澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「みなし清算条項~投資契約で損をしないために3~」
について、詳しくご解説します。
みなし清算条項
概要
みなし清算条項とは、発行会社にM&Aが生じた場合に、発行会社を清算したものとみなして投資家に対して分配を行うことを内容とする条項をいいます。
本来、種類株式に定められる優先分配は、発行会社が配当を行う場合や事業を停止し清算を行う場合に適用されます。一方、M&A は株式譲渡等により行われるため、発行会社の株主に直接、投下資本の分配がなされるものではありません。
そこで、経営支配権の変更が伴うような M&A が生じた場合に、発行会社が清算した状態になったものとみなして、優先分配を行う旨を規定しているのが、みなし清算条項です。
例①
- 発行会社及び発行会社の株主は、発行会社について買収が行われる場合、その買収の対価の合計額を残余財産とし、買収に応じた発行会社の株主(以下「みなし清算株主」という。)のみが発行会社の株主である前提で発行会社を清算したと仮定した上で、定款に定める各種類株式の残余財産の分配の規定に従って各みなし清算株主が分配を受ける金額を算出し、その金額に従い、買収の対価をみなし清算株主の間で分配するものとする。
例②
- 1 当社において次項に定める買収が行われる場合には、その買収の対価については、買収に応じた株主の間で以下の定めに基づき分配を行うものとする。
(1) 買収の対価が現金のみの場合、買収の対価の合計額を残余財産とし、買収に応じた株主のみが当社の株主である前提で当社を清算したと仮定した場合に、定款の定めに基づき普通株主、A種優先株主及びB種優先株主がそれぞれ分配を受けられる金額に基づいて、各株主が分配を受けられる金額を算出し、その金額と同額の現金を買収の対価の分配として各株主の間で分配する。
(2) 買収の対価が現金以外を含む場合、買収の対価について、当社のA種優先株式及びB種優先株式の議決権総数(普通株式に転換後の議決権数で計算を行うものとする。)のうち、3分の2以上を保有する単独または複数の優先株主が合理的に当該対価の評価額を算定し、買収の対価の合計額を残余財産とし、買収に応じた株主のみが当社の株主である前提で当社を清算したと仮定した場合に、定款の定めに基づき普通株主、A種優先株主及びB種優先株主がそれぞれ分配を受けられる金額に基づいて、各株主が分配を受けられる金額を算出し、その金額と同額の対価を買収の対価の分配として各株主の間で分配する。
2 本項において、「買収」とは、当社が以下のいずれかに該当することを意味する。
(1) 当社の発行済株式の議決権総数の50%超を第三者(複数の第三者を含む。)が取得すること。
(2) 当社が他の会社と合併することにより、合併直前の当社の総株主が合併後の会社に関して保有することとなる議決権総数が、合併後の会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
(3) 当社が他の会社と株式交換を行うことにより、株式交換直前の当社の総株主が株式交換後の完全親会社に関して保有することとなる議決権総数が、株式交換後の完全親会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
(4) 当社が他の会社と株式移転を行うことにより、株式移転直前の当社の総株主が株式移転後の完全親会社に関して保有することとなる議決権総数が、株式移転後の完全親会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
みなし清算条項により、投資家は、M&Aの対価について優先的な分配を受けられるようになります。
たとえば、企業価値100億円の会社に、投資家が10億円を投資し、創業者と投資家の株式比率が9:1になったとします。
その後、会社が20億円でM&Aを行うこととなった場合、投資家に「1株につき出資額と同額」の優先分配を認めるみなし清算条項があれば、投資家は優先的に10億円の分配を受け、さらに創業者と投資家は残額10億円を9:1の割合で分配を受けることとなります。
みなし清算条項がなければ、投資家は、M&Aの対価20億円を9:1で受けることとなるので、2億円の分配しか受けることができません。
