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従業員持株会とは?設立のメリットや注意点についても解説!

Q
従業員持株会とはどのようなものなのでしょうか?
将来的に上場を考えており、その準備の一環として持株会の設立を考えています。

従業員に対する福利厚生にもなり、会社経営上もメリットがあると聞いたのですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
注意点などもあれば併せて教えてください。

A 
従業員持株会とは、会社の従業員の中から会員を募集して、会社が拠出金を集め、会員である従業員が当該会社の株式を保有する制度のことをいいます。

拠出金が会社資金となることや、従業員の経営参加意識を高めることで業務へのモチベーションをアップさせることなどのメリットがあります。

他方で、業績悪化の場合に、株式の価値が低下することで、モチベーションの低下にもつながり、従業員の業務遂行に悪影響を及ぼし得るといった注意点もあります。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「従業員持株会とは?設立のメリットや注意点についても解説!」
について、詳しくご説明します。

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従業員持株会とは

概要

従業員持株会は、 従業員の中から会員を募って給与・賞与からの拠出金を原資として、当該会社株式を共同購入し、会員の拠出金額に応じて、持分を配分する制度のことをいいます。

また、会員となりうる資格があるのは、当該会社の従業員です。取締役や執行役などの経営陣は、会員となることができません。

そして、上場会社において、従業員持株会は、持株会規約の定めにより、

  • ①株主名簿に持株会の理事長名義で登録されていること
  • ➁議決権の行使は持株会の理事長が行使すること
  • ➂配当金を持株会でプールし、株式購入資金として再投資するシステムであること

という3つの要件を満たす場合、従業員持株会が金融商品取引法上、「一人株主」として認定され、有価証券届出書・有価証券通知書の提出が不要になり、会社における事務的な負担が軽減されます。

そして、持株会は、 会社とは別個の、内部の自治組織として、持株会規約に基づいて運営されます。この規約に、退会時の処理を明記することで、会社と会員間で、退会時の株式の処理(買取)について紛争となることを避けることができます。

例えば、規約の例として、「会員は、退職時、持株会によって取得した株式を取締役会の指定する者に取得価格で譲渡する」といった条項を定めることが考えられます。なお、この条項が、株式譲渡自由の原則(会社法127条)ひいては、公序良俗(民法90条)違反になるかどうかが問題となることがあります。

しかし、そもそも株式譲渡自由の原則は、株主の投下資本回収手段の保障のために定められています。特に非上場株式の場合には、会員自ら譲渡人を探し出すことは困難であることから、むしろ株主の投下資本回収を促進するものといえ、会社法127条に反しません。

同様に、投下資本回収を促進することは、持株会からの離脱を容易にし、社会的妥当性を有することから、民法90条にも反しません。

従業員持株会の種類(管理運営方式の選択)

従業員持株会の管理事務は、すべて自分で自主運営する方式と、証券会社または信託銀行に委託する方式があります(それぞれ証券会社方式・信託銀行方式)。

実務上は、会員ごとの明細証作成等の手間を省くため、一般的には証券会社または信託銀行に委託する方式が採られることが多く、その中でも、証券会社方式が採用されることが多いようです。

従業員持株会の法的性質(証券会社方式の場合)

証券会社方式の場合には、従業員持株会は、民法上の組合(民法667条1項)となります。その運営・管理は、持株会の規約・運営細則に基づいて、理事会が行います。理事会の下には、事務局が設置され、事務局は事務手続等を行います。

なお、信託銀行に委託する場合には、従業員持株会は任意団体として設立することになります。

従業員持株会のメリット

会社側のメリット

会社の財産形成に役立ち、相続対策としての意義もある

まず、拠出金を会社財産形成の一助とすることができます。そして、従業員は、長期安定株主として、会社経営を支える存在となり、会社が上場を目指す場合に、資本政策面における安定化の一助となります。

また、持株会があることで、上場前であっても、持株会を対象とした第三者割当増資などにより資金調達の機会が増えます。

従業員持株会に、自主株を取得させることは、そのぶん株式の外部への流出を防止することができ、経営の安定にもつながります。また、当該取得の結果、オーナーの持株数が減少した分、オーナーが亡くなった際に発生する相続税も減少することになるため、相続対策としての意義もあります。

福利厚生として機能

従業員持株会は、会社の財産形成の一助となるだけでなく、配当金により従業員の財産形成にも役立ちます。そのため、会社としては、従業員持株会を福利厚生制度の一つとして位置づけ、会社の魅力の一つとしてアピールすることができます。

従業員の士気が上がる

会社の業績が上がれば、配当により従業員の資産形成に役立ちます。そのため、従業員のモチベーションアップを期待でき、従業員の経営への参加意識を向上させることで、業務の遂行を促進させる効果が期待できます。

従業員のメリット

財産形成とその利便性

会社は、会員である従業員に対して、給与及び賞与から天引きした拠出金に応じて、奨励金を付与することができます。

この天引きという方法によれば、会員である従業員が、給与・賞与の範囲内で、無理なく、低額で継続的に投資することができます。そのため、従業員は自分で管理する必要がなく、手続きを行う必要もないので手間がかからず、株式投資のハードルが下がるというメリットがあります。

なお、この奨励金(支給状況について※1)は、「利益の供与」(会社法120条1項)に当たるのかという問題があります。しかし、奨励金は株式取得のための補助金として、会員への福利厚生の性質を有するため、株主平等原則に違反するものではなく、「利益の供与」にも当たりません。

