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弁護士コラム
相続した不動産が放置されている?所有者不明土地・建物管理命令の申立てと実務ポイント
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2025年09月04日 |
最終更新日:2025年09月04日
- Q
- 相続で取得した土地が、名義人のまま放置されており、他の相続人とも連絡が取れません。このままでは草も伸び放題で近所に迷惑です。何か法的に管理できる方法はありますか?
- Answer
-
所有者不明となった土地や建物については、令和3年の民法改正により「所有者不明土地・建物管理命令」の制度が創設され、家庭裁判所に申立てをすることで、管理人を選任して法的に適切な管理・処分ができるようになりました。
利害関係人(相続人や隣接地の所有者など)であれば申立て可能で、裁判所が選任した管理人が除草や修繕、売却などの手続きを進めることができます。
相続人の所在不明や協議の行き詰まりでお困りの方にとって、有効な解決手段のひとつです。
相続によって取得した土地や建物が、他の相続人の所在不明や話し合いの不調によって長期間放置されている――。
こうしたケースは、いまや日本全国で深刻な問題となっており、「所有者不明土地」や「所有者不明建物」として行政や近隣住民にも悪影響を及ぼすことがあります。
こうした背景を受けて、令和3年の民法改正では「所有者不明土地管理制度」「所有者不明建物管理制度」が新設されました。
この制度を活用すれば、裁判所を通じて管理人を選任し、放置不動産の除草・修繕・売却などの手続を進めることが可能になります。
本記事では、相続人がこの制度をどのように使えるのか、申立ての具体的手順、必要書類、費用の考え方、他制度との比較など、実務経験に基づいたポイントをわかりやすく解説します。
相続で不動産を引き継いだものの手を付けられずにお困りの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
はじめに
相続トラブルと所有者不明不動産の関係
相続が発生したにもかかわらず、相続登記がなされずに放置された土地や建物が、日本各地で急増しています。
これらは「所有者不明不動産」と呼ばれ、その数は年々増加の一途をたどっています。
登記簿上の名義人が既に亡くなっている、あるいは登記情報と現在の実際の所有者が異なっているといった状態の不動産が、相続人間のトラブルの火種となるケースも少なくありません。
たとえば、長年連絡を取っていなかった兄弟姉妹間で、相続分を巡る意見の対立が発生し、結果として誰も相続登記を行わないまま年月が経過してしまうという事例が多く見受けられます。
その結果、当該不動産は名義が宙に浮いたままとなり、所有者の特定が極めて困難になるのです。
また、相続人の一部が所在不明、あるいは連絡が取れない場合には、話し合い自体ができず、管理や処分の意思決定すらできない状態に陥ります。
このようなケースでは、不動産の有効活用はおろか、基本的な維持管理すら困難になります。
管理されない不動産が及ぼす周辺への悪影響
所有者不明不動産が管理されないまま放置されると、次のような問題が周辺地域に深刻な影響を及ぼします。
まず、雑草の繁茂や害虫の発生、建物の老朽化による倒壊リスクなど、物理的な環境悪化が挙げられます。
特に空き家や空き地が長期間放置されると、不法投棄や不審火といった治安上の問題につながるケースもあります。
さらに、地域の美観が損なわれることで地価が下落し、近隣住民の資産価値にまで悪影響を与える可能性も否定できません。
放置された不動産が一件あるだけで、周辺の街並みや住環境に対する住民の満足度が大きく下がるという声も実際に多く聞かれます。
こうした背景から、令和3年の民法改正では、「所有者不明土地管理制度」や「所有者不明建物管理制度」といった新たな法制度が導入され、裁判所を通じて不動産の管理を行う道が開かれました。
所有者不明不動産とは何か
所有者不明の定義と典型例
「所有者不明不動産」とは、法的には所有者を知ることができない、または所有者の所在を知ることができない土地や建物を指します(民法第264条の2第1項)。
このような状態になるのは、相続登記が放置された場合や、登記名義人が既に死亡しており、相続人が誰か分からない場合などです。
