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弁護士コラム
賃料増額請求と供託対応|賃貸オーナーのための法的知識と実務戦略を解説
- 賃貸借トラブル
- 投稿日:2025年07月02日 |
最終更新日:2026年07月30日

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建物の修繕費や管理費の上昇を受け、長年据え置いていた賃貸マンションの賃料を10万円から15万円へ増額請求をしました。
しかし、数名の入居者は12万円なら支払うとして持参したため受領を拒否したところ、12万円を供託されました。
できるだけ早く増額後の賃料を受け取りたいのですが、賃料増額請求に反対され、賃料を供託された場合はどのように対応すればよいのでしょうか。
- Answer
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賃借人が賃料を供託した場合でも、賃貸人は供託金を受け取ることができます。ただし、従前の賃料を認めたと評価されないよう、「増額後賃料の一部として受領する」旨を留保して払い渡しを受けることが重要です。
借地借家法第32条では、協議がまとまらない間は、賃借人は相当と認める額を支払えば債務不履行とならないため、賃貸人が受領を拒否した場合には弁済供託が行われることがあります。
もっとも、後に増額が認められれば、賃借人は供託額との差額に年1割の利息を付して支払わなければなりません。供託金を受領した後は、その旨を内容証明郵便で通知するとともに、賃料増減額確認や増額分賃料請求の調停・訴訟を進めましょう。
監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。
目次
賃料増額請求を行う賃貸人の法的根拠と適正額
賃貸人は、現在の賃料が租税負担や経済事情、周辺相場などに照らして不相当となった場合、借地借家法32条に基づいて将来に向かって賃料の増額を請求できます。
同条では、以下の場合に賃料の増減を請求できると定められています。
- 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増加
- 土地若しく建物の価格の上昇その他の経済事情の変動
- 周辺の建物の借賃と比較して安い
ただし、一定期間、建物の賃料を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う必要があります。
賃料増額請求の意思表示が賃借人に到達すると、その時点から将来に向かって、客観的に「相当」な額へ増額されたことになります。この相当な額について当事者間に争いがなければ、その金額が改定賃料となりますが、争いがある場合には調停または裁判によって決定されることになります。
相当な賃料額の算定には、裁判所や実務において、「差額配分法」「利回り法」「スライド法」「賃貸事例比較法」などが用いられています。
詳しくは、別記事「賃料を上げたい大家必見!家賃値上げの正当理由と交渉術」にて解説しておりますので、是非ご参照ください。
相当な賃料額は、物件の状況や賃貸人と賃借人との関係など、多様な事情を踏まえて算定します。多くの資料と専門的な知見が必要になるため、交渉・訴訟を見据えて不動産鑑定士や弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
賃料増額請求は、一般的に以下の流れで進みます。
- 1賃貸人が賃借人に対し、賃料増額の意思表示をする
- 2賃貸人と賃借人が任意協議を行う
- 3賃料増額確認および増額賃料請求の調停を申し立てる
- 4賃料増額確認および増額賃料請求の訴訟を提起する
- 5増加額が確定し、増額賃料の請求権が認められる
任意協議で合意した場合や、調停・訴訟上の和解が成立した場合は、その時点で賃料の増加額が確定します。
賃料増額の効果を発生させるには、増額の意思表示が賃借人に到達しなければなりません。後に、意思表示の有無や到達時期が争われる場合に備え、配達証明付き内容証明郵便で増額の意思表示を行うことが重要です。
また、賃借人との協議の機会を設けるようにしましょう。後に、賃貸借契約の解除や建物明渡請求が争われた場合、賃貸人が増額協議に応じる態度を示し、具体的な賃料額を検討する機会を設けたかどうかが信頼関係破壊の判断に影響することがあります。
なお、任意協議がまとまらなかった場合でも、原則として調停を経ずに訴訟を提起することはできません。
賃借人が供託を行った場合の賃貸人の立場
賃借人が賃料を供託した場合でも、賃貸人は債権者としての立場を失わず、供託金を受け取ることができます。
ただし、有効な供託であれば、賃料債権が消滅するため、供託の有効性や受領方法を慎重に検討する必要があります。
