澤田直彦
監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「契約書の存続条項(残存条項)とは?契約終了後も効力が続く条項と実務対応のポイント」について、詳しくご説明します。
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はじめに
存続条項 (残存条項) の位置づけと企業法務における重要性
契約書において「存続条項(残存条項)」は、契約期間が終了した後にも一部の条項が引き続き効力を持つことを定める重要な規定です。
例えば、秘密保持義務・損害賠償条項・知的財産権の帰属・合意管轄条項などは、契約終了後も当事者間の権利義務関係に影響を与え続けるため、適切に残存させる必要があります。
企業法務担当者にとって、存続条項(残存条項)は「契約終了=義務も終了」と安易に考えることによるリスクを防止するうえで不可欠です。
特に、取引先との信頼関係維持・紛争防止・コンプライアンス対応の観点からは、存続条項(残存条項)の適否を正しく判断することが契約レビューの要諦となります。
存続条項 (残存条項) をめぐる誤解とトラブル例
実務では、存続条項(残存条項)に関して以下のような誤解やトラブルが頻繁に見受けられます。
■ 「存続条項(残存条項)がなくても当然に効力が続く」 という誤解
秘密保持や競業避止義務は、契約の性質上当然に続くと誤認されがちですが、裁判例では期間や内容が合理的でない場合、公序良俗違反や独占禁止法違反として無効とされるリスク があります。
■ 条項を網羅的に残存させすぎることによる問題
契約のほとんどの条項を「終了後も効力を有する」と定める例がありますが、これは当事者に過大な拘束を与える可能性があり、交渉で不利になったり、後に無効主張をされるリスクがあります。
■ 残存期間の設定を誤ったことによる紛争
秘密保持義務を「無期限」としたために、退職社員や元取引先との間で職業選択の自由や営業の自由を不当に制限しているとして争われたケースも存在します。
■ 国際契約での見落とし
海外の契約では survival clause が一般的ですが、日本法にそのまま持ち込むと、国内法の強行規定に抵触するリスクがあるため、国内法務担当者が見逃すと大きな問題に発展します。
澤田直彦
「存続条項(残存条項)は契約の終了後にも効力を持つ特別な条項であり、適切に設計しないと重大な紛争や無効リスクを招く」という認識を持つことです。
存続条項 (残存条項) とは何か
定義と基本的な考え方
「存続条項(残存条項)」とは、契約が終了した後も特定の条項について効力を継続させる旨を定めた規定を指します。英語では survival clause と呼ばれることが多く、日本国内の契約でもそのまま「存続条項」や「残存条項」と表現されます。
契約関係は通常、契約期間の満了や解除によって終了するのが原則です。 しかし、契約終了と同時にすべての条項が効力を失うと、実務上大きな不都合が生じます。
例えば、以下のような条項は契約終了後にも存続させる必要があります。
- 秘密保持義務 : 取引終了後も相手の営業秘密や顧客情報を守る必要がある
- 損害賠償条項 : 契約期間中に発生した違反行為に基づく責任を追及できるようにする
- 知的財産権条項 : 成果物の著作権や特許権の帰属関係を明確にする
- 合意管轄 ・ 準拠法条項 : 契約終了後の訴訟や紛争解決のルールを残す
このように、存続条項(残存条項)は契約終了後のリスク管理のために欠かせないものであり、取引の安定性や予見可能性を担保する役割を持っています。
海外契約における survival clause との関係
存続条項(残存条項)の考え方は、もともと海外の契約実務における「survival clause」に由来しています。米国や欧州の契約書では、典型的に次のような条項が置かれます。
| survival clause |
|---|
| The provisions of Articles [Confidentiality], [Indemnification], and [Governing Law] shall survive the termination or expiration of this Agreement. |
これは「秘密保持条項、補償条項、準拠法条項は、契約の終了後も効力を存続する」と定めるもので、日本語契約の存続条項(残存条項)と同趣旨です。
