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弁護士コラム

賃料増額請求と消滅時効|改正民法による変更点と対応策を解説

賃貸借トラブル
投稿日:2025年07月11日 | 
最終更新日:2026年08月06日

Q
2018年4月1日、賃借人に賃料増額請求の内容証明郵便が届きましたが、協議が調わず、2025年5月現在も従前の賃料のみ支払われています。

増額分はいつから請求でき、消滅時効はいつ成立するのでしょうか。また、2020年4月1日以降の自動更新や民法改正による影響も教えてください。
Answer
賃料増額請求は、意思表示が賃借人に到達した時点で相当額への増額の効力が生じます。その後、調停・裁判で相当額が決まれば、到達時に遡って差額を請求できます。

ただし、増額分の賃料請求権には消滅時効があります。基本的には各賃料の支払時期から5年で、毎月の弁済期ごとに時効が進行します。

ご質問の事例では、支払時期が当月末日なら、2018年4月分は2018年5月1日から時効が進行し、2023年4月30日に完成します。2020年4月1日以降に自動更新された場合は、改正後民法が適用されます。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
 
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
 
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。

賃料増額請求で「時効」が問題になるケースとは?

賃料増額請求では、賃料増額請求権自体ではなく、増額後の賃料債権について消滅時効が問題になります。

実際に、賃料増額請求をしたものの、賃借人が従前の賃料しか支払ってくれず、協議も進まないまま何年も経ってしまい、これまでの賃料増額分を請求できるのかといったご相談はよくあります。

賃貸人としても、従前の賃料が支払われているため、ついつい増額賃料の請求を後回しにしてしまいがちです。そして、いざ増額賃料を請求しようとしたときに時効が問題になってきます。

なお、賃料増額請求権自体が時効で消滅するということは考えられません。

賃料増減額請求は、建物の賃料が不相当になった場合、賃貸人または賃借人のうちどちらか一方が、もう片方に一方的に賃料増減額請求の意思表示をすることで賃料の増減ができる権利です。そのため、意思表示が相手方に到達した時点で「相当」な額において賃料が増減したという効力が発生します(借地借家法32条1項)。

改正前民法と改正後民法の時効期間の違い

2020年4月1日改正前の民法では、一般の債権の消滅時効は10年、商事債権は5年とされていました。

ただ、賃料債権については、定期給付債権(1年または1年よりも短い期間で定めた金銭その他のものの給付を目的とする債権)として扱われ、5年間という「短期消滅時効」が定められていたのです。そのため、賃料債権については、一般の債権および商事債権を問わず、請求できるときから5年が時効という認識でした。

2020年4月1日改正後は短期消滅時効の考え方がなくなり、賃料債権は「一般の債権」として取り扱われます。

なお、一般の債権の場合の消滅時効の考え方は、以下のとおりです。

  • 権利を行使できることを知った日から5年
  • 権利行使をできるときから10年

このように、一般の債権の時効については5年もしくは10年の消滅時効が設定されていますが、賃料債権については賃貸借契約によって賃料の支払時期が決まっており、賃貸人がそれを知らないことは考えられないため、基本的には賃料の支払時期から5年で時効が消滅すると思ってよいでしょう。

賃料債権の消滅時効の起算点

賃料債権の消滅時効の起算点は、「各月の賃料の支払時期の翌日」です。

賃料債権の権利を行使できるのは、一般的には各月の賃料の支払時期です。そして、契約で賃料の支払時期が定められていれば、賃貸人は支払時期を知っているはずなので、各月の賃料支払時期当日が「権利行使できることを知った日」になります。

しかし、民法第140条にて「消滅時効の期間の計算において、初日は算入しない」と定められているため、消滅時効の起算点は支払時期の翌日になります。

賃料増額請求を行っても賃借人が従前の賃料しか払ってくれない場合、増額分の賃料について、各月ごとの支払時期の翌日から、当該月の増額分の賃料債権の消滅時効が進行していきます。