たとえば、以下のようなケースが典型例です。
- 相続が発生したものの、登記名義を変更しないまま何十年も経過し、登記簿上は既に亡くなった人が所有者として記載されている。
- 相続人が多数にわたり、その一部と連絡が取れず、所有者全体が不明確になっている。
- 登記情報と住民票の住所が一致せず、現在の居住地が追えない状態にある。
こうした不動産は、法的には所有者が存在しているものの、実質的には「所有者不明」とされ、適切な管理や処分が困難になります。
増加の背景と社会問題化の経緯
所有者不明不動産の増加には、以下のような社会的背景があります。
- 高齢化と相続放置:高齢化社会の進展により、相続が発生する件数が増加しましたが、相続登記の義務化がなかったため、長期間放置されるケースが多数存在します。
- 人口減少と地方離れ:都市部への人口集中により、地方の不動産が「使われない資産」として相続人の関心を引かず、管理や登記がされないまま放置される傾向があります。
- 登記制度の限界:登記情報が最新の住民情報と連動していないため、登記名義人の死亡や転居があっても自動的に情報が更新されない構造的問題があります。
このような背景から、所有者不明不動産は全国で急速に増加し、社会問題として顕在化しています。
国土交通省の推計では、2020年時点で九州全体に相当する面積(約410万ha)が所有者不明土地とされており、公共事業、民間開発、災害復旧などに支障をきたしているとされています。
民法改正による制度創設の経緯【民法264条の2以下】
この深刻な状況を受け、令和3年の民法改正により、新たに「所有者不明土地管理制度」が創設されました(民法264条の2以下)。
これは、それまでの不在者財産管理制度や相続財産管理制度といった「人」を中心に設計された制度では対応しきれなかった問題を、「土地」や「建物」という物件単位で解決することを目的とした新制度です。
従来制度の課題として、所有者の財産全体を包括的に管理する必要があり、手続きや費用の負担が重かったという点がありました。
そこで、新たな制度では、土地または建物単位での管理を可能とし、利害関係人による申し立てを認めることで、柔軟かつ実効性ある管理が実現できるようになりました。
さらに、非訟事件手続法90条以下に具体的な手続きが規定され、裁判所が管理人を選任する仕組みとなっています。
このように、民法改正は、相続をきっかけに所有者不明となってしまった不動産に対して、現実的な対処方法を提供するための重要な一歩であり、実務でも積極的な活用が期待されています。
所有者不明土地管理制度の概要
制度の意義と背景
令和3年の民法改正により創設された「所有者不明土地管理制度」は、所有者の所在や存在が不明な土地について、裁判所が選任する「所有者不明土地管理人」によって管理・処分を行える制度です。
この制度は、不在者財産管理制度や相続財産管理制度といった従来の仕組みでは対応困難であったケースに対処するために設けられました。
従来制度はいずれも「人(所有者)」を中心とする管理制度であり、管理対象となる財産は包括的(全財産)でなければならず、手続きが煩雑で費用負担も大きいものでした。
また、所有者を特定できない場合には制度自体の利用ができないという限界もありました。
これに対し、所有者不明土地管理制度は、「土地」単位での管理が可能であり、所有者が完全に特定できない場合にも申立てが可能です。
さらに、土地の近隣住民や行政機関など、利害関係人による申立てが認められている点も大きな特徴です。
この制度により、雑草の繁茂や不法投棄といった管理不全による周辺環境への悪影響を防止し、土地の適切な利用促進を図ることが可能となりました。
土地管理命令の要件
土地管理命令を申し立てるには、以下の3つの要件を満たす必要があります(民法第264条の2第1項)。
所有者の不明性・所在不明の意味
「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」とは、登記簿に記載された所有者が死亡している場合や、住民票の調査を行っても現住所が不明な場合などを含みます。
重要なのは、「必要な調査を尽くしても特定できない、または連絡が取れない状態」であることです。
複数の共有者が存在する共有土地の場合でも、一部共有者の所在が不明であれば、その共有持分について管理命令を申し立てることができます。
利害関係人とは誰か
