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弁護士コラム

相続開始から遺産分割までの間に発生した、被相続人の賃料はどうなる?

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年07月21日 | 
最終更新日:2022年07月22日
Q
先日亡くなった夫が所有していたマンションに関して、遺産分割の方法が決まりました。
しかしその後、相続開始から遺産分割までの期間に発生したマンションの賃料をめぐって、共同相続人の間で紛争が生じてしまいました。
この場合、この賃料の債権は誰に帰属するのでしょうか?
Answer
相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料は、遺産とは別個の財産となります。
そのため、賃料債権はそれぞれの相続人の相続分に応じて当然に分割され、それぞれの相続人が自分の相続分に応じた金額を請求できることになります。
(請求する相手は、賃借人が賃料を未払いであれば賃借人、相続人の誰かが代表して賃料を受け取っていたのであればその相続人となります。)

裁判例

最高裁判所平成17年9月8日判決は、次のとおり判断しています。

「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

実際にあったケース

事例内容

被相続人甲が亡くなり、その相続人として、妻A、子B、子C、子Dがいます。

被相続人甲の遺産には被相続人甲名義のマンションがあり、被相続人甲は、第三者乙に対し、月額12万円の賃料で貸していました。

第三者乙は、被相続人甲が亡くなった後も、被相続人甲名義の銀行口座に賃料を振込送金する形で支払い続けました。被相続人が亡くなった10か月後に遺産分割協議が成立し、上記マンションは妻Aが相続することになりましたが、遺産分割協議では第三者乙が被相続人甲が亡くなった後に支払った上記マンションの賃料(10か月分120万円)をどうするかについては取り決めていませんでした。

このような場合に、子Dが賃料120万円の6分の1(子Dの法定相続分)である20万円の支払いを求めたとき、果たして法的にどのようになるのかが問題となります。

判断のされ方

最も素直な考え方は、マンションは妻Aが取得することになったのだから、被相続人甲が亡くなってから遺産分割協議が成立するまでの間の賃料120万円についても、妻Aがその全額について取得すべきであるというものです。

民法909条が「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定していることからも、遺産分割によってマンションを取得した妻Aが、マンションの全ての賃料を取得すべきように思えます。

冒頭でご紹介した最高裁判決の原審である東京高等裁判所もそのように考えました。該当部分を引用します。

「遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして、本件口座の残金を分配すべきである。」

しかし、最高裁判所は、原審の上記判断を否定し、冒頭で引用したように判断しました。

最高裁判決によれば、被相続人甲が亡くなってから遺産分割協議が成立するまでの間の賃料120万円については、それぞれの相続分に従い、妻Aが60万円、子B・C・Dがそれぞれ20万円ずつ取得することになります。

とはいえ、遺産分割の対象となるマンションから発生する賃料が遺産分割の対象にならないとすると、その清算は民事訴訟によるべきということになりますが、別途民事訴訟を提起するのでは手間も時間もお金もかかってしまいます。

そこで、実務では、遺産から発生した果実や収益についても、当事者全員が遺産分割の対象とする旨の合意をし、裁判所が相当と認めるときには、遺産分割の対象とすることができるという運用をしています。

なお、遺産から発生した果実や収益について、当然には遺産分割の対象としないのは、実務上の配慮によるものであると言われています。すなわち、遺産から発生した果実や収益について当然に遺産分割の対象になるとしてしまうと、全ての果実や収益を確定した後でなければ遺産分割ができないということになりかねず、遺産分割調停や審判の円滑な進行が阻害される可能性があるためです。

まとめ

このように、遺産から発生した果実や収益(賃料は「法定果実」に分類されます)は、遺産には含まれず、遺産分割の対象とする旨の合意をしない限り当然には遺産分割の対象には含まれないことから、原則として、それぞれの相続人がそれぞれの相続分に応じた金額を取得することになります。

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