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弁護士コラム

賃料を上げたい大家必見!家賃値上げの正当理由と交渉術

賃貸借トラブル
投稿日:2025年05月30日 | 
最終更新日:2026年06月29日

Q
私は会社員時代から不動産投資を始め、退職後の現在は専業大家として暮らしています。

所有するアパートとマンションの家賃は10年間据え置いてきましたが、正直赤字になりそうで値上げを検討中です。ただ、値上げをしたら入居者とトラブルにならないか心配で、なかなか踏み切れずにいます。

家賃を値上げする法的根拠や交渉のコツ、具体的な手続きについて教えてください。トラブルを避けるための対応策も教えていただけると助かります。
Answer
家賃の引き上げ・引き下げについて、賃貸借の当事者間で話し合い、合意することができれば家賃の増減が可能です。しかし、相互の利害が対立するため、話し合いの解決が難しい場合も多々あります。

そこで、借地借家法は賃料増減額請求権を当事者に認めています。

賃料増減額請求は、原則として「税金が上がった」「周辺賃料からあまりにかけ離れている」などの客観的な経済的事情の変動があるときに限って行使できます。ただ、実際の裁判例では、「賃貸借契約を締結した当初は親がオーナーだったのに、後でオーナーチェンジが起きた」など、賃貸借契約を締結した当初とは事情が変わったなどの当事者間の事情の変更により家賃が引き上げられる事例もあります。

賃料増減額請求をした場合、意思表示が相手方に到達することにより効力が発生します。しかし、相手方が請求されたとおりに賃料を払うことに納得しないことも多々あります。このような場合、話し合いで解決しなければ、調停・裁判で、賃料増減額請求で求めた賃料が適正な賃料であったかを確認しなくてはいけません。


この記事では、調停・裁判において家賃の引き上げ、引き下げが認められた事例や、事前準備のポイントについて解説します。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

総務省によれば、2025年1月分の消費者物価指数は111.22(2020年の消費者物価指数を100とした場合)にも達するなど、物価の上昇が続いています。

このような背景があるため、家賃の値上げに動く不動産オーナーが増えているのも実情です。しかし、家賃の値上げは入居者の利益を害する可能性があるためむやみに行うことはできません。

そこで本記事では、家賃値上げ交渉をどのように行うべきか、法的根拠や過去の事例に触れつつ解説します。

賃料増額の法的根拠と判断基準

不動産の賃貸借契約は、長期間の契約関係が継続することも多く、当事者間で当初の契約で定めた賃料額がその後の経済的事情や社会情勢の変動により高すぎたり安すぎる状態になり、その賃料のまま賃貸借を継続しなければいけない状態となると当事者間に不公平になったり、当事者の意思に沿わない事態になりかねません。

そこで、借地借家法32条1項は、契約締結時に前提とした事情が大きく変化して、契約の拘束力を及ぼすことが当事者の公平に反する結果となるような場合に、建物の賃貸借契約の一方の当事者から相手当事者に対し、一方的な意思表示をすることで賃料を増減できる権利を認めました。

この章では、根拠となる条文である借地借家法第32条を中心に、どのような場合に賃料の引き上げ交渉ができるのか、具体的な増減額の計算方法や裁判例にも触れながら解説します。

「不相当となったとき」の判断要素

家賃値上げの法的根拠となる条文として、借地借家法第32条が挙げられます。

第三十二条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

つまり、以下に例示するような「客観的かつ経済的な変動」が原因で従来の賃料の維持が難しくなった場合は、家賃を引き上げる交渉ができるという意味です。

  • ・固定資産税など税金が上がった
  • ・土地や建物自体の価値が上がった
  • ・近隣にある同程度の建物(例:同スペックのマンション)の賃料が上がった

ただし、判例ではこれら例示のような「客観的かつ経済的な変動」だけでなく、それ以外の要因を含めて賃料交渉ができるという判断が下されました。

最高裁平成15年10月21日民集57巻9号1213頁
賃料減額請求の当否の判断に当たっては、借地借家法第32条1項所定の諸事情に加え、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他の事情を総合的に考慮すべきである。

例えば「事業が軌道に乗るまでは相場より賃料を安くする」という条件を借主と結び、不動産を貸した場合を考えてみましょう。この場合、事業が軌道に乗り、周辺の相場と同じ位の家賃を払えるようになったら、貸主は賃料の引き上げを交渉する余地が出てくるということです。

