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弁護士コラム

遺言書を撤回する方法は?注意点も解説

家族信託・遺言書作成
投稿日:2022年08月04日 | 
最終更新日:2024年03月14日
Q
作成した遺言書を撤回する方法を教えてください。
Answer
民法(以下民といいます)1022条では、一度作成した遺言の一部、または全部を撤回することが認められています。
遺言書は遺言者が亡くなった後の意思実現を目的としているので、遺言者は自由に変更や撤回できるとされているのです。どの方式の遺言でも撤回は可能です。

本記事で詳しく説明します。

はじめに

例えば、二年前に遺言状をしたためて、今まで保管してきたとしましょう。

その内容は、「財産のうち不動産は長男に、預貯金、株式は長女に遺贈する」というものでした。しかし、この二年間に財産の総額も増え、前述の遺産の分け方を変更したくなりました。以前にした遺言を撤回するには、どうしたらよいでしょうか?

以下、検討していきます。

遺言の撤回の自由

遺言制度は、遺言者の最終の意思を尊重する目的とする制度です。

したがって、これを遺言者は、いったん遺言をしても、それに拘束されることはなく、いつでも、何らの理由がなくても、遺言の全部又は一部を自由に撤回することができます(民1022条)。

第1022条
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

民法1022条は、「撤回することができる」と規定していますが、遺言は遺言者が死亡するまでは効力を生じません(民985条1項)ので、ここにいう撤回とは、すでに効力の生じている意思表示の効力をさかのぼって失わせるという民法総則編に定める取消しのことではなく、まだ効力の生じていない意思表示についてその効力が生ずるのを阻止する撤回をいいます(民法1023条、1024条、1026条の取消しもすべて撤回の意味です)。

ちなみに、死因贈与について本条が適用されるか否かについて、判例はケースバイケースであるとされています(最判昭和47年5月25日民集26巻4号805頁、最判昭和57年4月30日民集36巻4号763頁)。

遺言を自由に撤回することができるということは、遺言者の最終の意思を尊重する遺言制度の本質に基づくものですので、民法施行前の事案についても遺言の撤回は認められています(大判明31・4・21民録4・4・45)し、遺言の撤回権を放棄することは禁止されています(民1026条)。

したがって、遺言書の中にこの遺言は最終のもので将来撤回はしないと表示したり、遺言を撤回しない旨の契約を受遺者と結んだりしても、なお、その遺言を自由に撤回することができます。

遺言の撤回の方式

遺言を撤回することは遺言者の自由ですが、遺言に一定の方式が必要とされているのと同じ趣旨から、その撤回にも方式が必要とされ、撤回は、「遺言の方式に従って」行われなければなりません(民1022条)。

つまり、遺言を撤回するには、遺言の方式に従った書面で前にした遺言を撤回する旨を明示しなければならず、単に遺言を撤回する旨の意思を表明しただけでは撤回の効力は生じないのです

しかし、遺言を撤回するための遺言の方式は、撤回される遺言と同一の方式による必要はなく、公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回することができ、その逆もできます。

また、遺言の方式に従って遺言を撤回する際、撤回と同時にその書面を遺言書として新たな内容の遺言をすることも、可能です。

ですから、新たに遺言書を作成し、その中に以前にした遺言を撤回する旨を明示したうえ、あなたの現在の意思に沿う遺言をしておけば、以前の遺言は撤回されて初めからなかったのと同じ結果になり、新しい遺言のみが効力を生ずることになるのです。

法定撤回

公正証書遺言の撤回

※「公正証書遺言」「自筆証書遺言」については、「自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言 それぞれ詳しく解説」の記事をご参照ください

公証役場で公正証書遺言を作成すると、原本が公証役場に保管されます。 正本や謄本は遺言者に渡されますが、手元のこれらを破棄しても公証役場に原本が残ったままです。そのため、作成した公正証書遺言を撤回するには、公証役場で撤回の申述をするか、新たに遺言書を作成する必要があります。

