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競業避止義務と守秘義務で企業を守る!

Q
当社のシステム開発を担当していた従業員が退職する事になりましたが、競合他社に転職されて、在職中に従業員が知った当社のノウハウを利用されるのは困ります。
何か、よい方法はありますか?

A
まず、就業規則や雇用契約、雇用時に提出してもらった誓約書等を拝見し、競業避止義務や秘密情報保護に関する規定がないか確認する必要があります。
また、退職にあたり、秘密情報保護のための誓約書を締結してもらうという方法も考えられます。

貴社の企業秘密を保護するためにどのような方法があるか、以下解説します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「競業避止義務と守秘義務で企業を守る!」
について、詳しくご解説します。

総論

 まず、ご質問の退職した従業員が会社のノウハウ等を不当に利用することを防ぐためのよい方法は、退職する従業員に、退職後も競業避止義務および秘密保持義務を負わせ、退職後に競合他社への就職や在職中に知り得た情報の利用をけん制するという方法が考えられます。

 この方法を実践するためには、従業員に誓約書を差し入れてもらったり、その旨を定めた退職合意書を作成することが考えられます。

もっとも、退職時に、競業避止や秘密保持を約束させることが困難なこともありうるため、就業規則や入社時に契約する雇用契約書に、退職後の競業避止義務や秘密保持義務について定めておくとよいです。

そして、そのうえで、退職時には、注意喚起の意味で、改めて誓約書を差し入れさせたり、退職の合意書を結んだりするとよいでしょう。

ちなみに、競業避止義務は、従業員が負うものの他に、取締役が負うものや、事業譲渡型のm&aにおいて譲渡会社が負うものなどがあります。また、競業禁止義務ではなく、一般に競業「避止」義務といわれます。読みは「ヒシ」です。

競業避止義務について

在職中の競業行為について

裁判例では、従業員は、労働契約の存続中は、信義則(労働契約法3条4項)から生ずるものとして、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があると解されています。

したがって、在職中の競業避止義務については、従業員からの誓約書や就業規則の規定があればもちろんのこと、仮に誓約書や規定がなかったとしても、信義則上の義務として、当然に従業員が負うこととなります。

そして、在職中の競業避止義務に違反した場合には、企業としては懲戒処分や損害賠償を請求すること、場合によっては、従業員を懲戒解雇とすることもできます。

労働者が懲戒解雇された場合等には、使用者は、退職金不支給規程に基づき当該労働者の退職金を不支給としたり、減額することができます。

この在職中の競業避止義務に似たものとして兼業禁止があり、就業規則で兼業禁止を定めている企業も多いです。
もっともこの兼業禁止規定については、従業員の自由な時間を制限するため、その効力は裁判例上限定的に解されており、企業の職場秩序に影響を与える場合、又は、労務提供に支障を生じさせる場合に限って、兼業禁止規定違反が懲戒事由に当たると解されています(東京地判平成20年12月5日判タ1303号158頁など)。 なお、取締役は、従業員とは違い、会社法上の競業避止義務を負います(会社法356条1項、365条1項2項)。もっとも、取締役は競業行為を一律に禁止されているのではなく、事前に株主総会(取締役会設置会社の場合は、取締役会)の承認を得る必要等があるとされています。

退職後の競業行為について

実務上問題になりやすいのは、今回のテーマでもある退職後・離職後の場面です。

従業員が退職後に同業他社に就職したり、同じ事業を目的とする会社を開業したりするような場合に、退職後の行為をどこまで制限することが可能かということが問題となり、その点については、その元従業員の職業選択の自由(憲法22条1項)に照らして判断されることになります。

この点については、元従業員にも職業選択の自由があること等からすれば、原則として競業行為は自由であり、競業避止義務として当該自由を制限するためには就業規則などで明確に定めておくことが必要となります。

裁判例でも、契約上の明確な根拠がないことを理由に、退職後の競業避止義務が否定されているものがあります(久保田製作所事件、東京地裁昭和47・11・1、労判165号61頁)。
ただし、不正競争防止法で定義されている営業秘密を使用した競業は、同法の規制によって、契約上の根拠がなくとも制限が可能となります。

