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弁護士コラム

預金(相続財産)を引き出されてしまった!ほかの相続人はどう対応すべき?

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年10月03日 | 
最終更新日:2022年10月03日
Q
被相続人が死亡した後、相続財産である預金を、相続人の1人が全て引き出してしまいました。
このとき、他の相続人はどのように対処したらよいでしょうか? また、共同で相続された預金の債権は、遺産分割の対象になるのでしょうか?
Answer
まずは、相続人の1人が引き出した事実の確認をすべく、調査をする必要があります。
その事実が確認できたら、遺産分割協議で話し合いに進みます。

相手が遺産分割に応じない場合は、遺産分割調停の申立て⇒訴訟手続の順で解決を図ることになります。

本記事で、具体的にご説明します。

前提

まず、被相続人(亡くなった方)の死亡後の相続財産は、相続人間の「共有」に属するとされています(民法898条)。

ただ、相続財産が金銭債権・債務のような可分債権・債務である場合、これは相続人に対し

  1. 1当然に分割帰属(法定相続分に応じて相続人にそれぞれ持分が帰属)するか、
  2. 2合有的に帰属(相続人にそれぞれ持分が帰属せず、あくまで共有状態として相続人全体に帰属)するか

が問題となります。

この点について、①の場合は遺産分割の対象とならず、②の場合は遺産分割の対象となります。

また、遺産分割手続きの対象となる財産は、原則として遺産分割時に存在しているものである必要があります。

このような観点から、相続財産である上記預金はどのように相続人に帰属するか、基準時との関係でいかなる範囲が遺産分割の対象となり得るかを検討していく必要があります(後述します)。

そして、遺産分割の対象となるならないどちらにしても、相続人の一人に預金をすべて引き出す権利はないことから、預金を勝手に引き出した相続人に対して、他の相続人はいかなる請求ができるかが問題となります(こちらも後述します)。

遺産分割の対象について

預金債権の帰属方法

まず、平成28年大法廷決定までの裁判例では、金銭債権などの可分な債権は相続分にしたがって当然に共同相続人それぞれに分割される(前述①)との立場をとってきました(最判昭和29.4.8民集8巻4号819頁、最判平成16.4.20家月56巻10号48頁)。

他方で、法令上の制限や権利の内容性質に照らし、定額郵便貯金債権や個人向け国債、株式や投資信託受益権については当然に分割されない(前述②)とも判示していました(最判平成22.10.8民集64巻7号1719頁、最判平成26.2.25民集68巻2号173頁)。

そのため、平成28年大法廷決定までの裁判例に照らすと、普通預金債権は当然に共同相続人に分割され遺産分割の対象にならず、定期郵便貯金債権や個人向け国債、株式や投資信託受益権については相続人それぞれに合有的に帰属することから当然分割はなされず遺産分割の対象になると考えられていました。

もっとも、最大決平成28.12.19民集70巻8号2121頁は、上記判例を変更し、預金債権は定期郵便貯金債権等と同様に相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となると判示したのです。

したがって、最新の判例に照らすと、預金債権はその種類に関係なく、相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となります

遺産分割の基準時

預金債権一般について、遺産分割の対象となることは前述した通りなのですが、遺産分割とは被相続人が死亡時に有していた財産(遺産)について、個々の相続財産の権利者を確定させる手続を言いますので、死亡前に預金から引き出された金員は原則として、遺産分割の対象外となります(ただし、現金として保管されていた場合、当該現金は遺産分割の対象となります)。

他方で、被相続人の死亡後に引き出された預金については、どうでしょうか。

遺産分割対象財産は、相続時だけでなく分割時にも存在していなければなりません。

したがって、相続時に預金が遺産として存在しても、遺産分割前に解約されれば、分割時には存在しないから、遺産分割の対象になりません。

そのため、ご質問の場合は、本来は遺産分割の対象になりません。

ただ、全相続人の同意があれば、解約した相続人の「預り金」として、遺産分割の対象にできます

しかし、1人でも反対し、または解約金額について相続人間で争いがあれば、遺産分割の対象から外れ、あとは、地方裁判所における不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟での解決を図ることになります。

もっとも、新相続法では、全相続人の同意がある場合か、解約した相続人以外の同意がある場合は、相続後に解約した預金を「存在するものとみなし」て遺産分割の対象にできることとしました(民法906条の2)。

民法第906条の2 
1 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人より同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

要約すると、遺産分割前に処分された遺産は、存在するものとして遺産分割できること(民法906条の2第1項)、財産処分をした相続人の同意は不要であること(民法906条の2第2項)が定められました。

そして、1項にいうところの「遺産に属する財産が処分された場合」には、預貯金の引き出しをも含むと考えられていることから、1人の相続人の引き出し行為は上記処分行為に当たります。