ただし注意すべきは、海外契約の survival clause を日本の契約書にそのまま翻訳して流用すると、国内法上は無効や制限を受ける場合があるという点です。例えば、競業避止義務や過度な損害賠償義務を無期限に残存させると、日本では「公序良俗違反」や「独占禁止法違反」と評価されるおそれがあります。
そのため、法務担当者は「海外契約では一般的だから」という理由で安易に採用せず、日本法の下で許容される範囲を意識した修正・調整を行う必要があります。
「契約の余後効」 との違い
存続条項(残存条項)と似た概念に「契約の余後効(または契約の継続効)」があります。これは、存続条項(残存条項)がなくても、契約終了後に一定の義務や効果が当然に残る場合があるという考え方です。
例としては以下のようなものが挙げられます。
- 労働契約における退職後の秘密保持義務
- 診療契約における契約終了後の療養指導義務
- 売買契約におけるアフターサービス提供義務や部品供給義務
ただし、この「余後効」は必ずしも明確な基準があるわけではなく、契約の性質や信義則に基づいて個別判断されるに過ぎません。そのため、実務では余後効に委ねるのではなく、存続条項(残存条項)を明記しておくことが安全策となります。
澤田直彦
・ 存続条項(残存条項)とは、契約終了後にも特定条項を存続させるための条項
・ 海外契約の survival clause がルーツだが、日本法では制約あり
・ 「余後効」は裁判所が個別判断する不安定な概念であり、契約書に明記しておくのが実務的に必須
存続条項 (残存条項) を設ける意義
確認的意義 (当然に存続する義務の明確化)
存続条項(残存条項)の第一の意義は、契約終了後も当然に存続すると解される義務を、改めて契約書上に明記することで不必要な紛争を防ぐ点にあります。
典型例としては以下が挙げられます。
- 秘密保持義務
共同研究契約やフランチャイズ契約において、契約終了後も秘密情報を保護すべきことは当事者にとって自明ですが、あえて存続条項(残存条項)で確認することで、解釈上の疑義を防ぎます。 - 合意管轄条項や準拠法条項
契約終了後に訴訟が起きた場合、裁判所や準拠法の適用に関して混乱が生じないよう、存続条項(残存条項)で効力を明記することが有効です。 - 損害賠償条項
契約終了前の行為に基づく損害賠償請求権は当然に存続すると解されますが、存続条項(残存条項)で確認的に存続を定めることで、請求の根拠をより強固にします。
このように、確認的意義は「当事者間で当然視される権利義務を、後日の紛争を防ぐために契約で明文化する」役割を果たします。
創設的意義 (本来終了する義務を残す合意)
存続条項(残存条項)の第二の意義は、契約終了後は本来効力を失う義務について、当事者間で合意により効力を残すことです。
典型例としては以下が挙げられます。
- 競業避止義務
代理店契約や雇用契約では、契約終了後に一定期間、競合他社への参入や情報利用を禁止する条項が設けられます。
これは、契約終了とともに消滅する義務を、存続条項(残存条項)によって「創設的に」延長するものです。 - 知的財産権の利用制限
共同研究契約では、契約終了後も研究成果の利用範囲を制限する旨を存続条項(残存条項)で定めることがあります。 - 供給契約における部品供給義務
売買契約が終了しても、顧客サポートのために一定期間は部品を供給し続ける義務を残存させることがあります。
このように、創設的意義を持つ存続条項(残存条項)は、契約終了後のビジネス秩序を維持する役割を果たす一方で、強行法規や公序良俗との抵触リスクが大きくなるため、合理的な範囲や期間を明確に定める必要があります。
実務での整理の難しさ
実際の契約実務では、「確認的意義」と「創設的意義」を厳密に区別することは困難です。同じ「秘密保持条項」であっても、ある契約では当然存続すると考えられる一方、別の契約では存続の根拠が不明確であり、創設的意義を持つ場合もあります。
裁判例でも、存続条項(残存条項)の対象となる規定が「確認的なものなのか、創設的なものなのか」を事案ごとに判断しており、統一的な基準は存在しません。
このため実務上は、対象となる条項を広めに列挙しておく一方、義務的な条項については合理的な期間や範囲を明示する、という折衷的なアプローチが取られることが多いのが現状です。
澤田直彦
・ 確認的意義 : 当然に存続する義務を明記して紛争防止
・ 創設的意義 : 本来終了する義務を合意により残す