管理命令の申立てができる「利害関係人」とは、対象となる土地の管理に直接的または間接的な関係を有する者を指します。
たとえば、以下のような者が該当します。
- 隣接する土地の所有者で、管理されていない土地によって環境被害を受けている者
- その土地の買受けを希望する者
- その土地を利用して公共事業を行おうとする地方公共団体や国の行政機関の長
なお、所有者不明土地の適切な管理が「特に必要」と認められる場合には、行政機関も請求権者になり得ます(所有者不明土地法42条2項)。
「必要があると認めるとき」とは
「管理命令が必要」とされるのは、当該土地について放置されることにより何らかの支障や不利益が生じている場合です。
たとえば、雑草が繁茂して害虫が発生している、不法投棄が続いているなど、土地が社会的・衛生的に問題を生じさせている場合に該当します。
また、他の制度(不在者財産管理人が既に選任されている等)によって適切な管理がされている場合には、「必要性」は否定されることもあります。
土地管理命令の効力
土地管理命令が発令されると、家庭裁判所によって所有者不明土地管理人が選任されます。
土地管理命令の効力は、対象となった土地そのものに及ぶだけでなく、当該土地の所有者が所有している動産にも及ぶことがあります(民法第264条の2第2項)。
これは、たとえば対象土地に残置されていた工作物や可動物などの処分も管理人の権限に含めることで、現実的かつ一体的な土地の管理を可能にするための措置です。
また、管理命令は、いったん発令された後、後に取消しがなされた場合であっても、その取消しまでの間に管理人が得た財産に対して引き続き効力を有することがあります(民法第264条の2第3項)。
このように、土地管理命令は、単に「代わりに誰かが草刈りをする」程度の制度ではなく、法的な枠組みのもとで土地の利用・保存・処分を行う強力な制度であるといえます。
土地管理人の権限と義務
裁判所の許可が不要な行為と必要な行為
所有者不明土地管理人に選任された者は、対象となる土地や共有持分について、管理や処分を行う権限を有します(民法264条の3第1項)。
ただし、すべての行為が自由に行えるわけではなく、行為の内容によっては裁判所の許可が必要とされるものと、不要とされるものに区分されます。
【裁判所の許可が不要】な行為(いわゆる保存行為)
- 雑草の除去
- 害虫駆除
- 最低限の修繕や清掃
- 破損箇所の補修
これらは土地の現状を維持し、周辺環境への悪影響を防ぐための基本的な管理行為です。
一方で、以下のような行為には【裁判所の許可が必要】です。
- 土地の売却
- 建築物の設置・除去など、土地の利用形態を大きく変更する行為
- 訴訟の提起
これらは、所有者の財産的価値や将来の利用可能性に影響を与えるため、裁判所の関与が求められます。
もし裁判所の許可を得ずにこれらを実施した場合、原則として所有者に対しては効力が及びません(ただし、善意の第三者に対しては取引安全の観点から無効を主張できないとされます)。
善管注意義務・公平義務
土地管理人は、その業務を遂行するにあたり、「善良なる管理者の注意義務」(善管注意義務)を負います(民法264条の5第1項)。
これは、専門家としての能力・知識をもって適切に管理することが求められるという意味です。
また、対象が共有土地である場合には、複数の共有者に対して公平に接する「誠実公平義務」も課されます(同条第2項)。
一部の共有者に有利に働いたり、他の共有者の利益を損なう行動は、管理人としての義務違反となり得ます。
土地管理人の訴訟関係
訴訟追行権限と中断・受継
土地管理人は、対象不動産に関する管理・処分にとどまらず、訴訟の当事者としても活動することが可能です。
つまり、土地に関する訴訟について、管理人が原告または被告として訴訟を遂行する権限を有します(民法264条の4)。
ただし、管理人が原告として訴訟提起を行うには、裁判所の許可が必要です。他方、被告として応訴する場合には許可は不要です。
また、所有者不明土地に関して所有者を当事者とする訴訟が既に進行中だった場合には、土地管理命令の発令によって訴訟は中断され、管理人が訴訟を受け継ぐことができます(民事訴訟法125条第1項)。
この仕組みにより、所有者が不在でも訴訟手続を適正かつ迅速に進めることが可能となっています。
報酬と管理費用
誰が負担するのか、供託と公告の必要性
土地管理人による管理には当然費用が発生します。
