澤田直彦
監修
弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田直彦
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
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取適法の適用判断の基本構造
取適法が適用されるかどうかは、「取引当事者の規模(資本金または従業員数)」と「委託取引の類型」の2つを組み合せて判断します。
委託する側は「委託事業者」、受託する側は「中小受託事業者」とされ、委託事業者には発注書面の交付や支払期日の設定などの義務が課されます。また、受領拒否・減額・買いたたきなどの行為は禁止されています。
規模基準の数値は委託類型ごとに異なるため、適用の有無は以下の順序で確認する必要があります。
- 自社の委託取引がどの類型に該当するかを確認する
- その類型に対応する規模基準について、自社と取引先が該当するかを確認する
「自社の資本金がいくらだから一律に対象・対象外」と判断すると、適用を誤る可能性があります。
資本金基準
適用判断では、まず資本金基準を確認します。
規模基準には資本金基準と従業員数基準がありますが、従業員数基準は資本金基準を満たさない場合に検討されます。
例えば、製造委託では以下の組合せが対象となります。
- 委託側の資本金が3億円超:資本金3億円以下の事業者への委託
- 委託側の資本金が1,000万円超3億円以下:資本金1,000万円以下の事業者への委託
委託類型と自社の資本金額に応じて、どの基準が適用されるかを確認する必要があります。
従業員数基準
資本金基準を満たさなくても、従業員数基準を満たせば取適法が適用されます。
従業員数基準は今回の改正で新設された基準であり、減資によって下請法の適用を免れる事例が存在するとの指摘などを背景に導入されました。
基準となる従業員数は、委託類型に応じて「300人超/300人以下」または「100人超/100人以下」とされています。例えば、製造委託・修理委託などでは、委託側300人超×受託側300人以下の組合せが対象となります。
ここでいう従業員数は「常時使用する従業員」の数を指し、賃金台帳の調製対象となる労働者の数で算定するとされています(運用基準第2の2(2))。対象には、正社員だけでなく、契約社員・パートタイマー・アルバイト・1か月を超えて引き続き使用される日雇い労働者なども含まれます。
また、取引基本契約の締結時ではなく、個々の製造委託などをした時点、すなわち個別発注時の従業員数を基準に判断します。
取適法の5つの委託類型
取適法の対象となる委託類型は、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」「特定運送委託」 の5つです。各類型に該当するかは、委託事業者がどのような事業を行い、どのような目的物・役務を委託するのかによって判断します。
また、取適法上の「委託」とは、事業者が他の事業者に対し、物品等の規格・品質・性能などを指定して依頼することをいい、指定のない規格品・標準品の購入は原則として含まれません。
ここでいう「業として」とは、ある行為を反復継続的に行い、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合を指します。
製造委託|自社使用品でも対象になる場合がある
製造委託は、販売する物品や製造を請け負った物品などの製造を他の事業者に委託する取引です。
対象には、目的物そのものだけでなく、半製品・部品・原材料や、製造に用いる金型・木型その他の型、工作物保持具などの特殊な工具の製造委託も含まれます。
また、自社で使用・消費する物品の製造委託でも、自社がその物品を「業として」製造している場合は対象になります。判断のポイントは、自ら製造する能力があり、実際に自社で製造している実態があるかどうかです。
例えば、研究開発段階の試作品の製造を委託する場合、自社がその試作品を製造する能力・体制を有し、実際に製造しているときは製造委託に該当し得ます。一方、自社では製造できないものであれば該当しません。
修理委託・情報成果物作成委託|社内システムの外注に注意
修理委託と情報成果物作成委託も、自家使用のケースが対象となる場合があります。
ただし、製造委託と同様、委託事業者が「業として」自社で修理・作成を行っている場合に限られます。
情報成果物作成委託で特に注意が必要なのが、社内システムやソフトウェアの開発外注です。外部に作成を委託しているソフトウェアと同種のソフトウェアを自社でも作成している場合は対象となり得ます。
一方、社内にシステム部門があり、開発に詳しい従業員がいたとしても、同種のソフトウェアを自社で作成していなければ、「業として」作成しているとはいえず、適用対象外となります。そのため、「システム部門があるから対象」と判断せず、実態に基づいて確認する必要があります。
なお、情報成果物には、プログラムのほか、映像コンテンツや設計図・デザインなども含まれます。
役務提供委託|「自ら利用する役務」は対象外
役務提供委託では、自ら利用する役務の委託は対象外とされています。
役務提供委託は、業として役務の提供を行っている事業者が、その全部または一部を他の事業者に委託する取引をいいます。