競業避止義務規定の有効性

使用者と退職者との間で個別に退職後の競業避止義務に関する合意をしたとしても、このような合意は、退職者の職業選択の自由、営業の自由を制限するものであるから公序良俗(民法90条)に反するおそれがあり無条件にその効力が肯定されることはなく、その合意の有効性を慎重に判断することになります。

この点に関するリーディングケースは、奈良地判昭45.10.23の裁判例であり、同裁判例は、「競業制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は公序良俗に反し無効となることはいうまでもないが、この合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って慎重に検討していくことを要する。」と判示しています。

その後の圧倒的多数の裁判例も、基本的には同様の視点に立っており、最大公約数として集約すると、以下4つの要素に着目して退職者の競業避止義務を定める合意等の効力を検討しています(経済産業省「競業避止義務の有効性について」188~201頁、『秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~』(平成28年2月))。

①使用者の利益
不正競争防止法によって明確に法的保護の対象とされる「営業秘密」や個別の判断においてこれに準じて取り扱うことができる妥当な情報やスキル・ノウハウを持っている場合には守るべき使用者の利益があると判断されやすくなります。

②退職者の従前の地位
全従業員を対象にしたり形式的に特定の地位にある者を対象にするというより、実質的に企業が守るべき利益を保護するために競業避止義務を課すことが必要な従業員であったかどうかを具体的な経歴等に照らして判断します。

③制限の範囲
競業避止義務については、地理的な制限・期間の制限・禁止行為の制限があります。
地理的な制限については、業務の性質上合理的な制限が加えられているかどうか考慮されています。もっとも、合理性があれば地理的な制限がないという一事で合意の効力が無効となるわけではありません。
期間の制限については、無制限とするのではなく、企業ごとに一定の制限を設けるのが一般的となっておりますが、概して退職後1年以内の期間については肯定的にとらえられている一方で、特に近時の事案においては、退職後2年間の競業避止義務は否定的にとらえられています。
禁止される行為の制限については、使用者の守るべき利益との関係で合理的な制限となっているか考慮されています。禁止される活動の内容や職種が限定されていれば肯定的にとらえられています。

④代償措置の有無・内容
競業避止義務を課すことの対価として明確に定義された代償措置でなくても、代償措置(みなし代償措置も含め)と呼べるものが存在する場合には肯定的に判断されています。

裁判所における判断の傾向

裁判では、具体的に、退職後の競業避止義務の特約の有効性についてどのように判断されるのでしょうか。
この点については、「従業員等の競業避止義務等に関する諸論点について」判例タイムズNo.1387 2013.6 横地大輔大阪地方裁判所判事著が、非常に参考になりますので、以下、ご紹介します。

(1)特定の要素に注目して判断できると思われる事例についての考え方

ア 代償措置(経済的利益)が十分であり、合意の経緯等を考慮すれば、当該利益を享受することによって退職者の不利益が十分に補償されている、あるいは退職者が合意に違反することが背信的といえるような場合には、他の要件にかかわらず、合意は有効となる。 全部有効とするには制限範囲が広すぎると思われる場合には、限定解釈により必要な範囲に限定すれば足りる。

イ 使用者の保護利益が少ない場合又は制限理由が合理性を欠く場合には、よほど多額の代償措置を得ているなどの事情がない限り、基本的には合意は無効と解すべきであって、限定解釈の余地はない。
ウ(顧客に対する営業活動のみが禁止されているなど)使用者の保護利益が明確で、制限範囲が合理的かつ狭く限定されていて退職者の受ける不利益が小さい場合には、代償措置がなくても有効と考えてよい。 制限範囲が限定されていても、使用者の利益が保護に値しない場合には退職者の不利益が上回るとして無効となる。

エ 逆に、無制限かつ包括的な競業制限は、使用者の保護利益がよほど具体的なものでない限り無効である。 使用者の保護利益が具体的なものであっても、代償措置(経済利益)が全くなければやはり無効であり、限定解釈による救済は不適当である。

この場合、退職者の競業行為の態様が極めて悪質である場合に、合意による制限範囲を悪質な行為に限定する旨解釈し、その範囲内で合意を有効と判断することが許されるかについては両論ありうると思われる(合意そのものを無効とした上で、不法行為責任を問うことはできるが、差止め請求の可否など、合意の有効性を肯定する意義は否定できない)。