・ 実務の難しさ : 両者の線引きは曖昧であり、対象条項の列挙と合理的制限の明示が実務的対応
存続条項 (残存条項) の典型例
契約が終了しても効力を存続させるべき条項は多岐にわたります。
本章では、法務担当者が契約レビュー時に特に注意すべき代表的な条項を整理します。
秘密保持条項
秘密保持条項は、存続条項(残存条項)の中でも最も重要なものの一つです。共同研究契約・業務委託契約・フランチャイズ契約などでは、契約終了後も相手方の技術情報や営業秘密を保護しなければなりません。残存させる理由は、取引終了後も情報漏えいリスクが続くためです。
実務上の留意点としては、「無期限」とするか「契約終了後○年間」とするかを明示する必要があります。無期限とした場合、公序良俗違反や過度な営業の自由制約と判断されるリスクがあるため、合理的期間を設定するのが望ましいといえます。
なお、秘密保持条項については、別記事にて解説しておりますので、是非ご参照ください。
参照:「契約書の秘密保持条項とは?契約書作成・レビューにおけるポイントと最新実務対応」
個人情報保護義務
個人情報取扱契約や業務委託契約では、契約終了後も取得した個人情報を適切に取り扱う義務が残ります。これは、個人情報保護法上、契約終了後も安全管理措置や削除・返却義務が課されるためです。
実務上の留意点としては、契約終了後に「データ返却・消去」を求めるのか、一定期間の保管を許容するのかを明確に定める必要があります。また、海外委託が関わる場合には、移転先国の法規制も踏まえて対応しなければなりません。
損害賠償条項
契約違反が契約終了直前に発生した場合、契約終了を理由に損害賠償請求ができなくなるのは不合理です。そのため、存続条項(残存条項)によって契約終了前の違反行為に基づく責任追及を可能とすることが求められます。
実務上の留意点としては、「契約終了後においても、契約期間中の違反行為については損害賠償請求を妨げない」といった文言を明記することが有効です。あわせて、免責条項や賠償範囲の定めとの整合性を確認しておくことが重要です。
なお、損害賠償条項については、別記事にて解説しておりますので、是非ご参照ください。
参照:「契約書の損害賠償条項とは?企業法務が押さえるべき実務ポイントを解説」
権利義務譲渡禁止条項
契約上の地位や権利義務を第三者に譲渡することを禁止する条項は、契約終了後も一定の意味を持ちます。残存させる理由は、契約終了後に権利帰属を巡る紛争を避けるためです。
実務上の留意点としては、特に終了後に成果物や残余権利の帰属が争われやすいため、譲渡禁止の効力を継続させる必要があります。特許権や著作権などの知的財産権との関係においては、特に重要性が高いといえるでしょう。
知的財産権条項
共同開発契約やライセンス契約では、契約終了後の知的財産権の帰属や利用範囲を明確にしておくことが必須です。これは、成果物や改良技術の利用権を巡って紛争が発生するリスクが高いためです。
実務上の留意点としては、「契約終了後も成果物の著作権は甲に帰属する」や「終了後も乙は甲の技術を利用できるが、再許諾はできない」といった形で、具体的な帰属・利用条件を条項に残しておく必要があります。
合意管轄条項 ・ 準拠法条項
契約が終了した後に訴訟や仲裁が生じるケースは少なくありません。その際、裁判所の管轄や準拠法の合意が消滅してしまうと、紛争解決が極めて困難になります。残存させる理由は、契約終了後の紛争解決手段を確実にするためです。
実務上の留意点としては、契約終了の事由(満了・解除・合意解約)にかかわらず効力を持たせることが必要です。
また、国際契約では、準拠法や仲裁地の指定を存続条項(残存条項)で強化しておくことが特に有効です。
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・ 秘密保持・個人情報・損害賠償などは「定番」の残存対象
・ 権利義務譲渡禁止や知的財産条項も、成果物や権利帰属の紛争を防ぐために重要
・ 合意管轄・準拠法条項は、終了後の紛争解決ルールを保証するため必須
存続条項 (残存条項) の限界と注意点
存続条項(残存条項)は、契約終了後のリスク管理に不可欠ですが、「どの条項を、どの範囲・期間で残存させるか」 を誤ると、かえって無効や違法と評価される可能性があります。
本章では、代表的な制約要素を整理します。
強行規定違反による無効リスク (労働契約 ・ 競業避止義務など)
