澤田直彦
監修 : 弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「契約書の知的財産権の帰属条項とは?実務ポイントとトラブル防止策」について、詳しくご説明します。
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はじめに
契約書における知的財産権条項の重要性
企業間の契約において、知的財産権の取り扱いを定める条項は、単なる付属的な規定ではなく、取引の成果物や将来の事業展開に直結する極めて重要な部分です。
特に、業務委託契約や共同研究開発契約のように成果物が生じることを前提とする契約では、知的財産権の帰属を明確にしておかなければ、後に利用権限を巡るトラブルに発展しかねません。
一方で、製品売買契約やライセンス契約といった、成果物の発生を必ずしも前提としない契約においても、契約の履行過程で知的財産が発生する場合があるため、適切に規定しておくことが望まれます。
法務担当者が見落としがちなリスクと実務的意義
法務担当者が契約書レビューの際に見落としがちなポイントとして、以下が挙げられます。
原始的帰属の限界
知的財産権の発生や帰属は、特許法や著作権法といった法律によって定められており、契約当事者間の合意だけでは変更できません。契約条項は「譲渡」や「実施許諾」によって帰属を補完するに過ぎない点を理解しておく必要があります。
第三者関与リスク
下請事業者や再委託先の従業員が成果を生み出した場合、その知的財産権は原始的に第三者に帰属します。契約当事者間の合意だけでは十分にカバーできないため、譲渡や承継の仕組みを別途整備しておくことが不可欠です。
コンプライアンスとの関係
知的財産権条項の内容によっては、独占禁止法や下請法に抵触するリスクも存在します。例えば、下請業者の知的財産権を不当に無償で譲渡させるような条項は、法令違反と評価されるおそれがあります。
このように、知的財産権条項は企業リスクの管理に直結するため、法務担当者にとって「必ずレビューすべき条項」の一つと位置付けられます。
知的財産権の基礎知識
知的財産と知的財産権の定義
「知的財産」とは、人間の創造的活動から生まれる成果を広く指す概念であり、特許・実用新案・意匠・著作物・商標・商号・営業秘密・ノウハウなどが含まれます。
知的財産基本法2条は、発明や著作物といった創造物だけでなく、商標や営業秘密といった事業活動に用いられる情報も知的財産と定義しています。「知的財産権」とは、これらの知的財産について法律で保護される権利を指します。
代表例として以下が挙げられます。
- 特許権 ・ 実用新案権 : 技術的アイデアの独占的利用権
- 意匠権 : 製品デザインの独占的利用権
- 著作権 : 文書 ・ プログラム ・ 図面など創作物の保護
- 商標権 : 商品やサービスを示す標章の保護
- 営業秘密 ・ ノウハウ : 不正競争防止法等による法的保護
法務担当者は、契約で対象とする「知的財産」の範囲がこれらのどれを含むのかを明確にしなければなりません。
特に、著作権法27条及び28条に規定される翻案権・二次的著作物利用権は条文で特掲しなければ譲渡の対象外と推定されるため、レビューの際に必ず確認が必要です。
原始的帰属と契約による帰属の違い
知的財産権が「誰に帰属するか」は、まず法律によって決まります。これを原始的帰属と呼びます。
例えば、特許を受ける権利は、発明を行った自然人に帰属します(特許法)。企業に帰属させるには、職務発明制度や契約での承継が必要です。
他方で、著作権は、原則として創作を行った自然人に帰属します(著作権法)。企業が権利を取得するには、職務著作(著作権法15条)の要件を満たすか、契約で譲渡を受ける必要があります。
これらに対し、契約書に規定される知的財産権の帰属等に関する条項は、発生した知的財産権を契約当事者のどちらに帰属させるか、あるいは共有とするか、利用を許諾するかを定めるものです。
つまり、契約条項は法律で決まる原始的帰属を前提に、それをどのように移転・利用させるかを定める補完的な役割を担います。
法務担当者としては、「契約で書いてあるから安心」とは考えず、法的な原始的帰属と契約条項の効力の限界を正しく理解してレビューする必要があります。
