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弁護士コラム

相続時精算課税制度ってどんな制度?【具体例付き】

相続税・事業承継対策
投稿日:2023年01月12日 | 
最終更新日:2023年01月12日
Q
「相続時精算課税制度」とは、どのようなものでしょうか?
Answer
「相続時精算課税制度」とは、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です。
本記事でわかりやすくご説明します。

「相続時精算課税制度」とは

「相続時精算課税制度」とは、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です(相続税法第二十一条の九以下参照)。

より具体的には、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる、贈与税の制度です。

累計2,500万円までは当面非課税、超えた部分について20%の税率で納税し、贈与者の相続税申告において税額を精算しますから、この制度下での贈与を全額が相続の前渡しと考える制度といえます。

(相続税法)第二十一条の九 第一項
贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうち…十八歳以上であるものに限る。)であり、かつその贈与をした者が…六十歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、この節(注:「第三節 相続時精算課税」のこと)の規定の適用を受けることができる。

なお、相続時精算課税制度のあらましについては、国税庁のホームページ「参考 相続時精算課税制度のあらまし」でもご確認をいただけます。

少し詳しく

相続時精算課税の方式

そもそも、贈与税の課税方式には2つあります。

1つは、現行の暦年単位による課税方式です。

もう1つは、本記事でご説明する、相続時精算課税制度による課税方式です。

例えば、あなたが、あなたのお父様から3000万円の贈与を受けたとしましょう。

相続時精算課税の方式により、具体的な贈与税額を設定すると、次のようになります。

課税価格 :3000万円
特別控除額:2500万円
→差引課税価格:500万円(3000万円ー2500万円)
税率:20%
→500万円×20%=100万円

以上の計算式より、相続時精算課税の方式を選択した場合の税額は、100万円になります。

なお、特別控除額の2500万円や、20%の税率については、国税庁のホームページ「相続時精算課税の選択」でもご確認いただけます。

【コラム】:暦年課税の方式

他方、上記の例を、暦年課税の方式により計算すれば、次のようになります。

<具体例①>

特例贈与財産(*下記の「※注意点その1」もご参照ください。)を取得した場合

課税価格 :3000万円
基礎控除額:110万円
→差引課税価格:2890万円(3000万円ー110万円)
税率 :45%
控除額:265万円
→2890万円×45%-265万円=1035.5万円

なお、<具体例①>の45%の税率や265万円の控除額、下記の<具体例②>の50%の税率や250万円の控除額については、基礎控除後の課税価格との対応関係を、ら国税庁のホームページ「贈与税の計算と税率(暦年課税)」でもご確認をいただけます。

<具体例②>

一般贈与財産(*下記の「※注意点その2」もご参照ください。)を取得した場合

課税価格 :3000万円
基礎控除額:110万円
→差引課税価格:2890万円 (※ここまでの計算式は<具体例①>と同じです)
税率 :50%
控除額:250万円
2890万円×50%-250万円=1195万円
 

以上の計算式より、暦年課税の方式を選択した場合の税額は、贈与財産の性質により、特例贈与財産なら1035.5万円、一般贈与財産なら1195万円になります。

※注意点その1:特例贈与財産とは、直系尊属(父母や祖父母など)から、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限られます。)が、その贈与により取得した財産のことです。

※注意点その2:一般贈与財産とは、贈与により取得した財産のうち、特例贈与財産以外の財産のことです。

特例の趣旨

では、なぜこのような相続時精算課税の方式が、特別に用意されているのでしょうか。

それは、現在、国民の高齢化及び長寿化が進展していることをふまえ、高齢者の保有する資産の次世代への移転(贈与)を促進するためです。

相続時精算課税の方式では、上記の具体例の通り、相続段階ではなく、贈与段階で課税をします。したがって、相続時の精算を前提とする概算前払いの性格を指摘することができます。相続時精算課税制度は、贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。

贈与する財産によって、以下のような意義があるといえるでしょう。

  1. 1財産価値が贈与時と相続時で変わらない場合...贈与税の先延ばし
  2. 2将来、値上がりする資産...値上がり価値を無税で後継者に移転
  3. 3収益付きの資産...収益を無税で後継者に移転

