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弁護士コラム

共同相続人への不動産明渡し請求はできる?【相続登記(法改正)も解説】

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年10月31日 | 
最終更新日:2022年10月31日
Q
父が亡くなって、3人の姉妹で相続を開始しました。
亡父が住んでいた実家には、現在末っ子の妹が一人で住んでいます。次女夫婦がその家に住みたいと申し出ており、長女もこれに承知しています。しかし、末っ子は反対し、長女次女を家に入れません。
姉2人は、末っ子に対して家の明渡しを請求できるのでしょうか?
Answer
相続人の1人が相続財産の家を使用しているとき、他の相続人はその家からの明渡しを請求できるか、という点が今回の問題となります。

本記事で詳しく解説していきます。

共同相続

複数の相続人がいるときは、遺言があれば遺言のとおりに、遺言がなければ相続人同士で話し合いをして遺産を分けることになります。しかし、法律上は、被相続人が亡くなった時点で相続財産は相続人全員の共有となります(民法(以下民という)898条)。これを「共同相続」といいます。

共同相続は過渡的なもので、遺産分割協議で遺産の配分が決まるまで続きます。共同相続において遺産分割が完了するまでの間の相続財産の管理、使用収益、処分については、民法の共有物に対する共有者の管理、使用収益、処分に関する規程(民249条以下)が適用されます。

民法改正により、配偶者の居住権に関する規程が創設され、相続時に配偶者居住権を取得することで、配偶者は住居を無償で使用できるようになりました。また、遺産分割協議中の配偶者の居住権を保護するための配偶者短期居住権も設置されます(改正民1028条~1041条)。ただ、これはネーミングから分かるように、配偶者に限られます。

~配偶者居住権について~

配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で、一定の要件を満たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が、賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。

改正前の民法の規定によれば、遺産分割に際し、被相続人の配偶者が安定的に住居を確保するためには、被相続人の配偶者が居住し、被相続人が有していた家屋(以下「居住建物」といいます。)の所有権を取得する必要がありました。

配偶者が居住建物の所有権を取得しようとする場合、遺産の構成によってはそれを取得しただけで相続分に達し、協議によっては金融資産など他の財産を取得できなくなり、住居は確保したものの老後の生活に苦慮する事態となることもあり得ます。

そこで、配偶者の居住及び老後生活の安定に資するため、配偶者の生存中は居住建物に無償で居住できる権利(配偶者居住権)を創設することとされました(民1028)。

他の相続人が居住建物の所有権を取得し、配偶者が配偶者居住権を取得することにより、配偶者の住居が確保され、かつ、他に金融資産も相続することができるため、老後の生活を安定させることが可能になります。

また、婚姻期間が20年以上の夫婦である場合は、遺贈によって配偶者居住権を設定しても、特に反証がなされない限り、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定(民903④)によって、各共同相続人の具体的相続分の計算においては、配偶者が取得した配偶者居住権の価額を考慮しないで算定することになります。

遺産共有状態には、一人で遺産の使用方法や処分について決められないというデメリットがありますので、できるだけ早く解消することがおすすめです。遺産を共有している限り、共有物全体を処分するためには相続人全員の同意が必要になり、相続人が多いと処分手続がとても大変なのです。

相続人全員が生存中は特に問題はなくても、子や孫の世代になると面識のない相続人もでてきますので、より時間と費用がかかります。相続人の子や孫の世代まで共同相続の関係を続けてしまうと、1つの家を数十人で共有する事態もあり得ます。

では、共同相続の解消の方法はどうすればよいのかについて説明します。

解消方法としては、遺言の執行や遺産分割協議での遺産分割があります。被相続人が遺言で遺産の配分を定めていれば、基本的にはそれに従って分割することになります。遺言がない場合は、相続人全員で遺産の配分について話し合います(遺産分割協議)。

相続人は、他の相続人に対していつでも遺産分割協議をもちかけることができますので、できるだけ早く、協議を開始することがよいかと思います。

相続開始前から特定の相続人が被相続人と建物に同居していた場合

そうすると質問のお家は姉妹3人の共有になり(持分各3分の1)、各自は共有物である家全部につき、その持分に応じた使用をすることができることになります(民249条)。

末っ子はその持分に基づいて家屋を使用しているものといえます。姉2人がその明渡しを求めることは、遺産の使用方法を変更するということになるわけです。

ここで問題となるのは、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居していた場合、他の相続人は当該同居の相続人が自己の相続分を超えて使用収益(住んでいる)していると主張して、明渡請求や不当利得に基づいて賃料相当額を請求できるか、という点です。

これは、原則として明渡請求や金銭請求はいずれも請求できません

この点について判示した最高裁の判例があり(最三小判平成8・12・17)、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるからです。

具体的には、上記最高裁判例は、下記のように判示しました。

「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである」

そのため、始期付使用貸借契約の成立が推認されますので、建物を使用していない他の相続人は、債務不履行による解除事由が生じない限り、使用貸借の終期である遺産分割時までは、末っ子に対し明渡請求をすることはできません。