知的財産権の帰属等に関する条項とは
条項の典型的な規定例
契約書でよく見られる知的財産権条項のひとつに、次のような定めがあります。
| 知的財産権の取扱い |
|---|
| 第〇条 本契約の履行の過程で発明、考案、意匠、創作等(以下「発明等」という)が生じた場合、当該発明等に関する特許を受ける権利その他の知的財産権は、甲および乙の共有とする。 |
このように、成果物や発明等について「どちらに帰属するのか」を明確にする条項が典型です。他にも「発明等はすべて委託者に帰属する」「成果物の著作権は納品時に移転する」など、契約類型や取引慣行に応じたバリエーションが存在します。
条項の効力とその限界
知的財産権の帰属条項は強力な印象を与えますが、その効力には限界があります。
法律上の原始的帰属は変更できない
特許権や著作権は、発明者・著作者といった自然人に原始的に帰属します。
契約条項で「企業に帰属する」と記載しても、自動的に原始的帰属が変更されるわけではなく、譲渡や承継といった手続きを経て、初めて移転が成立します。
第三者が関与する場合の限界
再委託先の従業員など契約当事者以外が成果を生んだ場合、その知的財産権は第三者に原始的に帰属します。
契約当事者間でどれだけ取り決めても、その権利を当然に取得できるわけではありません。譲渡契約や承諾の取得が別途必要です。
人格権の不可譲渡性
著作者人格権など一身専属的な権利は譲渡できず、契約で「行使しない」旨を合意するのが実務上の対応となります。
企業間契約における実務上の位置づけ
企業間契約において知的財産権条項は、成果物の利用可能性や事業展開に直結するため、紛争予防の生命線といえます。
委託者側の視点
成果物を独占的に利用できるよう帰属や実施許諾を確保する必要があります。曖昧な条項は、成果物を自由に改変・利用できないリスクを残します。
受託者側の視点
従前から保有する知的財産(既存プログラム、ノウハウ等)が過度に譲渡されないよう留保条項を設けることが不可欠です。
交渉の実務
双方の利害が鋭く対立する分野であるため、単なる「雛形」ではなく、自社のビジネスモデルと契約目的に即した調整が必須です。
帰属の定め方と実務上のポイント
単独帰属 ・ 共有帰属 ・ 協議決定の方式比較
契約書における知的財産権の帰属方法には、大きく3つの方式があります。
単独帰属方式
発明や成果物の知的財産権を、一方の当事者に全て帰属させる方式です。
委託者側に帰属させる場合は成果物の自由利用を確保でき、受託者側に帰属させる場合は技術力の蓄積につながります。
ただし、もう一方の当事者が成果物を利用できないリスクがあるため、通常は実施許諾条項をセットで検討します。
共有帰属方式
発生した知的財産権を、当事者間で共有する方式です。
公平感はあるものの、権利行使や譲渡に双方の同意が必要となる場合が多く、実務上の運用に難しさがあります。
協議決定方式
発生後に当事者間で協議し、帰属を決める方式です。
柔軟ではありますが、合意に至らない場合は法律の原始的帰属に従うことになるため、紛争の火種となるリスクがあります。
成果物 ・ 改良発明 ・ 提供情報に基づく発明の帰属
知的財産権条項は、単に成果物の帰属を定めるだけでは不十分です。契約履行に関連して派生的に生じる知財も対象に含める必要があります。
具体的には、以下の3点が重要になります。
- 成果物の知的財産権 : 納品物の著作権や特許を誰に帰属させるか
- 改良発明 : 成果物を基にして生じた二次的な発明や改良技術の帰属をどう定めるか
- 提供情報に基づく発明 : 委託者が提供した情報を基に受託者が創出した発明をどのように扱うか
これらを明確に定めておかないと、後に「どちらの権利か」を巡って紛争が発生する可能性が高まります。
実施許諾 (ライセンス) 条項とのセット検討
帰属条項だけでは、成果物の利用可能性を十分に担保できない場合があります。そのため、多くの契約では実施許諾条項(ライセンス条項)を併せて定めます。
委託者に帰属させる場合
受託者が従前から有していた知財を利用して成果物が作成された場合、受託者がライセンスを付与しないと成果物の利用が制限されるリスクがあります。
受託者に帰属させる場合
委託者が成果物を利用できるよう、無償かつ非独占的なライセンスを定めるのが実務上の工夫です。