管理人は、対象不動産(所有者不明土地)から生じた収益等を原資として、裁判所が定めた額の報酬および費用の前払を受けることができます(民法264条の7第1項)。
これらの費用・報酬は原則として最終的には所有者が負担すべきものとされます(同条第2項)。
さらに、管理人が土地を売却した結果得た金銭は、供託することが認められており、所有者や利害関係人が後に現れる可能性に備えて公告を行うことが求められます(非訟事件手続法90条8項)。
土地管理人の辞任・解任制度
利害関係人からの請求要件
管理人が不適切な業務を行った場合や、重大な損害を与えた場合その他重要な事由がある場合には、裁判所が利害関係人の請求により解任することができます(民法264条の6第1項)。
この「重要な事由」には、明確な義務違反や職務怠慢、不正行為などが含まれます。
また、管理人自身が辞任を希望する場合でも、裁判所の許可が必要であり、単なる自己都合で辞任できるわけではありません(同条第2項)。正当な理由が認められた場合にのみ辞任が許可されます。
このように、所有者不明土地管理人には高い責任と職務遂行義務が課されており、その地位にある者は慎重かつ公正に対応する必要があります。
所有者不明建物管理制度のポイント
土地制度との類似・相違
ほぼ同じ構造と民法264条の8
所有者不明建物管理制度は、令和3年の民法改正により新設された制度であり、所有者不明土地管理制度と基本構造を共通にしています。
具体的には、民法第264条の8に基づき、以下の3つの要件を満たせば、家庭裁判所に対して「所有者不明建物管理命令」の申立てが可能です。
- 1建物の所有者を知ることができない、またはその所在を知ることができないこと
- 2建物の適切な管理のために、管理人を選任する必要があると認められること
- 3利害関係人による申立てであること
管理命令が出されると、裁判所により「所有者不明建物管理人」が選任され、その建物の管理・処分等を行うことになります。
制度の趣旨も、周辺住民の安全確保や生活環境の保全、不法使用・倒壊リスクの抑止といった公益的目的にあります。
区分所有建物(マンション等)との関係
ただし、マンションのような区分所有建物については注意が必要です。
これらは「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)に基づいて特別な管理体制が規定されているため、原則として本制度の適用は除外されます(区分所有法6条4項)。
すなわち、専有部分や共用部分の所有者が不明となった場合でも、管理組合や他の区分所有者が対応できる体制が用意されているため、原則として「所有者不明建物管理命令」は認められないことに注意が必要です。
建物管理命令の申立と効果
対象、申立要件、効力の範囲
建物管理命令の申立対象は、所有者が不明な建物全般です。
木造家屋、倉庫、商業ビル等、用途は問われません。
特に、老朽化が著しい空家や倒壊の危険がある建物については、利害関係人による申立てが積極的に検討されます。
申立てが認められると、裁判所によって管理人が選任され、その管理命令の効力は、対象建物そのものに加え、その所有者が所有していた動産や敷地利用権にも及びます(同条第2項)。
建物の修繕・解体と裁判所の許可要否
建物管理人は、任務遂行のため、次のような行為を行うことができます。
【裁判所の許可が不要】
- 軽微な修繕、雨漏り防止、破損部分の補修等の「保存行為」
【裁判所の許可が必要】
- 建物の売却、用途変更、大規模修繕、解体など、建物の性質を変えるような行為
特に「建物の解体」は、原則として所有者の権利に大きな影響を与えるため、慎重に判断されます。
管理人が解体を行うには、建物所有者が出現する可能性が極めて低く、解体しないことによって周囲に重大な危険や被害が及ぶ場合に限って、裁判所の許可が下りる可能性があります。
空家等対策特措法との関係
「特定空家等」との関係と市区町村長の権限
所有者不明建物管理制度とは別に、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空家特措法)も存在します。
空家特措法では、市町村長が「空家等」(使用実態のない建築物)について、特定空家等として認定し、助言・指導・命令・代執行といった行政的措置をとることができます(空家特措法2条1項・14条以下)。
