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弁護士コラム

無効の遺言は、死因贈与として認められる?

家族信託・遺言書作成
投稿日:2022年07月22日 | 
最終更新日:2022年07月22日
Q
無効な自筆証書遺言が、死因贈与契約書面として認められることはありますか?
Answer
無効な自筆証書遺言が死因贈与契約書面として認められることはありません。

しかし、遺言書作成時の状況によっては、無効な遺言書によって贈与契約の申込みの意思表示があったといえるときがあります。
さらに、遺言者の生前に受贈者の承諾の意思表示があったといえるときは、死因贈与契約の口頭での成立が認められることもあります。

自筆証書遺言については、こちらの記事もご参照ください。

解説

死因贈与とは

死因贈与とは、あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との合意(申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致)によって成立する贈与契約(贈与者の死亡を効力発生時期とするもの)のことです(民法554条)。

遺贈は、契約ではなく単独行為(遺言者の一方的な意思表示で成立し、受遺者の承諾を要しない)であるため、厳格な要式が定められている(定められた要式を欠くと無効になる)のに対し、死因贈与は契約であるため、特別の要式は定められておらず、口頭であっても成立します(この点について、最高裁判所昭和32年5月21日判決は、「民法554条の規定は、死因贈与の効力については遺贈に関する規定に従うべきことを規定しただけで、その契約の方式についても遺言の方式に関する規定に従うべきことを定めたものではない」と判断しています)。

遺言との関係

遺言は要式行為であり、民法で定められた方式によらなければすることができません(民法960条)。自筆証書遺言も方式が法定されており、全文・日付・氏名を自書し、押印しなければなりません(民法968条)。

これらのどれを欠いても自筆証書遺言は無効となり、遺言としての効力は発生しません。

問題は、贈与する旨が記載された自筆証書遺言が要式を欠いて無効である(遺贈としての効力は発生しない)としても、死因贈与として救済できないかという点です。

受贈者が贈与者の死後、遺言書の記載を見て初めて贈与の申込みの意思表示を知ったときは、受贈者が承諾の意思表示をしたくても、既に贈与者は死亡しており承諾の意思表示をすることができないため、死因贈与契約は成立しません。

この点について、民法526条が「申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。」と規定していますが、参考になります。

裁判例(死因贈与契約の成立を認める余地がある、とされたもの)

これに対し、受贈者が贈与者の生前に遺言の内容を知っており、贈与者の生前に受贈者の承諾の意思表示がなされたといえる事情があるときは、受贈者の承諾の意思表示がなされた時点で死因贈与契約の成立を認める余地があります。

具体例の代わりに、裁判例をご紹介します。

まず、水戸家庭裁判所昭和53年12月22日審判は、押印を欠く自筆証書遺言について、遺言としては無効であるが、遺言書の記載内容から死因贈与の申込みの意思表示がなされたものと認められ、遺言書の作成時点において受贈者による承諾の意思表示がなされたことも認められるから、遺言書の作成時点において死因贈与契約が成立したと判断しています。

つぎに、東京地方裁判所昭和56年8月3日判決は、作成日付の記載を欠く自筆証書遺言について同趣旨の判断をしています(遺言者が受贈者に遺言書を直ちに手渡したケース)。

そして、広島高等裁判所平成15年7月9日判決は、遺言者が弟に口述筆記させた遺言について、次のとおり詳細に判断しています。

「死因贈与は、遺贈と同様に死亡が効力発生要件とされているため、遺贈に関する規定が準用されるが(民法554条)、死因贈与の方式については遺贈に関する規定の準用はないものと解される(最判昭和32年5月21日民集11巻5号732頁参照)。したがって、遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも、死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められるときは、無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ、相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは、死因贈与の成立が肯定されると解せられる。」

「亡Dは、死期が迫っていることを悟り、死後自己所有の財産を、敢えて養子である原審原告を除外して、実子である原審被告らに取得させようと考え、本件遺言書を作成したのであり、その目的は、専ら、死亡時に所有財産を原審被告らに取得させるという点にあったこと、遺言という形式によったのは、法的知識に乏しい亡Dが遺言による方法しか思い付かなかったからであり、その形式にこだわる理由はなかったこと、そのため結局遺言としては無効な書面を作成するに至ったこと、亡Dは、本件遺言書の作成当日、Fを介し、受贈者である原審被告らにその内容を開示していること等の点にかんがみれば、本件遺言書は死因贈与の 意思表示を含むものと認めるのが相当である。」

「原審被告Bは、本件遺言書作成には立ち会ってはいなかったものの、その直後に亡Dの面前でその内容を読み聞かされ、これを了解して本件遺言書に署名をしたのであるから、このときに亡Dと原審被告Bとの間の死因贈与契約が成立したといえる。また、原審被告Cは、本件遺言書に署名することはなかったものの、本件遺言書作成日に、病院内で、Fから本件遺言書の内容の説明を受け、これに異議はない旨述べた上、 亡Dを見舞い、その際にも本件遺言書の内容に異議を述べることもしなかったのであるから、亡Dに対し、贈与を受けることを少なくとも黙示に承諾したものというべきであり、このときに、亡Dと原審被告Cとの間の死因贈与契約が成立したといえる。」

補足

死因贈与契約の成立が認められるときは、受贈者は、死因贈与契約の内容を実現するために、家庭裁判所に対し、遺言執行者の選任を求めることができます(この点について、広島高等裁判所平成元年11月21日判決は、「原則として、死因贈与においても、民法1010条に基づく執行者の選任は許されるものと解するのが相当である。」と判断しています)。

まとめ

このように、無効な自筆証書遺言が死因贈与契約書面として認められることはありませんが、遺言書の作成時及び作成後の状況によっては、贈与の申込みの意思表示と受贈者の承諾の意思表示があったといえることがあり、その場合には死因贈与契約の成立が認められます

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