特に、ソフトウェア開発契約や共同研究開発契約では、帰属条項と実施許諾条項をセットで検討することが紛争予防に直結します。
特許 ・ 著作権における特殊論点
職務発明制度 (特許法35条) と契約条項の整備
特許を受ける権利は、発明をした自然人(従業員など)に原始的に帰属します。企業に所属する従業員が発明をした場合でも、当然に会社に帰属するわけではありません。
ここで重要になるのが職務発明制度(特許法35条)です。職務発明とは、従業員が職務上行った発明で、その性質上会社の業務範囲に属するものを指します。会社は就業規則や契約であらかじめ「職務発明の特許を受ける権利は会社に承継される」と定めることにより、従業員から自動的に承継できます。
契約書レビューの実務上では、以下の点を確認することが肝要です。
- 就業規則や雇用契約に職務発明に関する規定があるか
- 承継の範囲や補償の有無 (相当の対価の支払い義務)
- 共同研究開発契約など外部パートナーと交わす契約においても、成果の帰属に職務発明規定との整合性があるか
この整備が不十分だと、従業員が特許権を保持し、企業が成果を自由に利用できないリスクが生じます。
職務著作 (著作権法15条) と著作権の帰属
著作権も原則として自然人に帰属します。従業員が業務中に作成した資料やプログラムであっても、そのままでは従業員に著作権が帰属するのです。
これに対し、職務著作(著作権法15条)は、一定の要件を満たした場合に企業に原始的に帰属させることができます。
職務著作が成立する要件は、以下のとおりです。
- 使用者の発意に基づいて作成されたものであること
- 法人等の業務に従事する者が職務上作成したものであること
- 法人等の名義の下に公表される(予定の)ものであること
これらを満たさない場合、著作権は従業員に残り、企業は利用許諾を受けなければならなくなります。
したがって、契約書レビューの際には、成果物の著作権を職務著作とするのか、納品時に譲渡させるのかを必ず確認し、曖昧な規定は修正する必要があります。
著作者人格権の不可譲渡性と不行使特約
著作権は譲渡可能ですが、その中に含まれる著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は、一身専属的な性質を持つため、契約による譲渡は認められていません。
例えば、委託者に成果物の著作権を譲渡する契約を結んでも、受託者(著作者)が人格権を主張すれば、「勝手に改変された」「名前を表示してほしい」などの問題が発生する可能性があります。このリスクを回避するため、実務では著作者人格権を行使しない旨の不行使特約を盛り込むのが一般的です。
| 【記載例】 |
|---|
| 「乙は、本契約に基づき納品する成果物に関し、著作者人格権を行使しないものとする。」 |
この特約により、委託者は成果物を自由に利用・改変でき、事業上の柔軟性を確保できます。
ただし、不行使特約は公序良俗違反とならない範囲で運用されるべきであり、従業員の権利保護とのバランスを意識することも重要です。
周辺法規制とコンプライアンス上の留意点
独占禁止法に抵触するリスク
知的財産権の帰属を定める条項は、当事者の自由な合意に委ねられる部分が大きいものの、その内容によっては独占禁止法違反(不公正な取引方法)と評価されるリスクがあります。
典型例としては、共同研究開発契約における成果を利用した改良発明や二次的成果物について、「一方当事者に無償で譲渡させる」あるいは「独占的に利用させる」といった取り決めが挙げられます。
こうした条項は、契約当事者間の競争を不当に制限するものとみなされ、独禁法上の「優越的地位の濫用」「不当な取引制限」として問題視される可能性があります。
澤田直彦
• 成果の帰属や利用範囲を合理的に説明できるよう、研究開発の役割分担や投資割合を反映した規定にしましょう。
• 改良発明や二次的成果物については、実施許諾を前提としたバランスのとれた合意とするようにしましょう。
旧下請法における不当な利益提供要請の禁止
業務委託契約や制作委託契約においては、旧下請法(中小受託取引適正化法)にも注意が必要です。