例えば、自社工場の清掃を清掃業者に委託する場合は、自社が「自ら利用する役務」に当たるため、取適法の適用を受けません。一方で、一見すると顧客に提供されているように見える役務でも、顧客から委託事業者への直接の依頼がない場合は「自ら利用する役務」に含まれるとされており、該当性の判断には注意が必要です。
特定運送委託|対象になる運送・ならない運送
特定運送委託では、取引先に対する目的物の運送が主な対象となります。
従来、メーカーなどの発荷主が運送事業者に物品の運送を委託する取引は、発荷主による自家使用役務の委託として下請法の対象外とされてきましたが、物流の2024年問題を契機に、その一部が取適法の対象となりました。
対象となるのは、販売する物品、製造・修理を請け負った物品、作成を請け負った情報成果物が記録された物品などの、取引の相手方に対する運送の委託です。
一方、自社工場から自社物流センターへの運送などの自社内の運送は通常対象外です。ただし、取引先への目的物の運送を委託する際に自社拠点を経由する場合は、自社内区間を含めて対象となり得ます。
また、サンプル品・ダイレクトメッセージ・連絡文書などの運送は通常対象外ですが、販売などの目的物の輸送と一体不可分であう場合は、適用対象となる可能性があります。有償支給原材料などの運送は対象です。
実務上は、運送委託の一覧に「運送の目的物(販売品か、サンプルなどか)」「発地・着地(取引先向けか、自社拠点間か)」という2つの観点を設けて一次判定し、境界事例のみ法務が個別に判断する方法が効率的です。
なお、「運送」には、運送と一体的に行われる養生作業・固縛・シート掛けなどは原則含まれますが、荷積み・荷下ろし・倉庫内作業などの附帯業務は含まれないと整理されます。
従業員数の確認方法
従業員数基準の適用を判断するには、取引先の従業員数をどのように確認し、管理するかをあらかじめ決めておくことが重要です。
確認義務はないが、把握しないリスクは委託側が負う
取適法上、取引先の従業員数を確認する義務まではありませんが、従業員数を把握していなければ取適法の適用対象かどうかを判断することができません。
知らないまま違反するリスクは委託側が負うことになるため、リスク回避の観点から取引先の従業員数を確認しておく必要があります。
従業員数は記録に残る形で確認する
従業員数は、書面や電子メールなどの記録に残る形で確認することが望ましいとされています。
具体的には、発注時の見積依頼書や見積書に、従業員数について「100人以下」「100人超300人以下」「300人超」といったチェック欄を設ける方法が考えられます。
もっとも、全委託先に対して発注の都度確認すると、双方の負担が大きくなります。そのため、実務上は、基本的に年1回確認しつつ、常時使用する従業員数が250人~350人程度など、基準の閾値をまたぐ可能性が高い委託先については確認頻度を上げるなど、軽重をつけた運用が考えられます。
当事務所で取引管理体制の整備をご支援する際も、全件一律ではなく、閾値近傍の取引先を抽出してモニタリングする設計をおすすめしています。
取適法の適用対象取引の管理方法
取適法の適用対象となる取引は、継続的に更新できる形でリスト化し、一元管理することが重要です。
従業員数は随時変動し、適用の有無は個別発注時点で判断されるため、一度判定すれば終わりではありません。また、取適法では書面調査を中心とした簡易・迅速な調査・執行が行われるため、当局から調査を受けた際に、対象となる中小受託事業者を把握できる状態にしておく必要があります。
適用対象取引はリスト化して一元管理する
実務上は、法務・コンプライアンス部門が主導し、適用対象となる取引をリスト化して一元管理することをおすすめします。
管理する主な項目は、以下のとおりです。
- 委託取引の一覧(取引先・委託内容・委託類型)
- 各取引先の資本金・従業員数と確認日
- 取適法の適用有無の判定結果
購買部門だけに判断を任せると、特に自家使用や特定運送委託の類型判断にばらつきが生じる可能性があります。そのため、判定に迷う取引は法務部門が個別に確認するなどエスカレーションルールも定めておくとよいでしょう。
経営トップが取適法遵守の姿勢を示す
取適法対応を社内に定着させるには、経営トップの関与が重要です。
調達担当者は、調達コストを抑えて会社の利益を最大化することを自らの業務と考えやすく、法令遵守を日常業務に落とし込むことに難しさを感じる場合があります。そのため、経営トップが取適法遵守の姿勢を明確にし、中小受託事業者を含むサプライチェーン全体の共存共栄も調達担当者の役割であることを示すことが効果的とされています。
公正取引委員会の価格交渉指針でも発注者としての行動が指針化されており、取適法対応を法務部門だけの業務ではなく、経営課題として位置づけることが重要です。
担当者への研修を継続して実施する
取適法対応では、担当者への研修を一度きりで終わらせず、継続して実施することが重要です。
取適法は、自家使用を含む適用有無の判断や明示内容など、現場担当者には理解しづらい点が多く、法改正・運用変更・執行トレンドの変化も速い分野です。そのため、重要なポイントを絞って、適切な頻度で研修を継続する必要があります。
取引リストの整備と研修の継続が、平時対応の両輪となります。
なお、制度の概要は政府広報オンラインや、公正取引委員会の取適法特設ページでも確認できます。社内研修資料を作成する際には、これらの一次情報を参照してください。
