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法律とメタバース④【情報(個人情報やプライバシー)と犯罪・不法行為について】

Q 
メタバースでの事業を始めようと思っています。
ただ、プライバシーやセキュリティの観点から不安があります。
注意点や、個人情報保護法との関連などを教えてください。

A 
既存のインターネット上のサービスでも、個人情報の保護に関する法律(以下、「個人情報保護法」といいます。)やプライバシーへ配慮すべき課題がありますね。
この点、メタバースにおいても、個人情報やプライバシーの観点から配慮すべき点は大きく変わるわけではありません。

しかし、メタバースでは、アバターの外観や発言、VRゴーグルを通じた視線情報や身体の動作情報等もあり、扱われる情報量がとても多くなります。
そのため、より慎重に個人情報を取扱い、プライバシーへ配慮する必要があります。
また、メタバースでは利用者間での交流が前提となっていることから、現実世界と同様に、利用者間でのトラブルも増加することが予想されます。
さらに、メタバースは国境を越えて利用されるため、場合によっては外国の法令が適用されますが、どこの国の法令が適用されるのか、わかりづらいところもあります。

そこで、個人情報保護法に関して問題となる点、プライバシー保護の観点から注意すべき点、また、想定される犯罪行為や不法行為等のトラブルについて説明していきます。
なお、以下では日本の法令が適用される場合を前提として説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「法律とメタバース④【情報(個人情報やプライバシー)と犯罪・不法行為について】」
について、詳しく解説します。

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個人情報保護法

メタバースにおける個人情報の特徴

メタバースにおける個人情報の取扱いやプライバシー配慮の観点からの課題は、SNSやソーシャルメディアのプラットフォームと、そう大きく変わりません。

ただ、次の点でメタバースは特徴的です。
メタバースは、仮想空間という一つの仮想の社会を構成し、その中で利用者がアバターなどを通じて活動することに伴い、多くの情報が生成されます。そして、利用者のアバター等を通じた活動は、事業者の提供する仮想の空間の中で行われます。
そのため、メタバースを提供する事業者は、利用者の行動等の情報を全て取得しようと思えば取得することができてしまいます

仮に利用者がVRゴーグル等の利用者の動きを把握する器具を介してメタバース上で活動する場合、事業者は、利用者の視線、表情、動作などといった情報をリアルタイムで収集することが可能です。事業者はこれらの情報を使えば、利用者が好みそうな情報や体験などを分析することも容易となります。
この利用者のアバターを通じた活動も、利用者自身が操作している以上、「個人に関する情報」に該当します。

このように、メタバースでは、扱われる個人に関する情報の量が多くなることから、個人情報保護法やプライバシー保護の観点から配慮すべき点も多くなると考えられます。

どの情報が「個人情報」か?

個人情報保護法は、事業者による個人情報の適正な取扱い等を目的とする法律です。そして、個人情報保護法で保護される情報は、主として「個人情報」です。そこで、事業者が取得又は利用等する情報が「個人情報」であるか否かが問題となります。

個人情報は、個人情報保護法上、以下のように定義されます。

個人情報とは
・生存する個人に関する情報であって、
・当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含む。)
又は
・個人識別符号が含まれるもの

では、メタバース上で事業者が取得する可能性のある次の情報が、個人情報に該当するのか、検討してみましょう。

  1. メタバースの利用者が利用登録する際に、事業者に提供した氏名、生年月日、住所等の情報
  2. アバターの外観
  3. アバターの発言、動作、表情等の言動

まず、①の利用者の氏名、生年月日、住所等は、生存する個人に関する情報ですし、特定の個人を識別することができますので、「個人情報」です。

では②のアバターの外観はどうでしょう。
アバターの外観という情報から、特定の個人が識別されるか否かが問題となりますが、本人とアバターの外観が似ているか否かで事業者が特定の個人を識別することはあまりないと考えられます。ただ、特定のアバターが特定の個人のものとするシステムで事業者がメタバースを運営している場合には、アバターの外観から特定の個人が識別されるので、アバターの外観は個人情報として扱う必要があります。

次に、③アバターの言動はどうでしょうか。
事業者にとって、アバターの言動に関する情報は、利用者の活動を分析することで、より効果的なサービス提供を可能とすることができる有用な情報なので、利活用したい情報の一つです。

この、アバターの言動に関する情報の一つ一つだけでは、通常、特定の個人を識別することは難しく、個人情報とは言いがたいです。しかし、これらの情報が積み重なった場合や、利用者の登録時の情報と紐付けるなどした場合、特定の個人を識別することが可能となります。そのため、個人情報として扱う必要があると考えられます。

