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弁護士コラム

生命保険金は、遺産分割の対象・「特別受益」になる?わかりやすく解説!

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年07月22日 | 
最終更新日:2023年12月27日

生命保険金は特別受益になるのでしょうか?その場合、具体的な事情にはどのようなものがありますか?

解説

生命保険金の「特別受益」該当性

★(「特別受益」の意味についてはこちらの記事をご参照ください)

結論から言えば、場合によっては、生命保険金は「特別受益」に該当します

では、どのような場合に「特別受益」に該当するのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

【原則的な扱い】

生命保険金(共同相続人の1人を受取人とする死亡保険金請求権に基づく給付金)については、原則的に、「特別受益」にはあたりません。

なぜなら、保険金請求権は、そもそも民法903条1項の「遺贈」や(生前)「贈与」にあたらないとされているからです。

保険金請求権というのは、保険契約に基づいて保険金受取人が取得する権利であり、しかもそれは保険金受取人の固有の権利です(*より詳しくは、文末の「*より詳しく①」をご参照ください)。

こうしてみると、生命保険金はいかなる場合にも、「遺贈」や「贈与」に当たらないとなりりそうです。

もっとも、保険料は保険金の対価といえますから、保険料を被相続人が支払っていた結果、共同相続人の一人が他の相続人に比べて、不公平に被相続人の財産を取得したといえることがありえます。

言い換えれば、贈与類似の実態があるといえる場合もあるでしょう。

そうすると、共同相続人の間に不公平な結果が生じてしまう恐れがあります(*より詳しくは、文末の「*より詳しく②」を参照)。

【例外的な扱い】

そこで、例外的に、特別受益に該当する場合がある、と考えることになるのです(法律構成としては、民法903条1項を類推適用します)。

具体的には、個別具体的な事案において、特別受益に該当するとみるべき「特段の事情」があるといえるかが問題になります。

ここで、最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定は、

「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情」がある場合には、死亡保険金は特別受益に準じることになると判断しています。

この「特段の事情」の判断にあたっては、保険金の額、保険金の額の遺産総額に対する比率、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮するとしています。

共同相続人間の不公平な結果を回避しつつも、生命保険が有する生活保障機能・効用を考慮に容れたうえで、被相続人の意思をも尊重しようという趣旨といえます。

(*上記と異なり、被相続人たる保険契約者が、自分自身を被保険者であると同時に保険金受取人としている保険契約の場合については、文末の「*より詳しく③」を参照)。

*より詳しく①

保険金受取人として保険契約者以外の者が指定される契約は、第三者のためにする契約(民法537条1項)です。もっとも、保険金受取人による受益の意思表示(「契約の利益を享受する意思を表示して」、民法537条3項)を要せず、「当然に保険契約の利益を享受」すると保険法により修正されています(保険法42条)。

そして、ここにいう「保険契約の利益」に、保険金請求権も含まれます。したがって、保険金受取人は、保険契約の効力によって原始的に保険金請求権を取得します。

被相続人に帰属する権利を、相続によって他の共同相続人と共に共同相続するとはわけがちがう、ということになるのです。

だからこそ、保険金受取人の固有の権利とされるのです。

保険金受取人に固有の権利であるということは、相続放棄や限定承認をしたとしても、保険金受取人とされた相続人は保険金請求権を取得できる、ということです。

ひるがえって、相続人の債権者は保険金請求権から債権の満足を得ることはできない、ともいうことができます。

*より詳しく②

生命保険は、保険期間を1年とする掛捨型の定期保険をのぞき、生命保険は保険期間を長期間とするのが一般的です。

保険金の支払いに充てるための資金を保険料から積み立てるため、保険期間が長くなればなるほど、保険料積立金の額と死亡保険金の差は小さくなります。

ここで、保険料と同額の貯蓄であれば保険契約者の遺産として遺産分割の対象となります。ところが、保険金であれば保険金受取人の固有財産になってしまうため、遺産分割の対象とはならないことになります。

だからこそ、共同相続人間で不公平な結果が生じるおそれがあることになるのです。

*より詳しく③

今回、「生命保険金は特別受益になるのでしょうか?」とのご質問ですが、言い換えれば、「生命保険金は遺産分割の対象になるのでしょうか?」と言い換えることが可能でしょう。

ここで、実務上、生命保険金は、原則として遺産分割の対象とはならないとされています(ですので、再度言い換えれば、生命保険金は特別受益にはならない、とされるという、前記の「原則的な扱い」と扱いが一致します)。