そのため、引き出し行為を行った相続人以外の相続人全員の同意により、引き出された預金債権を遺産分割の対象とすることができます。

補足ですが、上記の民法第906条の2はあくまで被相続人の死後、遺産分割前に引き出された預貯金に関するものであって、被相続人の生前に被相続人の預貯金から引き出されたお金には適用されません。

また、民法906条の2の規定は、2019年7月1日以降に開始した相続に対して適用されます。相続が開始するのは「被相続人の死亡時」(民法882条)なので、2019年6月30日以前に被相続人が亡くなった場合には同条の適用はなく、同年7月1日以降に亡くなった場合には同条の適用があることとなります。

小括

旧相続法の下でも、遺産分割交渉や遺産分割調停・審判では、全相続人の同意があれば、遺産分割の対象にする処理をしていました。

これに対して、新相続法では、全相続人の同意があるほか、解約した相続人以外の相続人の「同意」がある場合でも、解約した預金が分割時にも存在するものと「みなし」て遺産分割の対象にできます。

このような場合、旧相続法下では、遺産分割の対象から外し、預金を解約しなかった相続人から解約した相続人に対し、不当利得等の返還請求訴訟を提起していましたが、新相続法の下では、解約した相続人が原告となるという点で違いが生じることとなりました。

他の共同相続人の対処方法

それでは、本件のような場合において、他の共同相続人は具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。

調査

まず、相続人が、引出しそのものを否定する場合がありますので、金融機関の取引履歴を取り寄せ、不審な払戻等がないかの確認をします。

払戻請求書や預金解約申込書の写しATMで引き出した画像などが残っているなら金融機関から確保したほうがよいでしょう。

次に、「引出し当時の被相続人の置かれていた状況」の調査をする必要があります。

具体的には、被相続人の医療記録・介護記録・介護認定記録から、問題取引時の被相続人の所在場所(自宅か施設か病院か)、被相続人の財産管理能力を把握するべきといえます。

いずれの記録も、過去5年以内のものという制限があるのが普通であり、迅速に行動する必要があります。

具体的な記録の取り寄せで迷われた場合には、当事務所まで、ご相談を頂ければと思います。

相手方が遺産分割に応じる場合

民法906条の2により、引き出し分の預金債権も遺産分割の対象とすることができることから、引き出し分を相続財産に含めた遺産分割協議をして、具体的な協議内容に従った協議書を作成しましょう。この手続きによる解決が、当事者双方にとって時間や費用等の点でリスクが少ない方法であるといえます。

遺産分割協議書の作成については、下記記事もご参照ください。

遺産分割協議書の書き方【遺産分割協議について解説】

遺産分割調停の申立て

「遺産分割調停」とは、家庭裁判所における調停委員会(調停委員と裁判官)を介して話し合いを行う手続きです。

もっとも、調停期日については、遺産の範囲については、3回程度の調停時期日をもって、確定することが目安とされていますので、この目安となる回数で解決できないほどに拗れている場合であれば、後述する訴訟による解決が望ましいといえます。

ただし、新相続法下では、前述の通り、被相続人死亡後の引き出しを一人の相続人が認めていた場合には、引き出した預金を遺産の範囲に含めて調停を進めることができることに注意が必要です。

遺産分割調停の申立て

訴訟手続

例えば、預貯金の引き出し行為を相続人が認めなかった場合には、新相続法下であっても、訴訟によって解決をするほかないでしょう。

この場合における訴訟として、新相続法下では、遺産確認の訴え、旧相続法下で、不当利得返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求をすることになります。

まとめると

訴訟提起はあらゆる面でリスクが付きまとうことから、はじめは話し合いによる解決を心掛けましょう。

そして、当事者間での話し合いで解決しない場合には、第三者(調停委員や裁判官)を含めた話し合いでの早期解決が見込まれるならば調停の手段を用いるべきであると考えます。

さらに、この方法による解決も見込めないような場合には訴訟提起を選択することをお勧めします。

遺産分割でお困りの際は、弁護士に相談を

平成28年判決により、預金債権一般が遺産分割の対象となることが認められ、2019年の相続法改正により遺産分割前の財産処分に関する規定が新設されたことで、本件のような場合でも、遺産分割協議の中でその解決を図ることが容易になりました。

もっとも、訴訟提起にも時間的な制約があることから、交渉や調停による解決可能性がないと判断する場合には直ちに訴訟提起することをお勧めします。

トラブルの解決には時間も労力も要しますので、専門知識を備えた弁護士にご相談することもご検討ください。

遺産分割をするにあたり、まず何からしたらよいかわからない等お困りの際も、お早めにお問い合わせください。

※遺産分割について(相続人の調査・確定ほか)は、こちらのページから弁護士費用をご確認いただけます

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