- 債権者としての地位は維持される
- 供託が行われても、賃貸人は引き続き債権者であり、供託された金銭を受け取ることができます。
- 有効な供託であれば賃料債権は消滅する
- 有効な弁済供託が行われると、債務の履行が完了したとみなされます。そのため、賃貸人は供託された賃料の未払いを理由として契約解除や明渡請求を行うことができなくなります。
- 供託の有効性を争うことができる
- 賃料額が争いがあるケースでは、「供託額が正当な額ではない」「供託原因が存在しない」などとして、供託の無効を主張できる余地があります。
- 実際に、賃料増額請求を受けた賃借人が、相当賃料額に争いがあるとして従前の賃料と同額を供託し続けたものの、有効な供託とは認められず、建物明渡しが命じられたケースもあります。
- 供託金を受け取るかどうかを選択できる
- 賃貸人が供託金を受領しない間は、賃借人が供託金を取り戻す場合があります。
- 一方、供託金をそのまま受け取ると、賃料全額の弁済を認めたものとみなされるおそれがあります。そのため、供託金を受け取る場合は、「増額後の賃料の一部として受領する」旨を留保して払渡請求をする必要があります。
- ただし、家賃滞などを理由に契約解除や退去を求めている場合は、供託金を受領しない方が良いケースもあります。
供託制度とは
賃料の供託は、一定の要件を満たすことで賃料を支払った場合と同様に債務を消滅させる「弁済供託」です。
供託とは、金銭、有価証券その他の物を供託所などに提出して管理を委ね、その財産を債権者に取得させることにより、債務の弁済や裁判上の保証などの法律上の目的を達成する手続きです。
賃料増額請求に対して相当と認める賃料を供託する場合は、債務の弁済を目的とする弁済供託に当たります(民法第494条)。
弁済供託によって債務消滅の効果を得るには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 供託原因があること
- 供託の内容が債権者に本来の債権と同一内容の権利を取得させるものであること
供託原因として認められるのは、以下の場合です。
- 受領拒否:債務者が弁済の提供をしたものの、債権者が受領を拒んだとき
- 受領不能:債権者が弁済を受領できないとき
- 債権者不確知:債権者が過失なく債権者を確知できないとき
したがって、単に賃料増額請求を受けたという理由だけでは供託することはできません。要件を満たさない供託は無効となり、債務不履行となるおそれもあります。
増額前賃料の受領拒否による供託
賃貸人が「増額後の賃料でなければ受け取らない」として従前の賃料の受領を拒否すると、賃借人が受領拒否を理由に供託し、債務不履行を免れる可能性があります。
「弁済の提供」は、債務の本旨に従って現実に行う必要があります(民法第493条)。賃料増額請求によって賃料が増額している場合、増額後の賃料に満たない金額を持参しても、債務の本旨に従った提供とはいえないようにも思われます。
しかし、賃料増額請求について当事者間の協議が調わない場合、賃借人は増額を正当とする裁判が確定するまで、自らが相当と認める額を支払えば足ります。裁判が確定した後に、増額後の賃料との差額を精算することになります(借地借家法第32条第2項)。
ただし、賃借人が相当と認める額は、従前の賃料を下回ることはできません。そのため、賃借人が従前の賃料額以上の金額を相当な賃料としているのであれば、通常は供託が受理されます。
また、賃貸人が増額前の賃料を「賃料の一部」として受領することは、「賃料全額の弁済としては拒絶する」という意思表示に当たるとして、受領拒否を理由とする供託を有効とした裁判例もあります。
このように、賃貸人が改定後の賃料でないことを理由に受領を拒否しても、賃借人が従前の賃料額以上の金額を自らが相当と認める額として供託した場合、債務不履行を免れることができます。
賃借人が供託を行うと供託通知書が送付されますので、供託通知書が届いた場合には、供託額や供託原因を確認し、供託金を受け取るかどうかを含め早期に対応することが必要となります。
賃借人が供託した場合の法的効果
有効な供託が行われると、賃借人は賃料の不払いによる債務不履行を免れます。その結果、賃貸人は未払賃料を理由とする契約解除や建物明渡請求ができなくなるため、供託が有効かどうかを確認することが重要です。
供託が有効となるには、受領拒否や債権者不確知など、法律上の供託原因が必要です。単に賃貸人から賃料増額請求を受けただけで供託した場合は、無効となり、賃借人は債務不履行となる可能性があります。
もし、賃貸人が賃料の受領を拒否した場合でも、支払期限を過ぎると、賃借人は遅延損害金を含めなければ有効な供託ができません。この点も、供託の有効性を判断する際のポイントとなります。