特に、成果物に知的財産権が発生した場合、委託事業者(親事業者)が中小受託事業者(下請事業者)に対し、使用目的を超えて無償で権利を譲渡・許諾させる行為は、同法が禁止する「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するおそれがあります。
例えば、情報成果物の制作委託契約で、完成物に加えて関連するプログラムやデータベースの権利までも無償譲渡させるような条項などです。
澤田直彦
・ 知的財産権の譲渡・利用許諾の範囲を契約目的に必要な範囲に限定しましょう。
・ 譲渡や利用許諾を求める場合には、対価を適切に設定しましょう。
・ 自社の下請取引に該当するかどうかを確認し、過剰なリスクを回避するようにしましょう。
海外契約における準拠法・裁判管轄の注意点
知的財産権条項は、国内契約だけでなく海外企業との取引にも頻出します。その場合、準拠法と裁判管轄の設定が重要です。
準拠法の違いによる影響
各国の知的財産法制は大きく異なります。
例えば、米国では「職務著作(work made for hire)」の解釈が日本より広く、契約条項の効力も異なる場合があります。日本法を準拠法としなければ、日本の実務で想定される効果を得られない可能性があります。
裁判管轄の指定
紛争発生時にどの裁判所で解決するかを明確に定めなければ、相手国の裁判所で訴訟を提起されるリスクがあります。
特に、知的財産権紛争は各国での効力が問題となるため、国際裁判管轄をめぐって複雑化しやすい領域です。
澤田直彦
・ 自社の法務体制で対応可能な範囲を踏まえ、日本法準拠・日本裁判所専属管轄を基本とするようにしましょう。
・ 相手方が強硬に自国法準拠を主張する場合には、仲裁条項(国際商事仲裁)を導入する選択肢も検討しましょう。
・ 海外展開を視野に入れた事業では、現地の知財専門弁護士の助言を得て調整することを推奨します。
契約書レビュー時のチェックポイント
契約書における知的財産権条項は、条文の有無だけでなく「どの範囲を対象とするか」「どこまで利用可能か」といった具体的な設計によって実務効果が大きく変わります。
本章では、法務担当者がレビューの際に最低限確認しておくべきチェックポイントを解説します。
「帰属の対象」 設定の明確化
知的財産権条項で「成果物の著作権は委託者に帰属する」と書いてあっても、著作権法27条・28条に定められた翻案権・二次的著作物利用権が含まれていない場合があります。
著作権法61条2項は「これらの権利は特に明示しなければ譲渡対象に含まれない」と推定しているため、契約で明記していなければ、後に改変や二次利用をめぐって争いになる可能性があります。
| 内容 | |
|---|---|
| ☐ | 成果物の著作権に関する譲渡条項に「著作権法27条・28条所定の権利を含む」と明記されているか |
| ☐ | 改良発明や二次的著作物の利用権も対象に含めるかどうかが明示されているか |
「利用権限」 の確保
仮に成果物の知的財産権が受託者側に帰属するとしても、委託者側が成果物を自由に利用できなければ契約目的を達成できません。
そのため、利用権限(ライセンス条項)を十分に確保することが不可欠です。
| 内容 | |
|---|---|
| ☐ | 成果物を「複製・改変・再利用」できるライセンスが付与されているか |
| ☐ | 期限・地域・利用範囲が制限されていないか |
| ☐ | 受託者が既存保有する知財が成果物に組み込まれた場合でも、委託者が利用できるように条項が整備されているか |
「登録手続 ・ 費用負担」 の事前合意
特許権・意匠権などは出願して登録しなければ効力を持ちません。
知的財産権条項では、出願や登録のための手続を誰が行い、費用を誰が負担するかを明確にしておくことが実務上の必須事項です。
| 内容 | |
|---|---|
| ☐ | 登録前の権利(特許を受ける権利など)の帰属をどちらに定めているか |
| ☐ | 出願契約の締結や協力義務について明記されているか |
| ☐ | 費用負担(出願費用・維持費用)は委託者か受託者か、または折半か |
第三者関与時の権利承継リスクへの備え
契約の履行過程で、下請事業者や再委託先の従業員が成果を創出する場合、その知的財産権は原始的に第三者に帰属します。
契約当事者間でどれだけ合意しても、第三者の承継がなければ委託者が利用できない事態が生じかねません。
