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弁護士コラム

寄与分の計算方法を理解しよう(具体例付き)

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年11月10日 | 
最終更新日:2022年11月10日
Q
遺産分割調停を申立てたところ、相続人の一人が家庭裁判所に、寄与分を定める調停という申立てをしました(※)。
寄与分を認めることについて異論はないのですが、算定基準を知りません。
一体、私の相続分はどうなるのでしょうか?

※遺産分割の審判の申立てがあった場合にのみ、寄与分を定める処分の審判の申立てをすることができます(民法904条の2第4項)。
Answer
寄与分は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を総合的に考慮して定められます。
もし寄与分を定める調停の申立てをした相続人について寄与分が定められる場合、質問者の具体的相続分は、被相続人が相続開始時において有した財産の価値から、寄与分を控除した額に質問者の法定相続分(被相続人が、遺言で、相続分を定め、又はこれを定めることを委託された第三者が相続分を定めたときは、指定相続分)を乗じて算定します。

本記事でわかりやすくご説明します。

はじめに

寄与分』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これは、被相続人(亡くなった方)の財産の維持又は増加について、特別の貢献をした相続人や親族がいる場合に、その者に対して相続分以上の財産の取得を認める制度です。

これは、相続人間の公平を図る重要な制度といえます。

特別の貢献とは、具体的には

  • 親の家業に従事して親の財産を増やした
  • 要介護の親を自宅で介護することで介護費用を削減した

等が例となります。

このような、寄与分を受ける資格がある人(寄与分権者)は、民法904条の1第1項は「相続人」としています。

民法904条の2
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

条文からは、寄与分を主張するためには、

  1. 1特別の寄与があること
  2. 2特別の寄与によって、相続財産が維持又は増加したこと

が必要であることが分かります。

については、被相続人と相続人(又は親族)の身分関係に基づいて、「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要です。

については、特別の寄与によって、相続財産の減少や負債の増加が阻止され、又は、相続財産の増加や負債の減少がもたらされたことが必要です。

このように、経済的な観点からの相続財産の維持又は増加が必要であり、単なるそばにいる安心感、等の精神的な援助は寄与として考慮されません。また、夫婦間の協力扶助義務(民752条)、親族間の扶養義務・互助義務(民877条1項)の範囲内の行為は、特別の寄与にはならない点にご注意ください。

気を付けなければいけないのが、「共同相続人中に」という部分で、という点です。

つまり、内縁の妻や息子の嫁など、相続人でない人に寄与分が認められることがないことです。仮に、この人たちが介護、療養看護に貢献していても寄与分を主張できません(ただし、特別寄与の制度に関しては後述します)。

寄与行為の態様

家業従事型

無報酬又はこれに近い状態で、被相続人が経営する農業、その他の自営業に従事する場合です。

特別の寄与となる具体的要件は、

  1. 1特別の貢献
  2. 2無償性
  3. 3継続性
  4. 4専従性

となります。

金銭等出資型

被相続人に対し、財産権の給付を行う場合又は被相続人に対し財産上の利益を給付する場合です。

不動産の購入資金の援助、医療費や施設入所費の負担が比較的多いパターンとなります。

財産を給付するだけなので継続性や専従性は必要ありません。

療養看護型

無報酬又はこれに近い状態で、病気療養中の被相続人の療養介護を行った場合です。

疾病の存在が前提となっています。

ただ単に被相続人と同居し、家事の援助を行っているに過ぎない場合には、寄与分は認め難いものとなります。

特別の寄与となる具体的要件は、

  1. 1療養看護の必要性
  2. 2特別の貢献
  3. 3無償性
  4. 4継続性
  5. 5専従性

となります。

扶養型

無報酬又はこれに近い状態で、被相続人を継続的に扶養した場合です。

毎月仕送りしていたとか、そもそも同居して衣食住の面倒をみていたという主張が中心となります。

特別の寄与となる具体的要件は、

  1. 1扶養の必要性
  2. 2特別の貢献
  3. 3無償性
  4. 4継続性

です。

財産管理型

無報酬又はこれに近い状態で、被相続人の財産を管理した場合です。

不動産の賃貸管理や立ち退き交渉など占有者の排除等が多い類型です。

特別の寄与となる具体的要件は、

  1. 1財産管理の必要性
  2. 2特別の貢献
  3. 3無償性
  4. 4継続性

性となります。

寄与分算定の基準と方法

相続分に寄与分を反映させる方法については、上記のとおり、民法904条の2第1項が規定します。

手順としては、下記のとおりです。

寄与分は、共同相続人間の協議、家庭裁判所における調停又は審判で定められます。

民法は、このうちの審判により寄与分を定める場合についてこのように規定しています。

民法904条の2第2項
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

2項は、法定相続分をどのように修正すれば、遺産分割における共同相続人間の実質的衡平を確保することができるかという観点から、具体的な事案に応じて、赤字部分の諸事情を総合的に考慮して、その額は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を上限とし(同条第3項)寄与分を算定すべきとしたものです。

