澤田直彦
監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「契約書レビュー実務における『保証条項』の基本と最新実務対応」について、詳しくご説明します。
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はじめに
保証条項とは何か
契約書における「保証条項」とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、第三者である「保証人」が債務の履行義務を引き受ける旨を定めた条項を指します。保証人は、主債務者に代わって支払義務を負うことになり、債権者にとっては信用補完の重要な手段となります。
民法において保証契約は、主たる債務の存在、保証契約に対する合意、そして書面または電磁的記録による契約という3つの要件を満たすことが求められています(民法第446条)。
特に改正民法では、保証契約に関するルールが強化され、個人保証人については「極度額」の設定(民法第465条の2)や「元本確定事由」の明記(民法第465条の4)など、慎重な対応が求められるようになりました。
法務担当者が保証条項に注目すべき理由
保証条項は、形式的には単純に見えるかもしれませんが、その法的効果は極めて大きく、契約の有効性・執行性を左右する要因となります。
特に以下のような観点において、企業法務担当者は保証条項の記載内容に注意を払う必要があります。
- 保証条項の不備による無効リスク
極度額の未記載や、民法上の情報提供義務の不履行などにより、保証契約自体が無効となるおそれがあります。 - 保証人に対する過大な責任負担の回避
特に経営者個人が保証人となる場合には、将来にわたって予測不能な債務を負担することとなり、適切な極度額や元本確定のルールが設定されていなければ、重大な経済的損失を被る可能性があります。 - 保証の範囲・効力に関する誤解防止
例えば、「連帯保証」としておくと、保証人は主債務者と同様の責任を負うことになり、催告の抗弁権や検索の抗弁権を主張できなくなります(民法第452条、第453条)。表現ひとつの違いが実務上の大きな差を生むため、条項の文言選定は慎重に行う必要があります。 - 債権回収戦略との連携
契約不履行時に確実な回収を実現するためには、保証人の属性や資力、連帯性の有無、代位権制限の有効性など、保証条項の設計が実務対応と直結します。
このように、保証条項は単なる「形式的補強」ではなく、契約の実効性を担保する戦略的要素です。
適切に設計されていない場合、後日トラブルの火種となることも多いため、法務担当者にとっては、重要なチェックポイントの一つといえます。
保証条項が問題になる典型場面
実務において、保証条項が盛り込まれる場面は多岐にわたりますが、以下のような取引類型が特に典型的です。
売買契約 (取引基本契約)
例えば、継続的な取引関係において、売主が商品を掛売りで供給する場合、買主の法人の支払能力に不安があるときに、その代表者を保証人とすることがあります。中小企業間のBtoB取引では特に頻繁に見られるパターンです。
賃貸借契約
事業用不動産の賃貸借契約では、賃借人法人が賃料を滞納した際に備えて、代表者個人や親会社に連帯保証を求めることが通例となっています。近年では保証人の範囲や責任制限についての裁判例も増えており、慎重な条項設計が求められます。
金銭消費貸借契約 (借入契約)
金融機関との借入契約や、親子会社間の貸付契約においても、保証条項は極めて重要です。特に経営者保証ガイドラインに基づく運用や、個人保証の制限に関連する公正証書の作成義務など、実務対応は高度化しています。
これらの契約類型において、保証条項は取引の安全性を確保する一方で、無効リスクや過度な債務負担といった新たなリスクも内包しています。
そのため、企業の法務担当者には、法令・判例・実務慣行を十分に踏まえた保証条項のレビューと再設計が求められます。
保証契約の成立要件と形式要件
民法第446条の規律と「書面または電磁的記録」要件
保証契約の成立には、民法第446条が定める3つの要件を満たす必要があります。
- 主たる債務が存在すること
保証契約は、原則として主債務に従属する契約(付従性)であるため、保証される債務が存在しなければ成立しません。
ただし、主たる債務が将来発生する予定であっても、特定されていれば保証契約の対象となるとされています(将来債務の保証も可能)。 - 保証人と債権者との間に保証の合意があること (保証意思の存在)
保証契約は、保証人と債権者との間の合意によって成立します。