| 内容 | |
|---|---|
| ☐ | 再委託を認める場合、知的財産権の譲渡や承継を確実に行わせる条項があるか |
| ☐ | 再委託先の成果物について、委託者が利用できることを保証する規定があるか |
| ☐ | 社内規程や従業員契約においても、職務発明・職務著作の承継を整備しているか |
澤田直彦
知的財産権条項のレビューでは、「権利の帰属先」だけでなく、「利用できるか」「登録できるか」「第三者から確実に取得できるか」という観点を持つことが重要です。
これらのチェックを怠ると、成果物を十分に活用できず、事業上の重大な制約につながるおそれがあります。
交渉 ・ 社内説明のポイント
知的財産権条項は、契約書の中でも技術成果やノウハウの帰属を巡って利害が鋭く対立する領域です。法務担当者は、自社の立場を守るだけでなく、事業部・取引先・経営層の三者をつなぐ橋渡し役として調整を行うことが求められます。
本章では、それぞれのステークホルダーに対する具体的な説明・交渉・報告のポイントを整理します。
事業部への説明
事業部門の担当者は「成果物さえ納品されれば自由に使える」と誤解しがちです。しかし実際には、著作権や特許の帰属が不明確な場合、利用範囲が制限されるリスクがあります。
法務担当者が事業部に説明する際は、専門用語を避けて以下のように伝えると効果的です。
「著作権法27条・28条の権利は契約で特に明記しないと譲渡されません。将来、製品を改良できない事態を防ぐために必要です。」
「秘密保持の条項は、当社の技術や顧客データが無断で使われないための保険のようなものです。」
このように「なぜ必要か」を事業目線で説明することで、法務の提案が「コスト」ではなく「事業の武器」として理解されやすくなります。
取引先との交渉
取引先との交渉では、権利の帰属先をめぐる対立が生じやすいポイントです。法務担当者としては、相手の立場を理解しつつ、自社の利用可能性を確保する方向で落としどころを探る必要があります。
取引先との交渉の際は、以下のように伝えると効果的です。
「御社に帰属する権利があるのは理解していますが、当社が成果物を事業で使えなければ契約の意味がありません。そこで、権利帰属は御社でも、当社に利用ライセンスを付与いただけないでしょうか。」
▸ 受託者側の立場から
「当社の従前のノウハウやソースコードまで譲渡してしまうと、今後のビジネスが立ち行かなくなります。既存部分は当社に留保しますが、納品成果物については御社が自由に使えるよう利用権限をお付けします。」
▸ 共有にする場合
「共同研究の成果ですので共有としましょう。ただし、利用の自由度を確保するため、譲渡や実施許諾については事前協議ではなく自動的に可能とする特約を入れましょう。」
交渉では「ゼロサム」ではなく「相手に配慮しつつ自社の利用を確保する」姿勢が重要です。
経営層への報告 ・ 意思決定のための観点
経営層に対しては、条文の細部よりもビジネス上の影響を明確に示すことが必要です。法務担当者は「この条項が事業戦略にどう影響するか」を翻訳して伝える役割を担います。
法務担当者が経営層へ報告する際は、以下のように伝えると効果的です。
「この条項のままでは成果物の改変・再利用ができず、追加コストが発生する可能性があります。」
▸ 競争優位性
「知財を自社に帰属させれば、将来の改良や他分野への転用が可能になり、長期的に事業優位を確保できます。」
▸ 交渉の現実性
「相手企業は自社ノウハウを留保する方針です。すべての権利を当社に帰属させることは難しいため、利用ライセンスを得る方向で合意するのが実務的です。」
このように「経営判断に必要な材料」として整理し、経営層が意思決定しやすい形で情報を提供することが、法務担当者の付加価値となります。
まとめと実務への活用
知的財産権条項の整理で防げるトラブル
契約書における知的財産権条項は、契約終了後や成果物納品後に発生するトラブルを未然に防ぐ最重要ポイントの一つです。
典型的には次のようなトラブルを防止できます。
- 成果物が自由に利用できない問題
著作権法27条・28条に基づく権利が譲渡対象に含まれていなかったために、改変や二次利用ができなくなるケース - 第三者権利侵害の主張