この規定は、審判で寄与分を定める場合を想定したものですが、共同相続人間の協議又は調停で寄与分を定める場合にも、これと同様の考え方で寄与分を定めることになると考えられています。

したがって、具体的な寄与分の算定は、それぞれの事案ごとに個別的に検討する必要がありますが、被相続人の財産の維持又は増加に対する寄与行為の類型により、ある程度の共通性を認めてよいでしょう。

どのような場合に寄与等が認められるかですが、例えば、相当な給料をもらわずに被相続人の会社で働いて労務を提供していた場合には、当該労務に見合う労働者の平均賃金額を基礎とし、被相続人の財産により生活していたときはその生活費相当額を控除した額が一応の目安となります。

被相続人の介護や療養に関してその費用を負担するなど財産上の給付を行った場合には、提供した金銭の額が一応の目安となります。

このようにして算出された額を基にして、寄与行為の被相続人の財産の維持又は増加に対する効果、相続財産全体の額、他の相続人の遺留分の額など諸般の事情を考慮して具体的な寄与分の額が定められることになります(最高裁事務総局・改正民法及び家事審判放棄に関する執務資料[家庭裁判資料121]41以下、猪瀬慎一郎「寄与分に関する解釈運用上の諸問題」家月33・10・31以下参照)。

これを具体例を挙げて説明してみると、次のようになります。

例1)
遺産5000万円の父親が死亡し、相続人は妻、長男と長女の3人。
被相続人である父親が事業を営み、共同相続人の一人である長男(独身)が事業を手伝っていた。長男の労務のおかげで父親の財産が1000万円増加した。

1⃣みなし財産を算出する

 5000万円(遺産総額)-1000万円(長男の寄与分)=4000万円

2⃣法定相続分に従い各自の相続分を計算する

・妻の相続分=4000万円×1/2=2000万円

・長男の相続分=4000万円×1/4=1000万円

・長女の相続分=4000万円×1/4=1000万円

3⃣寄与が認められる相続人の相続分に寄与分を上乗せ

・長男1000万円+1000万円=2000万円

以上から、それぞれの具体的相続分は、妻2000万円、長男2000万円、長女1000万円となります。

裁判所がどのような場合に寄与分として認めるのかは決められた判断基準はありません。

また、認めてもらうためには説得的な主張と裏付けとなる証拠を提出する必要があります。

生前贈与や遺贈がある場合

寄与分を定める場合には「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮」と条文にありましたね。

この「一切の事情」にどのようなものが含まれるかは一概には言えませんが、寄与分は相続人間の実質的衡平を図るための制度ですから、生前贈与や遺贈などを含め、寄与行為をした相続人と他の相続人が総額としてどれだけの財産を取得することになるかを決めることになります。

したがって、生前贈与や遺贈がある場合には、「一切の事情」の一つとして当然考慮されます(法務省民事局参事官室編・新しい相続制度の解説247)。

共同相続人のうちに、遺産の維持や増加に寄与したり、貢献したりといったことをした(寄与行為)相続人が、被相続人から生前贈与を受けていた場合、また他の共同相続人に遺贈があった場合などは、具体的相続分の算定に当たり、民法903条と904条の2の適用順序が問題になり、別途考える必要がでてきます。

法律は、遺贈があった場合、寄与分は、相続時財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないと規定しています(904条の2第3項)。すなわち、寄与分の制度は、被相続人の意思に反しない限りで保障されるものであって、遺贈の方が優先されるということになります。

したがって、寄与行為をした相続人が、生前贈与や遺贈を受けている場合の寄与分は、その生前贈与や遺贈を考慮してもなお寄与分を認めなければ実質的衡平に反するかという点を考慮して定めます。

つまり、生前贈与や遺贈が寄与分に対する実質的対価と認められる場合には、その限度で寄与分が否定されるということです。また、遺贈があるときは、相続開始時の遺産の価額から遺贈の価額を控除した残額の範囲内で寄与分が定められます。