奨励金に加えて、配当金を得ることも可能です(同法453条)。まず、配当金は、会社の利益を株主に還元するものであるとともに、その配当によって会社財産を脅かすものであってはなりません。つまり、会社は、配当可能限度額(※2)を超えない範囲で、配当ができることになります(同法461条1項・2項)。配当金は、配当基準日現在の各会員の持分株数に応じて配分されます。

また、持株会という別個の組織が株式購入手続を代行するため、個々の従業員において、株式取得のための煩雑な手続き(※3)を履践する必要がなく、利便性があるというメリットもあります。

※1 東京証券取引所「2019年度 従業員持株会状況調査結果」によると、調査対象会社の96.8%が奨励金を支給しています。
※2 配当可能限度額(分配可能額)は、貸借対照表にいう「その他資本剰余金+その他利益剰余金」で大まかに求められます。また、会社の純資産額が300万円以上である必要があります(会社法458条参照)。
※3 例えば、譲渡制限株式を譲渡する(される)ための手続きは以下のようになります。
譲渡をしようとしている株主から会社に対して譲渡承認請求(会社法136条)
→承認又は不承認の決定・株主への通知(同法139条1項・2項、140条1項。2週間以内に株主に通知しなかった場合には承認とみなされる)
→不承認の場合には会社又は指定買取人による株式買取り(会社法140条1項・2項・4項・5項)の手続き(会社法309条2項1号)

上場後の価格上昇による利益

また、会員にとって、上場後の株価上昇を期待できます。上場している株式の場合、株式市場で取引がなされるため、株式の価格変動が生じます。株価上昇の場合、キャピタルゲイン(この場合、株式を譲渡することによって得られる差益のこと)を得られることになります。

インサイダー取引規制の適用を受けない

インサイダー取引とは、従業員や役員など、一般に公開されていない会社の機密情報を知り得る立場にある者が、その情報を利用して、株式等を売買することをいいます。株式市場の公平性のために、このような売買は規制されています。

しかし、従業員持株会は、定時・定額での継続買付けが実行されるため、金融商品取引法166条におけるインサイダー取引規制の適用を受けません。

従業員持株会のデメリット

会社側のデメリット

従業員の議決権行使による影響

従業員が会社の株を所有しているということは、株主としての議決権を行使できることになります。

例えば、少数株主権(※4)として、総株主の議決権の1%を有していれば、株主総会の議題提案権(会社法303条1項)を有しますし、3%を有していれば、会計帳簿閲覧等の請求権(同法433条1項)や取締役等の役員の解任請求権(同法854条1項及び同項1号)を有します。

会社はこれらの権利を行使されることによって、かえって、安定経営が難しくなるおそれも考えられます。

※4 少数株主権とは、議決権の総数又は発行済株式の総数に対して、一定以上の株式を有する株主のみが行使できる権利のことをいいます。

従業員持株会の持株比率増による経営陣の持株比率低下

また、持株会の持株比率が増大すると、株式を有する経営陣が有する持株比率が低下する というデメリットも挙げられます。

しかし、この点は、持株会の持株比率を3~5%程度として一定の割合に抑えることで、防ぐことが可能です。

業績悪化や上場による影響

業績悪化の場合には、奨励金や配当金を期待できない点で、従業員の士気が下がり、業務遂行にも悪影響を及ぼしかねません。

また、上場後は、株式の譲渡制限をかけられず、株式の売買が自由になるため、会員が安定株主として機能しない場合も考えられます。

従業員のデメリット

利益を得られるまで一定の時間を要する

上記2.(2)において、上場後、株価上昇の場合、キャピタルゲインを得られることになると述べましたが、これは前提として、上場後まで当該従業員が会社に在籍している必要があることになります。

言い換えれば、キャピタルゲインを得たり、配当金や奨励金を得て、自己の財産形成の一助としたりするためには、一定程度の期間を要することを意味します。

会社への依存度が高い

また、持株会に株式の管理を実質的に委ねる形になるため、業績悪化によって株価が下がった場合など、株式を早急に処分したいと考えても、すぐに処理することができず、その分の損失を被ることも考えられます。

なぜなら、持株会規約等で、外部への譲渡禁止を定め、持株会退会時には持株会又は会社が当該株式を買い取る旨を定めていることが一般的だからです。

株主優待は受けられない

会社の中には、株主優待(株主に対して自社商品を提供する特典のこと)を行うところも少なくありません。

しかし、従業員持株会は、自社株の購入を従業員個人名義の証券口座ではなく、持株会名義で管理しているため、株式を購入したとしても、株主優待は受けられません。

設立の手順

IPO後の株価上昇が従業員の財産形成に資することから考えると、株価が相対的に低い上場準備の初期段階で設立することが望ましいといえます。

証券会社に事務委託を行う場合、設立までの手順は以下のようになります。

  • ①設立担当者及び発起人の選任
  • ➁規約・運営細則・設立スケジュールの作成
  • ➂発起人会の開催 (ここで、➁の規約・運営細則の承認や役員の選任を行う)
  • ④持株会理事長印の作成
  • ⑤会員募集
  • ⑥持株会銀行口座の開設
  • ⑦持株会証券口座の開設
  • ⑧給与控除準備
  • ⑨入会届出書の整理
  • ⑩拠出金の送金
  • ⑪会員データの受領

まとめ

上記をみてみると、多くの場合、メリット・デメリットは表裏一体の関係にあります。

上場準備のための一環として多くのメリットがあることは確かであるため、計画的に設立及び運用することでそのメリットを享受することができます。


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