なお、第三者(債務者を除く者)が債務者に無断で債務を保証することも可能です。 - 保証契約が「書面または電磁的記録」でなされていること (民法第446条第2項・第3項)
改正民法により、口頭による保証契約は無効とされ、保証意思が外形的に確認できる文書(または電磁的記録)により締結することが不可欠となりました。
これは、保証人が自らの責任を正確に認識して契約することを担保する趣旨です。
実務上は、契約書本文に保証条項を盛り込む、あるいは別紙に保証契約書を添付することでこの形式要件を充たすことになります。
メールのやり取りだけで保証意思を確認しようとするケースや、書面作成を怠った場合には保証契約自体が無効となる可能性があるため、細心の注意が必要です。
法人代表者が保証人となる契約書レビュー上の注意点
法人(例 : 買主や賃借人)が債務者となる契約において、代表取締役個人を保証人とする条項は、実務上頻繁に見られます。
こうしたケースでは、保証人が個人であるため、「極度額の記載」や「情報提供義務」など、改正民法で新たに加わった規制の影響を大きく受けます。
特に注意すべきポイントは以下の通りです。
- 極度額の設定がない場合は保証契約が無効となる (民法第465条の2)
個人が保証人となる根保証契約については、極度額の明記が必須です。これは、代表者であっても例外ではなく、記載がなければ保証契約全体が無効とされるおそれがあります。 - 保証意思の明確な確認と誤認リスクの管理
代表者が名目的に保証人となるケースで、実質的に経営に関与していない場合などは、情報提供が不十分であったとして契約が取消されるリスクがあります(民法第465条の10)。
そのため、契約書には表明保証条項を設け、保証人が債務者の財産状況等について正確な情報提供を受けていた旨を明示することが望まれます。 - 保証人の署名欄は明確に分ける
法人としての署名(例 : 代表取締役としての署名)と、個人として保証人となる署名は明確に分けて記載しなければなりません。記名押印の形式が不明確な場合、「法人が保証人になった」と誤解されるおそれがあり、契約の効力に影響を与えます。 - 代表者保証が不要な場合の削除提案
最近では、過剰な個人保証を避けるべきとのガイドライン(例 : 経営者保証に関するガイドライン)もあり、法人の信用力で足りると判断される場合には、代表者保証条項の削除を求める交渉も重要なリスクマネジメントの一つです。
連帯保証条項の記載方法と法的意味
保証契約には「通常の保証」と「連帯保証」の区別がありますが、実務上は連帯保証とするケースが圧倒的に多いです。
連帯保証とは
連帯保証人は、主たる債務者と同様に、債権者から直ちに履行請求を受ける立場にあります。
通常の保証と異なり、以下の抗弁が一切認められません。
- 催告の抗弁権
債権者に対して「まずは主債務者に請求してくれ」と言える権利 - 検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、保証人が主たる債務者に弁済するだけの資力があり、かつ、執行が容易なことを証明して、まずは主たる債務者の財産に対して執行するように求める権利 - 分別の利益
複数保証人がいる場合に自己の持ち分のみ責任を負うという原則
このため、連帯保証の記載があるか否かは、保証人にとって重大な意味を持ちます。
実務上の記載例と留意点
契約書では、以下のような文言が連帯保証の成立を示すキーワードです。
「保証人は、主債務者と連帯して債務を履行する責任を負う。」
「保証人は連帯保証人として本契約に基づく一切の債務を負担する。」
民法上、商行為に基づく債務や商人が保証人となる場合など、一部では「黙示的に連帯保証となる」とされる場合もあります(商法第511条第2項)。しかし、債権者の立場からすると、後の争いを防ぐためにも、契約書において「連帯して履行の責任を負う」と明記することが不可欠です。
まとめ
保証契約は、書面要件や極度額、情報提供義務といった形式的要件を満たさない場合には無効となるリスクが高く、特に代表者個人が保証人となる場面では慎重な検討が必要です。
また、連帯保証とすることの意味を正しく理解し、保証人の権利と責任のバランスを意識した契約条項の設計が求められます。
企業法務担当者としては、単なるひな形の流用にとどまらず、個別事案に応じた保証条項のレビューと修正が不可欠です。
根保証と極度額の設定
根保証とは何か (民法第465条の2)
「根保証」とは、一定の範囲に属する不特定の債務を包括的に保証する契約形態を指します。
具体的には、取引基本契約や継続的な賃貸借契約のように、将来発生する可能性のある多数の債務を一括して保証する場合に用いられます。