さらに、空家等の所有者が不明であり、その管理が特に必要と認められる場合には、市町村長が地方裁判所に対して「所有者不明建物管理命令」の申立てをすることも可能です(空家特措法14条2項)。
なお、「特定空家等」として認定されるには、以下のような基準が参考になります。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある
- 著しく衛生上有害となるおそれがある
- 著しく景観を損なっている
- その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置が不適切と認められる
こうした場合には、建物管理命令を活用することで、行政機関や近隣住民が実効的な対応を取ることができるのです。
申立手続の実務
所有者不明土地・建物管理命令を実際に申し立てるにあたっては、所定の手続を踏まえ、慎重かつ確実に準備することが必要です。
本章では、申立てに必要な書類や裁判所対応、管理人選任後の留意点について、実務経験に基づいて解説します。
申立に必要な書類一覧
登記事項証明書・調査報告書・物件目録 等
管理命令の申立てに際しては、以下の書類を裁判所に提出する必要があります(非訟事件手続法および裁判所実務に基づく)。
基本的な提出書類
- 申立書(所有者不明土地・建物管理命令申立書)
- 委任状(代理人が弁護士の場合)
- 登記事項証明書(法務局で取得)
- 固定資産評価証明書(市区町村で取得)
- 所有者・共有者の探索に関する報告書(住民票・戸籍附票等の調査結果含む)
- 現況調査報告書または評価書(写真や実地確認を添付)
- 不動産登記令に基づく図面(地積測量図、建物図面、各階平面図等)
- 土地・建物の所在地に至る経路および案内図
- 別紙当事者目録・物件目録
任意的に添付すべき資料(状況に応じて)
- 所有者探索に要した努力の内容(例:戸籍収集履歴、不在住証明の写し)
- 管理行為の必要性を示す証拠(例:害虫発生の写真、近隣住民の陳述書)
参考様式とフォーマット
申立書には、裁判所が定める所定のフォーマットがあり、記載項目に不備があると補正を命じられることがあります。
弁護士会や各地の家庭裁判所のWebサイトに、様式例や記載例が公開されていることもありますので、確認するとよいでしょう。
物件目録は、対象不動産の表示(地番、家屋番号等)を正確に反映させ、登記事項証明書と整合するよう注意が必要です。
管轄裁判所と印紙・郵券
管轄裁判所
申立先は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。
所有者不明土地法に基づく申立てであっても、家庭裁判所ではなく、地方裁判所となる点に注意が必要です。
たとえば、東京都新宿区に所在する不動産であれば、「東京地方裁判所」が管轄となります。
印紙・郵券
印紙代は、申立ての対象となる土地・建物の個数1個につき、1000円分必要です。
郵便切手(予納郵券)については、各裁判所ごとに異なるため、事前に管轄裁判所のWebサイトや電話で確認することが重要です。
実務上、封筒や返信用切手、宛先ラベルの形式指定があることもあり、形式不備による補正命令がなされることがあります。
実務上の注意点とトラブル予防策
- 所有者の探索努力が不十分だと申立てが却下されるおそれがあります。できる限り多くの資料(戸籍・附票、住民票不在証明等)を添付することが望ましいです。
- 「必要性」の具体的事情(例:雑草の繁茂、倒壊の危険)が明確でないと、管理命令の要件を満たさないと判断されることがあります。現場写真や近隣住民の証言も添付すると効果的です。
- 書類に誤記や漏れがあると、補正→再提出→審理の遅延とつながるため、提出前のダブルチェックを徹底しましょう。
管理人選任後の対応
所有者の出現時の対応
管理命令発令後に、当該土地や建物の所有者が名乗り出た場合、管理人はその旨を裁判所に報告する必要があります。
裁判所は管理命令を取り消すかどうかを判断し、必要に応じて管理人の職務を終了させます(民法264条の2第3項)。
ただし、管理人が管理・処分を行って得た財産(売却代金など)については、所有者の請求によって返還されることがあります。
その場合でも、管理人の報酬や費用は差し引かれるのが一般的です。
管理人の交代や辞任対応
管理人が任務を遂行できなくなった場合(病気、死亡、辞任希望など)には、裁判所の許可を得て辞任することができます(民法264条の6第2項)。