(2)総合判断を要する場合

使用者の利益が一定程度保護に値するものであること及び代償措置(経済的利益)が一定程度ある場合には、禁止行為・期間等についての限定解釈の可能性も含めて、以下のように有効性を判断する。

ア 使用者の保護利益の内容及び要保護性を確定した上で、退職者の地位を考慮し、当該退職者に競業制限をするまでの必要性があるかどうかを検討する。 この段階で使用者の利益を保護するに必要な範囲(及び代償措置の程度)に沿って、禁止行為等の範囲・対象を限定解釈し、退職者の行為が当該範囲に当てはまらなければ、その時点で合意違反なしと判断することもできる。

イ 退職者の地位・能力等から競業行為によって得られるべき退職者の社会的経済的利益及び競業制限の期間、地域、業務対象等の制限の程度の両面から、退職者の不利益の大きさをイメージする。

ウ アから競業制限の必要性が一定程度肯定できる場合には、イをカバーするに足りる程度の代償措置(経済的利益)があるといえるかどうかで検討し、代償措置(経済的利益)が過小であれば無効、調整が必要な程度であれば対象や期間を限定解釈して有効、代償措置が十分であれば有効となる。

一方、アから競業制限の必要性が低い場合には、イを大きく上回る代償措置(経済的利益)がある場合のみ合意を有効とし、そうでなければ,限定解釈するまでもなく無効となる。

具体的にどのように規定するべきか

それでは、企業としては、退職後の競業避止義務についてはどのように規定していくべきでしょうか。

競業避止義務を負わせることは使用者の営業の自由に基づくものであり、退職者の職業選択の自由との、人権と人権との衝突の問題であり、裁判所は利益衡量(当事者その他の利害関係、利益などを比較することです)してその調和点を見出すことになります。
したがって、紛争になる前の運用段階で、当該使用者の人事担当者が、裁判官がその有効性を判断する際の思考過程に沿って設計するとよいでしょう。

例えば、以下のような規定を設けることが考えられます。

  • 就業規則の規定例
    (競業避止義務)
    第○○条
    従業員は在職中及び退職後6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競業する事業を 営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に竸業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。

  • 個別合意の例
    貴社を退職するにあたり、退職後1年問、貴社からの許諾がない限り、次の行為をしないことを誓約いたします。
    ①貴社で従事した○○の開発に係る職務を通じて得た経験や知見が貴社にとって重要な企業秘密ないしノウハウであることに鑑み、当該開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社(競業する新会社を設立した場合にはこれを含む。以下、同じ)において行いません。
    ②貴社で従事した○○に係る開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競業他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。


他にも、秘密保持義務と一体にして構成するという方法も退職後の競業避止義務の実効性確保に役立ちます。

一見して、競業避止義務と秘密保持義務は別のものとも思えますが、現実にはオーバーラップします。退職者が在職中に得た秘密(顧客情報など)を自分のノウハウのように錯覚し、その情報を保有していることをアピールして、より高い境遇を求めて同業他社に転職するといったパターンが多いといえるからです。
したがって、このような状況に対応するためには、秘密保持義務と競業避止義務を別のものとしてとらえるのではなく、重畳的に構成するのが実践的です。

直法律事務所では、秘密保持義務や競業避止義務、その他に企業が守るべき財産を保護できるよう、従業員の皆様に結んでいただくべき誓約書例を多数ご用意しておりますので、悩んでいらっしゃる企業様は当事務所までお問合せください。

誓約書提出のタイミング

退職後の競業避止義務を従業員に負わせるタイミングとしては、
(ⅰ)採用時に締結する雇用契約や就業規則にその旨規定する方法、
(ⅱ)重要なプロジェクト参加時や昇進時に差し入れてもらう方法、
(ⅲ)退職時に差し入れてもらう誓約書や退職合意書に規定しておくという方法
があります。

退職後の話であるので、(ⅲ)の退職時の誓約書や退職合意書に規定すれば足りると考えられると思うのですが、退職後の競業避止義務については (ⅰ)の雇用契約や就業規則や(ⅱ)重要なプロジェクト参加時や昇進時に差し入れてもらう方法を採用するべきです。