契約自由の原則があるとはいえ、法律の強行規定に反する存続条項(残存条項)は無効となります。
特に問題となるのが、労働契約における競業避止義務や秘密保持義務です。
- 秘密保持義務
退職後も合理的範囲で有効とされますが、過度に広範囲・長期間に及ぶ場合は無効と判断される可能性があります。 - 競業避止義務
職業選択の自由を制約するため、期間・地域・対象業務が合理的でなければ強行規定違反として無効となります。
実際に、芸能事務所と芸能人の専属契約における「無期限の競業避止義務」が無効とされた裁判例(知財高裁令和4年12月26日判決)もあり、契約終了後の自由を過度に制限する条項は慎重に設計する必要があります。
公序良俗違反の可能性 (合理的範囲を超える義務付け)
契約終了後に課される義務が社会通念上過大である場合、民法90条(公序良俗違反)により無効と判断されるリスクがあります。
- 無期限の秘密保持義務
守秘の必要性がないにもかかわらず、無期限に情報開示を禁止する。 - 芸名や商号の使用制限
芸能人が契約終了後も自らの芸名を使用できないとする条項は、公序良俗違反と判断された例があります(東京地裁令和4年12月8日判決)。 - 過大な損害賠償義務
契約終了後も不相当に重い賠償責任を課す条項は、無効とされるリスクが高いです。
つまり、存続条項(残存条項)を設ける際には、必要性・合理性・社会的相当性 を意識した設計が求められます。
独占禁止法上の規制 (不公正な取引方法 ・ 優越的地位の濫用)
存続条項(残存条項)によって、契約終了後も取引相手を不当に拘束する場合、独占禁止法違反となる可能性があります。
- 共同研究開発契約
終了後も研究活動を制限する条項は、公正取引委員会の「共同研究開発指針」によれば、不必要に競争を妨げるものであり、不公正な取引方法に該当するおそれがあります。 - 代理店契約
契約終了後に代理店が競合製品を扱うことを禁止する条項は、通常は競争制限とされ、独禁法違反となる可能性が高いとされています。
ただし、秘密情報の流用防止など正当な理由がある場合に限り、必要最小限の制約は認められるとされています。 - フランチャイズ契約
加盟者に対し、契約終了後も長期間の競業禁止を課す場合、独禁法上「優越的地位の濫用」に該当する可能性があります。
つまり、存続条項(残存条項)が実質的に取引相手の事業活動を拘束する場合には、独禁法上のチェックも必須です。
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存続条項(残存条項)は有効に設計すれば強力なリスク管理ツールとなりますが、行き過ぎると逆に「無効リスク」や「独禁法違反リスク」を招くため、バランスの取れた文言設計が欠かせません。
・ 強行規定違反 : 労働契約・競業避止義務は特に注意
・ 公序良俗違反 : 社会的相当性を欠く存続条項(残存条項)は無効
・ 独禁法違反 : 取引相手の自由を過度に制約すれば「不公正な取引方法」や「優越的地位の濫用」と評価される
裁判例 ・ ガイドラインから学ぶ実務上のポイント
存続条項(残存条項)の有効性や限界については、裁判例や公正取引委員会のガイドラインで一定の方向性が示されています。
本章では、代表的な裁判例と規制当局の指針を整理し、実務に活かすポイントを解説します。
東京地裁 ・ 知財高裁等の主要裁判例の整理
存続条項(残存条項)を巡る裁判例では、確認的意義を持つ場合の有効性と、創設的意義を持つ場合の制約が繰り返し議論されています。
東京地裁令和3年5月18日判決 (業務委託契約)
存続条項(残存条項)による効力継続を確認的に認めた事例。
委託料支払義務・著作権帰属条項・秘密保持義務などは「契約終了後も当然に効力が存続すると予定されている」と認定。
知財高裁平成20年10月28日判決 (開発委託契約)
存続条項(残存条項)の「創設的意義」が肯定された事例。
工業所有権に関する条項を、契約終了後も残存させる旨を明記していたため、解除後も特許権の共有が有効とされた。
知財高裁令和4年12月26日判決 (芸能マネジメント契約)
存続条項(残存条項)であっても合理性を欠けば無効となることを示した事例。
契約終了後の競業避止義務を無期限で課す条項を「職業選択の自由を不当に制約する」として無効と判断。
東京地裁令和4年12月8日判決 (芸能人契約)
存続条項(残存条項)の限界を明確化した事例。 契約終了後も芸名使用を芸能事務所の承諾に従属させる条項を「社会的相当性を欠く」として無効と判断。