※  将来、値下がりする資産...相続時に贈与時の高額評価で再課税されるため、不利益になるので注意しましょう。

特例の適用対象者

相続時精算課税制度という特例の適用対象者は、次の通りです。

まず、贈与者は、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母です。

次に、受贈者は、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人(*下記の「※注意点その3」もご参照ください。)または孫となります。

*注意点その3:推定相続人とは、贈与をした日現在において、その贈与をした人の相続人のうち、最も先順位の相続権(代襲相続権を含みます。)のある人のことです。相続時精算課税制度の特例の適用対象者となるのは、推定相続人のうち18歳以上の直系卑属(子や孫)です。なお、孫は、推定相続人になる、ならないにかかわらず、18歳以上であれば適用対象者となります(したがって、養子縁組をしていない義父母からの贈与は相続時精算課税の制度を適用できません)。この推定相続人であるかどうかの判定は、その贈与の日において行います。

(相続税法21条の9、相続税法基本通達21の9-1参照)。

【参考】

贈与者がその贈与の年の1月1日において60歳未満であっても、住宅用の家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合には、一定の要件を満たすときは、例外的に相続時精算課税を選択することができます。

詳しくは、国税庁のホームページ「相続時精算課税選択の特例」でもご確認をいただけます。

贈与税の計算(特例の場合)

相続時精算課税制度という特例を利用する場合には、贈与税の計算方法が一部修正され、以下のようになります。

a. 課税価格の計算方法

まず、課税価格は、贈与者ごとに、特例を選択した年以後の各年において、贈与により取得した財産の価額の合計額となります。

(相続税法)第二十一条の十
相続時精算課税適用者(*下記の「※注意点その4」もご参照ください。)が特定贈与者(*下記の「※注意点その5」もご参照ください。)からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとにその年中において贈与により取得した財産の価額を合計し、それぞれの合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。

※注意点その4:相続税法21条の9第2項の届出書を提出した者、すなわち、特例を選択した者を「相続時精算課税適用者」といいます(相続税法21条の9第5項参照)。

※注意点その5:相続税法21条の9第2項の届出書に係る第一項の贈与をした者、すなわち、特例を選択して贈与をした者を、「特定贈与者」といいます。

b. 特例の適用・否定の特則

上記の「*注意点その3」にも記載のとおり、推定相続人であるかどうかの判定は、その贈与の日において行います。

したがって、養子縁組をしていない義父母からの贈与、言い換えれば、推定相続人となった時以前に取得した財産については相続時精算課税の制度を適用できません。

(相続税法)第二十一条の九 第四項
その年一月一日において十八歳以上の者が同日において六十歳以上の者からの贈与により財産を取得した場合にその年の中途においてその者の養子となつたことその他の事由によりその者の推定相続人となつたとき(配偶者となつたときを除く。)には、推定相続人となつた時前にその者からの贈与により取得した財産については、第一項の規定の適用はないものとする。

c. 特例の適用・肯定の特則

特例の適用を受ける受贈者が、贈与者の推定相続人でなくなった場合においても、その特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特例の適用が認められます。

(相続税法)第二十一条の九 第五項
…相続時精算課税適用者…が、…特定贈与者…の推定相続人でなくなつた場合においても、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第三項の規定の適用があるものとする。

d. 特別控除額と税率

特別控除額は、2500万円とされています。また、贈与税の税率は、20%とされています。

(相続税法)第二十一条の十二 第一項
相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格
(相続税法)第二十一条の十三
相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに、第二十一条の十の規定により計算された贈与税の課税価格(前条第一項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除後の金額)にそれぞれ百分の二十の税率を乗じて計算した金額とする。

特定贈与者の相続税申告時の精算計算

 相続時精算課税を選択した受贈者の特定贈与者の相続に係る相続税は、相続・遺贈取得財産の価額と相続時精算課税の適用を受けた全贈与財産の贈与時の課税価額との合計額にかかる相続税額から、相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。

 相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、還付を受けることができます。

特例の適用手続き

a. 届出書の提出

特例の適用をうけようとする受贈者は、特定贈与者から最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、所轄税務署長に届出書を提出する必要があります。