もっとも、生命保険金が遺産分割の対象になるのか、という問題についても、同様に「例外的な扱い」があります。

保険契約者が自分自身を、被保険者であると同時に保険金受取人としている保険契約(自己のためにする保険契約です)の場合には、保険金請求権は保険契約者たる被相続人に帰属すると考えることが可能です。この場合、保険金請求権を相続人によって相続される相続財産として、次のような取り扱いが可能です。

まず、保険契約者である保険金受取人の相続人が相続放棄をすれば、その相続人は保険金請求権を取得できないことになります。

次に、被相続人(被保険者であると同時に保険金受取人です)の債権者は、保険金請求権に対して民事執行手続をとることが可能です。

また、保険金請求権は可分債権として、相続人が相続分によって当然に承継します。

したがって、共同相続人全員の合意がある場合は遺産分割の対象とすることができる、ということになるのです。

特別受益に準ずるとされる具体的な事情

①【特別受益・肯定例】

(東京高決平成17.10.27)

保険金の額:1億570万円

保険金の額の遺産総額に対する比率:遺産の総額約1億134万円であって、保険金額が遺産総額の約104%と巨額

同居の有無:無

被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係:被相続人の不要や両用介護を託する明確な意図は認めがたい

以上の主な事情を総合考慮し、保険金受取人とされた相続人と他の共同相続人との間に生じる不公平が903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情があるとして、死亡保険金額を特別受益に準じると判断しました。

(名古屋高決平成18.3.27)

保険金の額:約5200万円

保険金の額の遺産総額に対する比率:遺産の総額約8423万円であって、保険金額が遺産総額の約61%を占める

同居の有無:有

被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係:被相続人と死亡保険金の受取人である相続人(妻)との婚姻期間が3年5箇月程度にすぎない

 

以上の主な事情を総合考慮し、保険金受取人とされた相続人と他の共同相続人との間に生じる不公平が903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情があるとして、死亡保険金額を特別受益に準じると判断しました。

*参考

【特別受益・否定例】

(大阪家裁堺支部平成18.3.22)

保険金の額:死亡保険金合計額約430万円

保険金の額の遺産総額に対する比率:遺産の総額約6963万円であって、保険金額が遺産総額の約66%あまりにすぎない

同居の有無:有

被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係:死亡保険金の受取人である相続人は被相続人と長年生活を共にし、被相続人の入退院時の世話をしていた。

以上の主な事情を総合考慮し、保険金受取人とされた相続人と他の共同相続人との間に生じる不公平が903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情があるとは言えないとして、死亡保険金額を特別受益に準じると判断しませんでした。

持戻し免除の意思表示に注意(民法903条3項)

上記のⅠ・Ⅱより、「特別受益」に準ずるとされる場合であっても、注意すべき点があります。それが、いわゆる持戻し免除の意思表示(民法903条3項)です。

民法903条3項

被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う

民法903条3項は、遺留分の規定に反しない限りで、共同相続人間の公平よりも被相続人の意思を優先させるという規定です。「異なった意思を表示した」とは、「特別受益」にあたる利益を得た共同相続人の具体的相続分について、受益を差し引くことを免除するとの意思表示をすることをいいます。これを「持戻し免除の意思表示」といいます。

この、「持戻し免除の意思表示」があった場合には、例え「前二項の規定」たる901条1項・2項の規定により、「特別受益」に該当する場合であっても、「その意思に従う」ことになります。つまり、持戻しをすることなく、その共同相続人は「特別受益」を享受したままになるということです。

したがって、「特別受益」にあたる場合はもちろん、特別受益に準じるとされた死亡保険金なども、「持戻し免除の意思表示」があった場合には、遺留分の規定に反しない限り、その意思表示に従うことになります。言い換えれば、「特別受益」に該当することによる影響を受けなくなるということです。

まとめ

生命保険金は、「特別受益」になる場合があります

その場合、具体的な事情としては、

  • 保険金の額
  • 保険金の額の遺産総額に対する比率
  • 同居の有無
  • 被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係
  • 各相続人の生活実態等の諸般の事情

があげられます。

以上を総合考慮して、

「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情」があるといえる場合には、死亡保険金は「特別受益」に準じることになるのです。

ただし、持戻し免除の意思表示や、それを推測させる事情がある場合には、「特別受益」にあたらないと判断される場合があります

まずは、被相続人による持戻し免除の意思表示がないか、確認するとよいでしょう。

また、相続対策として、生命保険金の利用をご検討されている方においては、上記の諸要素を必ず検討の上、保険の利用とは別途、持ち戻し免除の意思表示もしておくべきか否かも検討しなければなりません。

実務上、相続の真の専門家が相談に入っておらず、上記の検討をしないで相続対策として保険を利用している例が散見されますので、ご注意下さい。

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