このような根保証について、民法第465条の2では、個人が保証人となる場合には、保証契約の効力発生にあたって「極度額」を定めることを必須としています。極度額を定めていない保証契約は、無効となるおそれがあります。
このルールは、個人保証人が際限なく重い責任を負うことを防ぎ、予測可能性と公平性を確保することを目的に、2020年4月の債権法改正により導入されました。
極度額を定める必要があるケース (個人保証の場合)
極度額の定めが必要となるのは、以下のようなケースです。
保証人が個人である場合
保証人が法人であれば極度額の定めは不要ですが、保証人が自然人(例 : 会社代表者)である場合には、根保証契約としての性質がある以上、極度額の記載が必須です。
保証の対象となる債務が継続的 ・ 不特定である場合
「将来発生しうる多数の債務」や「金額・回数・内容が確定していない債務」を対象とする保証契約は、根保証とされるため、極度額の記載が必要です。
逆に、1回限りの売買代金や一度きりの貸付金など、特定された債務のみを対象とする「個別保証」であれば、極度額の記載義務はありません。
典型例 : 取引基本契約 ・ 賃貸借契約
日々発生する売買代金債務や、月額家賃等のように、同種の債務が繰り返し発生する取引関係では、保証範囲が不特定であることが多く、根保証に該当しやすいため注意が必要です。
極度額の定め方の注意点 (金額の特定性、公序良俗違反リスク)
金額の特定性が必要
極度額は、「〇〇円」といった形で、確定した金額で明記されていなければなりません。例えば、「月額賃料の10か月分」や「総取引額の20%」といった表現では、金額が契約時点で特定されていないため、保証契約自体が無効と判断されるおそれがあります。
ただし、例えば「月額賃料が10万円」と記載されており、「極度額は賃料の10か月分=100万円」であると契約書から明確に読み取れる場合には、極度額は有効と判断されることもあります。
極度額の上限設定と合理性
法律上、極度額に上限は設けられていませんが、実務上は以下のような点に留意すべきです。
- 主債務者の資金需要の規模
- 保証人の資力
- 実際の取引規模や債務発生頻度
これらを踏まえず、著しく高額な極度額を定めた場合には、公序良俗(民法第90条)違反として無効となる可能性があります。
また、極度額の保証の範囲(元本のほか利息、遅延損害金、損害賠償を含むかどうか)を明確にする必要があります。保証する対象の範囲と合わせて条項上に明示しておくと、後日の争いを防ぐことができます。
改正前契約の扱いと更新 ・ 延長時の留意点
民法の改正により、2020年4月1日以降に新たに締結された個人根保証契約には、極度額の記載義務が適用されます。しかし、改正前に締結された契約についても、以下の場合には改正法が適用される可能性があるため注意が必要です。
保証契約自体が更新された場合
例えば、契約期間満了後に同じ保証人と新たな保証契約を締結した場合には、形式的に「新規契約」として扱われ、改正法が適用されます。
保証契約はそのままで、基本契約 (例 : 取引基本契約 ・ 賃貸借契約) が更新された場合
この場合の適用可否については見解が分かれています。
特に、「賃貸借契約」については、更新後の契約に基づく債務も当初の保証契約が引き続きカバーすると解されるため、改正法が適用されないとする実務が有力です(最一判平成9年11月13日集民186号105頁参照)。
しかし、「売買契約や業務委託契約等」では、更新のたびに新債務が発生しうる性質が強く、「契約関係の一新」として保証契約も更新されたと評価される可能性があります。このため、保守的な実務対応としては、契約更新時に極度額を含む保証契約を再締結することが推奨されます。
まとめ
根保証と極度額の制度は、個人保証人保護の観点から導入された改正民法の重要な柱です。
企業が取引先や賃借人に個人保証を求める場合、保証条項に極度額の記載がなければ契約自体が無効となるリスクがあるほか、過大な極度額設定による公序良俗違反の問題も見逃せません。
法務担当者としては、以下のような契約書の保証条項の有効性を担保するためのレビュー体制を整備しておくことが求められます。
- 保証契約が根保証に該当するかの検討
- 極度額の適切な設定と明記
- 契約更新時の再締結の要否判断
元本確定事由とその効果
民法第465条の4に基づく元本確定事由
「元本確定」とは、根保証契約において保証人が負担する債務額(元本)の範囲を、それ以降新たに発生する債務を除いて一定の時点で確定させることを意味します。