取適法の適用判断で間違えやすいケース
取適法の適用判断では、「委託」に該当するか、どの物品・取引が対象となるか、どの時点で判断するかを誤りやすいため注意が必要です。
特に、規格品・標準品の購入、「型」の製造委託、発注後の規模変動については、適用の有無を正しく整理しておく必要があります。
規格品・標準品の購入は「委託」ではない
規格や仕様を指定しない規格品・標準品の購入は、原則として取適法上の「委託」には該当しません。
取適法上の「委託」とは、物品等の規格・品質・性能などを指定して依頼することをいいます。そのため、カタログから既製品を購入する取引は、相手方が中小企業であっても取適法の対象外です。
一方、既製品をベースにしていても、自社仕様への変更や刻印・加工を指定して発注している場合は、「委託」に該当する可能性があります。購買データ上は同じ「仕入」であっても、仕様指定の有無で適用が分かれるため、取引リストの作成する際にはこの点を確認する必要があります。
「型」の製造委託は金型に限らない
取適法では、製造委託の対象となる「型」が金型以外にも拡大されています。
製造委託の対象には、製品そのものだけでなく製造に用いる型なども含まれます。旧下請法では金型が対象とされていましたが、取適法では「木型その他の物品の成形用の型」「工作物保持具その他の特殊な工具」まで対象が拡大されています。
そのため、金型以外の型・治具の製造を外注している企業は、これらの発注も適用判断の対象に含める必要があります。なお、型などについては製造委託への該当性だけでなく、無償保管の問題もあります。
委託事業者の該当性は発注時点で判断する
委託事業者に該当するかどうかは、個々の製造委託などをした時点で判断され、その後の規模変動によって過去の発注が対象外になるわけではありません。
そのため、発注後に減資したり、従業員数が減少して基準を下回ったりしても、過去の発注に関する違反行為は勧告の対象となる可能性があります。
また、違反行為がすでになくなっている場合や、合併・分割・事業譲渡といった組織変更後であっても、再発防止策を講じていない場合などには勧告の対象となる可能性があることが明文化されています。
したがって、「現在は対象外だから過去の発注も問題ない」という整理はできません。この点は、経営層に説明する際にも重要なポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q1.当社は資本金5,000万円のIT企業で、従業員は約400人います。個人のデザイナーやプログラマーへの外注は取適法の対象となりますか?
対象となる可能性があります。情報成果物作成委託では、資本金基準を満たさない場合でも、従業員数の組合せによって適用されることがあります。
なお、発注先が従業員を使用しない個人や一人法人である場合は、フリーランス法の適用も問題となります。
Q2.基本契約の締結時点では取引先の従業員数が300人を超えていましたが、その後300人以下になったようです。いつの時点で判断すればよいですか?
従業員数は、個々の発注時点で判断されます。基本契約締結時に対象外であっても、その後の個別発注時に基準を満たしていれば、その発注は取適法の適用対象となります。
従業員数が基準付近で変動する取引先については、確認頻度を上げるなどの対応が必要になります。
Q3.当社が自社で使う業務システムの開発を外部ベンダーに委託しています。当社にシステム部門はありますが、同種のシステムを自社開発したことはありませんが対象になりますか?
ご質問の前提であれば、情報成果物作成委託には該当しない可能性が高いと考えられます。
自家使用の情報成果物の作成委託が対象となるのは、自社でも同種の作成を「業として」行っている場合に限られるためです。
ただし、実際の該当性は取引の実態に応じて判断されます。
Q4.商社経由で製造を発注しています。当社と製造元の間に直接の契約はありませんが、適用判断はどう考えればよいですか。
取適法の適用は、取引の当事者ごとに判断します。
そのため、自社と商社の取引・商社と製造元の取引について、それぞれ委託類型と規模基準を確認する必要があります。
自社と商社の取引が製造委託に該当し、規模基準も満たす場合、自社は商社との関係で委託事業者としての義務を負います。
取適法に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
取適法への対応では、委託類型と規模基準を確認し、取引ごとに適用の有無を整理・管理することが重要です。特に、「従業員数基準」「自家使用取引の扱い」「個別発注時点での判断」には注意が必要です。
適用判断を誤ると、発注書面や支払条件など、その後の対応にも影響するため、対象取引を早めに棚卸しし、継続的に管理できる体制を整えておきましょう。
直法律事務所では、取適法の適用判断から対象取引の棚卸し、管理体制の構築、購買・調達部門向けの社内研修まで、企業の実情に応じたご支援を行っています。「この取引が対象になるのか判断がつかない」といった検討段階から対応しており、顧問税理士・社会保険労務士など士業の先生方からのご紹介にも対応しております。
ご相談も随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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