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弁護士コラム

賃料増額請求の必要書類は?根拠資料の種類や選び方・交渉戦略を解説

賃貸借トラブル
投稿日:2025年07月17日 | 
最終更新日:2026年08月13日

Q
数年前に購入した賃貸マンションを貸していますが、周辺の同じような物件より家賃を安く設定していたため、値上げを検討しています。

先日、入居者に増額を申し出たところ「増額の根拠を示してくれないなら応じない」と突っぱねられました。増額交渉を続けるために根拠となる書類の準備方法や必要な手続きを教えてください。
Answer
賃料は当事者間の合意で増減できますが、合意できない場合でも、経済事情の変動などにより賃料が不相当となったときは、借地借家法に基づく賃料増額請求が可能です。請求の効力は、意思表示が相手方に到達した時点で生じます。

賃借人が増額に応じず、話し合いで解決できない場合は、調停・裁判で改定賃料の適正性を確認します。そのため、近隣相場の調査資料・路線価図・固定資産税評価証明書・消費者物価指数(CPI)・地価公示データ・不動産鑑定士の鑑定書や調査報告書など、増額の理由を裏付ける資料の準備が重要です。

必要な資料は増額理由によって異なり、交渉・調停と裁判でも求められる資料の精度が異なります。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
 
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
 
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。

賃料増額請求に必要な根拠資料の種類

賃料増額請求では、固定資産税などの負担増加、土地・建物の価格上昇、近隣の賃料相場など、増額の根拠となる客観的な資料を準備することが重要です。

借地借家法第32条では、賃料の増減について以下のように定めています。

第三十二条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

法文上、賃料が相当か不相当かの判断基準が明確に示されているわけではありませんが、以下のような「客観的かつ経済的な変動」により従来の賃料の維持が難しくなった場合、賃料増額請求が可能とされています。

  • 固定資産税など税金等の負担の上昇
  • 土地や建物自体の価値の上昇、その他の経済事情の変動
  • 近隣にある同程度の建物(例:同スペックのマンション)の賃料が上昇

賃料増額請求について賃借人が納得すれば、増額された賃料額が改定賃料となります。一方、「増額の根拠が示されなければ交渉に応じない」と賃借人が返答してきた場合は、最終的には調停や訴訟を経て決着せざるを得ません。

そのため、賃料増額の理由となる「客観的かつ経済的な変動」を示す根拠資料を準備しておくことが重要です。

客観的かつ経済的な変動を示す事由根拠資料の種類概要
・固定資産税など税金等の負担の上昇
・土地や建物自体の価値の上昇その他の経済事情の変動
・租税公課の変動を示す路線価図
・固定資産税評価証明書
前回賃料について合意した時点から公租公課や土地の価格など経済的な事情が変動したことを示す資料となる。
修繕・改装工事等の設備投資をした資料物件の利便性や価値が向上したことを示すことができる。
土地や建物自体の価値の上昇その他の経済事情の変動総務省統計局の消費者物価指数(CPI)物価の変動を示す指標。従来の賃料が、物価上昇や物件の維持費にかかる費用に対して割安であることを証明するために用いる。
国土交通省が発表している地価公示データ地域ごとの土地の価格の変動が把握できる。
近隣にある同程度の建物の賃料が上昇不動産業者からのヒアリング、募集広告、チラシ、ネット情報などから収集した新規賃料の情報近隣の賃料を把握できる。
各種事由を総合的に判断不動産鑑定士の鑑定評価書国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に則って不動産鑑定士により客観的に妥当な相当額の賃料(=継続賃料)を算出するもので信頼性が高い。
不動産鑑定士の調査報告書不動産鑑定評価基準に則らない形で不動産鑑定士により客観的に妥当な相当額の賃料を算出したもので、鑑定評価書と比べ短期間かつ割安な料金で作成されることが多いが、信頼性では劣る。

近隣相場の調査資料

賃料増額請求では、近隣の類似物件の賃料相場を示す資料も準備する必要があります。対象物件とできる限り条件やスペックが近い物件を調査することが重要です。

まず、物件周辺の不動産業者にヒアリングを行い、以下のような項目を確認しましょう。

  • エリアの指定(〇〇町周辺など具体的に)
  • 物件の種類・間取りや広さ
  • 築年数
  • 過去の成約事例(実際の成約家賃含む)

