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弁護士コラム

遺産の管理費用は誰が負担するの?相続に強い弁護士が解説!

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年04月04日 | 
最終更新日:2024年04月05日
Q
父(被相続人A)が遺言をしないまま亡くなりました。法定相続人は、私(長女B)と、長男C、次女Dの三人です。現在、B、C及びDで遺産分割協議をしているところですが、なかなか合意ができそうにありません。

Aの遺産にはマンションの一室がありますが、今は誰も住んでいません。Aが亡くなった後、私(長女B)がその管理も任されており、マンションの管理費や固定資産税に加え火災保険料も支払っています。私だけが費用を負担するのは不公平だと思うのですが、遺産の管理費用は誰が負担するべきものなのでしょうか。CやDにも負担してもらうことはできるのでしょうか?
Answer
遺産の管理費用は「相続財産に関する費用」として相続財産から支出することができます(民法885条1項)。遺産であるマンションの管理費、固定資産税や火災保険料などは、「相続財産に関する費用」として相続財産から支出できるのです。

しかし、遺産に現金がなく、遺産の一部を換価することもできない場合、相続財産から遺産の管理費用を支出することができません。このような場合、遺産の管理費用を共同相続人が持分に応じて分担することになります。

支出した遺産の管理費用の清算は、相続人間の合意があれば、遺産の管理費用も含めて遺産分割協議や遺産分割調停が行われ、清算されます。相続人全員の合意があれば遺産分割の前にすることも可能です。しかし、相続人間の遺産分割協議や調停で合意できなければ、民事訴訟で争うことになります。

遺産の管理と費用負担

相続開始から遺産分割までの遺産の使用と管理

遺産の使用

民法898条:相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する

相続人が複数名いる場合、相続開始から遺産分割までの間、全ての遺産は法定相続分に応じた各相続人の共有状態となります。そして、それぞれの相続人は、遺産の全部を法定相続分に応じて使用することができます。

遺産の管理

では、遺産の管理についてはどうでしょう。
相続開始から遺産分割までの間、遺産は相続人らの共有となっているので、遺産の管理についても、民法249条以下の共有の規定に従って、次のように行為によっては各相続人が単独で行うこともできます。

保存行為(現状を維持するための行為)➡各相続人が単独で可。
管理行為(財産の利用または改良行為)➡持分の価格の過半数により決す。
変更行為(性質・形状の一方or両方を変更する行為)➡相続人全員の同意が必要。

保存行為

マンションの管理費の支払や雨漏りの修繕など、遺産の現状の維持をするための行為を保存行為と言いますが、保存行為は各相続人が単独で行うことができます。保存行為としては他にも、妨害排除請求権の行使、相続財産である動産を占有する第三者に対して引渡請求することや、遺産の土地の保存登記などもあります。

管理行為

遺産である物の全部の使用貸借契約の締結や、賃貸借契約の締結・解除など、財産の利用又は改良行為を管理行為といいます。
管理行為は法定相続分の価格に従い、その過半数の同意により決することとされています。

遺産の管理行為

相続人の一人が相続財産について過半数の同意を得ないで管理行為をした場合には、権限外の行為をしたことになります。この場合、相続人の利益となる行為であったなら事務管理(民法697条以下)として有益な費用の償還請求(民法702条1項)等が可能な場合もあります。利益とはいえないような行為であれば不当利得(民法703条以下)や不法行為(民法709条以下)となり、不当利得返還請求損害賠償請求を受ける可能性があります。

なお、前述のように各相続人はその持分に従い、遺産の全部を使用することができます。他方、管理行為は法定相続分の過半数により決することとされています。例えば、遺産である不動産について、一人の相続人が被相続人との使用貸借契約に基づいて占有利用している場合、過半数の法定相続分を有する他の相続人が使用貸借契約を解除して、明け渡しを求めることができるのでしょうか。

この場合、結論的には、使用貸借契約を解除して明渡しを求めることはできないとされることが多いでしょう。

変更行為

物全部の処分や土地の形状の変更など性質若しくは形状又はその両者を変更する行為のことを変更行為といいます。
変更行為は、相続人全員の同意により行うことが必要です。

遺産の管理人を選任する場合

相続人全員での遺産の管理が大変な場合、第三者や相続人のうちの一人に遺産の管理を任せることもあります。
相続人不存在の場合の相続財産清算人が選任されている場合や遺言執行者が指定または選任されているような場合を除き、共同相続人は、遺産を管理する人を選任することができます。