供託が行われた場合、賃貸人は供託金を受け取るかどうかを速やかに判断する必要があります。供託金を受け取る場合は、供託額を賃料全額として認めたとみなされないよう、「増額後の賃料の一部として受領する」旨を留保して払渡請求を行います。
また、賃借人へも同じ内容を配達証明付き内容証明郵便などで通知しておくとよいでしょう。
供託金を受け取る際は、一般的に以下の手続きを行います。
- 供託通知書を確認する
- 払渡請求書を作成・提出する
- 供託金の還付を受ける
また、供託が行われたということは、賃借人が賃料増額に同意していない可能性が高いことを意味します。そのため、必要に応じて、賃料増減額確認や増額分賃料請求の調停・訴訟を検討することになります。
適正賃料に比して著しく低い賃料の供託について
賃借人が供託した金額が適正賃料に比べて著しく低い場合は、従前の賃料額以上の金額であっても、有効な履行と認められないことがあります。また、著しく低い金額の供託を長期間続けた場合には、賃貸借契約の解除が認められる可能性もあります。
賃料増額請求を受けた賃借人が、従前の賃料を支払おうとしたものの、賃貸人が増額後の賃料でなければ受け取らないとして受領を拒否した場合、賃借人は、原則として従前の賃料額以上を供託すれば債務不履行を免れます。
しかし、適正賃料が10万円のところ従前の賃料が1万円であるといったような「従前の賃料が適正賃料に比べて著しく低い」場合は、同じ結論になるとは限りません。
この点について参考となる裁判例を紹介します。
| 最判平成8年7月12日(判タ921号122頁) 【結論】 以下のような場合は、供託が有効な履行と認められない可能性があります。 ・賃借人自身が、供託した金額を相当な賃料と認めていない場合 ・供託額が公租公課を下回っている場合(特段の事情がある場合を除く) 【事案】 土地の賃料について、月額6万円から12万円への増額請求が行われた事案です。 【判断理由】 裁判所は、賃料増額請求について協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を支払う場合、賃借人自身が従前の賃料額を相当と認めていなければ、従前の賃料額と同額を支払っても、「相当と認める賃料」を支払ったことにはならないと判断しました。 また、賃借人が支払額が公租公課を下回ることを知っていた場合は、主観的にその額を相当と認めていても、特段の事情がない限り、債務の本旨に従った履行とはいえないと判断しています。 |
この判例から、供託が有効な履行と認められるかどうかは、主に以下の事情が考慮されることがわかります。
- 賃借人が供託額を主観的に相当と認めていたか
- 供託額が公租公課の額を上回っていたか
また、著しく低額な供託を長期間続けた場合の判断については、次の裁判例が参考になります。
| 横浜地判平成元年9月25日 【結論】 適正賃料より著しく低い金額の供託を長期間続けた場合は、信頼関係の破壊を理由として賃貸借契約の解除が認められることがあります。 【事案】 賃料増減額請求後、賃借人が従前の賃料と同額であるものの、適正賃料と比べて著しく低い金額を6年余り供託し続け、協議にも応じなかったため、賃貸人が信頼関係の破壊を理由として賃貸借契約の解除を求めた事案です。 【判断理由】 裁判所は、原則として賃借人が自ら相当と認める賃料額の供託を継続していれば、賃料不払いによる債務不履行はないとしました。 しかし、賃借人が主観的に相当と認める額であっても、従前の賃料より低額である場合や、適正賃料に比べて著しく低額である場合には、相当額の供託とはいえず、債務の本旨に従った履行と評価することはできないと判断しました。 さらに、適正賃料より著しく低い金額の供託を長期間継続したことなどは、賃貸借関係において求められる信頼関係を破壊するものにあたるとして、賃貸人による賃貸借契約の解除を認めました。 |
このように、適正賃料と比べて著しく低い賃料が供託された場合は、賃借人が主観的に相当と認める額であっても、正当な履行と評価されないこともあり得ます。また、そのような供託が長期間続くことで信頼関係を破壊するものとして、契約解除が認められる可能性もあります。
もっとも、建物賃貸借契約は賃料不払いや無断転貸などの契約違反があっても、直ちに解除できるわけではありません。契約解除が認められるのは、賃貸人との信頼関係が破壊されたと評価できる場合に限られます。
信頼関係が破壊されたかどうかは、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。
- 契約違反や債務不履行の内容・程度
- 賃貸人が受ける不利益の有無・程度
- 契約解除によって賃借人が受ける不利益の程度
- 違反行為についての当事者の対応や是正の有無