インターネットでも近隣物件の賃料を調査することができます。ただし、募集終了後は検索できなくなることもあるため、逐次チェックして保存しておくとよいでしょう。

店舗の募集広告・新聞の折り込みチラシ・インターネットの住宅サイト等の募集広告も重要な証拠になります。近隣の不動産会社からポスティングされた広告なども保存しておくとよいでしょう。

さらに、地元密着型の不動産会社や不動産コンサルティング会社に事情を話し、相談してみるのも効果的です。

宅建業者の査定書

宅建業者(不動産会社)が作成する賃料査定書も、賃料増額の証拠として用いられることがあります。ただし、不動産鑑定士による正式な鑑定評価とは異なるため、一般論や参考意見として利用するのがよいでしょう。

宅建業者は日常的に多数の不動産取引に関わっており、多数の取引事例を把握するとともに、価格の査定方法についても一定の知見を有しています。そのため、不動産を賃貸に出す際などに依頼すれば、当該物件の賃料査定書を作成してもらえます。

一方、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務とされています(不動産鑑定評価法第36条第1項)。宅建業者の査定は、あくまでも依頼者への情報提供・説明の一環として行う評価であり、不動産鑑定評価法に基づく正式な鑑定結果ではありません。

そのため、国土交通省作成の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、宅建業者が物件の売買・交換の媒介を行うにあたって示した評価額について、以下の注意喚起がなされています。

  • 書面を用いる際は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定書でないことを明記する
  • みだりに他の目的に利用することがないよう、依頼者に要請する

このような要請は、賃料額の査定をする際にも同様であると考えられます。

また、不動産鑑定士による不動産鑑定評価では、不動産鑑定士が評価内容に責任を負い、業務として鑑定費用を請求できます。

一方、宅建業者による査定は仲介(媒介や代理)業務の一環であるため、仲介手数料とは別に調査費用を請求することはできず、査定額についての責任も負いません。ただし、場合によっては監督処分等の対象となったり、不法行為として損害賠償責任を負うことはあります。

このような違いがあるため、宅建業者の査定書を賃料増額の証拠として用いる場合には、状況に応じて慎重に判断し、一般論や参考意見として入手するのがよいでしょう。

不動産鑑定士の鑑定書

より高い証拠能力を有する資料を準備する場合は、不動産鑑定士の鑑定書を入手することが効果的です。ただし、鑑定料が高額になることや、調停・訴訟では第三者である鑑定人による鑑定が重視される可能性がある点に注意が必要です。

不動産の鑑定評価は不動産鑑定士にしか行うことができません。不動産鑑定士は高度な知識・経験を有する専門家であるため、鑑定書にも相応の説得力があります。特に、相手方が鑑定書を提出してきた場合は、その合理性を問うためにも不動産鑑定士の力を借りる必要があります。

ただし、私的な鑑定を依頼しても、調停や訴訟では第三者である調停委員や裁判所が選任した鑑定人による鑑定が重視される可能性があります。また、物件の大きさや依頼先によっても異なりますが、一般的に数十万円~数百万円の鑑定料がかかります。

状況によっては、不動産鑑定士に不動産鑑定評価基準に基づかない簡易な「不動産調査報告」を作成してもらうことも考えられます(簡易鑑定あるいは簡易評価ともいいます)。不動産調査報告は、不動産鑑定評価と比べて費用が安く、所要日数も短いなどのメリットがあります。

ただし、不動産調査報告は、原則として依頼者のみが利用することを前提としています。また、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価と結果が異なる可能性があるため、後に、正式な不動産鑑定評価が必要となる場合は、大きな齟齬が生じないよう注意が必要です。

不動産鑑定士への依頼は、相手方との交渉状況・当該物件の賃料・増額したい金額など、個々の事情を鑑みて依頼の可否や時期を検討しましょう。

賃料増額請求における根拠資料の選択と活用方法

賃料増額請求では、賃料の額・増額幅・物件の状況などに応じて、適切な根拠資料を選ぶことが重要です。

前述したように、賃料増額請求では様々な資料を根拠として提出できる可能性があります。ただし、個々の状況に合った資料を選ばなければ、交渉を有利に進めることはできません。