賃料増減額の算定方法

賃料増減額請求をする場合、相当賃料(妥当と思われる賃料)を請求する必要があるため、これを計算しなくてはいけません。

裁判所や実務で用いられる主要な4つの計算方法について、特徴や適用場面について解説します。

差額配分法

「差額配分法」とは、対象不動産の経済価値に即応した適正な賃料と実際の賃料との差額を算出し、その差額について、契約内容や契約締結の経緯等を総合的に勘案し、賃貸人に帰属すべきと判断される額を従前の賃料に加算する方法です。

この手法では、適正な賃料を算出するために別の方法を用いる必要があるため、補助的な計算方法といえます。

また、賃貸人等に帰属すべき部分の判定基準が明確ではなく、判定根拠がブラックボックス化しやすいという問題があります。

利回り法

「利回り法」とは、実際の賃料を不動産価格の変動にあわせて変動させるという考え方にもとづく算定方法です。

具体的には、基礎価格(対象不動産の有する経済価値を示す価格)に継続賃料利回り(不動産の純収益が不動産価格に占める割合)を乗じて得た額に必要諸経費等を加算して算出する手法です。

過去に決めた賃料を利回り換算する簡単な式であり、各種利回り水準と比較しやすい点がメリットです。一方で、継続賃料利回りの査定は不動産鑑定士の裁量による部分が大きく、判断に差が生じやすいほか、不動産価格が急に変動した場合には、賃料が大幅に跳ね上がる可能性があるというデメリットがあります。

スライド法

「スライド法」とは、直近合意時点現在の純賃料(賃料から必要経費を差し引いた残りの金額)に変動率(消費者物価指数や国民総生産などを使う)を乗じ、必要諸経費を加算して適正賃料を算出する方法です。

経済事情が変化により現行賃料の維持が難しい場合に、その変動分を反映させるという考え方に基づいています。

「現行の賃料×変動率」もしくは「(現行賃料-現行賃料設定時点の必要諸経費)×変動率+改正時点の必要諸経費」により適正賃料を計算することができます。経済事情の変動を反映する点で、借地借家法の趣旨に沿った方法といえます。

ただし、現在の賃料が周辺相場より低いなどの場合には、個別事情を反映させにくいという側面もあります。また、変動率として何を用いるかによって、得られる結果が異なるというデメリットもあります。

賃貸事例比較法

「賃貸事例比較法」とは、近隣にある条件が類似する賃貸物件を参考に、現時点での適正賃料を算定する方法です。

複雑な計算を必要としない反面、比較対象となる類似の賃貸物件が周囲になければ用いることができません。

どの算定方法を用いるべきか

賃貸事例比較法やスライド法は、客観的・経済的要素を重視する試算方法です。

一方、差額配分法は、客観的・経済的要素に加え、契約内容や契約締結時の経緯等も含めて総合的に考慮して相当賃料を求める手法です。

そのため、個別的事情を考慮すべき事案では、差額配分法を用いることが考えられます。

裁判例に見る賃料増減額の判断基準

裁判では賃料増減額の扱いについてどのような判断がなされているのか、過去の裁判例から確認してみましょう。

大阪高判平成20年4月30日判タ1287号234頁
・建物賃借人(借手)が他のビルから転居してきた際に「事業が軌道に乗るまでは低額な賃料で」という契約で入居した
・その後、事業は軌道に乗ったため賃貸人(貸手)は賃料の引き上げ請求をした
・継続賃料の評価にあたり賃貸事例比較法を重視するのでは相当でないという判断がなされた
・差額配分法、スライド法、利回り法をほぼ均等に考慮するとともに、契約当時の賃料を定めた経緯も相当賃料額を求める際に考慮すべきという判断を示した

東京地判平成29年4月26日(個別的事情が強い事案での差額配分法重視の判断)
・法人がその代表者が有する土地建物を借りていた
・しかし代表者が浪費をしたので処分として賃料を減額した
・賃料が決まった経緯について個別的事情が強かったため、差額配分法による試算を重視し相当賃料を算定した

東京地判令和2年11月5日(再開発完了による周辺環境好転を理由とした増額認容例))
・賃料を決めた当時は再開発事業が進行中で周辺環境も劣悪だった
・そのため、再開発事業が完了し周辺環境が改善されたら再度賃料を見直すという契約が締結された
・その後再開発事業は無事完了し周辺環境も改善されたので、従前の賃料の維持が難しくなった

契約当事者間の関係性と賃料増額

親が所有者である不動産を子が相場より低い賃料で借りるように、契約当事者が親子などの特殊な関係にある場合には、一般的な相場より低い賃料が設定されることは珍しくありません。しかし、その後に何らかの理由で親が不動産を誰かに売却することも考えられます。