みなし清算条項は、発動事由と対価の分配内容で構成されます。また、後述するドラッグ・アロング・ライトとセットで規定されることが多いです。
発動事由
発動事由は、M&Aにともなう株式譲渡、株式交換、株式移転、会社分割(株主に対価が分配される人的分割)等で既存株主の持株比率が50%未満となるようなケース(相手方が50%超を保有するケース)を対象事由である「買収」とするのが一般的です。
M&Aの際に事業譲渡や会社分割(会社に対価が分配される物的分割)といったスキームを選択した場合、対価は株主に分配されないので、直ちにみなし清算条項の対象とすることはできず、工夫が必要です。 ただ、この場合も剰余金を配当する場合があり(会社法第758条第8号ロ等)、これを対象とすることもあります。
また、会社を解散・清算したり、別途剰余金の配当をするといった形で株主に分配する旨を定める必要があります。
発動事由を、M&Aの金額によって定めることもあります。 具体的には、IPOの場合には優先株式も普通株式に転換されることとの均衡から、IPOに匹敵するような時価総額が高いM&Aの場合を、みなし清算条項の対象外とすることが考えられます。
また、小規模なM&Aでの不合理な分配を避けることを目的としてみなし清算条項を設定した場合、投資家が投資した時価総額を上回る等、金額が高いM&Aを対象外とすることも考えられます。
分配内容
対価の分配内容については、優先株式の残余財産の優先分配権と同様にするのが一般的であり、税務上の観点からも安全と考えられます。
しかし、みなし清算条項の税務上の取り扱いについては明確な指針がなく、ケースバイケースで税務当局の判断にゆだねられているのが現状であり、ケースに応じた確実な安全策をここで明確に示すことはできません。
その他
みなし清算条項は、全株主の資金回収に影響するものです。
そのため、みなし清算条項は、原則として株主全員を当事者として締結する必要があります。
仮に、一部の株主との間で投資契約の全ての条項について合意を得ることが困難な場合は、別途以下のような対応が必要です。
- みなし清算条項について、別途全株主と合意書を締結する
- みなし清算について、定款で定めておく
※ただし、合併、株式交換、株式移転、会社分割等の組織再編行為については、会社法上反対株主の買取請求権が発生するケースがあり、みなし清算条項によりこれを排除できるかは疑問が残ります。定款でみなし清算条項を定めることには、このような限界があるため、できる限り全株主を対象とした契約で対処することが望ましいです。
株式に関する事項
新株等の優先引受権
例
- 1 本会社は、本株式等を引き受け又はその付与を受ける者の募集(次回株式資金調達における募集またはそれまでにおこなわれる募集を含むが、ストックオプションの発行を除く。)をしようとする場合、割当の決定を行う日の10営業日前までに、書面により、当該募集がある旨及び当該募集に係る本株式等の払込金額ならびに当該募集の条件を、主要投資家に対して通知するものとする。この場合、主要投資家は、当該募集に参加する他の投資家と同一の条件により、本項に基づき引き受け又はその付与を受けた本株式等に係る払込金額の総額が参加上限額に充つるまで、一または複数の募集において本株式等を引き受けまたはその付与を受ける権利を有する。
2 前項に基づく主要投資家の権利は、関連する法令等に抵触しない範囲で行使されるものとする。
投資家にとって持株比率の維持は、議決権や、IPOやM&Aの対価に関わるものであるため、重要な意味を持ちます。この条項は、投資家が保有する株式の希薄化を防止する仕組みの一つといえます。
契約に盛り込む場合、投資先企業は、①ストックオプションの発行は除外すること、②資本政策の早期確定を図るため、新株等の優先引受権の権利行使の期限を明確に定めておくこと、に留意すべきです。
優先買取権/先買権、共同売却権/譲渡参加権
優先買取権/先買権とは、他の株主が発行会社の株式を譲渡しようとする場合に、自己が優先的に譲受人となり当該株式を買い受けることができる権利をいいます。
これは、株式譲渡人の譲渡の機会を保障しつつ、発行会社にとって望まない者が株主となることを防ぎかつ持株比率を維持・増加する機能を有しています。