このように、アバターに関する情報も個人情報として扱う必要がある場合がありますので、取得や利用の際には注意しましょう。

個人情報該当性(原則) 個人情報該当性(例外)
①メタバースの利用者が利用登録する際に、事業者に提供した氏名、生年月日、住所等の情報 該当
②アバターの外観 原則として非該当 特定のアバターが特定の個人のものとするシステムで事業者がメタバースを運営している場合は該当
③アバターの発言、動作、表情等の言動 一つ一つの情報だけでは非該当となる可能性が高い 情報が積み重なった場合や、利用者の登録時の情報と紐付けるなどした場合、該当する可能性がある

個人情報の取得と利用

個人情報を整理・分類して容易に検索可能な状態にしたデータベース等を利用している事業者(個人情報取扱事業者)は、あらかじめ、

  • ①利用目的を通知しているか、公表している場合、又は
  • ②本人の同意を得ている場合

のみ、個人情報を取得し利用することが可能です。

通常、メタバース事業者は、利用者が利用登録する際の登録情報をデータベース化して利用していると考えられますので、個人情報取扱事業者にあたります。
そのため、通常は、事前に利用目的を自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所へ利用規約等の形で掲載するなどし、利用目的をあらかじめ公表します。

第三者への提供

個人情報取扱事業者は、「個人データ」(簡単に言うならば、個人情報をデータベース化したデータ集の中の個人情報。詳細は※参照)を第三者に提供するためには、原則として、本人の同意を得る必要があります(個人情報保護法27条1項)。

そのため、事前に個人データを第三者に提供することを想定している場合、利用目的で、第三者に提供する旨を特定しておく必要があります。

※個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)によれば次のとおり定義されています。
個人データ 個人情報取扱事業者が管理する「個人情報データベース等」を構成する個人情報
個人情報データベース等 特定の個人情報をコンピュータを用いて検索することができるように体系的に構成した、個人情報を含む情報の集合物
※コンピュータを用いていない場合であっても、紙面で処理した個人情報を一定の規則(例えば、五十音順等)に従って整理・分類し、特定の個人情報を容易に検索することができるよう、目次、索引、符号等を付し、他人によっても容易に検索可能な状態に置いているものも個人情報データベース等に該当

また、個人関連情報(生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの)を第三者に提供する場合、提供先の第三者が個人関連情報を個人データとして取得することが想定されるときは、原則として、あらかじめ当該個人関連情報に係る本人の同意が得られていることを確認しないで個人関連情報を提供してはならないとされています(個人情報保護法31条1項)。

例えば、閲覧履歴やサービス利用履歴などのCookieは、それだけでは特定の個人を識別することができないため個人関連情報ですが、メタバース事業者がこれを個人と紐付けない形で保有している場合、メタバース事業者がこれをメタバース内に出店している事業者に提供することが考えられます。
その出店している事業者が保有している他の情報と紐付けて個人データとし取得する場合、メタバース事業者は、出店している事業者が本人の同意を得ていることを確認する必要があるのです。

他にも、アバターに関する情報を、メタバース事業者が特定の個人を識別できない形で保有している場合、これを提供先で他の情報と照合して個人データとして取得することも考えられます。

国境を越えた個人情報等の取得、利用、第三者提供

メタバースは国境を越えて利用される機会が増加すると予想されます。
メタバース上では、利用者は、国外の事業者が出店している店舗か否かなど、あまり意識せずに利用し、商品を購入するなどの取引も増えると考えられます。

それにより、国外の事業者が、個人情報や個人関連情報等が含まれる可能性のある利用者のアバターの外観、利用者の登録情報、アバターに関する情報などを取得することや、反対に、国内の事業者が、国外の利用者の情報を取得する可能性がでてきます。
さらに、国内のメタバース事業者が取得した情報を国外の出店している者に提供することも想定されます。

では、個人情報保護法上、どのような注意が必要なのでしょうか。

ア 国境を越えた個人情報の取得・利用

国境を越えて個人情報が取得・利用されるような場合、日本の個人情報保護法が適用されるのはどのような場合でしょうか。 例えば、①国外のメタバース運営事業者が、国内の利用者にサービスを提供している場合、サービス提供に関連して利用者の個人情報を取得する際には、個人情報保護法が適用されます。
また、②日本国内の事業者がメタバースを運営している場合でも、出店している事業者が国外の事業者である場合、国内の利用者へのサービス提供に際して利用者の個人情報を取り扱う際には個人情報保護法が適用されます。

