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弁護士コラム

【相続税について】遺産分割が完了していない場合の申告・納付

相続税・事業承継対策
投稿日:2022年07月22日 | 
最終更新日:2022年07月22日
Q
未分割遺産の課税は、どうなりますか?
Answer
遺産分割が未了のときは、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合に従って相続財産を取得したものとして自分の相続税を計算し、相続税を申告・納付することになりますが(未分割であることを理由とする相続税の申告の猶予は認められていません)、未分割のままでは適用することができない相続税の優遇措置もあります。
遺産分割が確定した段階で、更正の請求や修正申告をして相続税の過不足を調整することになりますが、遺産分割の際に相続税の過不足を相続人間で調整することで処理することもできます。

相続税について

 相続人や受遺者が負担する相続税の具体的金額は、相続税の総額を計算した上で、相続又は遺贈によって得た財産の価額に応じて相続税の総額を按分するという方法で計算します。

 遺言によって遺贈や遺産分割方法の指定がなされると、受遺者(遺贈を受けた人)や分割方法を指定された相続人は、遺言者の死亡時に直ちに当然に遺産を取得することになります(大審院大正5年11月9日判決、最高裁判所平成3年4月19日判決)。

そのため、遺言者の死亡によって遺贈や遺産分割方法を指定する遺言の効力が発生すると、遺産分割方法を指定された相続人や遺贈された受遺者は遺産を直ちに取得することになり、取得した遺産の価額に応じて遺産を取得した相続人や受遺者が負担する相続税額が決まり、各人に対して相続税が課税されることになります。

 しかし、被相続人が遺言を残さず死亡したときは、相続人全員の合意による遺産分割協議をしなければなりません(遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を、それでもまとまらない場合には、最終的に遺産分割審判で決めることになります)。

相続税の申告期限(相続の開始があることを知った日の翌日から計算して10か月以内。相続税法27条1項)までに遺産分割ができないときは未分割状態のまま相続税を計算し、相続税を納付しなければなりません(未分割であることを理由とする相続税の申告の猶予は認められていません)。

具体的には、相続人または包括受遺者は、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合に従って相続財産を取得したものとして、それぞれの相続人ないし包括受遺者の課税価格を計算するものとされています(相続税法55条本文)。

なお、後に遺産分割が確定したときは、確定した遺産分割に従って各人の課税価格を再計算し、更正の請求や修正申告を行ったり(相続税法55条ただし書)、相続人間で協議して清算したりすることによって、相続税額の過不足を調整することになります。

特別受益があるとき

 遺産分割調停や審判が長期化する原因のひとつに特別受益があります。特別受益とは、被相続人から相続人に対する遺贈、婚姻・養子縁組・生計の資本のためにした贈与のことです(民法903条)。特別受益は、原則として相続財産に持ち戻されますが、被相続人による明示・黙示の持ち戻し免除の意思表示があれば相続財産に持ち戻さずに済みます。

 事例で説明します。

被相続人が死亡し、相続人として長男と長女がいます。長男は私立の医学部に進学したので学費が4000万円かかりましたが、長女は国立大学(文系)に進学したので学費は250万円でした。相続財産は5000万円です。長男と長女の法定相続分は2分の1ずつです。

 このとき、相続財産5000万円+長男の学費4000万円(長男の特別受益)+長女の学費250万円(長女の特別受益)=9250万円を長男と長女が2分の1ずつ(4625万円ずつ)相続することになります(特別受益を相続財産に加算することを「持ち戻し」と言います)。

長男は4000万円の特別受益(医学部の学費)があるので625万円を取得し、長女は4375万円(2分の1である4625万円-学費250万円)を取得することになります。

 ここまでシンプルであればよいのですが、実際は、「お兄ちゃんだけ高額の塾代を出してもらったとか高級車を買ってもらった」とか「病院建設費を出してもらった」とか、そうは言うが妹よ、「お前も結婚式や新婚旅行の費用を出してもらった」とか「家を建てるときに援助してもらった」とか「旦那が再就職先を見つけるまでの数年間の生活費を援助してもらった」とか、これまで我慢していた様々な不満点が噴出することになります。