共同売却権/譲渡参加権とは、他の株主が発行会社の株式を譲渡しようとする場合に、自己も他の株主と共同して譲渡人として参加して売却することができる権利をいいます。これは、投資家間において売却の機会を公平に与えるために設けられます。
いずれの権利も、他の株主が株式を譲渡する際に発動するものであることから、投資契約では、ふたつを組み合わせて定めていることが一般的です。
例 優先買取権(先買権)
- 1 優先株主は、経営株主が発行会社の株式について第三者(以下「譲渡希望先」という。)に対する譲渡を希望する場合(譲渡を希望する株主を以下「譲渡希望株主」という。)、当該譲渡予定株式の全部を、当該譲渡における条件と同一の条件で譲渡希望株主より自ら買い取ることができる権利(以下「先買権」という。)を有する。
2 譲渡希望先株主が保有株式の第三者への譲渡を希望する場合、譲渡希望株主は、あらかじめ優先株主に対し、譲渡希望先、譲渡を希望する株式(以下「譲渡対象株式」という。)及び譲渡条件の通知を行うものとし、通知を受領した後○日以内にいずれの優先株主も先買権を行使しない場合には、譲渡希望株主は譲渡対象株式を譲渡希望先に対して譲渡条件にて譲渡できるものとする。
3 複数の優先株主が先買権を行使した場合、各優先株主は、譲渡対象株式の数に、自己の保有株式の数を乗じ、先買権を行使したすべての優先株主の保有株式の合計数で除した数の譲渡対象株式を買い受けることができるものとする。
先買権行使の対象となるのは、すべての株主とするのが合理的です。一方、先買権の保有者については、すべての株主とすることも可能ですが、株式の移動により保有比率に大きな影響を与えうる一定の大口投資家のみを保有者とする場合もあります。
先買権行使の場面としては、①投資家が株式譲渡をしようとしているものを他の投資家である株主が買い受ける、②経営者が株式譲渡をしようとしているものを投資家である株主が買い受ける、という2パターンが考えられますが、両者につき扱いを変える必要は特にありません。
また、先買権については、譲渡対象株式の一部に対する行使を認めるかが問題となり得ます。望まない者が株主となることを防ぐという先買権の機能からすれば、一部に対する行使ではそれを達成できず、譲渡を希望する株主としても残余の株式数によっては、譲渡が困難になる可能性があります。そのため、一部の権利行使は認めず、全部の株式の買取に限定するのが一般的です。
例(共同売却権/譲渡参加権)
- 1 経営株主は、発行会社の株式について第三者(以下「譲渡希望先」という。)に対する譲渡を希望する場合(譲渡を希望する株主を以下「譲渡希望株主」という。)、優先株主に対し、譲渡希望先、譲渡を希望する株式及び譲渡条件を通知するものとする。
2 前項の通知を受領した優先株主は、当該通知受領後○日以内に譲渡希望株主に通知することにより、自らが保有する発行会社の株式を、譲渡希望株主の譲渡条件と同一の条件をもって譲渡希望先に売却することを請求できる。
3 前項に基づき優先株主が共同売却を請求した場合であって、譲渡希望先が譲渡希望株主の譲渡を希望する株式及び優先株主が共同売却を請求した株式の全ての株式の買取を希望しないときは、譲渡希望株主及び当該優先株主は、それぞれが譲渡を希望した株式数の合計に対する各自の株式数の割合に応じて、譲渡希望先に対して株式を譲渡することができる。
共同売却権行使の対象は、先買権と同様、投資家の資金回収の機会を確保するため、すべての株主とするのが望ましいです。一方、先買権と異なり、共同売却権の保有者については、経営者を除外することが一般的です。経営者には会社を経営し続ける責任があり、他の投資家とともに自分も株式を売却するというのは合理的ではないからです。
そのため、共同売却権についても、①投資家が株式譲渡をしようとしている場合に、他の投資家である株主も譲渡に参加する、②経営者が株式譲渡をしようとしている場合に、投資家である株主も譲渡に参加する、という2パターンが考えられます。
例(優先買取権/先買権、共同売却権/譲渡参加権 併記)
創業株主が発行会社株式の一部又は全部を第三者に譲渡しようとする場合、投資家は創業株主と当該第三者との間で合意した条件により創業株主が譲渡しようとした株式を自ら買い取るか、又は自己の保有株式のうち、下記の算定式に基づき算定された株式数を創業株主と共同して当該第三者に売却することを選択することができる権利を有する。