また、同居の相続人が得る利益に『法律上の原因がない』ということはできないから、不当利得返還請求は理由がないことになります。

このように、占有する相続人が自己の相続分を超えて使用収益している場合、被相続人が亡くなった後は、そのほかの相続人を貸主、同居の相続人を借主とする使用貸借契約が存続することになるから、他の相続人は不当利得として賃料相当額を請求できません。

なお、遺産分割手続においても、始期付使用貸借契約は、遺産分割までの過渡的なものとして、特別受益に当たらないとする見解が有力であると思われます。

相続開始後に特定の相続人が相続不動産の占有を勝手に開始した場合

明渡請求

民法上「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」とされています(民249)。

例えば、甲が乙の遺産である不動産に居住していたとしても、その使用が甲の持分に応じたものである限り、他の相続人丙、丁が甲の利用を排除することはできず、よって明渡しは認められません。

ただ、例えば、乙の死亡時に、甲は他の場所に自宅があり、一方、丙・丁は賃貸暮らしで、できれば、乙の自宅であった建物に丙・丁一緒に住みたいと思っていたところ、甲が丙・丁の了解なくそこに住んでしまったような場合にまで、丙・丁は一切明渡しを求めることができないのでしょうか?

民法252条本文は「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定めています。

そこで、占有関係の変更を同条の「管理に関する事項」と捉え、共有者の過半数の同意によって明渡しを求めるということも考えられます。

この考え方によれば、丙・丁が合わせて3分の2の持分となり甲に対して明渡しを求め得ることとなります。

しかし、最高裁昭和41年5月19日判決(判時450・20)は、多数持分権者であっても当然にその明渡しを請求することができるものではない、としています。

ただし、上記判例も、「明渡しを求める理由」を主張し立証した場合には、その理由如何によっては明渡請求認容の余地を認めています。よって、例えば、持分の過半数を有する者による同意に加えて丙・丁において当該不動産を利用する必要性の高さを主張、立証すれば、明渡しが認められる可能性もあるでしょう。なお、明渡しの可否の判断においては、丙・丁のみならず、甲側の事情(例えば、乙が生前に、自己の死亡後は甲が自宅に居住することを許容していたか否か等)にも配慮した上で判断がなされることになると解されます。

賃料相当額の請求について

賃料相当額の支払請求については、最高裁平成12年4月7日判決(判時1713・50)によると、共有物である土地を単独で占有することができる権原がないにもかかわらず、当該土地を共有者の1人が使用している場合には、その他の共有者は、その持分に応じた使用が妨害されているとして、その土地を占有している当該共有者に対して、持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求できるとされており、上記のご質問の事例でも請求可能と解されます。

最判昭29・2・25の判旨については、「使用賃借の解除=明渡は252条本文の管理行為に該当するので、共有者の持分の過半数の決議を要するとする。」(有地亭・新民法演習5 219)とか、「相続分過半数を以て為された解約しようという決議に基き、且解除権行使不可分の原則に従い全員より解約告知が為された後はY(相続財産たる家屋の使用借主・被告)は不法占拠者となりYが明渡さない場合にYに明渡を求めることはいわゆる保存行為に当るから共有者の一人即ちX(原告)一人でも為しうるというにある」(谷口知平・民商31・2・222)というように、過半数決議で家屋の使用自体を変更できるとするものであると解されてきました。

 しかし、最判昭41・5・19民集20・5・947は、

「思うに、共同相続に基づく共有者の一人であって、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という。)は、他の共有者の決議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権限を有するものではないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといって(以下このような共有持分権者を多数持分権者という。)、共有物を現に占有する前記少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」

と判示し、過半数決議だけでは家屋の使用者を変更できないことを明らかにしました。

この判決は、多数持分権者が主張すべき「明渡を求める理由」の内容について何も触れていませんが、この点に関連して、

「分割前の共同相続財産につき、共有関係の始まる前に共有者の一部が権限に基づいて使用収益していた場合には、過半数の持分を有する共同相続人だけでその使用収益を奪うことは妥当でなく、全員一致で決めることが望ましい」

とし、このような争いは遺産分割の問題として処理すべきであり、それまでは従来の使用方法を多数決で変えることはできないと主張する学説があります(星野英一・法協84・5・94)。家屋を使用している相続人の居住の保護の必要、その相続人の居住の事実を遺産分割で考慮すべき一切の事情としてしんしゃくするのが望ましいこと等を理由とする立論ですが、これに同調する学説が多く、有力説となっています(我妻=唄・相続82、有地・前掲書222、奈良次郎・判解43事件、猪瀬・前掲書10)。