公証役場での撤回は、印鑑登録証明書(3か月以内)と実印を用意し、遺言書を作成したときと同じように、証人2名の前で、公証人に対して、公正証書を無かったことにしたい旨を述べて、公正証書に署名捺印します。手数料として11000円かかります(令和4年8月現在)。

ただし、これは、撤回だけを内容とする公正証書を作成した場合のものであり、撤回とともに、新たな又は追加変更した遺言を作成する場合には、新たな又は追加変更した目的の価額により遺言の手数料を算定し、撤回自体の手数料は算定しない扱いです。

公正証書遺言は公証役場で保管されているため、相続人が照会の請求をすれば存在の有無を調べることができ、謄本を請求することができます。

新たに作成する場合は遺言書に「20XX年X月X日に作成した遺言を撤回する」という内容を記載すると新しく作ったものが遺言書としての効力を持ちます。

新しく作った遺言書と混同しないように、古い遺言書の正本と謄本は破棄することを強くおすすめします。

また、遺言書の全部ではなく、不動産部分、金融部分など一部を撤回する場合もあります。一部撤回のとするか全部撤回とするかは修正の量で考えるとよいでしょう。

修正が少ない場合

文字の加入は、その部分に直接記入します。削除したうえで修正する場合には、修正前の内容が読めるように二重線を引き、その付近に修正文言を記載します。修正前の文字が見えないと無効になってしまうので注意しましょう。いずれも、それぞれの箇所に遺言書と同じ印で捺印をします。更に、「〇字加入△字削除」というように記入をして署名をします。

修正箇所が多い場合

「更生」や「補充」という方法を使うといいでしょう。「更生」は「更生証書」、補充は「補充証書」という公正証書をあらたに作成します。更生や補充は遺言を残すという法律行為の本体の内容を変更しない限度で認められます。この手続きも必要書類の提出、公証人による読み上げと署名捺印、などの手続きを行い、公証人手数料を支払う必要があります。

自筆証書遺言の撤回

自筆証書遺言を撤回する方法は、遺言書を自宅で保管しているか、法務局に預けているかによって異なります。

自宅での保管

手元に自筆証書遺言がある場合は遺言書を破棄すれば撤回となります。

法務局での保管

保管中の遺言書については、いつでも保管の申請の撤回を求めることができます(遺言書保管法8条1項)。撤回書を作成し、特定遺言書保管所に出頭し(遺言書保管法8条2項)、提出をして撤回の予約をし、撤回となります。遺言書の法務局保管も撤回も本人でなければできません。また、遺言書撤回のときは撤回書以外特に必要な資料はありません。ただ、撤回の時に本人確認をしますので、本人確認書類(免許書など顔つきのもの)の提示が求められます(遺言書保管法8条3項)。

なお、法務局保管の自筆証書遺言の撤回は、あくまで法務局での保管の撤回ということに注意が必要です。遺言書自体の撤回にはならないため、手元にきた遺言書を破棄し、公正証書遺言の撤回と同様に、新たな遺言書を作成し、以前の遺言書の内容を撤回する旨を記載しましょう。このとき、新たに作成する遺言の方式は公正証書遺言にしておくと、法的効力が担保されるので安心です。

注意点

遺言書を撤回する際には注意点があります。

  • 一度撤回した遺言を再度撤回することはできない

遺言の撤回の撤回はできません。以前撤回した遺言の撤回を撤回するという旨の記載をしても意味がありません。もし一度撤回した遺言を復活させたいという場合は、再度以前の内容と同じ遺言を作り直す必要があります。

  • 新しく作成した遺言書が無効になるリスクがある

公正証書遺言を撤回して、新たに自筆証書遺言を作成したとき、要件を満たしていないと撤回のために作った遺言が無効になってしまうことがあります。こういったリスクを避けるには、新たに作る遺言書も公正証書遺言の方式にすることがよいでしょう。