複数の共同相続人に特別の寄与が認められる場合の寄与分の算定

今回の質問では、「共同相続人の一人が寄与分を定める調停の申立てる」というものでしたが、この申立人以外にも、申立てをしていない他の共同相続人の全部又は一部についても特別の寄与が認められる場合があります。

この場合、寄与分の算定方法としては、二つの考え方があります。

(1)第一の考え方は、寄与分を財産権的なものとして位置付け、他の共同相続人の寄与相当額にかかわりなく、寄与分を定める審判又は調停の申立てをした者の寄与相当額をそのまま寄与分として算定するというものです。

(2)第二の考え方が、寄与分が共同相続人間の実質的衡平を図るための調整要素であることを重視し、寄与分を定める審判又は調停の申立ての有無に関係なく、寄与相当額が最も低い者のそれを基準にし、申立人の寄与相当額がこれを上回る場合に限り、その上回った額を寄与分として算定するというものです。

実務的には、第一の考え方が相当であると思われます(猪瀬・前掲32以下参照)。

例2)
共同相続人が妻、子A、子Bの三人で、相続開始時における相続財産の価額が1000万円、妻の寄与相当額が100万円、子Aの寄与相当額が200万円、子Bの寄与相当額が40万円とした場合で、子Aのみが家庭裁判所に寄与分を定める審判又は調停の申立てをした。

(1)第一の考え方にたつと、子Aの寄与分は200万円となります。計算式は次の通りです。

1⃣みなし相続財産

1000万円-200万円=800万円

2⃣各自の具体的相続分は、

妻が800万円×1/2=400万円、

子Aが800万円×1/4+200万円=400万円、

子Bが800万円×1/4=200万円

となります。

(2)第二の考え方にたつと、

子Aの寄与分は子Bの寄与相当額を上回る分の160万円(200万円-40万円)となります。

1⃣みなし相続財産

1000万円-160万円=840万円

2⃣各自の具体的相続分は、

妻が840万円×1/2=420万円、

子Aが840万円×1/4+160万円=370万円、

子Bが840万円×1/4=210万円

となります。

なお、遺産分割が調停手続で審理されている場合は、当事者全員の合意があれば、寄与分を定める調停の申立てをしていない人についても、その者の寄与分を実質的に考慮に入れた分割をすることが可能です。

また、寄与分の算定方法も今までご説明した考え方と違う方法によることもできると考えられます。

特別寄与者

「はじめに」でお話したように、寄与分権者となり得るのは相続人に限定されていました。

しかし、相続権がない人でも、被相続人の療養看護に貢献するケースは多く(被相続人の息子の嫁など)、そのような場合に、一切金銭を請求できないとすると、かえって公平の観点に反するような結果となることは容易に想像できますね。

このような問題に対応するため、2019年7月から相続人以外の被相続人の親族について、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)が施行されました。これによって、被相続人の親族についても、特別寄与料の支払いを請求できることとなっています。

この特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときには、家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用することができます。

調停手続を利用する場合は、特別の寄与に関する処分調停事件として申立てをします。調停では、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出するなどして裁判所が事情を把握したうえで、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をしたりして、合意を目指した話合いが進められます。なお、調停手続で話合いがまとまらず、調停が不成立となった場合には、審判手続が開始されます。

注意が必要なのは、令和元年7月1日より前に開始した相続については、この申立てはできないという点です。

特別寄与料の額について

特別寄与料の支払

一次的には当事者間の協議により決められることになりますが、当事者間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法1050条2項)。

特別寄与料の額

被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません(民法1050条4項)。

具体的な金額について、当事者間の協議で決定できないときは、家庭裁判所が判断しますが、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます(民法1050条3項)。

そこで考慮される一切の事情には、上記のもののほか、相続債務の額、被相続人による遺言の内容、各相続人の遺留分、特別寄与者が生前に受けた利益(対価性を有するものを除く。)等が含まれます。

また、特別寄与料の額の算定方法寄与分における算定方法が参考になり、例えば療養看護型の場合、被相続人が「要介護度2」以上の状態にある場合の介護報酬が一つの目安になります。

寄与分に関するお悩みは、弁護士に相談を

相続問題では、寄与分に関して兄弟間で折り合いがつかなくなる等、トラブルに発展することが少なくありません。

法定相続分どおりに分けるのでは納得ができないという方、相手方が寄与分を主張しているがその可否金額等について疑問に思うという方は、お早めに当事務所の弁護士お問い合わせください。

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