なぜなら、円満退職であれば問題は少ないですが、退職時に揉めたというケースでは、従業員から(ii)の誓約書や退職合意書を取得するのは困難であるからです。

そのため、退職時の話ではあるものの、採用時の雇用契約や就業規則にきちんと退職後の競業避止義務についても明記しておくべきであり、再確認のために、重要なプロジェクト参加時や昇進時には誓約書を差し入れてもらい、さらに退職時にも誓約書や退職合意書の中で、退職後の競業避止義務について明記するという運用法がよいでしょう。

  • なお、競業避止義務については就業規則に規定を設けている事例と、個別の誓約書において規定を設けている例がありますが、就業規則に規定を設け、かつ、規定した内容と異なる内容の個別の誓約書を結ぶことについては、就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める契約の効果を無効とする労働契約法12条との関係が問題となります。
    もっとも実務上は、就業規則には「従業員は在職中及び退職後6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する」というような原則的な規定を設けておき、加えて、就業規則に、例えば「ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする」というように、個別合意をした場合には個別合意を優先する旨規定しておけば、労働契約法12条の問題は生じず、規則の周知効果を狙うという観点からも記載をしておくべきであると考えられます。
    就業規則に「ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする」という規定が設けられていない企業はご注意ください。

競業避止義務違反があった場合

退職後の競業避止義務の規定が従業員との間で有効に成立している場合で、当該従業員による競業避止義務違反があった場合には、会社としては義務違反に基づく損害賠償請求や、競業行為を差し止める退職金を不支給にするといった措置をとることが可能となります。

そして、実務上は、すぐに訴訟を提起するということはなく、まずは内容証明郵便などで警告書を送付し、警告するという手段を講じることが多いです。

また、競業避止義務違反をした従業員本人以外で、その人物を雇用している会社に対しても、その違反を知っているにもかかわらず、雇用しているといった事情がある場合には、違反行為に加担していると考えて、警告書を送付することもありえるでしょう。

なお、競業行為を差し止める場合は、職業選択の自由を直接制限することとなり、退職した役員や従業員に与える影響が大きいという理由から、差止請求を行うための実体上の要件として「当該競業行為により使用者は営業上の利益を現に侵害され、又は侵害される具体的なおそれがあることを要する」と判示する裁判例があり、差止請求は制限される可能性があります(東京リーガルマインド事件、東京地判平成7・10・16、労判690号75頁)。

競業避止義務についてのチェックリスト

  • ①競業避止義務規定が有効となるように、裁判所の思考(判断)過程に沿って設計すること
    →この点については、「営業秘密保護のための競業避止義務の締結の方法」経済産業省経済産業政策局知的財産政策室、前掲「従業員等の競業避止義務等に関する諸論点について」判例タイムズが参考になると思います。
  • ②秘密保持義務等と一体にして構成しているか。

  • ③採用時の雇用契約や就業規則に規定することを忘れずに。
    そして、再確認のために退職時の誓約書、退職合意書の中にも明記しておくこと。

秘密保持義務について

秘密保持義務の内容とその有効性

まず、在職中の秘密保持義務は、労働者の誠実義務の一つとして認められます。就業規則等に明記しなくとも、在職中は当然に秘密保持義務を負っていることになります。

他方で、雇用契約が終了すれば、退職者は不正競争防止法で定められる「営業秘密」は別として、何ら義務を負わないのが原則であり、信義則上の守秘義務を認める裁判例も、退職者が常に一般的に守秘義務を負うことを認める趣旨ではないと考えられています。

そのため、退職後の従業員に対して明確に秘密保持義務を課すためには、その旨を明示的に定める根拠が必要となります。

秘密保持義務が従業員の行為規範の中で極めて重要と考えるのは、当該企業の大切な無形財産を守るものだからです。

退職後の秘密保持義務については、退職者の職業選択の自由の観点から一定の制約を受け、競業避止義務の有効性判断と類似した判断がなされる場合があります。

そして、秘密保持義務の対象について、合理的な限定解釈がなされたり、また、その明確性が求められ、例えば同業者が容易に取得できるような情報については、秘密保持義務の対象とならない(ないし公序良俗に反する)と判断される可能性があります。

もっとも、最終的にその有効性(公序良俗に反するか否か)は、対象となる秘密の限定性・特定性のほか、要保護性、退職者の従前の地位等をも総合的に考慮して判断される傾向にあります。