改正民法は、特段の定めなく共有物を事実上使用している共有者がいる場合において、持分価格の過半数により共有物の利用方法を決することができると規定しました(民252条1項後段)。また、共有者間で共有物の利用方法の定めがある場合でも、各共有者の持分価格の過半数で共有物の利用方法を変更できる(民252条1項前段)とし、この場合は、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない(民252条3項)としました。

共有物を使用する共有者は、「別段の合意」がある場合を除き、他の共有者に対して、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います(民249条2項)。もっとも、共有者間において、無償とするなどの合意があれば、「別段の合意」が認められるので、償還義務は負いません。

質問の回答

質問の、実家に対する相続分は3人の姉妹は各3分の1ずつですから、末っ子を除く2人の意見が一致すれば3分の2で過半数を上回ることになります。

2.相続開始前から特定の相続人が被相続人と建物に同居していた場合

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居していた場合は、他の相続人は当該同居の相続人が自己の相続分を超えて使用収益(住んでいる)していると主張して明渡請求や不当利得に基づいて賃料相当額を請求できません。

原則、「出て行ってくれ」という明渡請求、「住んでいた分賃料相当分を支払え」という金銭請求のどちらも認められません。

多数決によって当然に末っ子を立ち退かせることは許されません。家屋の使用方法は共同相続人の遺産分割の協議により、協議が調わないときは家庭裁判所に遺産分割審判又は調停を申し立てることによって決めるべきであると考えます。それまでは、末っ子を立ち退かせることはできない、ということになります。

そして、賃料については、遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続するため無償の使用収益(住む)ことができるのです。

3.相続開始後に特定の相続人が相続不動産の占有を勝手に開始した場合

多数持分権者であっても当然にその明渡しを請求することができるものではありません。

ただし、「明渡しを求める理由」を主張し立証した場合には、その理由如次第では明渡請求が認められる可能性はあります。例えば、持分の過半数を有する者による同意と、姉2人の実家を利用する必要性の高さを主張、立証できれば、末っ子は出ていかなくてはなりません。

相続登記について(法改正)

少し話が変わりますが、不動産に関する相続のルールが大きく変わりますので、ここでお伝えします。

近年、空き家問題や、所有者が分からない家屋の倒壊の危険などがテレビで話題となっていることをご存知の方も多いでしょう。これに向けて、国は令和3年4月21日に民法等の一部を改正する法律と、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律を成立させました(同月28日公布)。

令和3年民法・不動産登記法の改正と、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の制定が所有者不明土地の解消に向けたルールです。

「所有者不明土地」とは、

  1. 1不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
  2. 2所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地

をいいます。

令和2年の国交省の調査によると、所有者不明土地の割合は24%にもなり、その原因は相続登記の未了と住所変更登記の未了でした。

相続登記の申請が義務でなかったことや、遺産分割がされないまま相続が繰り返され土地共有者が鼠算式に増えているということを背景とした所有者不明土地等の発生予防と得利用の円滑化を目的とした法改正です。

所有者不明土地の発生予防のための内容は、以下のとおりです。

①相続登記の申請を義務化 令和6年4月1日施行
不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務づける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。

②登記名義人の死亡等の事実の公示 令和8年4月までに施行
登記で登記名義人の死亡の有無の確認が可能になる。

③相続等により取得した土地所有権を国庫に記憶させる制度の創設
通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する以下のような土地に該当しないこと
㋐建物や通常の管理又は処分を阻害する工作物等がある土地、
㋑土壌汚染や埋設物がある土地、
㋒崖がある土地、
㋓権利関係に争いがある土地、
㋔担保権等が設定されている土地、
㋕通路など他人によって使用される土地 など

所有者不明土地の利用の円滑化のための内容は、大きく4つです。

これらは、令和5年4月1日施行です。

①財産管理制度の見直し
・個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設。
・所有者が土地・建物を管理せずにこれを放置していることで他人の権利が侵害される恐れがある場合に、管理人の選任を可能にする制度を創設

②共有制度の見直し
・裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設。
・裁判所の関与の下で、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託により、不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みを創設。

③相続制度の見直し
・相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で感銘に遺産分割を行う仕組みを創設。

④相隣関係規定の見直し
ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みを整備。

今回のルールの変更、明確化により、3つのメリットがあります。

①所有者がすぐ分かる

 相続等に伴う登記の申請が義務化され、登記簿で所有者を調べやすくなります。

②もっと土地が使える

 共有や財産管理のルールが改正され、所有者不明土地も利用しやすくなります。

③相続によって取得した土地を手放せる

 不要な土地を国が引き取ることで、所有者不明土地を発生させないようにします。

詳しくはこちらをご覧ください。

実際に義務化・罰則がなされたり、具体的に手続が始まったりするのは、まだ少し先のお話ですが、共有財産はできる限り早期に共有を解消することが大切です。

相続の手続きは、大切な方が亡くなった後に行うもので、すぐに手を付けるのが難しい場合もあります。そのようなときは、専門家に頼ってみるのもよいでしょう。

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