この章では、賃料増額請求における根拠資料の選び方と提示する際のポイントについて解説します。

状況に応じた根拠資料の選び方

根拠資料は、賃料の額や増額幅などに応じて選ぶことが重要です。増額幅が比較的小さければ費用や労力を抑えて収集できる資料を活用し、大きければ不動産鑑定士への依頼も検討します。

賃料増額請求では、客観的に妥当な相当額の賃料を資料などに基づいて算定する必要があります。不動産鑑定評価において、この相当額の賃料を「継続賃料」と言います。継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料のことで、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準にもとづいて算定します。
(参考:「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成 26 年不動産鑑定評価基準改正部分について-」224頁

例えば、増額の基準を求める際に用いられる鑑定手法の一種である差額配分法では、現在の賃料と新規賃料の差額の50%が一般的な増減額の基準とされます。当初の約定賃料が月額50万円、近隣の新規賃料の相場が月額100万円であれば、継続賃料は75万円になるということです。

つまり、新規賃料がわかれば、増額すべき金額を推測できます。そのため、新規賃料を算出するための資料をそろえることが考えられます。ただし、継続賃料は、物件の状況や賃貸人と賃借人の関係など、様々な要素によって決まります。特殊な物件や状況では算定が難しく、差額配分法による算定結果と相容れないこともあるため注意が必要です。

賃料の額や増額幅が比較的小さい場合は、地域の不動産業者へのヒアリング・インターネットの募集広告・折り込みチラシなどを活用し、比較的費用や労力をかけずに自身で証拠資料を揃えることも考えられます。

一方、賃料の額や増額幅が比較的大きい場合には、費用がかかっても証明力の強い資料を入手したいところです。不動産鑑定士に相談し、不動産鑑定書の作成、または状況によっては不動産調査報告書の作成を依頼するのも選択肢の一つです。

根拠資料提示の実務的ポイント

根拠資料を提示する際は、それぞれの資料の証明力や性質を踏まえて活用することが重要です。特に、宅建業者の査定書だけに頼らず、状況に応じて不動産鑑定士などの専門家を活用しましょう。

賃料増額の根拠として、不動産業者(宅建業者)の査定書を利用して交渉することが考えられます。しかし、宅建業者の査定書は依頼者の意向を汲んだ形で作成されることも多く、裁判では相手方の反撃の対象となりやすいものです。

交渉段階でも、相手方が不動産や事情に詳しい場合や専門家に相談している場合には、反撃の対象となる可能性があります。そのため、多くの資料のうちの一つとして用いる程度にしておいたほうがよい場合もあります。

また、相手方(賃借人)が不動産鑑定士による鑑定書を提出してきた場合は、その評価書に合理性があるかを検証するため、別の不動産鑑定士の協力を仰ぐことが不可欠です。

根拠資料の選択や提示方法については、一人で悩まず、弁護士や不動産鑑定士、宅建業者の担当者にも相談しながら対策を練りましょう。

特殊なケースへの対応戦略|継続賃料の算定

元々の賃料が当事者の個人的関係など特殊な事情に基づいて設定されている場合、通常の近隣相場や物件価値だけでなく、賃料が決められた経緯を示す資料も重要になります。

通常、賃料は近隣相場や物件の価値などで決まりますが、元々の賃料が個人的関係に基づいて設定された場合、賃料増減額請求においても特殊な検討が必要です。

特殊な事情がある場合の継続賃料の考え方について、具体的な判例をもとに解説します。

最判平成5年11月26日裁集民170号679頁

この判例は、代表者を共通にする会社間の土地賃貸借について、賃借人から賃貸人への経済的援助という意味で相場より高めに賃料が定められていましたが、代表者の交代により両社の緊密な関係がなくなったことで、従来の賃料が不合理であるとして裁判に至った事案です。

この事案では、「当初の賃料が当事者間の関係性を鑑みて決められたものであれば、事情に変更があった場合でも考慮するのが妥当」という旨の判決が示されました。

このような場合、元々の賃料が賃借人と賃貸人の特殊な人的関係に基づいて設定されたことを示す根拠資料が不可欠です。当初の賃貸借契約書のほか、賃借人・賃貸人となっている会社の当時の代表者がわかる商業登記簿謄本や、賃料を決める背景となった事情に関する資料などを収集する必要があります。