この章では、契約当事者間の関係性の変化が家賃の値上げに及ぼす影響について解説します。

個人的関係に基づく家賃設定と関係変化

前述したように、借地借家法第32条では「客観的かつ経済的な変動」が家賃額変更の交渉の前提とされています。

もっとも、実際には「客観的かつ経済的な変動」だけでなく、さまざまな事情を総合的に考慮して家賃の増減額が判断されています。

その考え方を示したのが、最判平成5年11月26日裁集民170号679頁の事例を紹介します。

最判平成5年11月26日裁集民170号679頁
・代表者を共通にする会社における土地の賃貸借について、賃借人から賃貸人への経済的援助という意味で相場より高めに賃料が定められていた
・その後、代表者の交代を経て、賃貸人と賃借人が緊密な関係ではなくなったため、従来の賃料が不合理ということで裁判に至った
・「当初の賃料が当事者間の関係性を鑑みて決められたものであれば、事情に変更があった場合でも考慮するのが妥当」という旨の判決が示されている

また、最判平成15年10月21日でも同様の考え方が示されています。

最判平成15年10月21日
賃料減額請求の当否は、借地借家法第32条1項所定の諸事情だけでなく、賃貸借契約の当事者が賃料額を決めるにあたって考慮した事情や諸般の事情を総合的に考慮すべき

このように、賃貸借契約締結時と比べて契約当事者間の関係性などが変化した場合には、その事情も賃料増減額請求における考慮要素となります。

親族間または実質的同一人間での賃貸借からの当事者変更に伴う賃料増額請求

親族間で特殊な賃料設定がされていた物件の所有権が第三者に移転した場合、賃料増額が認められるのかが問題となります。

例えば、「親がオーナー(賃貸人)であるビルを子(賃借人)が相場より大幅に低い賃料で借りていたところ、オーナーチェンジにより親とは無関係の第三者から賃料増額を求められた」というケースです。

この点については、東京高判平成18年11月30日判タ1257号314頁が参考になります。

東京高判平成18年11月30日判タ1257号314頁
・従前の賃料は適正な賃料額の半額以下であり、親族間取引を前提にした賃料水準であるため維持が難しい
・しかし、従前の経緯を考えるとただちに一般的水準まで増額させるのは相当でないため、その中庸値とするのが妥当

つまり、従前の賃料を維持することは難しいものの、一般的な相場まで一気に増額するのではなく、その中間程度の水準とするという結論が示されました。新しい賃貸人にとっては、賃借人が前所有者の子である事情は何ら関係ありませんが、賃借人にとって急激な賃料増額は酷であることから、このような結論になったと考えられます。

一方で、賃貸人と賃借人が実質的に同一であったものの、その者の死亡によって両者が他人同士となった事案では、他人間の賃貸借契約と同水準まで賃料を増額すべきとした裁判例があります。

その判断を示したのが、東京高判平成12年7月18日金商1097号3頁です。

東京高判平成12年7月18日金商1097号3頁
・法人の代表者が個人として所有する建物を法人に貸していた
・しかし、その後法人の代表者は亡くなり、建物と法人は別々の人が相続した
・このような場合、他人間の賃貸借契約と同水準に至るまで賃料を調整しなくてはならない

この裁判例は、生前は「事実上同一人物による賃貸借」であったものが、死亡によって通常の賃貸借関係へ変化した以上、事情変更があったと評価する考え方に基づいています。

このように、賃料増減額請求によって不利益を受ける当事者をどこまで保護すべきかは、個々の事案における価値判断の問題であり、一概にはいえません。

賃料増額が認められた事例

家賃の値上げを求めても、すべての事例で認められるわけでは限りません。

この章では、過去の裁判例をもとに、家賃の値上げが認められた事例と、その共通する要素を紹介します。

経済事情の変動による賃料増額

借地借家法32条では、経済事情の変化を理由とする建物賃料の増減額を認めています。

条文上、以下の2つの条件を満たす場合に請求が認められます。

  • ① 経済事情の変化により、現在の賃料が適正額と比べて不相当となっていること
  • ② 一定期間、賃料を増額しない旨の特約がないこと

特に重要なのは、契約締結時から経済事情が大きく変化していることです。また、賃料を増額しない旨の特約があっても、例外的に賃料増額が認められるケースもあります。

従来どおりの契約内容を維持すると当事者間の公平を害するほど事情が大きく変化している場合には、前回の合意からそれほど時間が経過していなくても、賃料増額が認められる可能性があります。