民法第465条の4では、個人が保証人となる根保証契約について、次の事由が発生したときに「当然に元本が確定する」と定めています。
これらの事由が発生すると、その時点までに生じた主債務のみが保証の対象となり、以後に発生した債務は保証の対象外となります。これは保証人が将来の債務にまで際限なく責任を負うことのないようにするための保護規定であり、強行法規とされています(契約で排除不可)。
契約書に定めておくべき理由と具体例
前述の元本確定事由は、民法上当然に適用される規定ではありますが、契約書上に条項として明示しておくことには以下のような意義があります。
実務上の 「見落とし防止」
契約書に明文化しておくことで、契約担当者や管理部門が、保証範囲の変動に気づかずに請求・管理を行ってしまうといった実務上のミスを防止できます。
保証人に対する丁寧な説明 ・ 納得材料になる
元本が確定することで将来的な債務の保証責任がなくなる点を明示すれば、保証人の心理的負担が軽減され、契約締結に至りやすくなる場合もあります。
争いの予防 ・ 立証負担の軽減
将来、保証債務の範囲を巡って争いが生じた場合にも、契約書に明確な条項があることで、債権者側が「元本確定の発生時点」や「保証の範囲」を立証しやすくなります。
【記載例】 |
---|
第〇条(元本確定) 次の各号のいずれかに該当したときは、保証人の負担する保証債務の対象となる主たる債務は、当該事由が発生した時点で確定するものとする。 一 主たる債務者が破産手続開始決定を受けたとき 二 保証人が破産手続開始決定を受けたとき 三 主たる債務者または保証人が死亡したとき 四 債権者が主たる債務者または保証人の財産に対して強制執行または担保権の実行を申し立てたとき |
元本確定事由を巡るトラブルの予防
実務上、元本確定事由を巡るトラブルは、「元本が確定したか否か」「その時点での債務額の算定方法」などに集中します。
以下のような対応が、トラブルの予防に効果的です。
確定時点での債務残高の記録保持
元本確定時点での債務内容・金額を明確にするため、社内では必ず元本確定報告書(または通知書)などを作成・保存し、保証人にも通知を行うことが望ましいです。
システム ・ 契約管理体制との連携
債務発生や支払状況、期限の利益喪失などの情報を、契約管理システムと連動させ、元本確定が生じた際には自動で通知・フラグを立てる設計にしておくと、法務・営業・経理部門の連携がスムーズになります。
保証人への説明記録 (合意時 ・ 確定時)
元本確定の法的仕組みや、契約上の条項について保証人に丁寧な説明を行い、説明した事実を記録しておくことは、後日の契約取消主張や無効主張の予防につながります。
まとめ
元本確定の仕組みは、個人保証人保護を図る民法改正の中核制度の一つであり、保証の範囲を限定・確定させる効果を持つ重要な機能です。
債権者・債務者・保証人それぞれのリスク管理の観点からも、契約書への明示、確定時点の正確な記録、保証人への丁寧な説明が不可欠となります。
企業の法務担当者としては、契約書の文言に民法の元本確定ルールを反映させるとともに、実務運用としても適切に管理できる体制整備が求められます。
情報提供義務と表明保証条項の整備
契約締結時における主債務者情報の開示義務(民法第465条の10)
民法第465条の10は、①事業目的の債務に関し、②個人を保証人とする根保証契約を締結する際に、主債務者が保証人に対して一定の情報を提供する義務を明文化した規定です。
この条文は、保証人が債務の内容やリスクを正確に把握しないまま安易に保証契約を結ばされることを防ぐため、2020年4月の債権法改正によって導入されました。
これらの情報提供は、契約締結前に行う必要があります。また、保証人がこれらの情報を誤認して契約を締結した場合には、後述のように契約取消しのリスクも生じます。
表明保証条項としての活用方法
実務上、主債務者が保証人に対して口頭で情報提供を行ったにとどまる場合、情報提供義務の履行が十分であったか否かが後日争点となるリスクがあります。このリスクを回避する手段として有効なのが、契約書上に「表明保証条項」を設けることです。
「表明保証」とは、当事者がある事実が真実かつ正確であると契約上明示することをいいます。
保証契約における表明保証条項では、主債務者が「必要な情報を保証人に正確に提供したこと」を表明し、保証人も「その情報を受け取ったこと」を確認する趣旨で記載します。
【記載例】 |
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保証人は、主たる債務者から、主たる債務者の財産・収支の状況、本主債務以外の債務の有無及びその内容、並びに担保の提供状況に関する情報提供を受け、当該情報が真実かつ正確であることを確認のうえ、本契約を締結することに同意したものとする。 |