選任

相続開始から遺産分割までの間、遺産は相続人らの共有となっているので、遺産を管理する人を選任するのも、相続人全員の同意が必要です。
遺産の管理人は、第三者や、相続人の中から選任することもできます。

遺産の管理人の権利義務

遺産の管理人を選任する場合、管理人と委任契約をすることになります。管理人の権利義務はこの委任契約の内容次第ですが、特に契約で定めていなければ民法643条以下の定めに従うことになります。契約の定めがなければ、保存行為と管理行為をすることができますが、変更行為はできません。

管理人は、委任の本旨に従い善良な管理者としての注意義務をもって遺産を管理する必要があります。また、報告義務や受取物の引渡義務などもあります。
他方、管理人には、管理のために必要となった費用の請求権があります。また、特約があれば報酬を請求することもできます。

遺産の管理費用の負担者

遺産の管理費用の負担者と清算方法

相続財産から支出

遺産の管理についてみてきましたが、保存行為であれ管理行為であれ、遺産を管理していると管理費や固定資産税、火災保険料など様々な費用が掛かります。この費用は誰が、どのように負担するのでしょうか。

遺産の管理費用は、「相続財産に関する費用」として相続財産から支出することができます。

従って、遺産として現金があればその現金から、現金がない場合でも相続人が協力して遺産の一部を換価することができればその換価したお金から遺産の管理費用を支払うことができます。

法定相続分に応じて相続人が負担

遺産として現金がない場合や、換価ができない場合、遺産から遺産の管理費用を捻出することができません。このような場合には、相続人が法定相続分に応じて遺産の管理費を負担することになります。

この場合、相続人それぞれが費用を支出し、立替えて出費した者がいればその者に費用を支払うという方法で清算することが考えられます。

相続人間で、管理費用の金額について争われることもあります。遺産が賃貸物件であるような場合、管理している相続人が実費の領収書や明細書を提出して正確に金額を算出する方法や、過去の確定申告等からだいたいの経費を算出するなどの方法がとられます。そして、相続開始後から遺産分割までに生じた遺産からの賃料収入など収益があった場合、管理費用を控除した上で残りの収入を相続人らの法定相続分に応じて分配する方法などが考えられます。

遺産分割協議の中で解決

遺産の管理費用について、他の遺産とあわせて遺産分割の対象とするほうが協議しやすい場合もありますが、遺産の管理費用は相続開始後に生じたものであり、遺産とは別個のものなので、遺産分割の対象とならないのが原則です。

しかし、相続人の合意があれば、遺産の管理費用の負担を遺産分割の対象とすることも可能です。

この場合、遺産分割協議の中で遺産の管理費用を負担する者や負担の割合を決めることが考えられます。また、遺産の管理費用を遺産分割協議書などに特に明記しないまま、管理費用を負担した人が多くの遺産を取得するということもあります。

遺産分割調停又は民事訴訟

では、遺産の管理費用の負担について一部の相続人が納得してくれないような場合、遺産分割調停や遺産分割審判で解決することもできるのでしょうか。

この点、遺産分割調停を利用する相続人の多くが遺産の管理費用も含めて一度に遺産分割を解決したいと考えていることもあり、相続人間で合意があれば遺産の管理費用も含めて遺産分割調停を行うのが家庭裁判所の実務です。しかし、遺産の管理費用は遺産分割審判の対象とはされていません。そのため、相続人間で合意ができず、遺産分割調停でも解決しないような場合には民事訴訟で遺産の管理費用について争うことになります。

なお、遺産からの収益や果実についても、これを遺産の範囲に含めることと、遺産分割の対象とする遺産からの収益額について合意できれば、遺産分割調停の中で遺産分割の対象とすることができます。

遺産からの収益・果実の帰属

では、遺産を賃貸して得られる賃料など、遺産から生じる収益や果実がある場合、誰のものになるのでしょうか。

相続開始から遺産分割までに生じた遺産からの収益や果実は、遺産ではありません。そのため、遺産分割の対象ではなく、法定相続分に従って当然に分割されます。(ただし、遺言によって指定された相続分がある場合はその相続分(指定相続分)に従います。)相続開始後から遺産分割までに生じた遺産からの収益は、遺産分割による影響を受けません。

しかし、相続人全員で、遺産からの収益を遺産の範囲に含めることについて合意できれば、遺産分割の対象とすることができます

遺産から支出できる遺産の管理費用とできない管理費用

遺産から支出できる管理費用

相続人が遺産についてするべき管理や処分に必要な費用は、相続財産に関する費用として遺産から支出します。
例えば、次のような費用も含まれます。

  • 管理人選任費用や遺産の不動産の保存登記手続などの遺産の保存に必要な費用
  • 鑑定・換価・弁済その他清算に必要な費用
  • 財産目録調製の費用
  • 管理・清算のための訴訟費用
  • 遺留分減殺の主張によって生じた費用
  • 相続財産の破産に際して破産管財人が相続財産についてするべき管理処分に必要な費用

