました。
・更改、混同
求償の循環の懸念があることから、改正民法438条(現行民法435条)、改正民法440条(現行民法438条)は準用され絶対的効力が維持されました。
その他(求償)
委託を受けた保証人の求償権
改正民法459条1項は、委託を受けた保証人が主債務者に代わって弁済等の債務の消滅行為をした場合には、保証人が弁済等のために支出した財産の額(その財産の額がその弁済等によって消滅した債務の額を超える場合には、消滅した債務の額)を基準として求償権の額が算出されるとしました。
委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権
改正民法459条の2第1項前段は、保証人が主債務を期限前に弁済することを許容した上で、その場合の求償権の範囲を現行民法462条1項と同様「主たる債務者がその当時利益を受けた限度」としました。
同項後段は、この場合に、主債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたときは、主債務者はこれを保証人に対抗でき、保証人は債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求できるとしました。
同条第2項は、第1項の求償の具体的範囲を、主債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の賠償に限定しました。
同条第3項は、第1項の求償権は、主債務の弁済期到来後でなければ求償できない旨の判例を明文化しました。
委託を受けた保証人の事前求償権
現行民法460条3号の事前求償権発生事由は削除され、現行民法459条に規定されていた「保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき」に保証人が主債務者に求償権を取得する旨は、事前求償権に関するものであることから、改正民法460条3号に移されました。
委託を受けない保証人の求償権
改正民法459条の2の改正を受けて、改正民法462条1項は、改正民法459条の2第1項を準用すると改められました。
改正民法462条3項は、同条1項の求償権は主債務の弁済期到来後でなければ求償できない旨を明らかにするため、改正民法459条の2第3項を準用しました。
保証人の通知義務と通知を怠った保証人の求償の制限
改正民法463条1項では、委託を受けない保証人については、事前通知の制度(現行民法463条1項において準用する443条1項)は廃止されました。また、委託を受けた保証人は、履行の請求を受けた場合に限らず債務の消滅行為をする場合に主債務者に対する事前通知を要すると改められました。
同条2項は、委託を受けた保証人がいる場合に、債務の消滅行為をした主債務者に保証人に対する事後通知の義務を課するとともに、かかる事後通知を怠ったため保証人が善意で債務の消滅行為をした場合に、保証人は、その債務の消滅行為を有効とみなすことができるとしました。
同条3項は、主債務者の意思に反しない保証人につき、債務の消滅行為をした場合に主債務者に対する事後通知義務を課するとともに、かかる事後通知を怠ったため主債務者が善意で債務の消滅行為をした場合に、主債務者は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができるとしました。
なお、主債務者の意思に反する保証人による事後通知(現行民法463条1項において準用する443条2項)の制度は廃止されました。