このような条項を設けておくことで、情報提供義務違反に基づく契約取消の主張を受けにくくなり、契約の安定性が高まります。
情報提供義務違反と保証契約取消の可能性
主債務者が情報提供義務に違反し、かつ保証人がその情報の不開示や虚偽により錯誤した状態で契約を締結した場合、保証人は保証契約を取消すことが可能となります(民法第465条の10第2項)。
ただし、取消しが認められるためには、次の要件が必要です。
- 主債務者が情報を提供しなかった、または虚偽の情報を提供したこと
- 保証人が情報の欠如や誤りにより誤認して契約したこと
- 債権者(例 : 貸主や売主)がその事実を「知っていた」または「知ることができた」こと
この取消しリスクは、契約の有効性に重大な影響を及ぼします。特に金融機関や賃貸人のように第三者が債権者となる契約では、債権者側が「知らなかった」と主張しても、客観的状況から「知ることができた」と判断されれば取消が認められることもあります。
したがって、契約書上に表明保証を明記し、債権者が誠実に情報提供の事実を確認していたことを推認させる記録(例 : 面談メモやチェックリスト)を残すことが望ましいといえます。
保証人が法人代表者である場合の取扱い
本章で述べてきた情報提供義務(民法第465条の10)は、事業目的の債務に関し、「個人」が保証人となる場合に適用される規定です。
したがって、保証人が法人である場合には、この規定は直接的には適用されません(同条第3項)。しかし、実務上最も多いパターンは、「主債務者が法人」「保証人がその代表取締役(=個人)」という構成です(会社の事業目的の債務に関して保証するのは当該会社の代表取締役であることが一般的であるからです)。
この場合、保証人は「主債務者の内部者」であり、主債務の内容や財務状況をよく把握していると推定されるため、形式的に情報提供が行われなかったとしても取消が認められる可能性は一般に低いとされています。
もっとも、以下のようなケースでは慎重な対応が必要です。
- 保証人が「名目的な代表」であり、実質的に業務に関与していない場合
- 保証契約締結時に経営体制が変更され、保証人が情報を十分に認識できなかった場合
- 保証人が共同代表の一人に過ぎず、財務内容の把握が困難であった場合
このようなケースでは、表明保証条項の設置や、実際に情報が提供されたことを示す証拠の確保(説明資料・議事録等)が重要になります。
まとめ
保証契約の有効性を確保するためには、契約締結時における主債務者による正確な情報提供と、それを裏付ける書面上の「表明保証条項」の整備が欠かせません。
とりわけ、個人を保証人とする根保証契約においては、情報提供義務違反が契約取消しに直結するため、法務担当者は契約書上の条項整備と説明プロセスの設計に細心の注意を払う必要があります。
また、保証人が法人代表者である場合にも、例外的に取消しが争点となりうるため、「保証人が情報を把握していたこと」の実態と形式の双方を担保する設計が、企業のリスクマネジメント上、極めて重要です。
保証人への通知義務
主債務者の期限の利益喪失時の通知義務 (民法第458条の3)
民法第458条の3は、主債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者が保証人に対して通知義務を負うことを定めています。
条文の概要
・ 主債務者が債務不履行等により期限の利益を喪失した場合、債権者は、その事実を知った時から2か月以内に保証人に通知しなければならない (同条1項)
・ もし通知を怠った場合、債権者は、当該通知をするまでの間に生じた遅延損害金について保証人に請求できない (同条2項)
制度趣旨
保証人に対し、債務の履行責任が生じるリスクを早期に知らせ、対応の機会を与えることを目的としています。主債務者が期限の利益を喪失した結果、遅延損害金等が発生する可能性が高くなるため、保証人の予測可能性と保護の観点から設けられた強行規定です。
実務対応
契約書上にこの条文の内容を再掲することで、債権者の実務担当者による見落としを防ぎます。
保証人との信頼関係を保つ観点でも、通知義務の履行は重要なステップです。
保証人の請求による情報提供義務 (民法第458条の2)
民法第458条の2は、保証人は、主債務の履行に備えるため、債権者に対して情報の開示を請求する権利を有していることを明文化しています。
条文の概要
保証人が請求した場合、債権者は以下の情報を遅滞なく提供しなければならないとされています。