また、前賃貸人と賃借人の間に金銭的やり取りがあり、それを踏まえて賃料が決められた場合は、前賃貸人から物件を取得する際に詳細を確認し、陳述書などを取得しておくことも検討しましょう。

東京地判平成4年3月16日

この判例は、賃貸人による建物改装と価値向上を理由に、賃料増額請求が認められた事案です。

このような場合、改装費用に関する領収書や改装内容を示す図面などを根拠資料として収集する必要があります。また、改装後の同等の設備の物件の新規賃料などの資料も必要です。

このように、賃料増額の理由によって必要となる資料は異なります。状況に応じた判断が必要となるため、弁護士等の専門家にアドバイスをもらいながら進めることをおすすめします。

よくある質問(Q&A)

不動産の賃料増額と証拠となる資料の準備について、疑問に思う人が多いであろうポイントをQ&A形式で解説します。

不動産鑑定士の鑑定書がないと、裁判で不利になりますか?

鑑定書がないからといって、必ず裁判で負けるわけではありません。ただし、不動産鑑定士による鑑定書は証明力が高いため、賃料や増額幅が大きい場合や、相手が鑑定書を提出してきた場合には、取得を検討したほうがよいでしょう。

鑑定には数十万円以上かかることもあります。また、私的鑑定より、調停委員や裁判所が選任した鑑定人による鑑定が重視されることもあるため、状況に応じた判断が必要です。

賃借人から賃料相場が違うと反論された場合、どのように対応すればよいですか?

公租公課や周辺の賃料相場、経済状況など、客観的な資料を示して反論しましょう。

具体的には、以下のような資料が考えられます。

・近隣相場の調査資料
・宅建業者の査定書
・路線価・固定資産税評価額などの公的評価資料
・建物の改修履歴と費用

状況によっては、不動産鑑定士への鑑定や簡易鑑定の依頼も検討しましょう。

過去の募集チラシでも、賃料増額の根拠資料として利用できますか?

過去のチラシは現在の状況を反映していないため、賃料増額の根拠として使うのは難しいでしょう。

不動産ポータルサイトの画面を印刷・スクリーンショットしたものや最新のチラシなど、できるだけ新しい情報を集めることが重要です。難しい場合は、宅建業者や不動産鑑定士への相談も検討しましょう。

不動産鑑定士の鑑定書を提示しても、賃借人が賃料増額を拒否した場合はどうなりますか?

賃借人が賃料増額を拒否し、交渉で解決できない場合は、原則としてまず調停を申し立て、それでも解決しなければ訴訟に進みます。

判決が確定するまでは、賃借人は従前の賃料以上で主観的に相当と考える賃料を支払います。増額が認められた場合は、不足分に年1割の利息を付して支払わなければなりません。

賃料増額の交渉では、どのような順番で根拠資料を提示すればよいですか?

まずは客観的で中立的な資料や、コストをかけずに用意できる資料から提示するのが一つの方法です。

固定資産税額や地代など客観的に明らかな事情があれば、その事情を説明し、必要に応じて固定資産税評価証明書や地主との賃貸借契約書などを示します。

周辺相場については、不動産会社のチラシや自分でまとめた資料を示し、納得が得られなければ宅建業者の査定書や不動産鑑定士の鑑定書などを提示する流れが考えられます。

ただし、増額幅が大きい場合や賃借人との関係がよくない場合は、当初から不動産鑑定士の調査報告書や鑑定書など、より客観的で正確な資料を提示することも検討しましょう。

東京都千代田区の不動産に強い弁護士なら直法律事務所

賃料増額請求では、賃借人に増額を納得してもらうため、「なぜ賃料を上げる必要があるのか」を客観的な根拠資料によって示すことが重要です。

不動産ポータルサイトの情報やチラシなども根拠資料になりますが、より証明力の高い資料が必要な場合は、不動産鑑定士への依頼も検討する必要があります。必要な資料や不動産鑑定士へ依頼するタイミングは状況によって異なるため、賃料増額請求を進める際は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

直法律事務所では、賃料増額請求に関する交渉や調停・訴訟対応まで、賃貸不動産に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃料増額請求についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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