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弁護士コラム

配偶者居住権を取得した配偶者による居住物件の収益化は可能か?

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年04月19日 | 
最終更新日:2024年04月19日
Q
先日、夫が亡くなりました。私は配偶者居住権を取得したのですが、今の自宅は一人で住むには広すぎます。そこで、家の一部を賃貸したいと考えています。
配偶者居住権を取得している私は、家の一部を賃貸できるのでしょうか?
Answer
亡くなった夫が、妻に対して配偶者居住権を取得させる旨の遺言をしている場合または、他の相続人との遺産分割協議によって妻が配偶者居住権を取得している場合、妻は終身又は一定期間、その建物に無償で住み続けることができます。

この配偶者居住権を取得した配偶者は、その居住建物をそれまでに利用していた方法に従って使用または収益しなければならず、建物所有者の承諾がなければ、第三者に使用収益させることはできません。

つまり、配偶者居住権を取得した配偶者は、建物所有者の承諾がなければ第三者に建物を賃貸することはできませんが、建物所有者の承諾を得れば、居住建物を賃貸することが可能です。

この記事では、配偶者居住権が設定された建物を賃貸するとどうなるのか、その場合の賃料は誰のものなのか、配偶者居住権を持つ配偶者はその建物の一部を賃貸するなどして収益化することができるのか、メリットやデメリットについてわかりやすく解説していきます。

併用賃貸住宅と配偶者居住権

配偶者居住権とは

配偶者居住権の概要

配偶者居住権という権利は、配偶者の住み慣れた住居での生活を保護する制度として民法改正により創設され、2020(令和2)年に施行されました。この配偶者居住権は、残された配偶者が、生存中または一定期間、無償で、居住している建物を使用又は収益できる権利です。
配偶者居住権は、遺贈又は遺産分割によって取得させることができます

配偶者居住権の創設された背景

夫婦の一方の死後、残された配偶者は、住み慣れた住居に住み続けつつ、生活を支える資金として預貯金等も確保したい、と考えることが多いと思います。しかし、従来、残された配偶者が住居を確保するためには、家屋の所有権を取得するか、家屋所有権を相続した者から有償または無償で借りるしかありませんでした。

所有権を取得すると、それだけで相続分相当になってしまい、他の預貯金などを取得することができないケースが多くありました。また、賃料を払って家を貸してもらう場合、賃料の支払いによって老後の資金が枯渇しかねません。さらに、無償で家を借りる場合は、家屋の所有権を相続した者がその家屋を売ってしまえば住み続けることができません。

このように従来の方法では、残された配偶者の生活が困難になる懸念があったため、配偶者の居住権を保護する制度が創設されたのです。

配偶者居住権の成立条件

配偶者居住権は次の方法により取得することができます。

  1. 1遺言による贈与(遺贈)
  2. 2相続人らの合意で行う遺産分割
  3. 3家庭裁判所の遺産分割審判

配偶者居住権の成立条件

また、配偶者居住権を取得する配偶者が相続開始時にその建物に居住していることが必要です。そのため、相続開始時に残された配偶者が建物に居住していない場合、遺言があっても、また、遺産分割で配偶者居住権を設定しても無効になってしまうので注意が必要です。

さらに、建物が亡くなった者とその配偶者以外の者の共有となっていた建物については、配偶者居住権の成立は認められない点にも注意が必要です。例えば、亡くなった者と子どもの共有となっている建物に残された配偶者が住んでいた場合、配偶者居住権を取得することはできません。

なお、事実婚等の内縁の配偶者には配偶者居住権は認められません。法律上の配偶者のみに認められています。

参考:別記事「内縁の妻(夫)には相続権がない?内縁関係でも遺産を残す方法を解説!」より「配偶者居住権は内縁関係にも適用されるのか?

配偶者居住権の及ぶ範囲

配偶者居住権は、住んでいる建物の全部に権利が及びます
分譲マンションのように区分所有となっている建物であれば、配偶者居住権の及ぶ範囲は区分所有部分に限られます。

しかし、アパートなどの賃貸用物件のように区分所有権が設定されておらず、その一室に配偶者が住んでいる場合、どのような扱いになるのか問題となります。この点については、記事内「3 配偶者居住権と相続開始前に成立した賃貸借の関係」で解説します。

配偶者居住権と収益化の可能性

居住建物の配偶者による賃貸の可否

では、配偶者居住権を取得した配偶者は、当該建物を賃貸して収益を得ることができるのでしょうか。
この点、民法も「従前の用法に従い」居住建物を使用及び収益するよう定めています。

民法第1032条(配偶者による使用及び収益)
第1項

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

そのため、原則として、配偶者居住権を取得した配偶者が、その居住建物を第三者に賃することはできません
しかし、居住建物の所有者の承諾を得た場合、第三者に賃貸して収益することが可能です。この点については、次のとおり民法1032条2項で定められています。

民法第1032条(配偶者による使用及び収益)
第2項

配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。

所有者の承諾が必要な賃借人の範囲

では、居住建物に家族や使用人を住まわせるような場合にも、所有者の承諾が必要なのでしょうか。賃貸する場合に所有者の承諾が必要となる第三者とは、どのような範囲の者を言うのでしょうか。