・ 利息・違約金・損害賠償などの付随債務の内容と残額
・ 不履行の有無
・ 弁済期が到来しているかどうか
この規定は主債務者の委託を受けた保証人(委託保証人)に限って適用されますが、実務上は代表者保証など、委託の事実が明確な場面が多く、適用範囲は広いと考えられます。
契約書への反映
契約書に本規定を確認的に記載しておくことで、債権者・保証人双方に対し情報提供義務の存在を明確にし、後日のトラブルを予防できます。
また、契約書上で「主債務者も保証人への情報提供に同意する」旨を記載しておくと、情報開示時の守秘義務やプライバシー保護との整合がとれ、実務対応がスムーズになります。
契約条項で 「遅滞なく」「速やかに」 などの記載をする意義
保証人への通知や情報提供について、契約書ではよく「遅滞なく」「速やかに」「直ちに」といった文言が用いられます。これらの語句の違いは曖昧に見えるものの、実務上の運用や責任判断に影響を与えることがあるため、慎重に使い分けるべきです。
表現 | 意味合いの強さ | 実務上の特徴 |
---|---|---|
遅滞なく | 強め | 法律用語として用いられ、義務の明確化に有効 |
速やかに | 中程度 | 柔らかい印象だが義務性は保持される |
直ちに | 非常に強い | 即時性が強く、短時間での履行が求められる |
特に、民法第458条の2は「遅滞なく」と定めており、契約書でも原則はこの表現を踏襲するのが望ましいとされます。
一方、当事者間で柔軟な運用をしたい場合には、「速やかに」といった表現に変更することも考えられますが、その分、履行猶予の余地を残すことになります。
守秘義務 ・ 個人情報保護法との関係
主債務に関する情報は、しばしば主債務者の財産状況や信用情報などに関わるため、第三者である保証人への提供が個人情報保護法や守秘義務に違反しないか懸念されることがあります。
法令との関係性
民法第458条の2および第458条の3に基づく情報提供は、法令に基づく開示に該当するため、個人情報保護法の「例外事由」(個人情報保護法第18条3項1号・第27条1項1号)として認められます。
したがって、主債務者の同意がなくても、保証人からの請求に応じて情報を開示することが法的に可能です。
契約書での補完的な対策
とはいえ、実務上の誤解やクレームを防ぐ観点から、契約書上に以下のような条文を設けることが有効です。
「主債務者は、債権者が保証人に対し本契約に基づく債務内容その他必要な情報を提供することについて、あらかじめ同意するものとする。」
このように定めておけば、情報提供時に主債務者の個人情報を第三者に開示したことが問題視されるリスクを最小限に抑えることができます。
まとめ
保証人への通知義務や情報提供義務は、保証契約の履行可能性や有効性に密接に関わるだけでなく、債権回収や信用リスクの管理においても極めて重要な機能を果たします。
民法上の義務として明文化されている規定も多いため、法務担当者はこれらを的確に把握し、契約書上での明示と実務対応の整備を両立させる必要があります。
特に、以下のような観点から、契約書の条文設計を見直し、社内の運用体制を構築することが、リスク管理上の重要なステップといえるでしょう。
- 保証人に対する「期限の利益喪失」の通知
- 保証人からの「情報提供請求」への応答
- 守秘義務や個人情報保護法との整合性の確保
その他関連特約とその有効性
保証契約においては、主たる保証義務のほかにも、債権者保護や回収リスクの低減を目的とした様々な特約が付されることがあります。これらの特約は、保証人の権利を制限する一方で、債権者の法的地位を強化する効果があるため、契約書レビューにおいては法的有効性と実務的妥当性の双方を吟味する必要があります。
抗弁権の排除特約 (民法第457条)
民法第457条第2項および第3項は、保証人が、主たる債務者が債権者に対して有する抗弁権(債務不存在、時効、相殺、債務免除等)を援用して、債権者に対抗できることを定めています。
ただし、実務上は、以下のような特約を設けて、保証人がこれらの抗弁を主張できないようにすることがあります。
【記載例】(抗弁権排除条項) |
---|
保証人は、主たる債務者が債権者に対して有する一切の抗弁権をもって、債権者に対して本保証債務の履行を拒まないことに同意する。 |
このような特約は、保証契約の自由(任意規定)に基づいて有効と解されています。
ただし、保証人が極めて弱い立場に置かれていたような事情がある場合には、公序良俗違反や信義則違反として無効とされるリスクもあるため、慎重な運用が必要です。
相対的効力を排除する特約 (民法第441条のただし書)
