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通信の秘密と個人情報保護【違反した場合の罰則についても解説】


電気通信事業法における「通信の秘密」の規制とは何でしょうか?
また、通信される情報を取り扱う場合、どのような点に注意すればよいでしょうか。


「通信の秘密」というものを聞いたことがあるでしょうか。
電話の内容や、その電話の存在、誰と話したのか、といった事実を、誰かに聴かれたり、知られていたら、安心して電話ができないですよね。
このことは、個人の私生活の自由を保障する上でも、自由なコミュニケーションの手段を保障する上でも大変重要といえます。

憲法第21条第2項は、通信の秘密を個人として生きていく上で必要不可欠な権利として保障しています。
これにより、第三者に知られずに通信ができるのです。いつ誰とどんな通信をしているかといった情報を、第三者に知られないということです。

もともと、憲法が、民主主義の根幹となる表現の自由やプライバシーを保護するために、「国家権力が国民のコミュニケーションに介入しないこと」を保障したことから始まっています。
そのため、捜査機関が犯罪捜査のために通信を傍受する場合には、通信傍受法等に基づく令状が必要となっています。
通信といっても、電話やメール、SNS等、様々なものが思いつきます。

今回は、通信の秘密について詳しく説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「通信の秘密と個人情報保護【違反した場合の罰則についても解説】」
について、詳しく解説します。

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対象

「通信の秘密」は、特定者間の通信であれば、電子メールSNSのメッセージ機能(FacebookのメッセージやInstagramのDM等)といった電子的な通信にも適用されます。

保護される範囲

憲法では、通信の秘密を個人が生きる上で必要不可欠な権利として保障しています。
この趣旨を受けて、法律によっても「通信の秘密」が保護されています。具体的には 電気通信事業者の取り扱う通信の秘密については電気通信事業法第4条、第179条により、有線電気通信における通信の秘密は有線電気通信法第9条、第14条により、無線通信における通信の秘密は、電波法第59条、第109条によりそれぞれ罰則をもって保護されています。

※電気通信事業者とは、電気通信サービスを提供する企業のことです。詳しくは後述します。

例:登録電気通信事業者として東日本電信電話㈱、西日本電信電話㈱、KDDI(株)など、
届出電気通信事業者として株式会社メルカリ、サイボウズ株式会社など

電気通信事業法は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信」を対象として、通信の秘密を保護しています。
発信から受信までの情報だけでなく、情報伝達の終了後に、電気通信事業者の管理下にある情報も保護の対象となります。例えば、受信完了した電子メールについて、メールサーバー上に保存されたメールのデータは対象となりますが、受信者がPCにダウンロードしてメールソフトの中にあるようなメールのデータは対象外です。

特定のユーザー間でのメッセージのやり取りを想定したサービス(例えば、フリマアプリやマッチングサイトでのユーザー間のメッセージ機能)について、サービス提供者もそのメッセージを閲覧する前提で、「掲示板」と同様の扱いをして、通信の秘密の対象とならないとしている例もあります。
しかし、サービスの名称ではなく、実態で判断しますので、場合によっては「特定者間の通信」として、通信の秘密の対象となりますので、実態に即して慎重に判断をしましょう。
参照:電気通信事業参入マニュアル[追補版]

また、インターネットの場合、接続機器の設定や事業者のサービスによっては、プライバシー保護が万全とは言い難い場合もあるようですので、注意することが必要です。

対象となる情報

「通信の秘密」の対象となるのは、どのような情報でしょうか。

通信の秘密の保障には、通信の内容だけでなく、その通信の存在自体の秘密も確保される必要があるため、上記の電気通信事業法等各法律の保護の及ぶ範囲は、通信内容だけでなく、

  • 通信当事者の住所
  • 氏名
  • 通信日時
  • 発信場所
  • 電話番号・メールアドレス等
  • データのヘッダー情報
  • 通信の存在自体や通信回数等通信の構成要素、通信の存在の事実の有無

を含みます。
また、電子メール等の特定者間の通信は「秘密」と推定され、保護されます。一方で、インターネット上に公開された掲示板等のウェブサイトに掲載された情報等は「秘密」に当たらず、保護の対象ではありません。

通信の主体が法人であっても対象となりますので、この点では、「通信の秘密」は、個人情報よりも範囲が広くなります。これに対し、契約者の住所・氏名等は、通信と無関係であれば、通信の秘密としての保護対象にはなりません。
企業は、データ戦略の観点から、マーケティング等の目的でSNS・電子メールの内容を取得・利用したり、位置情報を利用したりする場合等には、「通信の秘密」を侵害しないか検討する必要があります。