この点、配偶者居住権については使用貸借の規定が準用されているため、使用貸借の場合に貸主の承諾がなければ使用収益させることができない「第三者」の解釈に準じて考えると、配偶者の家族や使用人など、配偶者から独立して生計を営む者ではない場合同居することは可能で、建物の所有者の承諾は不要と考えられます。

しかし、配偶者が経営している店舗の従業員や、親族などを居住建物に住まわせる場合、「第三者」にあたり、所有者の承諾が必要であると考えられます。

(参考)
家屋の使用貸借の場合、「居住の目的での家屋の使用借主は自己の家族、家事使用人を同居させることができるが、他所での営業の使用人を住みこませることは貸主の承諾を要する。」また、「下宿人を同居させることは,その下宿人が借主の親族である場合も貸主の承諾を要する。」(幾代 通・広中 俊雄/編集『新版注釈民法(15)債権(6) 消費貸借・使用貸借・賃貸借 -- 587条~622条 増補版【復刊版】』(有斐閣、2010年)105頁)とされています。

所有者の承諾なく賃貸した場合

仮に、配偶者居住権を取得した配偶者が、所有者の承諾を得ないで、勝手に第三者に賃貸した場合、配偶者にペナルティーはあるのでしょうか。

配偶者が勝手に第三者に居住建物を賃貸した場合、所有者は、相当の期間を定めて是正するよう催告した上で、その期間内に是正されなければ配偶者居住権を消滅させることができます。

つまり、所有者から催告された場合には、定められた相当の期間の間に賃貸借関係を解消するなどして是正しなければ、配偶者居住権を消滅させられてしまうのです。そのため、配偶者は勝手に第三者に賃貸しないよう、注意が必要です。

配偶者居住権と相続開始前に成立した賃貸借の関係

配偶者による明け渡し請求の可否

配偶者居住権は、住んでいる建物の全部に権利が及びます。配偶者が住んでいる建物の一部が賃貸物件である場合、配偶者は賃借人に対して明け渡しを求めて自ら使用収益することができるのでしょうか。

この点、配偶者居住権は建物全部に権利が及ぶとされているので、配偶者は賃貸用としている部分まで使用・収益できそうに思われます。

しかし、配偶者は、相続開始時に既に賃貸されていた部分の賃借人に対して明け渡しを求めることはできません。建物賃借権を第三者に対抗するためには引渡を受ける必要がありますが、相続開始時に賃貸されていた賃借人は既に引渡を受けて対抗要件を具備しているため、配偶者は賃借人に配偶者居住権を主張(対抗)することができないのです。

相続開始前に成立した賃貸の賃料の帰属

このように、配偶者居住権を取得した配偶者は、相続開始前からの賃借人に対して明け渡しを求めることはできません。では、誰が賃料収入を取得することができるのでしょうか。

この点、相続開始前の賃貸借契約に基づく賃料は、建物所有者に帰属すると考えられています。建物所有権を相続する者が、賃貸借契約上の賃貸人の地位も相続するのが通常であり、賃料も建物所有者に帰属すると解され、税務上の扱いにも沿うからです。

相続開始前からの賃貸借終了後の新たな賃貸借

では、相続開始前から続いていた賃貸借契約が終了した後、空いている部屋を賃貸することができるのは建物所有者なのでしょうか、配偶者居住権を有する配偶者なのでしょうか。

この問題については、配偶者居住権が創設されてから間もない制度であるため、どのように解決されるのか不明な点がありますが、次のように考えられます。

すでに配偶者居住権が成立し、その権利が建物全体に及んでいるため、配偶者は、その空き部屋も使用収益する権利があります。そのため、建物所有者は、勝手に空き部屋を賃貸に出すことはできないと考えられます。ただ、配偶者の承諾があれば、建物所有者がその空き部屋を使用収益することも可能と解されるので、賃貸することも可能と考えてもよいように思われます。

他方、配偶者は空き部屋も使用収益する権利がありますが、建物所有者の承諾がなければ、空き部屋を賃貸できません。配偶者が、建物所有者の承諾を得て賃貸した場合には、その賃料収入を得ることが可能です。

空き家となる居住建物の賃貸

配偶者居住権を取得した配偶者が、老人ホームや介護施設などに入居する場合、居住建物が空き家となる場合も多いです。そのような場合、配偶者は、この空き家を賃貸して収益を得ることができるのでしょうか。

配偶者居住権を有する配偶者は、建物所有者の承諾を得れば、第三者へ賃貸して賃料収入を得ることができます。これにより、配偶者は、老人ホームや介護施設などの費用や生活資金を取得することが可能となります。

なお、配偶者居住権を有する配偶者が老人ホームや介護施設に入るための資金を得る方法としては、配偶者居住権を放棄することを条件に、これによって利益を受ける建物所有者から金銭の支払を受ける方法も考えられます。

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配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物を第三者に賃貸するなどして収益を得ることが可能です。しかし、第三者に賃貸するためには、建物所有者の承諾が不可欠です。そのため、居住建物を有効活用するには、配偶者居住権を有する配偶者と建物所有者の良好な関係が望まれます。遺産分割の時点で争いが生じた場合には、後々の関係にもひびが入り、居住建物の有効活用が難しくなる恐れがあります。

そこで、被相続人の生前や遺産分割協議の時点で、弁護士等の専門家に相談して助言を受けながら対策することで、後のトラブルを防止することをおすすめします。

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