賃料増額請求と時効の関係

増額分の賃料請求権は、基本的に支払時期の翌日から5年で時効により消滅するため、5年以内に法的措置を講じることが重要です。

時効直前になって慌てることがないように、賃料増額分の請求についての法的措置を講ずる予定を立てておくことが大切です。

この章では、時効の完成を阻止する制度と、改正民法の適用基準について解説します。

時効完成を阻止する制度

時効の完成を阻止するためには、訴訟・調停・催告などによる「時効の完成猶予や更新」を利用できます。

改正前の民法では、時効の完成前に訴訟を提起すると、時効が中断するとされていました。

改正後は、消滅時効が完成する前に訴訟を提起することで、訴訟継続中は時効の完成が猶予され、訴訟にて権利関係が確定すれば、消滅時効が更新されます。賃料増額請求における差額分の賃料の時効を阻止するための訴訟としては、差額分の賃料の支払を求める訴訟だけでなく、一定期間以降の賃料増加を確認する訴訟でも問題ありません。

また、調停についても調停係属中は時効の完成が猶予されます。調停が不成立となった場合には、時効完成を阻止するために訴訟を提起する必要がありますが、その訴訟提起までの期間について、改正前の民法では調停不成立から1か月以内となっていたものが、改正後では6か月以内に延長されています。

さらに、催告(裁判外での請求)を送り、それから6か月以内に訴訟を起こすことでも、時効の完成猶予(改正前であれば時効の中断)ができます。催告は、どのような内容でいつ配達されたかが重要となるため、一般的には配達証明付き内容証明郵便で行います。

催告文(内容証明)の例

賃料増額請求後の増額分賃料の支払いを求める催告状(内容証明)の例

改正民法の適用基準

増額分の賃料請求に改正前・改正後のどちらの民法が適用されるかは、原則として賃貸借契約の締結時期によって異なります。

具体的な適用基準は、以下のとおりです。

  • 2020年3月31日以前に締結:改正前の民法
  • 2020年4月1日以降に締結:改正後の民法

2020年3月31日以前に締結した賃貸借契約を、2020年4月1日以降に法定更新などによって賃借人の合意なしで更新した場合、改正前の民法が適用され続けますので注意が必要です。

一方、2020年4月1日以降に再契約された場合・当事者の合意による更新がなされた場合・自動更新条項による更新などの場合は、改正後民法が適用されます。

冒頭のQ&Aのように、2018年4月1日に締結された賃貸借契約が2年ごとに自動更新されている場合、2020年4月1日に自動更新がされ、この時点から改正後民法が適用されます。

賃料増額分の請求と時効の具体例

賃料増額・減額請求では、請求の内容や賃貸借契約の締結・更新時期によって、消滅時効の考え方が異なります。また、時効期間が経過していても、賃借人が時効を援用しない場合など、増額分の賃料を請求できる可能性があります。

この章では、賃料増額・減額請求と時効の関係について解説します。

賃料「増額」請求の場合

賃料増額請求後に従前の賃料額しか支払われていない場合、支払時期から5年経過した差額賃料については、時効の中断事由や完成猶予事由などがなければ消滅時効が完成しています。

2010年4月1日に賃貸借契約が締結され、その後3年ごとに自動更新されており、2015年3月1日に賃料増額請求をしたケースを考えてみましょう。

賃貸借契約は契約に基づき、民法改正前の2013年・2016年・2019年のそれぞれ4月1日に自動更新され、2022年3月31日までは改正前民法が適用されます。しかし、2022年4月1日の自動更新により、それ以降は改正後民法が適用されます。

2022年3月31日以前の賃料債権に適用される改正前民法では、賃料債権については請求しうるときから5年で消滅時効にかかるとされており、支払時期の翌日から5年で消滅時効にかかります。

ただし、賃借人側が差額賃料についての支払義務があることを認めたりした場合は、その認めた時から新しい時効期間が進みます。

賃料「減額」請求の場合

賃料減額請求の場合、賃借人が払い続けた差額賃料については「不当利得返還請求権」として返還を請求できます。

賃貸人に対して賃料減額請求を行ったにもかかわらず、協議が調わないなどの理由で賃借人がそれまでの賃料を払い続けている場合、賃借人側は賃貸人に対して差額賃料の返還を請求できます。この場合の請求権は「不当利得返還請求権」であり、増額分の賃料請求とは法的性質が異なるので注意が必要です。