ただし、これらの費用について遺産から支出するには、管理行為であれば持分の過半数の決定変更行為であれば相続人全員の同意が必要です。

他方、遺産の保存行為と判断される場合、一人の相続人が行った遺産の管理に要した費用について遺産から支出できます。例えば、遺産である建物の雨漏りを修繕するための費用であれば保存行為であり、相続に関する費用として遺産から支出できます。

なお、遺産の管理費用と似た問題として、葬儀費用を遺産の中から支出できるかという問題もあります。この点、詳しくは「葬儀費用は誰が負担する?相続財産から支払える?弁護士が解説」の記事をご参照ください。

保存行為を超える行為についての費用

現状を維持するための行為を超えるような行為を相続人が単独で行った場合、例えば、一箇所の雨漏りがあり、一部修繕すれば足りるのに、屋根全体を新しくしてしまったような場合、相続財産に関する費用と認められず、遺産から支出することはできません。遺産を利用または改良する行為は管理行為に該当するので、相続分の過半数で意思決定を行う必要があるからです。

ただし、このような管理を超える行為によって遺産の価値が増加した場合、その増加した価値が現存していれば、その費用負担を求めることが可能です

遺産を使用貸借している者が負担した管理費用

遺産の一つである建物に相続人の一人が相続開始前から無償(タダ)で住んでおり、その相続人が固定資産税や修繕費などを払っていた場合も、その相続人が支払った固定資産税や修繕費などは相続財産に関する費用として遺産から支出するべきなのでしょうか。

このように、無償で借りていた場合は使用貸借といい、通常必要となる費用(目的物についての公租公課、現状維持・保存に必要な修繕費・補修費・保管費など)は借主が負担するのが原則です。そのため、固定資産税や修繕費などは無償で借りている相続人が負担することになり、遺産から管理費用を支出することはできません

相続放棄と遺産の管理

法定相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3か月以内に、相続するか、相続放棄するかの選択をする必要があります(民法915条1項本文)。この期間を熟慮期間といいます。

熟慮期間については、「相続の「熟慮期間」とは?熟慮期間に行うべき4つのことと開始タイミングの考え方」の記事をご参照ください。

相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりません。これは、相続放棄を予定している熟慮期間中の相続人であっても同じです。
しかし、相続人が、単純承認をしたものとみなされるような事情(法定単純承認)があると、相続放棄ができなくなってしまいます。単純承認をしたものとみなされる事情(法定単純承認)は、①相続財産の全部または一部の処分②熟慮期間の徒過③限定承認・相続放棄後の背信的行為といった事由に該当する行為をしてしまった場合です。そのため、相続放棄を予定している相続人は、遺産の管理をする際に、相続財産の全部または一部の処分とならないよう、注意が必要です。

この法定単純承認となる「処分」は、財産の現状、性質を変える行為を指し、法律行為だけではなく、事実行為も含みますが、保存行為や管理行為は含まれません。

例えば、遺産である老朽化した家屋を取り壊したり、動産を毀損するような事実行為も「処分」に該当し、このような行為をした場合には単純承認の効果が生じてしまいます。ただ、「処分」が法定単純承認とされているのは、このような行為により相続人が単純承認する意思があると推測されることからであるため、過失によって毀損したような場合には「処分」にあたりません。

他方、崩れかかっている門柱を補修するための工事は、相続財産の現状を維持するのに必要な行為(保存行為)であり、「処分」ではないため、法定単純承認にはなりません。

また、遺産である土地が第三者に使用貸借されていた場合に、この使用貸借契約を解除する行為等は、財産の性質を変更しない範囲で利用・改良する行為(管理行為)であり、「処分」ではないため、法定単純承認にはなりません。

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このように、遺産の管理をする際、相続人は単独で遺産の現状の維持をするための行為(保存行為)をすることができ、遺産から支出することが可能です。ただ、立替えた費用を清算するためには、領収書を提出するなどしてかかった費用を明確にしなければ、争いとなりかねないので注意が必要です。

遺産の管理をめぐり、相続人間で様々な意見があって衝突することもあります。そうならないよう事前に、また、争いになりそうな際にも弁護士等の専門家に相談し、相続人全員が納得できるような遺産の管理を進めましょう。

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