これは、個人情報保護法166条で、外国の個人情報取扱事業者が、国内在住の者などに物やサービスを提供する際に、国内在住の者等の個人情報や個人情報として取得されることとなる個人関連情報等を、外国で取り扱う場合には、個人情報保護法が適用されるとしているためです。

【個人情報保護法166条により個人情報保護法が適用される場面】

情報を取り扱うのは誰か(個人情報取扱い事業者) 誰の情報か (個人情報の本人) 情報を取扱う状況 個人情報保護法の適用
外国のメタバース事業者 国内の利用者 国内の利用者に対するサービス等の提供に関連して取り扱う場合 適用あり
国内メタバース上の国外の出店者 国内の利用者 同上 適用あり
(個人情報保護法166条)
この法律は、個人情報取扱事業者、仮名加工情報取扱事業者、匿名加工情報取扱事業者又は個人関連情報取扱事業者が、国内にある者に対する物品又は役務の提供に関連して、国内にある者を本人とする個人情報、当該個人情報として取得されることとなる個人関連情報又は当該個人情報を用いて作成された仮名加工情報若しくは匿名加工情報を、外国において取り扱う場合についても、適用する。

イ 国外の第三者に個人データを提供する場合

個人データ(前述)を、外国にある第三者に対して提供する場合、原則として、外国にある第三者に個人データを提供することに関する本人の同意が必要です(個人情報保護法28条1項)。ただ、これには次の表のような例外があります。

【外国にある第三者に個人データを提供する旨の同意の要否について原則と例外】

原則 本人からの同意取得が必要 28条1項
例外 外国にある第三者が、個人の権利利益を保護する上で日本と同等の水準にあると認められる個人情報の保護に関する制度を有している外国として個人情報保護委員会規則で定めるものである場合
※現在、指定されている国はEU及び英国
28条1項
「外国にある第三者」が、個人データの取扱いについて個人情報取扱事業者が講ずべきこととされている措置に相当する措置を継続的に講ずるために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者である場合 28条1項
1 法令に基づく場合
2 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
3その他個人情報保護法27条1項各号に定める場合
28条1項
27条1項

このように、メタバースを運営する事業者は、保有する利用者の個人データを、メタバース上に出店している国外の事業者に提供する場合、原則として、本人から、外国にある第三者に提供する旨の同意を取得する必要があります。
しかし、上の表のように、例外となる場合も多く、また、国際情勢によって例外となる場合が増減していくことも考えられます。そのため、どの国の事業者に提供する予定があるのか確認し、あらかじめ外国にある第三者に提供する旨の同意を得るべきか、検討するようにしましょう。

なお、上の表の例外は、あくまで「外国にある第三者」に提供する旨の同意が不要となる場合であって、第三者提供の同意が不要となるわけではないので、ご注意ください

プライバシー

アバターで活動する本人のプライバシー

メタバースの世界では、多くの利用者がアバターを介して活動しており、社会が形成されていきます。その中で、あるアバターの言動が、他のアバターの背後にいる本人のプライバシーを侵害することも考えられます

プライバシー」とは、私生活の事実、公開されたくない事柄、未公開の事柄を指します。典型的なものとしては、名前、住所、電話番号や、家庭生活に関する情報、経済状況に関わる事柄、思想信条、信仰に関する事柄、犯罪歴などがあります。

多くの裁判例は、以下の①~③の要件を満たす事柄を、公開等した場合にプライバシー侵害があったと判断しています。

  1. 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがある
  2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場にした場合、公開をしてほしくないであろうと認められる
  3. 一般の人々にいまだ知られていない

では、アバターを介して活動している利用者について、利用者本人のプライバシー侵害は、どのような場合に成立するのでしょうか。
この点、Vチューバーに関する裁判例がいくつかあります。

【東京地判令和2年12月22日】(Westlaw Japan文献番号 2020WLJPCA12228030)
ハンドルネーム等で活動していたVチューバー(原告)の本名や年齢が、電子掲示板上に投稿された事案です。
裁判所は、「本名や年齢は個人を特定するための基本的な情報であるところ、インターネット上で本名や年齢をあえて公開せずにハンドルネーム等を用いて活動する者にとって、これらの情報は一般に公開を望まない私生活上の事柄であると解することができるから、本件投稿は原告のプライバシーを侵害するものであったと認められる」と判示しました。


