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弁護士コラム
相続分の譲渡とは?相続放棄との違いについても解説
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年07月25日 |
最終更新日:2022年07月25日
- Q
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「相続分の譲渡」とはどのようなことを言うのでしょうか?
相続分の一部譲渡も含めて、具体的に教えてください。
- Answer
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相続分の譲渡とは、相続人が自分の相続権を他の相続人や第三者へ譲り渡すことをいいます。有償でも無償でも相続分の譲渡はできます。譲渡の相手先は相続人でも相続人以外の第三者でもかまいません。相続分を全部譲渡した相続人は権利を失うので、遺産分割協議に参加する必要はなくなります。
たとえば子ども3人(長男と次男と三男)が相続人となっているケースにおいて、三男が自分の相続分を全部長男に譲渡したとしましょう。すると長男の相続分が3分の2となり次男の相続分は3分の1のままです。結果として遺産分割協議は長男と次男の2人が進めていくことになります。
相続分は全部の譲渡も一部の譲渡も可能です。たとえば上記と同じ事案で三男が自分の相続分の2分の1(全体の6分の1)を長男に譲渡すると、長男の相続分が2分の1、次男が3分の1、三男が6分の1となります。この場合、三男は相続分を失わないので遺産分割協議に参加しなければなりません。
目次
相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、相続人が自分の相続分を他の人へ譲り渡すことをいいます。
民法により、法定相続人にはそれぞれ法定相続分が認められます。
相続分も一種の権利として譲渡対象になるので、相続人は自分の相続分を他人へ譲渡できるのです。
たとえば子どもが3人相続人となっている場合、遺言がなければそれぞれの子どもの相続分は3分の1ずつです。三男が長男に相続分を全部譲渡したら長男の相続分が3分の2となりますし、三男が自分の妻へ相続分を全部譲渡したら長男と次男と三男の妻がそれぞれ3分の1ずつの相続権を取得します。
譲渡は有償でも無償でもかまわない
相続分の譲渡は、有償でも無償でもできます。
つまり相続分を売却しても贈与してもかまわない、という意味です。
たとえば三男が長男へ相続分を売却して早期に現金化することもできますし、無償で妻や三男自身の子どもに譲渡してもかまいません。
相続分譲渡の相手先
相続分譲渡の相手先は、相続人でもその他の第三者でもかまいません。
たとえば三男が長男へ相続分を譲渡する場合、相手先は「相続人」となります。
一方で、妻や知人友人、三男の子どもなどへ譲渡する場合には、相手先は「第三者」となります。
譲渡されるもの
相続分の譲渡があったときに譲渡されるものは、抽象的な「相続分」です。ここには資産だけではなく負債や権利などすべてが含まれます。そこで被相続人が借金していた場合には、負債も相続分に応じて引き継がれます。
たとえば2人の子どもが相続人となっているケースにおいて、資産が2000万円、負債が1000万円あるとしましょう。
この場合、次男が自分の相続分を妻に譲渡したら、妻は1000万円分の資産取得権だけではなく500万円分の負債の支払義務も負ってしまいます。
相続分を譲渡するとプラスの資産だけではなくマイナスの負債も法定相続分に応じて引き継がれるので、注意が必要です。
もともとの相続人も負債を免れない
相続分を譲渡すると譲渡人は遺産を受け取れなくなります。
一方、負債については免れないので注意しなければなりません。
相続分が譲渡されると譲受人が負債を引き継ぎますが、譲渡人(もともとの相続人)も負債の支払義務を負ったままになるのです。
たとえば2000万円分の資産と1000万円分の負債が遺された事案で(相続人は長男と次男)次男が妻へ相続分を譲渡したとしましょう。妻は1000万円分の資産を引き継ぐ権利が認められ、500万円についての負債を払わねばならない義務を負います。
一方、次男本人は1000万円分の資産を引き継ぐ権利を失いますが、500万円分の負債は支払わねばなりません。
相続分の譲渡をしても負債の支払義務がなくならないので、被相続人に負債のある事案では相続分の譲渡に慎重な態度で臨むべきです。
他の相続人への通知や承諾は不要
相続分を譲渡するために他の相続人の許可は不要です。他の相続人に通知したり他の相続人による承諾を得たりしなくても、相続人は自分の相続権を他人へ譲り渡せます。
ただし現実に相続分の譲渡を行う際には、他の相続人へ「通知書」を送るべきです。理由は後述します。
相続分譲渡の対抗要件
相続分譲渡は他の相続人に対する通知や他の相続人による承諾がなくても「成立」します。
ただ、他の相続人へ「対抗(主張)」できるかどうかは別途検討しなければなりません。
他の相続人は、相続分譲渡について連絡を受けなければ相続分譲渡が行われた事実を知る術がありません。誰と遺産分割協議を進めれば良いのかも判断がつかないでしょう。