保証契約では、連帯債務の規定が準用されることから、原則として保証人に対する債権者の行為(履行請求等)の効果は主債務者に及びません(相対効 : 民法第441条本文、第458条)。
ただし、民法第441条ただし書により、契約によって「絶対効」を定めることも可能です。これにより、債権者が保証人に履行請求した場合、それが主債務者にも効力を及ぼす(例 : 時効の更新)ことになります。
【記載例】(相対効排除条項) |
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債権者が保証人に対して行った履行請求その他の行為は、主たる債務者に対しても効力を生じるものとする。 |
この特約も有効ですが、主債務者の不利益に関わるため、主債務者本人の同意が前提となる旨を明示するなど、構造上の整合性にも配慮する必要があります。
担保保存義務免除特約 (民法第504条)
保証人は、民法第504条により、債権者が担保(物的担保・人的担保)を喪失または減少させた場合、その限度で保証債務の履行を拒むことができます。これは債権者に課された「担保保存義務」に基づくものです。
もっとも、実務上は以下のような免除条項が設けられることがあります。
【記載例】(担保保存義務免除条項) |
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保証人は、債権者が担保の変更、解除その他の処分を行ったとしても、本保証債務の履行責任を免れないことに同意する。 |
このような条項は、旧判例(最二小判平成7年6月23日)でも有効とされており、現在の改正民法下でも有効と解されています。
ただし、債権者の行為が信義則に反し、保証人の正当な期待を著しく侵害するような場合には、その主張が制限される可能性もあります。
代位権不行使特約 (民法第499条 ・ 第502条)
保証人が弁済を行った場合、債権者に代位して主債務者に対して求償できるのが原則です(民法第499条)。
しかし、実務上、特に取引継続の観点から、保証人の代位権行使を制限する条項が設けられることがあります。
【記載例】(代位権不行使特約) |
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保証人が本保証債務を履行した場合であっても、主債務者と債権者の取引が継続する間は、主債務者に対する代位権を行使しないものとする。 |
また、これに加えて以下のような「代位権譲渡特約」が設けられることもあります。
【記載例】(代位権譲渡特約) |
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債権者が請求した場合、保証人は代位により取得した一切の権利を債権者に無償で譲渡するものとする。 |
これらの条項も任意規定の範囲で有効とされ、特に金融実務では頻繁に用いられています。
ただし、保証人が弁済した後に、自己の代位権を行使できないことに強く反発するケースもあるため、保証人の理解と同意を丁寧に得ることが実務上の肝要です。
強制執行認諾条項と公正証書作成義務
債権回収を迅速・確実に行う手段として、保証人との契約において「強制執行認諾文言付き公正証書」の作成義務を定めることがあります。
【記載例】 |
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債権者が請求した場合、債務者および保証人は、公証人の面前で、本契約に基づく債務の履行について強制執行認諾の陳述を含む公正証書を作成する義務を負うものとする。 |
このような条項を設けておけば、保証人が履行を拒んだ場合でも、裁判を経ずに強制執行を開始できる点で、債権者にとって極めて有利な回収手段になります(民事執行法第22条5号、第23条)。
留意点
公正証書の作成には、保証人の任意の出頭・同意が必要であり、事実上の拘束力は限定的です。
ただし、契約書にこの義務を明示しておけば、保証人が後に協力を拒んだ場合、債務不履行や誠実義務違反を根拠に対応することも可能です。
まとめ
本章で紹介した各種特約は、保証条項の機能を強化し、債権者にとっての法的・実務的リスクを低減する重要な手段です。一方で、これらの特約は保証人の権利を制限する性質を持つため、法的有効性の検討と実務上の配慮が不可欠です。
特に以下の観点を重視すべきです。
- 特約の有効性は、民法の任意規定に基づくか、強行規定に抵触しないかを慎重に確認すること
- 保証人の地位や属性に応じて、特約内容の必要性・合理性・説明の程度を調整すること