- 契約解除に至った経緯
- 契約解除に関する契約上の定めの有無・内容
- その他の事情
供託金を受け取るべきか否か
供託が行われた場合、賃貸人は供託金を受け取るかどうかを慎重に判断する必要があります。
受け取り方によっては、その後の賃料増額請求や賃貸借契約への影響が異なります。
賃料増額請求を継続する場合は「一部留保」で受け取る
賃借人は、供託した賃料を取り戻すことができます。そのため、賃料増額請求を継続する場合は、賃貸人としても供託金の払渡請求を行うことが望ましいでしょう。
しかし、賃貸人がそのまま受領すると、特段の事情がない限り、賃借人の賃料全額の支払債務が免責されたと評価されるおそれがあります。そのため、賃料増額請求により債権額に争いがある場合には、供託金払渡請求書に「供託受諾。ただし、家賃一部弁済受領の留保をする。」などと記載し、一部留保のうえで払渡請求を行う必要があります。
あわせて、賃借人に対しても、供託金を賃料の一部として受領する旨を配達証明付き内容証明郵便で通知しておくことが重要です。
家賃滞納を理由に契約解除を予定している場合は慎重に判断する
一方、家賃滞納を理由として賃貸借契約の解除を予定している場合は、供託金を受け取ることによって解除の主張に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、このような場合は、供託金を受け取る前に、契約解除への影響を踏まえて慎重に判断する必要があります。
供託された場合の賃貸人のアクションプラン
賃料を供託された場合、賃貸人は供託通知書を直ちに確認し、供託金を受け取るかを判断したうえで、必要に応じて調停・訴訟を進めます。
また、増額部分と供託金の消滅時効にも注意しなければなりません。
① 供託通知書を確認する
賃料が供託されると、通常、賃貸人に供託通知書が届きます。
通知書には、供託された金額や供託の理由などが記載されているため、どのような内容の供託が行われたのかを確認します。
賃借人は、賃貸人が供託を受諾する前、または供託を有効と宣告した判決が確定する前であれば、供託金を取り戻せる場合があります。取戻しが行われると供託金を受け取れなくなるため、通知書が届いたら速やかに内容を確認することが重要です。
② 供託金を受け取るか検討する
次に、供託金を受け取るかどうかを検討します。
賃料増額請求中に受け取る場合は、増額後の賃料の一部として受領する旨を留保する必要があります。一方、家賃滞納を理由として契約解除を求めている場合などは、受領しないほうがよいケースもあります。
③ 弁護士への相談と法的手続を検討する
賃借人との協議がまとまらない場合や、増額分の支払いに応じない場合は、弁護士に相談し、法的手続きを検討します。
具体的には、賃料増減額確認や増額分賃料請求の調停・訴訟などを進めることになります。
④ 増額部分と供託金の事項に注意する
賃料増額をめぐって供託が行われた場合は、増額部分の賃料債権の消滅時効に注意が必要です。
2020年4月1日に施行された改正民法第166条により、原則として賃料債権は以下のいずれか早い時点で時効により消滅します。
- ・権利行使できることを知ったときから5年
- ・権利行使できるときから10年
賃料債権は契約によって支払時期が定められており、賃貸人がそれを知らないことは通常考えにくいため、基本的には支払期限から5年で時効にかかります。
また、供託された従前の賃料についても消滅時効があります。2020年4月1日以降に行われた供託については、原則として以下の期間で時効にかかります。
- ・払渡請求ができることを知ったときから5年
- ・払渡請求ができるときから10年
なお、2020年3月31日以前に行われた供託については、10年の時効期間が適用されます。
東京都千代田区の不動産に強い弁護士なら直法律事務所
賃料増額請求に対して従前の賃料等が供託された場合の対応として、供託金を受け取る際に賃料の一部として受領する旨の留保を付けることが大切です。このように供託された賃料については受け取りながら、賃料増額が認められるよう、資料収集をしたり、法的手続に進んでいくことになります。
しかし、必要な資料の収集や資料に基づき相当な賃料を算定する作業、また、賃借人との交渉や段階的に法的手続を踏んでいくなどの戦略には専門知識が必要となります。
そのため、賃料増額請求や供託対応について不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談するなどして慎重な対応をすることをおすすめします。
直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。
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