また後述のように他の相続人には「相続分の取戻権」が認められます。この権利を行使するためにも、相続分の譲渡の事実を知らねばなりません。
そこでトラブルを避けるためにも相続分の譲渡者は他の相続人へ相続分譲との通知を行うべきといえます。
相続分譲渡の通知と対抗要件について
次に相続分譲渡の通知が「対抗要件」になるかどうかについて、みてみましょう。
対抗要件とは、その条件を備えないと権利を主張できない事項をいいます。
他の相続人への通知が対抗要件となれば、譲渡人は他の相続人への通知書を送らない限り他の相続人へ相続分の譲渡を主張できません。一方、対抗要件でないとすると通知や承諾がなくても他の相続人へ相続分譲渡の効力を主張できます。
法律上、他の相続人への通知や他の相続人による承諾が対抗要件となるかどうかについては、争いがあり一律の理解ではありません。裁判例でも、通知や承諾を対抗要件とするものとしないものがあります。
通知や承諾を対抗要件とする裁判例は、通知や承諾がないと他の相続人が相続分譲渡を知る機会がないこと、債権譲渡に類似していることなどを根拠としています。
一方で通知や承諾を対抗要件としない裁判例は、譲受人を保護する必要性を重視しています。
多数説は「対抗要件とすべき」とする考え方です。
裁判例でも判断が分かれている以上、通知が対抗要件と判断される可能性があります。結論としては、相続分の譲渡をする際には他の相続人への通知書を送るのが無難な対応といえるでしょう。
相続分の一部譲渡も可能
相続分については、一部の譲渡も可能です。
たとえば法定相続分が2分の1認められる方がその半分のみを第三者へ譲渡してもかまいません。
その場合、譲渡人の相続分は4分の1となり、譲受人の相続分も4分の1となります。
譲渡人と譲受人の両方が遺産分割協議に加わって遺産分割方法を決めなければなりません。
遺言があった場合の相続分の譲渡
遺言がなければ法定相続人に法定相続分が認められるので、それぞれの法定相続人は自分の相続分を譲渡できます。
一方、遺言書があると法定相続人の相続分が変更される可能性があります。その場合、相続分の譲渡はどのようになるのでしょうか?
遺言があった場合に相続分の譲渡ができるかどうかは、遺言の方法によって異なってきます。
相続分が指定された場合
1つ目は、遺言によって相続分が指定された場合です。
たとえば「長男の相続分を2分の1、次男の相続分を4分の1、三男の相続分を4分の1とする」などと書かれているケースを想定しましょう。
この場合、それぞれの相続人は自分の相続分を譲渡できます。
包括遺贈の場合
2つ目は包括遺贈が行われた場合です。
たとえば「長男に遺産の2分の1を遺贈する」などと書かれているケースを想定しましょう。
包括遺贈の場合、受遺者は遺贈された割合に応じて負債も引き継ぎます。相続分を指定されたのと同じ状況となるため、相続分の譲渡が可能です。
特定遺贈の場合
特定遺贈の場合には相続分の譲渡ができません。
特定遺贈とは、特定の資産を指定した遺贈で、たとえば「長男に○○銀行の預貯金を遺贈する」などと書かれているケースです。
特定遺贈の場合、受遺者は負債を承継しません。また具体的に遺贈対象となる遺産が指定されており、遺贈対象は「相続分」ではありません。
よって特定遺贈の場合には遺贈された遺産についての「相続分の譲渡」ができないのです。
ただし受遺者が法定相続人であればもともとの法定相続分があるので、そちらについては譲渡できます。
相続分の譲渡と相続放棄の違い
相続分の譲渡と相続放棄については、よく混同されるケースがあります。両者の違いをみておきましょう。
相続放棄とは
相続放棄とは「資産も負債も一切受け取らない」と宣言することです。
相続放棄した人ははじめから相続人ではなかった扱いとなるので、一切の遺産を受け継ぎません。負債があっても相続せずに済むので、借金を相続したくない方などがよく利用しています。
相続放棄の手続きを行うには家庭裁判所へ必要書類を提出して「申述」する必要があります。また「自分のために相続があったことを知ってから3か月」という熟慮期間内に手続きをとらねばなりません。
手続き方法の違い
相続放棄と相続分の譲渡では、まず手続きの方法が異なります。
相続放棄の場合、家庭裁判所で申述しなければなりません。
相続分の譲渡の場合には、譲渡人と譲受人が話し合って贈与や売買の契約をすれば完結します。
一部譲渡ができるかどうかの違い
相続放棄の場合、一部の放棄はできません。放棄するなら相続人としての地位を完全に失うことになります。
相続分の譲渡であれば一部の譲渡ができ、その場合相続人としての地位が残ります。
期間制限の違い
相続放棄の場合、熟慮期間内に家庭裁判所で申述しなければ基本的に受理されなくなってしまいます。
相続分の譲渡にはこのような期間制限はありません。遺産分割方法が決定されるまでの間であれば譲渡ができます。
相手先を選べるかどうかの違い
相続放棄すると、放棄者は初めから相続人ではなかったことになるので、放棄者がいないことを前提に法定相続人や法定相続分が決まります。放棄者が自分の相続分の行き先を指定することはできません。
相続分の譲渡の場合には、譲渡人と譲受人が個別に契約を締結するので、譲渡人は譲渡先を選べます。
負債の取り扱い