- 契約書上の表現を明確・平易にし、後日のトラブルを防止すること
企業法務担当者は、これらの特約の意義とリスクを正確に理解した上で、保証契約を設計・運用していくことが求められます。
おわりに
保証条項は、債務不履行時のリスクを補完する重要な契約条項です。
一方で、民法改正後の法制度下では、条文や用語のわずかな不備が保証契約の無効や取消しにつながる可能性があるため、法務担当者による正確なレビューと契約交渉の工夫が不可欠です。
実務上の保証条項レビューのチェックリスト
以下の項目は、保証条項をレビューする際の最低限のチェック項目です。
契約書のドラフト段階・レビュー段階・締結直前いずれのタイミングでも確認が有効です。
項目 | 内容 | 要点 ・ 確認事項 |
---|---|---|
保証契約の形式 | 書面または電磁的記録の有無 | 民法第446条に基づき、口頭契約は無効 |
保証の範囲 | 「一切の債務」「個別債務」等の文言 | 根保証に該当しうる表現か |
極度額の記載 | 金額が確定しているか | 個人による根保証の場合、明記が必須 (民法第465条の2) |
元本確定事由 | 民法第465条の4に基づく条項があるか | 明文化しておくことで実務上の認識齟齬を防止 |
情報提供義務 | 主債務者から保証人への情報提供内容 | 事業目的の主債務について、個人が根保証となる場合、民法第465条の10への適合性、表明保証条項の有無 |
通知義務 | 主債務者の期限の利益喪失時の通知規定 | 民法第458条の3に準拠しているか |
抗弁権 ・ 相対効 | 抗弁権放棄や相対効の排除特約の有無 | 明示しているか、保証人の理解が得られているか |
公正証書条項 | 強制執行認諾条項の有無 | 実行可能性と協力義務の有無を確認 |
条項の修正 ・ 再検討が必要な典型パターン
保証条項は「ひな形」のまま流用されることが多く、実際の取引内容や当事者の属性と整合しないケースが散見されます。
以下のような場合には、条項の抜本的な修正や再検討が必要です。また、契約文言の修正だけでなく、実務運用の見直しも含めて再設計する必要があります。
- 「極度額」が記載されていないにもかかわらず、個人による根保証を前提としている
⇒ 無効リスク(民法第465条の2) - 保証人が実質的に経営に関与していない名目上の代表者
⇒ 情報提供義務違反による取消リスク(民法第465条の10) - 契約更新後も保証が自動継続される前提だが、保証契約自体の更新条項が曖昧
⇒ 改正民法の適用範囲不明確、無効リスクあり - 「一切の債務を保証」と記載されているが、保証対象が限定されていない
⇒ 不測の損失リスク、保証人とのトラブル要因 - 保証人が既に死亡、破産、退任しているのに保証契約が継続している
⇒ 元本確定事由が見落とされ、保証範囲が過大に解釈されるおそれ
契約交渉時における実務上のアドバイス
保証条項は契約交渉上、債権者(貸主・売主など)と保証人(多くは主債務者の関係者)との利害が真正面から対立しやすい分野です。
以下のアプローチにより、実務交渉を円滑に進めることが可能となります。
表明保証・極度額・元本確定の仕組みを簡潔に整理し、保証人が理解できるように説明。納得が得られないまま署名を求めない。
✓ 保証範囲と責任限度を合理的に設定する
実際の取引実態・信用状況に応じて根保証ではなく、通常の「保証」への切り替えや、極度額を金額ベースで妥当な範囲に限定するなど調整。
✓ 代替策を検討する
保証人が抵抗する場合には、担保設定や第三者保証、信用調査の強化など別途リスクヘッジの手段を提示。
✓ 保証人の同意書 ・ 説明記録を残す
特に後日、保証契約の取消や無効を主張されないよう、保証人への説明・署名手続を記録・保管しておく。
✓ テンプレートの定期的な見直しを行う
民法改正や裁判例を踏まえ、定型条項も定期的に法的・実務的観点からブラッシュアップする。
まとめ
保証条項は、契約書の中でも特に実務リスクが高く、ひとつの文言の誤りが契約全体の無効・債権回収不能につながる可能性がある分野です。契約時の一時的な安心感にとどまらず、「執行できる保証」「争いにならない保証」となるよう、事前に十分なレビューと設計を行うことが求められます。
企業法務担当者としては、以下の3つを常に意識すべきです。
- 法律要件の確実な理解と適用
- 契約書と実務運用の整合性確保
- リスクと信頼関係のバランスを踏まえた交渉対応
これらを踏まえた保証条項設計と管理が、企業の債権保全と信用維持の土台を支えることになります。
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