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これらの裁判例から、「何を残存させるか」「どの程度の期間・範囲で残存させるか」 が判断の分かれ目となることが分かります。
公正取引委員会ガイドラインの位置づけ
独占禁止法の観点からも、存続条項(残存条項)は規制対象となり得ます。特に、公取委の各種ガイドラインは契約レビューの実務に直結します。
これらのガイドラインは、契約実務における「合理的範囲」の目安を示すものとして活用できます。
「共同研究開発に関する指針」
契約終了後の研究活動制限は「基本的に不要であり、公正競争阻害性が強い」と明記。
合理的な範囲を超える制限は「不公正な取引方法」とされる可能性が高い。
「流通 ・ 取引慣行に関する指針」
総代理店契約終了後に競合製品の取扱いを禁止する条項は「原則として独禁法上問題」とされる。
ただし、秘密情報保護等の正当理由があり、必要最小限であれば容認される。
「フランチャイズ ・ システムに関する考え方」
契約終了後の競業禁止義務について、地域・期間・内容が過度であれば「優越的地位の濫用」に該当する可能性を明示。
判例から読み取れる合理的範囲の判断要素
存続条項(残存条項)が有効か否かは、裁判所や当局が以下の観点から総合的に判断しています。
- 期間の合理性
秘密保持義務なら「3~5年程度」、競業避止義務なら「1~2年程度」が目安とされる例が多い。 - 対象範囲の明確性
守秘義務や競業禁止の対象が漠然としていると無効リスクが高まる。 - 当事者の利益衡量
契約終了後も保護が必要な利益(営業秘密・知財・顧客関係)と、相手方の自由(職業選択・競争活動)のバランスが考慮される。 - 社会的相当性
一般的な取引慣行や業界基準から逸脱していないか。 - 正当な理由の有無
競業禁止や研究活動制限に、秘密情報保護などの正当理由があるかどうか。
チェックリスト
| 内容 | |
|---|---|
| □ | 秘密保持=3~5年/競業避止=1~2年の実務相場に沿っているか |
| □ | 対象範囲が「営業秘密・顧客情報等」に限定されているか |
| □ | 契約終了後も正当理由(秘密情報保護等)が説明できるか |
| □ | 社会的相当性(業界標準)を逸脱していないか |
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・ 裁判例は「確認的意義は広く有効、創設的意義は合理的範囲に限り有効」という方向性を示している。
・ 公取委ガイドラインは、独禁法上の許容範囲を判断する実務的な基準となる。
・ 存続条項(残存条項)の有効性を担保するには、期間・範囲・正当理由の明示が不可欠である。
存続条項 (残存条項) の設計方法
存続条項(残存条項)は、契約終了後の法的リスクを適切に管理するための重要な仕組みです。しかし、漫然と「全条項を残存させる」とするのは過剰規制となり、無効リスクや交渉上の不利を招きかねません。
本章では、実務的な存続条項(残存条項)の設計手法を整理します。
残存させる対象条項の選定方法
まずは、契約終了後も効力を存続させる必要がある条項を見極めることが重要です。
原則として残存させるべき条項
▸ 秘密保持条項
▸ 秘密個人情報保護条項
▸ 秘密損害賠償条項
▸ 秘密知的財産権の帰属 ・ 利用に関する条項
▸ 秘密合意管轄 ・ 準拠法条項
契約の性質に応じて残存を検討すべき条項
▸ 競業避止義務 (代理店契約 ・ 雇用契約)
▸ アフターサービス提供義務 (売買契約)
▸ 改良成果やノウハウ利用に関する条項 (共同研究契約)
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実務的には、「リスク防止に必須なもの」と「取引秩序を維持するために必要なもの」を整理して対象条項を選定することが肝要です。
残存期間の定め方 (無期限/合理的期間/条項別設定)
存続条項(残存条項)の設計では、「いつまで効力が残るのか」を明確にすることが不可欠です。
▸ 無期限 : 合意管轄や準拠法、既発生の損害賠償請求権などは、無期限で残存しても通常問題はありません。
▸ 合理的期間 : 秘密保持義務・競業避止義務など、相手方の自由を制限する条項は「契約終了後3年」など合理的期間を設けるのが実務的です。