秘密は、従業員の脳の中に記憶として残っているものであり、退職するときに企業に置いていくことは物理的に不可能であることも退職後にも秘密保持義務を負わせる理由の一つです。
よって、その秘密が陳腐化しない(価値がなくならない)限りは、期間を無制限に負わせても有効になると考えられます。

ここで、秘密保持義務と競業避止義務の違いを整理すると以下のようになります。

  • 共通点:企業の財産権、営業の自由が根拠である。退職後の秘密保持義務の有効性については、退職者の職業選択の自由の保障との関係から、競業避止義務の有効性に準じた判断がなされる場合がある。
  • 相違点:従業員の退職後の秘密保持義務を定める特約は、営業秘密等の情報の漏洩等を制約するにとどまるから、競業避止義務を定める特約に比較すれば、従業員の職業選択の自由や営業の自由に対する制約の程度は緩やかなものということができる。
  • 有効性:合理的な限定解釈がなされたり、また、その明確性が求められ、例えば同業者が容易に取得できるような情報については.秘密保持義務の対象とならない(ないし公序良俗に反する)と判断される可能性がある。


なお、秘密は守るが自分の事業のために使ってしまう労働者もいますので、目的外の使用の禁止を在職中はもちろん退職後も負わせるとよいでしょう。
退職者が退職後にその企業の秘密を事業目的で使用する事は通常あり得ないので、これによって、退職後の自己目的の使用を全面的に禁止できます。

具体例として、以下のように制度化するとよいです。

(秘密保持、目的外使用の禁止)
第〇条 社員は、在職中知り得た以下に規定する秘密を在職中はもちろん退職後も他に漏らしてはならない。また、在職中はもちろん退職後も、目的外に上記秘密を利用してはならない。
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秘密保持義務を負わせる際の注意点

企業は従業員に対して優越的な交渉力を有することが多いため、優越的な交渉力を用いて秘密保持義務に関する合意を成立させた場合の効力が問題となり、一方的に署名を求める、署名がない場合は退職金を支給しない態度を見せる等した場合において、労働基準法の精神に反するとして効力を認めなかった裁判例があります。

そこで、企業としては、合意を成立させようとする場合、交渉態度に留意が必要です。

また、退職時は合意の取得が困難となることから、合意は退職時より前に得ることが望ましいでしょう。

具体的には、競業避止義務と同様に配置転換やプロジェクトの立ち上げ時等のように、企業の営業秘密に接する職務等、競業避止義務・秘密保持義務を課す必要のある職務に新たに就任する時点が考えられます。

業種や職種上、営業秘密に接する職務に就く蓋然性が高い場合には採用時に取得することが望ましいです。さらには、これらを併用し、採用時に合意を収得した上で、特定の職務に就く時点で、改めて営業秘密等を輿体化して合意するなど、きめ細かい対応が必要な場合もあります。

引抜き行為

多くの裁判例においては、勧誘や引抜き行為があれば直ちに責任を認めるわけではなく、悪質な態様の勧誘・引抜き行為のみ違法とする旨を示しています(東京地判平成3・2・25判時1399号69頁等)。

具体的には、
①従業員の自由な意思決定を害する態様での勧誘(前使用者に関する虚偽の情報を伝えたり、金銭供与を行ったり、一斉に1つの場所に集めて行う勧誘行為等、労働者の自由な意思決定を害すると考えられる行為)を行っていること
②退職の際に予告期間を置いていないこと
③得意先との引継ぎ作業をしていないこと
④労働力の獲得より、競合他社の競争力を減殺させることや顧客奪取を目的としていること
等が社会的相当性を逸脱している方法での引き抜きであると判断される要素として挙げられます。

有効性に議論もあるところですが、企業としては、裁判例で違法として認定される基準以上に引き抜き行為を防止する誓約書を締結することも企業防衛手段として考えられます。

まとめ

以上みてきたとおり、ノウハウ利用の防止のためには、退職後も競業避止義務、秘密保持義務を負わせるという方法をとるのがよいと考えます。

その際、退職後の競業避止義務、秘密保持義務については、裁判所の思考過程に沿って有効と判断される誓約書等を差し入れてもらうとよいでしょう。

そして、誓約書については、退職段階では取得が困難なことがあるので、入社時やプロジェクト参加時等に取得しておくとよいでしょう。

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