【東京地判令和3年6月8日】(Westlaw Japan 文献番号 2021WLJPCA06088006)
Vチューバーが、キャラクターの中の人(演じる者=原告)とわかる形で顔写真を、当該キャラクターのファンスレッドに公開された事案です。
裁判所は、「そもそも着ぐるみや仮面・覆面を用いて実際の顔を晒すことなく芸能活動をする者もいるところ、これと似通った活動を行うVチューバーにおいても、そのVチューバーとしてのキャラクターのイメージを守るために実際の顔や個人情報を晒さないという芸能戦略はあり得るところであるから、原告にとって、本件画像が一般人に対し公開を欲しないであろう事柄であったことは十分に首肯できる。」とし、当該顔写真が、過去に本人あるいは別人が公開していたものであったとしても、Vチューバーとの同一性を示すものとして新たに公開され、世間に拡散されることを望んでいないことは明らかであるとし、顔写真を投稿した行為はプライバシーを侵害するものであると判示しました。

このように、アバターを用いて活動しているVチューバーにとって、顔写真や、本名・年齢等は、一般に公開を望まない私生活上の事柄であると評価されています。
メタバース上のアバターを通じて活動している本人の顔写真や本名・年齢等も、すでに周知されているような場合でなければ、プライバシー侵害が成立する可能性が高いと考えられます。

肖像権

Q 
メタバース上で、利用者Yは、自然人Xの容貌とそっくりな似顔絵を利用したアバターを作成して、利用者Y自身のアバターとし、メタバース内で活動しました。Xは、Yに対して、当該アバターの使用をやめさせることは可能でしょうか。また、損害賠償請求はできますか。
A
アバターとして、無断で自然人の似顔絵を利用した場合、人格的利益の侵害が社会的生活上受忍限度を超えるものであれば、肖像権侵害があるとされ、当該アバターの使用差止請求や損害賠償請求が認められる可能性があります。

≪解説≫

メタバース上では、自然人の見た目と酷似するように作成したアバターも存在します。実在人物をスキャンなどして作成したリアルな人物に模したアバターは、個人の肖像に近いものとなります。
肖像権は、自己の肖像(容貌・姿態等)をみだりに他人に撮影され,これを公表されないという権利です(最判昭和44年12月24日)。

似顔絵についても、最判平成17年11月10日で、「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有する」とされています。

ただ、似顔絵を利用するYにも表現の自由があります。そのため、肖像権の侵害の有無は、人格的利益の侵害が社会的生活上受忍限度を超えるものといえるかどうか(受忍限度論)によって判断されてきました(最判平成17年11月10日)。

したがって、Yによるアバター利用がX本人による発信であると誤認混同されるおそれが高い場合や、Xを侮辱するような目的・態様であった場合のように、社会的生活上受忍限度を超えるものであれば、肖像権侵害があったとして、差止請求や損害賠償請求が認められると考えられます。
なお、自然人と酷似するよう作成されたアバターの外見を無断で撮影され、公開された場合にも、肖像権の侵害の問題が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

パブリシティ権

人の氏名や肖像等の顧客吸引力を排他的に利用する権利を、パブリシティ権といい、侵害した場合には不法行為上違法となり差止請求や損害賠償請求が認められます(最判平成24年2月2日)。

メタバース上でも、次のような場合にパブリシティ権の侵害が問題となります。

①メタバース上で、顧客誘引力等がある有名な自然人の肖像等のデータを、アバターの外観とする用途で販売した場合

肖像等それ自体を、無断で、独立して鑑賞の対象となる商品等として使用しているものとして、パブリシティ権を侵害する可能性があります。

②顧客吸引力のある自然人の肖像等を無断でアバターの外観に利用して商品やサービスの販売促進に利用した場合

肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえるものとして、パブリシティ権を侵害する可能性があります。

名誉

名誉」とは、「人の品性、 徳行、名声、 信用等の 人格的価値について社会からうける客観的評価」です(最大判昭和61年6月11日〔北方ジャーナル事件〕)。
ある表現内容が、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、社会的評価を低下させる場合には、名誉が侵害されたものと判断されます。名誉が違法に侵害された場合には、事前・事後の差し止めや損害賠償を求めることができます。