算定式
創業株主の譲渡希望株式数×{投資家の保有株式数 /(投資家の保有株式数+創業株主の保有株式数)}
株式譲渡
例①
経営株主は、投資者の事前の書面による承諾がない限り、本契約締結前及び有効期間内に取得した発行会社の株式の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、または担保設定その他の処分をすることができない。
例②(投資家による譲渡に制限を設けている場合)
投資家は、本契約の定めに基づく場合、または譲受人が本契約の条件に拘束されることを承諾して本契約の複本に署名した場合を除き、本株式について、譲渡、担保の設定若しくはその予約その他の処分をしてはならない。
投資を受ける以上、経営者による株式譲渡には、投資家の承諾を要するなどの制約が設けられるのが一般的です。
投資家による譲渡についても、経営投資家の望まない者が株主となることを防ぐため、譲渡先について経営投資家の認める者とすることが一般的です。
ドラッグ・アロング・ライト
ドラッグ・アロング・ライトとは、同時売却請求権または売却請求権ともよばれ、
多数の投資家の賛成等の任意に設定された一定の要件を満たした場合、発行会社、創業株主に限らず他の株主に対しても買収に応じるべきことを請求することができる権利のことをいいます。
例
- 発行会社の取締役及び多数優先株主が買収に合意した場合、多数優先株主は、他の全ての優先株主及び普通株主に対し、当該買収に参加することを請求する権利を有し、すべての株主はかかる買収に応じなければならない。ただし、当該買収において時価総額が○億円以上で取引される場合に限り適用されるものとする。
ドラッグ・アロング・ライトには、少数株主や経営者に、買収に応じることを請求できるようにする役割があります。
会社を買収するためのM&Aは、大きく分けて、①株式譲渡、②株式交換、株式移転、合併等の企業再編行為、③事業譲渡、会社分割等の事業の移転形態が存在します。
①の場合、通常、買収をする企業としては発行会社の発行済み株式全ての株式を買い受けることを望みますので、一部の株主が買収に反対すれば、たとえそれが一株しか保有していない株主であっても、買収は困難となります。
②③の場合は、①ほど反対株主の存在は致命的ではありませんが、反対株主には法律上買取請求権が認められているため、その発動により買収のスケジュールに支障をきたすことがあります。そして、そのM&Aに反対する株主とは、投資家との間で意見の齟齬が生じてしまった経営陣であることもあり得ます。
ドラッグ・アロング・ライトは、M&Aの際に、反対する少数株主や経営者に買収に応じることを強制する条項です。ドラッグ・アロング・ライトは、上述したような反対株主の問題を解決し、M&Aを促進するものといえます。
ドラッグ・アロング・ライトの発動要件としては、以下のようなものが考えられます。
① 発案者
一定以上の株式を保有する投資家が発案者となる場合が多いが、最近では創業株主が発案者となる場合も増えています。
投資家が発案者となる場合、②の期間条件と組み合わせて設定される事例が多く、一方で創業株主が発案者となる場合は、③の金額条件と組み合わせて設定される事例が多いです。
② 期間条件
ドラッグ・アロング・ライトについて、発動できる時期については契約締結から一定期間(3~5年程度)経過した後に限定される場合があります。これは、投資家が企業価値が向上する前に売却してしまうことを防ぐこと、投資時に発行会社と投資家との間において合意した事業計画が達成されていない場合やIPOの目標時期を経過した場合のM&Aによる Exit を推進すること、が目的です。
特にファンドの期限が近づくとExit の必要性が高くなるため、ファンドの期限を勘案して期間条件を定めることが多くなります。なお、投資家が発案者となる場合、一定期間内は創業株主又は取締役会等の同意を必要とする旨を規定する場合もあります。
③ 金額条件
一定金額以上の企業価値評価額が付くことを条件として発案することができるとするものです。
最近では、投資家から投資を受ける時点から M&A による Exit を目指す起業家も増えています。創業株主によっては、機会があれば短期間での Exit を希望することもありますが、投資家にとってはこの Exit が投資リターンを想定よりも大幅に低くする可能性もあります。