なお、この届出書は、撤回することができないため、注意が必要です。

(相続税法)第二十一条の九 第二項
前項の規定の適用を受けようとする者は、政令で定めるところにより、第二十八条第一項の期間内に前項に規定する贈与をした者からのその年中における贈与により取得した財産について同項の規定の適用を受けようとする旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
(相続税法)第二十一条の九 第六項
相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない
(相続税法)第二十八条 
贈与により財産を取得した者は、その年分の贈与税の課税価格に係る…贈与税額…が第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものであるときは、その年の翌年二月一日から三月十五日まで…に、課税価格、贈与税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

b. 届出後の計算

上記の届出書を提出した年分以降は、届出書に記載の特定贈与者からの贈与により取得する財産については、特例の適用により贈与税額が計算されていくことになります。

(相続税法)第二十一条の九 第三項
前項(注:第二十一条の九 第二項のこと)の届出書に係る贈与をした者からの贈与により取得する財産については、当該届出書に係る年分以後、前節及びこの節の規定により、贈与税額を計算する。

c. 贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合

贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合、特例の適用を受けるためには、「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。

この場合、「相続時精算課税選択届出書」の提出期限は、次の通りです。

  1. 1贈与税の申告書の提出期限(通常は、贈与を受けた年の翌年の3月15日)
  2. 2贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限(通常は、相続の開始の日の翌日から10か月を経過する日)

贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合について、詳しくは、国税庁のホームページ贈与者が贈与した年の中途に死亡した場合の相続時精算課税の選択」でもご確認をいただけます。

届出書の提出義務の承継

贈与により財産を取得した者(被相続人)が、届出書の提出期限前に当該届出書を提出しないで死亡したときは、どのようにしたらよいでしょうか。

このような場合には、特例(第21条の9第1項の規定)の適用を受けることができることを前提に、届出書の提出期限が実質的に延長されます。

具体的には、被相続人の相続人(*下記の「※注意点その6」もご参照ください。)において、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10箇月以内に、届出書を被相続人の納税地の所轄税務署長に提出することができることになっています(相続税法第二十一条の十八参照)。

※注意点その6:被相続人の相続人からは、贈与をした当の本人(贈与者)は除かれるため、注意が必要です。

(相続税法)第二十一条の十八 
贈与により財産を取得した者(以下この条において「被相続人」という。)が第二十一条の九第一項の規定の適用を受けることができる場合に、当該被相続人が同条第二項の規定による同項の届出書の提出期限前に当該届出書を提出しないで死亡したときは、当該被相続人の相続人(当該贈与をした者を除く。以下この条において同じ。)は、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内…に、政令で定めるところにより、当該届出書を当該被相続人の納税地の所轄税務署長に共同して提出することができる

相続時精算課税利用の留意点

ここまで、相続時精算課税制度について、具体的に説明をしてきましたが、この制度を利用する場合には、以下の3点を留意する必要があるでしょう。

  1. 1相続時精算課税適用財産は、相続時に合算精算されますが、特定贈与者の資産が合算されても相続税の基礎控除以下の場合は、結果的に税負担がなくなります。
  2. 2相続時精算課税では、特定贈与者の相続時に受贈財産が消費されてなくなっていても、相続税の課税が行われます。受贈者において注意してください。
  3. 3受贈者が特定贈与者より先に亡くなった場合は、相続税における精算の負担が次世代に承継されます。受贈者が病弱な場合等には、相続時精算課税の適用については、注意が必要です。

相続税に関するご相談は、弁護士まで

「相続時精算課税制度」とは、贈与税・相続税を通じた課税が行われる制度です。

より具体的には、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

この制度を利用するためには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出することが必要です。

相続時精算課税制度は、相続税対策等で利用されることも多くあります。

本記事で説明をした事項のほか、生前贈与加算と相続時精算課税の加算に関わる問題、遺産分割や遺留分トラブルに際しての相続時精算課税制度の問題等、相続時精算課税には複雑な問題が多数あります。

制度の利用に際しては、本記事をご参照のうえ、専門家へご相談されることをおすすめします。当事務所の弁護士にも、お気軽にお問い合わせください。

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