事情変更の有無については、別記事「賃料増額請求における事情変更の法的根拠と実務ポイント
にて詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。

建物改装による価値向上と賃料増額

賃貸人による建物改装と価値向上を理由に賃料増額請求が認められた事例として、東京地判平成4年3月16日判タ811号223頁があります。

東京地判平成4年3月16日判タ811号223頁
・賃貸借開始後に賃貸人が建物を改装したことにより従前の賃料が不相当とし、額の引き上げを求めていた
・建物は改装により価値が引き上げられるためその費用を賃料に転嫁する余地はあることから、本件の特殊事情として賃貸人が建物改装工事に要した費用も原則として考慮すべきという判断が示された
・結果として、賃貸人による建物改装と価値向上を理由に賃料増額請求が認められた

契約当事者間の関係性変化による賃料増額

契約当事者間の特殊な関係性の変化を理由に賃料増額請求が認められた事例として、東京地判平成29年3月27日があります。

東京地判平成29年3月27日
・賃貸人Aは賃借人Bの父親であり、AはBに将来自身の会社を継がせる予定でいたため、自身の物件も相場より低廉な賃料で貸していた
・しかし、度重なるBの非行により、AとBの関係は悪化し、後継社長としての信頼も失われていった
・AはBに対し賃料の引き上げを求め、訴えを起こした結果「当初は親子関係が良好だったため低廉な賃料が適用されていたが、その後事情が大きく変化している」として、一定の賃料増額も認められた

賃料減額が認められなかった事例

一方、賃料減額を求めて裁判を起こしたものの、その請求が認められない事例もあります。

この章では、裁判例を紹介するとともに、賃料減額が認められなかった事例に共通する要素を解説します。

賃借人の費用負担による改装を理由とする賃料減額の否認

賃借人が改修・改装費用を負担したことを理由とする賃料減額は認められなかった事例として、大阪地判平成元年12月25日判タ748号167頁および東京地判平成15年8月25日があります。

大阪地判平成元年12月25日判タ748号167頁
・賃貸人が怠っていた修繕について、賃借人が改修費用を負担した
・裁判所は、その事情は賃料減額請求における考慮要素とはならないと判断した
・修繕(改修)費用は本来賃貸人が負担すべき必要費であり、賃借人が負担した場合には返還の対象となるものの、それ自体は賃料減額請求を認める事情とはならないとされた

東京地判平成15年8月25日
・賃借人は自らの費用でクラブ営業用に建物を改装した
・その後、賃借人は賃料減額請求を行った
・裁判所は、賃借人による改装費用の負担は、賃料増額請求において考慮されるべき事情ではないと判断した

賃借人の特性を考慮した賃料減額の否認

賃借人の特殊な事情や契約の背景を考慮して賃料減額請求が否認された事例として、東京地判平成17年4月26日があります。

東京地判平成17年4月26日
・賃貸人は借金を返済すべく、自分の所有地にビルを建て一棟貸しすることを計画していた
・十分な返済をするためには地上7階・地下1階建てのビルを建てる必要があったが、事情を知った賃借人が「賃料は元の計画通りに払うから、自分の希望に合わせた建物を作ってほしい」旨申し出た
・結果としてビルは地上3階・地下1階建てになったが、地上7階・地下1階分の賃料を賃借人が払うことになった
・その後、賃借人は賃料減額請求を求めたが、当初の合意賃料額等の条件は近隣の建物の賃料相場に基づいた賃料とは何ら関係ないという理由で認められなかった

共同事業的性質を持つ賃貸借契約

ホテルや商業施設などの共同事業的性質を持つ賃貸借契約において、賃料減額請求が認められなかった事例として、東京地判平成27年1月26日判時2256号があります。

東京地判平成27年1月26日判時2256号
・賃借人は建物を借りてホテルを営んでいたが売上が減少したため、賃貸人に対して賃料減額請求を行った
・判決では、賃貸借契約が共同事業的な側面を有しており、賃料額については当事者それぞれが事業の性質や内容、リスク等を踏まえて合意に至ったものであると指摘
・ホテルの売上が減り、賃料が過大になったとしても、このリスクを直ちに他方の当事者に転嫁させないのが当事者の基本的な意思に合致し、当事者間の衡平に繋がるとし、賃料減額請求を認めなかった