  • 以前の遺言書を破棄できない

公正証書遺言は原本が公証役場に残るため、必ず撤回の申述を公証役場でするか、別の遺言書を作成しなければなりません。

撤回擬制

遺言の撤回は遺言の方式に従ってするのが原則です。

しかし民法は、例外として、一定の事実が存在する場合には、遺言者の真意に関係なく、遺言の撤回があったものとみなす規定を設けています(民1023条・1024条)。

第1023条
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

第1024条
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

この条文に定められた事実が存在するときは、通常、遺言者には遺言を撤回する意思があるものと考えられますし、遺言の効力をめぐって争いが生ずるのを防止する観点からも、遺言の撤回を擬制して、法律関係を明確にしようとしたものです。

  1. 1前後に遺言が内容的に抵触する場合(抵触遺言、民1023条1項)
  2. 2遺言の内容と、遺言後の生前処分とが抵触する場合(民1023条2項)
  3. 3遺言者が故意に遺言書又は遺贈目的物を破棄した場合(民1024条)

1023条の「抵触する」という範囲について、最高裁は遺言者の実質的意思を考慮して以下のように広く解釈しています。「抵触とは、単に後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にとどまらず、諸般の事情により観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合も包含する」(最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁)。

1024条が適用される場合か否か判断が難しいケースとして、2つの遺言書のうち、破棄しようと思ってなかった方を破棄した場合や、一部について塗りつぶした場合に「破棄」に当たるかは慎重に判断する必要があります。判例は、遺言者が故意に遺言書の文面全体に斜線を引く行為について、その遺言書全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当とし、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し、遺言の撤回をしたものとみなされるとしました(最二小平成27・11・20)。

遺言を撤回する遺言をさらに別の遺言をもって撤回した場合

民法1025条は、遺言を撤回する行為が撤回されたり、取り消されたり、効力を生じなくなったりしても、一度撤回された遺言の効力は、原則として復活しません(本条に用いられている三つの取消しの文言のうち、前の二つは撤回の意味に、三番目のものは総則編にいう取消しと撤回の双方を含む意味に解釈されています)。

前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

遺言者の最終意思を尊重する遺言制度の趣旨から考えると、撤回行為がさらに撤回された場合に遺言が復活するかどうかは、遺言者の真意に従って決せられることになります。

しかし、亡くなった遺言者の真意を明らかにすることは困難なことですし、遺言者の意思の解釈をめぐって無用の争いが生ずるものを防ぐ趣旨からも、原則として復活しないものと定めたわけです。多くの場合、復活させないことが遺言者の真意に沿うことになると考えられます。

右の原則に対する例外として、遺言を撤回する行為が錯誤、詐欺又は脅迫を理由に取り消されたときは、遺言は復活します(民1025条但書)。遺言を撤回したことが遺言者の真意に基づくものではなかったのですから、遺言を復活されるのは当然のことです。なお、債権法改正(平成29年法律44号)前の民法1025条ただし書は、「詐欺」とありましたが「錯誤、詐欺」と改正されました。

なお、民法の規定上は、遺言の復活が認められるのは右に述べた例外の場合だけですが、遺言者の真意が明らかに遺言の復活を希望するとみられる場合にも、復活しないとの原則を貫いくことには疑問を唱える学説が有力であり、同じような考え方を探って復活を認めるのが相当であるとした下級審の裁判例もあります(津地判昭36・11・18)。

この問題については、最近、「遺言者の記載に照らし、遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望するものであることが明らかなときは、当初の遺言の効力が復活する。」として、非復活主義の例外を認めた最高裁の判例が出ました(最判平9・11・13)。

まとめ

本件の質問に戻ります。二年前に書いた遺言書の件でしたね。

以前にした遺言を撤回して、更に遺言で遺産の分け方を決めておきたい考えのようですから、新たに遺言書を作成し、その中で以前にした遺言を撤回する旨を明示したうえ、質問者の現在の意思にそう遺言するか、あるいは、以前に作成した遺言書を焼却するなどして、改めて現在の意思に沿う遺言書を作成するのがよいでしょう。

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