そこで、一定水準のリターンを確保するために、企業価値評価額に対して最低金額を設けることがあります。
④ 売却先
投資家が提案する売却候補先と同じ条件であれば、創業株主が選定した買収を希望する第三者への売却を優先することができる旨を定めることがあります。
当該規定により、創業株主が望まない発行会社と競合する企業への買収等を回避することができます。
株式買取条項
契約違反等が生じて出資金の回収が困難になった場合に備えて、投資家が引き受けた株式を、投資先または第三者に買い取るよう求めることができる権利を定めた条項です。
例
- (1)発行会社及び創業株主は、契約違反が生じた場合、誠意をもってその治癒にあたる義務を負うものとする。
(2)投資家は、発行会社及び創業株主が投資契約に違反し、損害を被った場合、発行会社及び創業株主に対し損害賠償を請求できる。
(3)投資家は、以下のいずれかの事由が生じた場合、発行会社及び創業株主に対して投資家が保有する株式を買い取るよう請求することができる。
①本契約[ ]条、[ ]条、[ ]条について重大な違反をした場合
②表明保証した事項について真実又は正確ではないことが判明し、かつ、その内容が重要な場合
(4)上記(3)の買取請求により投資家の株式を買い取る場合の価格は投資家と発行会社及び創業株主が合意する算定方法による金額とする。
株式買取条項は、日本特有の条項といわれています。経営者が投資契約違反等をした場合、投資家は経営者に対して、民法に基づき損害賠償請求をすることが理論上可能です。しかし、かかる請求が認められるためには、投資家が損害額を立証する必要があり、この立証は困難なことも多いのです。
また、投資家にとって、契約違反をするような会社に今後も投資を継続することは難しく、株式を売却する必要があります。
しかし、日本の会社法では、自己株式の取得には厳格な規制が敷かれており、会社に自己株式を取得させることには困難が伴うのです。
このような二つの困難を解消するために設けられているのが、株式買取条項です。
株式買取条項は、日本特有の条項といわれています。経営者が投資契約違反等をした場合、投資家は経営者に対して、民法に基づき損害賠償請求をすることが理論上可能です。
しかし、かかる請求が認められるためには、投資家が損害額を立証する必要があり、この立証は困難なことも多いのです。
また、投資家にとって、契約違反をするような会社に今後も投資を継続することは難しく、株式を売却する必要があります。
しかし、日本の会社法では、自己株式の取得には厳格な規制が敷かれており、会社に自己株式を取得させることには困難が伴うのです。
このような二つの困難を解消するために設けられているのが、株式買取条項です。
株式買取条項の発動事由として一般的に考えられるのは、①投資契約違反、②表明保証違反、③株式上場の要件を満たしているのに上場しない場合、です。
①については、小さな違反が株式買取事由となることを防ぐため、是正請求があったのにそれに応じなかったことを、発動要件として規定しておくべきです。
②についても、重大な表明保証違反のみを対象としておくのが安全です。
一般的に重大な契約・表明保証違反とされているのは、以下のような場合です。
・ 粉飾決算(多額の架空売上の計上、債務の隠蔽等)
・ 投資資金の資金使途以外での使用(目的以外の事業への流用、他者への投融資、創業株主らによる私的利用等)
・ 反社会的勢力との関係が明らかとなった場合
・ 事前承認事項への違反(大量の新株発行や重要な事業の譲渡等)
・ 重大な法令違反が生じた場合
③については、IPOが煩雑だと経営者がIPOを延期するケースに備えたものです。
買取請求がされる際の買取価額の算定方法は、一般的には、複数の算定方法を列挙し、その中から最も高い価額となる算定方法が採用されることが多いです。
算定方法の例としては以下のようなものが挙げられます。
① [ ]種優先株式の1株当たりの払込金額
② 財産評価基本通達に定められた「類似業種比準価額方式」に従い計算された1株当たりの金額
③ 発行会社の直近の貸借対照表上の簿価純資産に基づく発行会社の1株当たりの純資産額
④ 発行会社の直近の株式の譲渡事例又は増資事例における1株当たりの譲渡価額は発行価額
⑤ 合意された第三者により算定された公正な価額