賃料増額交渉の実務的アプローチ

実務上、賃料増額交渉は以下の3つのステップで進めていきます。

  1. 1賃料増額請求の根拠となる資料の準備
  2. 2段階的な増額アプローチの検討
  3. 3交渉難航時の法的対応の準備

賃料増額請求では、賃借人から同意を得られないケースや希望通りの増額に至らないケースも少なくありません。専門家のアドバイスも受けながら、客観的な根拠に基づいて冷静に交渉を進めることが大切です。

賃料増額請求の根拠となる資料の準備

賃料増額請求では、客観的な資料を準備することが重要です。公的機関・不動産業者・不動産鑑定士などが作成した資料を示すことで、賃貸人の一方的な判断ではなく、客観的な証拠に基づく請求であることを伝えられます。

借地借家法32条では、賃料増額請求の理由として、以下の3点が例示されています。

  • ・租税等の負担の増減
  • ・土地建物の価格の上昇その他経済事情の変動
  • ・近傍同種の賃料相場との比較

そのため、以下のような資料を準備するといいでしょう。

  • ・路線価図
  • ・固定資産税評価証明
  • ・類似物件の募集資料や賃料相場データ
  • ・消費者物価指数(CPI)
  • ・地価公示データ
  • ・不動産鑑定評価書

これらの資料は、前回賃料を合意した時点から事情が変化したことや、現在の賃料が相場と比べて不相当であることを裏付ける資料となります。また、修繕・改装工事や設備投資によって物件の価値や利便性が向上した場合には、それらを示す資料も有効です。

実務では、不動産鑑定士による鑑定評価書が重視されます。鑑定評価書は、複数の算定方法を踏まえて作成されるため、交渉だけでなく調停や訴訟でも重要な証拠となります。

もっとも、資料によっては収集に時間を要するものや有効期限があるものもあります。交渉や法的手続のタイミングを逃さないよう、早めに準備を進めることが重要です。

段階的な増額アプローチの検討

客観的な資料を示しても、賃借人の支払い能力や心理的な抵抗から一度に希望額まで増額することが難しい場合があります。

そのような場合には、数年かけて段階的に賃料を引き上げる「激変緩和措置」を検討することも有効です。例えば、最終的に月額15,000円の増額を目指す場合でも、初年度は3,000円の増額とし、その後数年かけて段階的に引き上げることで、賃借人の理解を得やすくなります。

また、増額の通知は3~6ヶ月前に行い、「○年かけて○円まで増額します」とあらかじめ説明しておくことで、賃借人も将来の負担を見通しやすくなります。

特に、親族間などの特殊な関係を前提として低い賃料が設定されていた場合には、いきなり近隣相場まで引き上げると信関係が損なわれるおそれがあります。そのため、段階駅な増額は有効な方法といえます。

一度に大幅な増額を行うと、強い反発や退去につながる可能性もあります。不動産賃貸借契約の目的は、長期的に安定した収入を得ることです。賃借人との信頼関係を維持しながら、双方が納得できる増額方法を検討することが重要です。

交渉難航時の法的対応の検討

交渉で合意に至らない場合には、裁判所へ調停を申し立てます。原則として、いきなり訴訟を起こすことはできません。

調停では、当事者双方が主張や資料を提出し、調停委員会を通じて話し合いを行います。また、必要に応じて不動産鑑定士による鑑定が行われ、その結果をもとに解決を図ることもあります。

調停で合意できない場合や調停に代わる決定に異議があった場合には、訴訟を提起することになります。

調停や訴訟では、借地借家法11条及び32条の諸事情だけでなく、その他の事情も含めて総合的に判断されます。そのため、固定資産税額及び都市計画税を示す納税通知書・路線価図・近隣の賃料相場資料・不動産鑑定評価書など、事情変更を裏付ける証拠を十分に準備しておくことが重要です。

法的手続では、裁判所へ納める手数料のほか、弁護士費用や、必要に応じて不動産鑑定士への鑑定費用が発生します。不動産鑑定評価書の作成費用は、一般的に20~50万円程度ですが、物件の種類によってはさらに高額になる場合もあります。

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賃料を上げたいと思っても、必ずしも希望が通るとは限りません。借地借家法第32条において、客観的かつ経済的な変動が原因で従来の賃料の維持が難しくなった場合は家賃の引き上げもしくは引き下げ交渉ができるとされています。

しかし、実際は客観的かつ経済的な変動以外の事情であっても引き上げ・引き下げ交渉が認められるケースもあるのが実情です。

賃料を上げたいが当事者間で話がまとまりそうにない場合は、調停・裁判も見据えてその後の対応を検討しましょう。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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