▸ 条項別設定 : 条項ごとに残存期間を変える方法も有効です。
例 : 秘密保持義務=3年/競業避止義務=1年/損害賠償義務=無期限
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裁判例や公取委のガイドラインを参考にしつつ、条項ごとに適切な期間を設けることが、無効リスクを避ける鍵となります。
ひな形条項のサンプル
実務で利用しやすい存続条項 (残存条項) のサンプルを以下に示します。
| 【包括型】 |
|---|
| 本契約が期間満了、解除その他理由の如何を問わず終了した場合においても、第〇条(秘密保持)、第〇条(損害賠償)、第〇条(知的財産権)、第〇条(合意管轄)および第〇条(準拠法)の規定は、なお有効に存続する。 |
| 【期間限定型】 |
|---|
| 本契約がいかなる理由で終了した場合であっても、第〇条(秘密保持)は契約終了後3年間有効に存続し、第〇条(競業避止義務)は契約終了後1年間有効に存続する。その他、第〇条(損害賠償)、第〇条(合意管轄)および第〇条(準拠法)の規定は、無期限に存続する。 |
| 【個別設定型】 |
|---|
| 1 本契約終了後においても、第〇条(秘密保持)は終了日から5年間存続する。 2 第〇条(知的財産権)は、その権利の存続期間中有効に存続する 3 第〇条(合意管轄)および第〇条(準拠法)は、期間の定めなく存続する。 |
澤田直彦
・ 残存させる条項は、リスク防止と取引秩序維持の観点で選別する。
・ 終了事由を問わず効力を残す旨を包括的に定める。
・ 残存期間は「無期限」「合理的期間」「条項別設定」を組み合わせるのが望ましい。
・ サンプル条項を参考に、自社の契約類型に合わせてカスタマイズすることが必要。
まとめ
存続条項(残存条項)は、契約終了後の紛争を防止し、取引の安定性を確保するための核心部分です。契約終了時に効力が消滅すると不都合な条項をきちんと残すことで、当事者の予見可能性が高まり、企業リスクを大幅に低減できます。
法務担当者が社内で説明 ・ 交渉する際の着眼点
法務担当者が社内で存続条項(残存条項)について説明や交渉を行う際には、まず「残存させる必要性の有無」を事業部に分かりやすく説明することが重要です。例えば「秘密保持は顧客データ保護のため必須である」と具体的に伝えると理解を得やすくなります。
また、「合理的な期間や範囲」を設定することで、取引先の納得を得やすくなります。
さらに、海外契約との比較を示すことで、経営陣や現場が納得しやすい根拠を提示できる点も有効です。
契約の安定性 ・ 予見可能性を高めるための提言
契約の安定性と予見可能性を高めるためには、まず自社の典型的な契約類型(業務委託契約・秘密保持契約・共同研究契約など)ごとに、残存させるべき条項を整理した社内標準リストを作成しておくことが推奨されます。
また、契約レビューでは存続条項(残存条項)を単に「網羅的に羅列する」のではなく、条項ごとに残存させる合理的理由を明確化することが重要です。
さらに、定期的に裁判例や公取委ガイドラインをフォローし、存続条項(残存条項)の設計指針を最新の動向に合わせてアップデートすることも欠かせません。
澤田直彦
存続条項(残存条項)は、契約書の「終わり」を定めるだけでなく、契約関係の「その後」をも左右する条項です。
法務担当者が適切にレビューし、合理的かつ実効性のある設計を行うことで、企業は契約終了後も安心してビジネスを継続できます。
よくある質問 (Q&A)
Q1.存続条項 (残存条項) に必ず入れるべき条項は?
A : 秘密保持・損害賠償・知的財産・合意管轄・準拠法は必須です。
Q2.無期限の秘密保持 ・ 競業避止は有効ですか?
A : 原則無効リスクが高く、秘密保持3~5年/競業避止1~2年が目安です。
Q3.海外の survival clause をそのまま使ってよいですか?
A : 日本法では無効リスクがあるため、期間や範囲を限定した修正が必要です。
契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
契約書における存続条項(残存条項)は、「残す条項の選定」や「合理的な期間設定」を誤ると、契約自体の有効性に影響します。
実務での対応に不安がある場合は、契約レビュー経験豊富な弁護士に早めにご相談することを推奨します。
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