不当利得返還請求権の消滅時効は、改正前民法が適用になる場合は賃貸借契約が商行為に該当するか否かを問わず10年、改正後民法が適用される場合は5年です。

時効完成後でも請求できるケース

時効期間が経過していても、賃借人側が消滅時効を援用しない場合は、増額分の賃料を請求できる可能性があります。

賃料債権について時効が完成していた場合でも、賃借人が時効を援用しなければ、裁判所は当該賃料債権が時効消滅したという裁判をすることができません。

時効の援用とは、時効の利益を受けるという意思の表明であり、裁判所は、当事者が時効の援用をしなければ、時効に基づいて裁判することができないとされているのです(民法第145条)。

また、賃借人が増額分の賃料の支払いの猶予を求めたり、一部だけ支払ったような場合は、債務を承認したことになり、時効が更新されます。

時効の更新とは、これまでの時効期間の経過が無意味となり、新たに時効が進行することをいいます。賃料債権について消滅時効が完成した後に承認があった場合も、その時効の完成がなかったことになり、承認の時点から新たな時効が進行します。

相手が時効を援用していない場合には、相手がその時効を援用しない可能性や、債務の承認をする可能性に期待して、時効期間が経過した分の賃料もあわせて請求することを検討しましょう。

【実務ポイント】賃料増額請求を行う前にすべきこと

賃料増額請求を行う前には、現行賃料と相場の乖離を確認し、増額の根拠となる証拠を整理したうえで、内容証明の送付や訴訟のリスクを検討しておくことが重要です。

実際に賃料増額請求を行うにあたっては、以下の点に注意しましょう。

① 現行賃料の相場との乖離を確認

近隣相場の賃料を確認し、現行の賃料とどれだけ離れているかを確認しましょう。

不動産会社のサイトなどで、類似物件がどのくらいの価格で貸し出されているかなど調べることができます。

② 証拠(路線価・近隣物件賃料・鑑定など)の整理

路線価は国税庁のサイトで確認することができます。

路線価が上がっていれば土地の価格が上昇しています。国税庁の路線価図は過去6年分まで公表していますので、過去との比較に役立ちます。

近隣物件賃料などは、類似物件の賃料を複数チェックしておくことをおすすめします。

また、相当な賃料の資料として不動産鑑定士に鑑定してもらう方法もあります。その際には、簡易的な評価である不動産調査報告と、正式な評価と言われる不動産鑑定のどちらかを選択する必要があり、費用も発生するため、費用対効果を考慮したうえで利用するようにしましょう。

③ 内容証明の送付と訴訟リスクの把握

賃料増額請求は、賃借人にその内容が到達した時点で効果が発生します。そのため、配達証明付き内容証明郵便によって賃料増額請求の意思を伝えることはとても重要なポイントです。

賃借人が納得して増額賃料を支払ってくれればよいのですが、反対された場合には調停や訴訟という流れになるため、日頃から賃借人との関係を良好に保つとともに、賃借人が納得できるような資料をそろえることも意識しておきましょう。

仮に訴訟に発展すると、資料の準備が必要になるだけでなく、裁判費用や弁護士費用なども発生します。賃料増額請求がうまくいけば、賃料増額による効果は継続するため、出費分はカバーされることも多いのですが、出費の方が多くなる可能性もあるため注意が必要です。

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賃料増額請求後、従前の賃料を漫然と受取り続けている場合は、増額分の賃料債権の消滅時効に注意が必要です。後から請求しようとして時効により消滅することがないよう、早めに対応しましょう。

催告だけで増額分の賃料が支払われない場合は、調停や訴訟に進むことになります。特に時効完成が迫っている場合は、速やかに申立てなどの手段を講じる必要があります。

そのため、増額分の賃料請求や消滅時効について不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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