2011年に、Googleは、同社が日本国内において無線LANを経由した通信を受信し、その一部を記録した行為が電気通信事業法第4条に規定する「通信の秘密」の侵害につながる恐れがあったとして、総務省が再発を防止し、法を順守するよう指導を行いました。
その際「現在サービスに供されているサーバー上に保管されている電気通信事業者が提供する無線LANを経由した通信に係る記録の削除」、「通信確立後の通信に係る情報の収集・記録など事案の再発防止及び今後の法令遵守の方策の策定」を速やかに実施し報告することを要請しました。
また、その報告後に、速やかに「経緯、対応状況、再発防止策などの日本語による周知」を実施するよう求めました。

ヤフー社は、2012年に、 メールの内容をサーバーが解析してユーザーの興味に合う、ターゲティング広告を出すサービスの導入することについて、総務省が、通信の秘密を侵害する可能性の有無を検討した結果、ユーザーにサービス内容や中止方法等を明確に表示している等の適切な対応がなされていたこと等を理由に、許容範囲にあるという結論に至りました
(参照:総務省「ヤフー株式会社における新広告サービスについて」

通信の秘密と電気通信事業者

通信の秘密の適用対象となる事業者

前述のとおり、電気通信事業法における「通信の秘密」は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信」が対象です。
電気通信事業を営むためには、原則として、登録・届出をして電気通信事業者になる必要があり、登録または届出をしないで電気通信事業を営んだ者には罰則があります(電気通信事業法第177条、同法第185条)。
電気通信事業者は、総務省の監督を受け、通信に関する情報を扱うには、電気通信事業法や関連するガイドライン等を遵守して、事業計画を進めていかなくてはなりません。なお、登録又は届出が必要な事業者については、次の「(2)電気通信事業者の概要」をご覧ください。

一点注意が必要なのは、電気通信事業法における通信の秘密侵害罪の適用される主体は、電気通信事業者に限られていないということです。
会社が通信事業を直接的に運営していない場合であっても、電気通信事業者との提携等により通信に関連する情報を利用する際は、通信の秘密を侵害しないようにしなくてはならないのです。

電気通信事業者の概要

では、電気通信事業者とは、どのような事業者でしょうか。
簡単に言うと、「他人の通信を媒介する事業者」です。

典型的なのは、固定電話・携帯電話等の通信キャリアやISP(インターネットサービスプロバイダ)です。IP電話の事業者、MVNO、インターネット関連サービス等を提供する事業者等も、これに該当します。

サービスの態様によっては、クラウド、レンタルサーバー、チャット機能のあるサービス、出会い系サイト等を提供する事業者も、登録・届出が必要な電気通信事業者に当たります。
詳しくは、総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」を参考に、電気通信事業者の登録や届出が必要か否かを検討してください。

また、外国法人等がインターネット上で提供するサービスを利用する機会が増加したことに鑑み、令和2年5月に公布、令和3年4月に施行された電気通信事業法改正では、外国法人等が電気通信事業を営む場合の規定の整備等が行われました。

具体的には、

  1. 外国法人等が、日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合
  2. 外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合

に同法が適用されることになりました。

また、登録・届出の際の国内代表者等の指定義務(業務改善命令等が可能となる)、電気通信事業法違反の場合の公表制度(国内事業者等も対象に含まれる)等に係る規定が整備されました。

総務省が示した「外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方」では、上記②の「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」とは、外国から日本国内にある者(訪日外国人を含む。)に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであることをいい、次のような場合には、電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであると判断される可能性があるとしました。

「②外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合」に該当する可能性のある状況の例
(ⅰ)サービスを日本語で提供している場合
(ⅱ)有料サービスにおいて、決裁通貨に日本円がある場合
(ⅲ)日本国内におけるサービスの利用について、広告や販売促進等の行為を行っている場合

通信の秘密に当たるデータを利用する方法

通信の秘密に該当するデータの利用には、前述の通り、様々な規制があり、利用するにあたっては注意が必要です。
では、もし利用方法を間違ってしまい、通信の秘密を侵害してしまった場合、どうなるでしょうか。念のため、確認してみましょう。
通信の秘密を「侵害する」とは、どのようなことか、侵害すると罰則はあるのか、ということについて説明します。