この点、Vチューバーに関する裁判例があります。

【東京地判令和 3年4月26日】(Westlaw Japan文献番号 2021WLJPCA04268004)
Vチューバーとして活動する原告が、被告の電子掲示板への投稿内容により、人格的利益を侵害されたとして、プロバイダ責任制限法に基づき、当該投稿に係る発信者情報の開示を求めた事案です。
裁判所は、
①原告のアバターを通じた活動は、原告の人格を反映したものであるとし、
②被告による投稿記事は原告が演じるキャラクターが飲食店で食べ残しをしたというエピソードについて批判的な意見を述べたものであり、一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすると、キャラクターとしての配信に反映された原告自身の行動を批判するものであり、
③原告の生育環境と結びつけてまで原告を批判している点で、社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するもの
として、原告の名誉感情を侵害するものと認めました。

裁判所は、原告のアバターを通じた活動は、次の事実を考慮して、原告の人格を反映したものであると判断しています。

  • タレントの個性を活かすキャラクターを製作している
  • 動画配信の音声は原告の肉声である
  • CGキャラクターの動きは、モーションキャプチャーによる原告の動きを反映
  • 動画配信やSNS上での発信は、演じる人間の現実の生活の出来事等を内容としている
【大阪地判令和 4年 8月31日2022WLJPCA08316002】
インターネット上の電子掲示板へされた「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」という記事によって、架空のキャラクター「B」のとして活動するVチューバーである原告の人格的利益を侵害したとして、プロバイダ責任制限法に基づき、当該投稿に係る発信者情報の開示を求めた事案です。
裁判所は、
①架空のキャラクター「B」の言動は、原告自身の個性を活かし、原告の体験や経験をも反映したものになっており、原告が「B」として表現行為を行っているといえる実態であるとし、
②本件投稿の内容は、投稿の経緯も踏まえれば、「B」の名称で活動する者に向けられたものであると認められ、
③本件投稿の内容は、「B」の名称で活動する者を一方的に侮辱する内容にほかならず、表現が見下すようなものになっていることや、成育環境に問題があるかのような指摘までしていることをも踏まえれば、特段の事情のない限り、本件投稿による侮辱は、社会通念上許される限度を超えるものであるとし、
④①及び②によれば、「B」としての言動に対する侮辱の矛先が、表面的には「B」に向けられたものであったとしても、原告は、「B」の名称を用いて、アバターの表象をいわば衣装のようにまとって、動画配信などの活動を行っているといえること、本件投稿は「B」の名称で活動する者に向けられたものであると認められること
からすれば、本件投稿による侮辱により名誉感情を侵害されたのは原告であり、 原告の人格的利益が侵害されたと判示しました。

このように、メタバースにおける名誉権の侵害の有無の判断に際して、裁判例は、 アバターにより表現されるキャラクターへの批判に留まるものと言えるのか、そのアバターを演じる本人の社会的評価を低下させるものであるのかを、アバターへの本人の個性の反映度や投稿内容等から判断していると考えられます。

犯罪・不法行為

利用者による加害行為

メタバースでは、利用者間で交流が活発に行われるため、現実社会と同様に加害行為をする利用者も現れるなど、利用者によるトラブルも増えていくことが予想されます。
メタバースでの加害行為に対しては、有体物を対象とする法令の適用が困難であるという特徴があります。では、どのような加害行為が想定され、また、どのような対処をすべきなのでしょうか。

Q1
メタバース事業者がメタバース内に設置した仮想の立て看板を、利用者が破壊した場合、現実世界の立て看板を破壊したときと同様に、器物損壊罪 (刑法261条) 等が成立するのでしょうか。
また、損害賠償請求はできるでしょうか。
A1
器物損壊罪の対象は有体物に限るため、成立は困難です。

そこで、不正指令電磁的記録作成罪・供用罪(刑法168条の2)が成立するか否かを問題とする必要があります。
成立要件の一つである「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」 (反意図性および不正性)を満たすかについて検討の余地がありますが、通常の使用で想定されない不正プログラム等の不正な手段によって破壊されたような場合はこの要件も満たし、同罪が成立する可能性が高いと考えられます。
また、これにより業務が妨害された場合や、妨害されるおそれがある場合には、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性もあります。

では、メタバース事業者が、仮想の立て看板を破壊した利用者に対して、不法行為責任があるとして、損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。
この点、 仮想の立て看板は有体物ではないため、所有権がなく、所有権の侵害はありません。
しかし、メタバース事業者の営業権が侵害されていると考えることもできるため、復旧に時間を要する場合や当該看板の破壊によって混乱が生じた場合など、侵害の程度によっては、不法行為が成立する場合もあると考えられます。