「もらった、もらってない」の争いから、「もらったが、そんなにもらってない」の争いになり、最終的には「これだけもらったが、持ち戻し免除の黙示の意思表示があった」という争いになります。

 特別受益の金額と持ち戻し免除の有無が確定しなければ、それぞれの相続人がいくらの相続財産を取得するのかが確定しないため、それぞれの相続人ないし包括受遺者の課税価格を相続税法55条に定められた計算方法によって計算することができないようにも思えます。

 しかし、相続税の対象になるのは、遺贈(相続税法2条)と相続開始から3年以内の贈与(相続税法19条1項)に限定されます。そのため、民法上の争いがあるとしてもとりあえず横に置いておき、相続税の申告・納付をする際は、これらを相続財産に加算した上でそれぞれの相続人ないし包括受遺者の課税価格を計算すればよいことになります。

 なお、生命保険金や死亡退職金は、民法上の相続財産ではありませんが、相続税法上では相続財産とみなされます(相続税法3条)。相続税基本通達55-2は、それぞれの相続人ないし包括受遺者の課税価格は、民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に応ずる本来の相続財産価額に加算して計算するものとすると規定しています。

相続税の優遇措置の不適用

 相続税には様々な優遇措置がありますが、その中には未分割の遺産に適用することができないものもあります。このようなときは、優遇措置が適用できる遺産だけでも先行して一部分割しなければなりません。

 未分割の遺産に適用することができない優遇措置には、次のものがあります。

  1. 1配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)
  2. 2小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)
  3. 3農地等についての相続税の納税猶予等の制度(租税特別措置法70条の6)
  4. 4相続税の一括納付が困難なときの延納(相続税法38条)や物納(相続税法41条)

①と②について、未分割の遺産に適用することができないため(相続税法19条の2第2項、租税特別措置法69条の4第4項)、これらの適用がないものとして相続税を計算して申告・納付しなければなりません。

ただし、相続税の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付すれば、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が確定した時点でこれらの適用を受けることができます。

また、遺産分割調停や民事訴訟の提起などやむを得ない事情によって申告期限後3年以内に遺産分割ができないときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から計算して2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して税務署長の承認を受けることで、申告期限後3年を経過した後でもこれらの適用を受けることができます。

なお、これらの適用を受けるためには、遺産分割の日の翌日から計算して4か月以内に更生の請求をしなければなりません(相続税法32条1項8号、租税特別措置法69条の4第5項)。

③について、農地等について相続税の納税猶予を受けるには、その農地等が相続税の申告期限までに分割されていなければなりません(租税特別措置法70条の6)。

④について、共有財産の持分(未分割だと各相続人は相続分に応じた持分を取得していることになります)は、延納の担保にすることができず、物納の対象にすることもできません。

遺産分割が確定したときの処理方法

 未分割の状態で相続税を申告・納付した後に遺産分割が確定したときは、納付した相続税と実際の相続税との過不足を調整する必要があります。

 申告・納付済みの相続税が過大であるときは、4か月以内に更正の請求を行い(相続税法32条1項1号)、還付を受けることができます。これに対し、申告・納付済みの相続税が過少であるときは、税務当局による更正処分がなされるまでの間であれば修正申告(相続税法31条1項)をして、不足分の税額を納付することができます(自ら修正申告をすれば、過少申告加算税や延滞税の対象にはなりません。過少申告加算税について国税通則法65条2項、延滞税について相続税法51条2項1号ハ)。

 なお、未分割の状態での相続税の総額と遺産分割が確定した時点での相続税の総額とが同額であれば、遺産分割による相続税の負担額を遺産分割案に反映させることで調整し、更生の請求や修正申告をしないで処理することもできます。

まとめ

 このように、未分割であることを理由とする相続税の申告の猶予は認められていないことから、未分割のままであっても仮計算した上で相続税を申告・納付しなければなりません。

 ただし、遺産分割が確定し、納付した相続税と実際の相続税とで過不足が発生したときは、相続人間で協議するなり、税務署に対して更正の請求や修正申告をするなりして調整することができます。

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