電気通信事業法では、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵すことを禁じています。ここで禁止行為とされている「秘密を侵す」とは、通信の秘密の保障が及ぶ事項の秘密を侵す行為、すなわち、通信当事者以外の第三者がこれらの事実を故意に知ったり、自己又は他人のために利用したり、第三者に漏えいすることをすべて含みます。次の項で具体的に説明します。

侵害行為

通信の秘密の「侵害」となる行為は、次のとおりです。

  • 「知得」(積極的に通信の秘密を知ろうとする意思で知り得る状態に置くこと)、
  • 「窃用」(発信者又は受信者の意思に反して利用すること)、
  • 「漏洩」(他人が知り得る状態に置くこと)

知得」や「窃用」は、人が直接行わずとも機械的・自動的に処理される場合も該当することがあります。
携帯電話事業者が、自動的に取得した位置情報を、利用者の同意を得ずに利用あるいは第三者提供するのは、通信の秘密を侵害します。

侵害に対しては、罰則もあります。電気通信事業法は、刑事罰もあり、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(電気通信事業の従事者の場合は、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金)に処せられます(179条)。

電気通信事業法
第3条
電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。

第4条
電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

第29条
総務大臣は次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、電気通信事業者に対し、利用者の利益又は公共の利益を確保する為に必要な限度において、業務の方法の改善その他の措置をとるべきことを命ずることができる。
一 電気通信事業者の業務の方法に関し通信の秘密の確保に支障があるとき。

第179条
電気通信事業者の取扱中に係る通信(第164条第3項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
3前二項の未遂罪は、罰する。

また、通信の秘密の確保に支障があるときには、電気通信事業法29条1項1号に基づく業務改善命令がなされることもあります。
この、「電気通信事業者の業務の方法に関し通信の秘密の確保に支障があるとき」について、総務省は、「通信の秘密の確保に支障があるときの業務の改善命令の発動に係る指針」で

  • (ⅰ)通信の秘密に係る情報の取扱いを示したポリシー・方針等が不適切な例
  • (ⅱ)通信の秘密の取得・利用等が不適切な例
  • (ⅲ)情報管理態勢が不適切な例
  • (ⅳ)苦情・相談等対応態勢が不適切な例

というケースを例に挙げています。

通信の秘密に当たるデータの利用

侵害にあたらない場合が2つあります。

  1. 同意がある場合
  2. 違法でない場合(違法性が阻却される場合)

です。

1同意がある場合

通信の秘密に当たる情報を利用するには、基本的に、通信の当事者の同意を得る必要があります。
この「同意」は、個別具体的で、明確なものであり、適切に取得されている必要があります(総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説」2-13「本人の同意」参照)。
こうした同意がある場合には、そもそも通信の秘密を侵害しません。形式的に侵害していても違法性がないとされるのです。

2違法でない場合(違法性が阻却される場合)

通信の秘密を侵害する行為は違法ですが、刑法により、

  • (ⅰ)正当行為の場合
  • (ⅱ)正当防衛の場合
  • (ⅲ)緊急避難の場合

には、例外的に違法性がなくなる(阻却される)とされています。

違法性が阻却される事由に該当するかどうかは、個別具体的な判断となり、ケースバイケースです。
全く同一の環境や条件ということはないでしょうから、あの会社がOKだから当社もOKとはならないことに注意が必要です。

電気通信事業者は、他人の通信を媒介する事業者ですから、この業務(他人の通信の媒介)を行う目的の行為であれば、正当な業務であり(ⅰ)正当行為にあたります。

2006年の事例ですが、総務省は、大手インターネット接続事業者(ISP)のぷららネットワークスによるファイル交換ソフト「Winny」の通信を制限する行為については正当な業務として容認していましたが、同社が検討していた同ソフトの通信そのものを遮断する行為は正当な業務の範囲を越えるとしました。

また、電気通信事業者が児童ポルノの通信をブロックする行為については、「緊急避難」に該当する場合に限り許されると考えられています。児童の権利侵害が著しいか、他にとれる手段がないか等により判断されますが、かなり厳しいジャッジとなります。

個人情報との関係

通信の秘密に当たる情報の多くは、個人情報でもあります。
こうした情報を扱う際には、「通信秘密」と「個人情報保護」の両方の側面を意識しなければなりません。総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を参考にしながら、会社の事業や体制を整えていく必要があります。

情報収集や判断には専門家からの意見も重要ですから、早い時期に頼ることでリスクを低減することができるでしょう。
総務省のホームページもご参考までにご覧ください。


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