下請業者や再委託先の従業員が発明した知的財産権が契約当事者に承継されておらず、後に権利侵害を主張されるケース - 独禁法 ・ 下請法違反の疑い
一方的に相手方の知的財産権を無償で譲渡させるような条項を設け、法令違反として問題視されるケース
契約段階で条項を整理しておけば、成果物の利用制限・追加費用・紛争リスクを大幅に低減できます。
法務担当者が押さえるべきポイント
法務担当者が契約書レビューの際に優先して確認すべきポイントは次のとおりです。
- 帰属対象の明確化
成果物 ・ 改良発明 ・ 提供情報に基づく発明など、どの範囲の知的財産を帰属対象とするか - 利用権限の確保
自社が成果物を自由に利用できるか (複製 ・ 改変 ・ 二次利用を含む) - 登録 ・ 費用の取扱い
特許や意匠の出願を誰が行い、費用を誰が負担するか - 第三者関与への備え
再委託先や従業員が創出した権利を自社に確実に承継できるか - コンプライアンス遵守
独禁法 ・ 下請法に抵触しない条項設計となっているか
この優先順位を明確に意識することで、レビューの効率性とリスク管理の両立が可能になります。
弁護士への相談が必要なケース
知的財産権条項は複雑であり、法務担当者だけでは判断が難しいケースも少なくありません。
特に以下のような場合には、専門の弁護士に相談することが推奨されます。
- 共同研究開発契約
成果物や改良発明の帰属を巡り、双方の貢献度に応じた条項設計が必要な場合 - 海外企業との契約
準拠法や裁判管轄の設定により、契約条項の効力や解釈が大きく変わる場合 - 下請法適用が疑われる契約
知財の無償譲渡 ・ 利用許諾が 「不当な利益提供要請」 と評価されるリスクがある場合 - 高度に専門的な技術を含む契約
AI ・ ソフトウェア ・ 医薬品など、複雑な知財の取扱いが問題となる契約
弁護士に相談することで、自社に不利な条項の修正交渉や、リスクの見落とし防止につながり、後の紛争コストを大幅に削減できます。
よくある質問 (Q&A)
Q1. 知的財産権条項が契約書にないとどうなるのですか?
成果物の知的財産権は法律の規定に従い、原則として発明者・著作者といった自然人に帰属します。そのため、契約当事者が自由に利用できなくなる可能性があります。
特に、著作権法27条・28条の権利(翻案権・二次的著作物利用権)が明記されていない場合、成果物を改変・二次利用する際に権利者の承諾が必要となり、事業展開に大きな制約を生じることがあります。
Q2. 成果物の権利はすべて自社に帰属させるべきですか?
必ずしもそうではありません。委託者側が成果物を利用できれば十分なケースも多く、その場合は受託者に帰属させたうえで利用権限(ライセンス)を確保する方法が実務上よく用いられます。
むしろ、無理に全ての知財を帰属させると、独占禁止法や下請法違反と評価されるリスクもあるため注意が必要です。
Q3. 海外企業との契約で特に気をつけるべき点は?
準拠法と裁判管轄です。米国やEU諸国では「職務著作」や知財の取り扱いが日本と異なる場合があり、日本の常識が通用しません。
準拠法を相手国法にしてしまうと不利になることも多く、可能であれば日本法準拠・日本裁判所専属を目指すか、仲裁条項を検討すべきです。
Q4. 契約書レビューを社内だけで完結できますか?
標準的な契約であれば可能です。
しかし、共同研究開発契約・海外契約・高度技術を含む契約(AI・ソフトウェア・医薬品など)は、専門性が高くリスクも大きいため、弁護士に相談することを強く推奨します。
契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
知的財産権条項は、成果物や技術成果を巡るトラブルを防止し、企業の事業戦略を支える「盾」となる存在です。
法務担当者は、「帰属対象」「利用権限」「登録・費用」「第三者承継」「コンプライアンス」という5つの柱を押さえつつ、複雑な案件では弁護士の助力を得ることが不可欠です。これらを徹底することで、契約実務におけるリスクを最小化し、安心して事業活動を進めることができます。
直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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