Q2
利用者が管理するメタバース上の建物に、他の利用者が無断で侵入した場合、建造物侵入罪は成立しますか?また、損害賠償請求はできますか?
A2
仮想建物は、有体物ではないため、建造物侵入罪は成立しません。
ただ、IDとパスワードを入力しないと立ち入りできない仮想建物に他人のIDとパスワードを利用して侵入したような場合、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に違反する可能性があります。

民事上でも、IDとパスワードの入力をしなければ入れない仮想建物に不正に入手したIDとパスワードで立ち入ったような場合には、立ち入った利用者の故意又は過失が認められやすく、不法行為責任が成立し、損害賠償請求ができる可能性も高まると考えられます。 。

国外の利用者による加害行為(準拠法と国際裁判管轄)

メタバースでは、国外にいる利用者が加害行為をすることも十分に想定されます。不法行為責任を追及する場合、どこの裁判所に提起するかという国際裁判管轄が問題となります。
国際裁判管轄については、原則として、不法行為があった地が日本国内にあるときには日本に認められます (民事訴訟法3条の3第8号)。そのため、日本に在住の者が被害を受けた場合、日本で裁判を提起できる可能性が高いです。

では、どこの国の法律が適用されるのでしょうか。
被害を受けた者が日本に在住の場合、結果発生地が日本であると考えることができるので、日本法を適用することができると考えられます(法の適用に関する通則法17条本文)。

ただ日本で訴訟を提起した場合、国外に居住する加害者に訴状が送達されるまで数ヵ月かかり、国内の訴訟より時間的な負担などが大きくなる恐れがあります。

なりすまし

肖像権のところでは、別人の容貌の似顔絵を用いたアバターを利用した場合の問題を論じました。では、容貌だけではなく、別人として活動した場合、冒用された別人である本人は、どういった対応が可能でしょうか。

メタバース上で、利用者Yは、自然人Xの容貌とそっくりな似顔絵を利用したアバターを利用して、利用者Xと名乗り、Xになりすましてメタバース内で活動しました。
Xは、Yに対して、なりすまし行為をやめさせることは可能でしょうか。
また、損害賠償請求はできますか。
①名誉権侵害(民法710条)
②肖像権又はパブリシティ権侵害(民法709条)
③著作権侵害
④アイデンティティ権侵害

これらが成立する可能性があります。
成立する場合には、差止請求や損害賠償請求が認められる可能性があります。

≪解説≫

なりすまし行為があった場合、①名誉権(民法710条)、②著作権またはパブリシティ権(民法709条)の侵害があったか否かが問題となります。これらについては、前述のとおりです。

そして、X自身が、Xの容貌とそっくりなアバターを、CGなどで一から製作していたような場合には、当該アバターの著作権をXが有しており、Yによるなりすまし利用は著作権の侵害となる可能性があります。

さらに、名誉権、プライバシー権、肖像権で保護されない部分については、アイデンティティ権(他者との関係において人格的同一性を保持する利益)の侵害が成立する可能性もあります (民法709条)。アイデンティティ権侵害の有無を判断するに当たって、大阪地判平成29年8月30日判時2864号58頁は、「なりすましの意図・動機、なりすましの方法・態様、なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して、当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである」とする基準を示しており、このような基準を参考に対応を検討するようにしましょう。

まとめ

このように、これまで既存のインターネット上のサービスや現実世界で配慮してきた事項に配慮することで対応できることが多いです。しかし、メタバース上では、扱われる情報量が多いことから、配慮すべき点も膨大になると考えられます。予め、配慮すべき点を整理して理解し、対応していくことが大切です。

なお、以上は、管理する事業者が存在するメタバースを前提として説明してきましたが、いわゆるオープン・メタバースでは、誰が管理するのかが不明な状況が生じる可能性があります。
そのような場合に、裁判上で、加害者をどのように特定するのか、行動履歴などのデータをどう保存、提供するのか、国際裁判管轄や準拠法はどうするのかなど、問題となる点も多いので、さらなる注意をもって対応するようにしましょう。

参考文献・バーチャルシティコンソーシアム「バーチャルシティガイドラインver 1.5.0」(published 2022.11.08)
・AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第4回)メタバースデータおよびセキュリティ」NBL1229号(2022年)73-82頁
・斉藤邦史「仮想空間におけるアバターのアイデンティティ」法学セミナー817号(2023年)26-31頁
・大島義則「メタバースにおける人格権と表現の自由」法学セミナー817号(2023年)32-37頁

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