相続放棄すると、放棄者は一切の負債を相続せずに済みます。資産は承継できなくても負債を全額免れるメリットは大きいといえるでしょう。
一方、相続分の譲渡をしても、譲渡人には負債の支払い義務が残ります。借金を引き継ぎたくないなら相続分の譲渡ではなく相続放棄すべきです。
有償でできるかどうかの違い
相続放棄する場合、誰かに相続分を売るわけではないので無償で放棄するしかありません。
相続分の譲渡であれば有償でできます。誰かに有償で相続分を譲渡したら、早期に現金を得られるメリットがあるといえるでしょう。
相続分譲渡の方法
相続分を譲渡したいときには、以下の流れで進めるのが一般的です。
STEP1 譲渡人と譲受人が合意する
まずは譲渡人と譲受人が話し合い、相続分の譲渡やその条件について合意します。
STEP2 契約書を作成する
相続分の譲渡は口頭でも成立しますが、口頭では証拠が残りません。譲渡条件などについて後に争いが発生するリスクもあります。
相続分の譲渡を行う際には、必ず契約書を作成しましょう。
STEP3 相続分譲渡証明書を作成する
相続分譲渡を行うと、不動産の登記申請などの場面で「相続分譲渡が行われた事実」を証明しなければなりません。
そこで「相続分譲渡証明書」を作成するのが一般的です。
STEP4 相続人譲渡通知書を作成して発送する
先にもご説明したように、相続分の譲渡は他の相続人へ通知しないと対抗できないという考え方が有効です。またトラブルを避けるためにも通知は行っておくべきといえるでしょう。
相続分を譲渡するなら「相続人譲渡通知書」を作成し、他の相続人へと速やかに発送すべきです。
STEP5 遺産分割協議を行う
有効に相続分の譲渡ができたら、相続人が全員参加して遺産分割協議を行います。
遺産分割協議に参加するのは、全部譲渡の場合には譲受人と他の相続人となります。
一方、一部譲渡の場合には譲渡人と譲受人、他の相続人が遺産分割協議に参加します。
なお他の相続人による相続分の取り戻しが行われた場合、譲受人は遺産分割協議に参加しません。他の相続人による相続分の取り戻しについては、次の項目で詳しくご説明します。
譲渡された相続分の取り戻しについて
相続分が相続人以外の人へ譲渡された場合、他の相続人には「相続分の取り戻し」を行う権利が認められます。理由は以下のとおりです。
相続分が譲渡されると、基本的に譲受人が遺産分割協議に参加することになります。他の相続人にしてみると、まったく見も知らない他人と遺産分割協議をさせられる結果になりかねません。協議がまとまらなくなる可能性も高くなるでしょう。
そこで一定期間内であれば他の相続人による相続分の取り戻しが認められているのです。
相続分を取り戻すための条件
他の相続人が相続分を取り戻すには、譲受人へ「価額や費用」を弁償しなければなりません。つまり、譲受人が相続分の譲渡を受ける際に支払った代金や費用については、取り戻しを主張する側が負担しなければならないのです。
無償で取り戻しが認められると譲受人の不利益が大きくなってしまうために認められる規定です。
相続分を取り戻せる期間
相続人が相続分を取り戻せるのは、相続分譲渡の時から1か月以内です。その期間を過ぎると、第三者へ相続分が譲渡されたとしても取り戻しができなくなってしまいます。
他の相続人の権利を守るためにも、譲渡人としては譲渡の際に相続分譲渡通知書を送ることが重要となってきます。
単独でも共同でも行使できる
譲渡された相続分の取り戻しは、他の相続人が全員で共同して行う必要はありません。
単独でも行使できます。
相続分譲渡を検討すべき状況
以下のような状況であれば、相続分譲渡を検討しましょう。
早期に現金を取得したい
相続人の立場になっても、すぐに遺産を取得できるわけではありません。まずは遺産分割協議を行って遺産の分け方を決定する必要があります。
相続分の譲渡をすれば、すぐに相続分を現金化できるメリットを受けられます。できるだけ早く現金を受け取りたい方は、有償による相続分譲渡を検討すると良いでしょう。
相続トラブルに巻き込まれたくない
遺産を相続して遺産分割協議に参加すると、他の相続人と意見が合わずトラブルになってしまうおそれがあります。
相続分を全部譲渡すれば遺産分割協議に参加する必要はなくなり、トラブルを避けられるでしょう。ただし負債は免れないので注意が必要です。
遺産相続権を与えたい人がいる
妻や子どもなど、自分以外に遺産相続権を与えたい人がいる場合には相続分の譲渡が役に立ちます。全部ではなく一部の譲渡もできるので、状況に応じて検討しましょう。
遺産に関心がない、相続したくない
遺産を相続したくない、まったく関心がない、相続手続きの手間をかけたくない方なども相続分の譲渡をする検討する価値があります。
相続分を全部譲渡してしまったら、面倒な相続手続きにかかわる必要はありません。
相続分譲渡を行う際には、他の相続人による取り戻しが行われる可能性がありますし、負債の支払義務は残る、税金がかかるケースがあるなどいくつか注意点もあります。
迷われた際には弁護士が相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。
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