また、利害関係人が管理人の不適切な行為を理由に解任を請求することも可能です(同第1項)。
管理人の交代が必要になった場合、裁判所は新たな管理人を選任することになりますが、前任者が収集した資料や資産の引継ぎが円滑に行われるよう、管理記録や帳簿の整備が不可欠です。
申立から管理人選任、終了までの流れは、必ずしも迅速に進むとは限りませんが、書類の整備と丁寧な立証が審理のスムーズさに直結します。
実務経験を有する弁護士によるサポートを受けることで、トラブルの予防と迅速な対応が可能となります。
制度選択の視点と実務的アドバイス
不在者財産管理制度との比較
所有者不明土地や建物に対する管理手段として、以前から存在するのが不在者財産管理制度です。
これは、民法第25条以下に基づき、不在者の財産全般について裁判所が管理人を選任する制度です。
一方、令和3年民法改正により創設された所有者不明土地・建物管理制度は、特定の土地または建物に限定して管理することができる制度です。
両者には以下のような相違点があります。
項目 | 不在者財産管理制度 | 所有者不明土地・建物管理制度 |
対象 | 不在者の全財産 | 特定の土地または建物 |
要件 | 所有者が生存しているが行方不明 | 所有者が不明または所在不明 |
利用者 | 不在者本人の利害関係人等 | 隣接地所有者、行政機関、購入希望者等 |
裁判所の判断 | 総合的な財産保全の必要性 | 土地・建物の管理の必要性 |
したがって、所有者の生死が確認できているが所在不明という場合には不在者財産管理制度、所有者が誰かわからない、または死亡し相続登記が未了で所在不明という場合には所有者不明不動産管理制度の方が適しています。
管理制度利用のメリット・デメリット
メリット:
- 限定的な対象(1筆の土地など)でも申し立てが可能
- 利害関係人(隣地所有者、行政機関等)による申立が認められている
- 訴訟対応、売却処分も可能で、現実的な対策に結びつく
デメリット:
- 所有者探索や必要性の立証など、準備書類が多岐にわたる
- 管理人の選任から実際の対応まで時間と手間がかかる
- 裁判所の許可が必要な場面では、柔軟な対応が制限される
また、管理に要する費用や報酬が原則として所有者の負担とされるものの、現実には申立人が先に立て替える必要があることも多く、費用回収の見込みがない場合には申立て自体が躊躇されることもあります。
相続人が申し立てる際の戦略と留意点
相続人が所有者不明土地・建物の管理命令を申し立てる場合には、以下の点に留意すると良いでしょう。
- 制度趣旨との整合性を意識する
相続人自身が当該不動産の使用・管理に困難を抱えている場合、申立の実益が明確であり、裁判所の理解も得やすくなります。 - 申立目的の明確化と管理後の展望
例えば「適切に管理したうえで将来的には処分を予定している」など、申し立て後の対応方針を具体的に整理しておくことが望まれます。 - 費用負担の検討
弁護士費用、印紙・郵券代、調査費用などの初期負担を踏まえて、申立てが実際に可能かどうかも判断材料となります。
東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所
適切な制度利用による相続トラブルの予防と解決
所有者不明不動産の問題は、もはや一部の地域や家庭に限られたものではなく、全国的な課題となっています。
相続をきっかけとして不動産が放置され、誰も手を付けられない状態が続くことで、周囲の住民や地域社会にまで悪影響が及びかねません。
しかし、今回ご紹介した所有者不明不動産の管理制度を活用すれば、法的手続を通じて管理・処分の道を開くことが可能です。
相続人自身が主体的に制度を利用することで、相続財産の価値を守り、周辺環境の保全にも寄与することができます。
弁護士への相談の重要性
申立ての可否判断、書類の作成、裁判所対応、所有者探索、費用見通しなど、管理命令の申立てには専門的な判断と経験が求められます。
また、制度選択にあたっても、「不在者財産管理制度」「相続財産管理制度」など他の制度との比較検討が必要です。
そのため、所有者不明不動産に関するお悩みをお持ちの方は、まずは弁護士にご相談いただくことが重要です。
的確な制度選択と適切な手続対応によって、相続トラブルの予防と早期解決を図ることができます。
遺産分割についてお悩みの方へ
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