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弁護士コラム

「亡くなった人の借金」も相続財産になる?【相続の選択について詳しく解説】

遺産分割のトラブル
投稿日:2023年05月11日 | 
最終更新日:2024年01月23日
Q
亡くなった父に借金があることがわかったのですが、これも遺産の範囲に含まれるのでしょうか?
Answer
借金のような「マイナスの財産」も、相続財産に含まれます。
相続人は、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかの方法を選択することになります。各方法にメリット・デメリットがありますから、それを踏まえて選択することが必要です。

本記事で詳しく説明します。

はじめに

被相続人が死亡して相続が開始されると、被相続人の相続財産は相続人に引き継がれます。では、ここにいう相続財産に、借金などの債務は含まれるのでしょうか?

結論、借金は相続財産に含まれます

民法896条は、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると規定しています。これは、包括承継主義の原則とも言われており、相続人は預貯金や不動産などのプラスの財産のみではなく、借金などのマイナスの財産をも相続するということを規定しています。

また、質問者に他の共同相続人がいる場合についての借金の帰属関係についても説明しておきましょう。

相続財産一般について、被相続人又はその委託を受けた第三者の指定(民法902条)がない限り、相続人は法定相続分(民法900条)に従った相続分を取得することになります。これは、消極財産(マイナスの財産)である借金についても同様であるといえます。

そして、被相続人の金銭債務その他可分債務は、法律上当然分割され、各相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解するべきという当然分割説が、最高裁判所裁判例の考え方です(最二小判昭和34.6.19民集13巻6号757頁)。

この当然分割説の考え方を前提とすると、借金は相続と同時に当然に相続人全員に分割されることになりますので、原則として遺産分割の対象外ということになります。

もっとも、このような帰結では、多くの財産を相続した相続人とそうでない相続人の間でも、借金については平等に負担するという不都合な事態が生じかねません。

そこで、実際には、借金も含めて遺産分割協議の中で相続人間の負担割合を決めることができます。相続人の内部の問題として、誰がどの割合で借金を負担するかの合意をしても問題はないといえるからです。

しかし、この相続人間の内部的な合意を借金の債権者に対抗するためには、債務引受契約が債務者と引受人の間でなされたときと同様、債権者の承諾を得ておく必要がありますので、この点には注意しましょう。

最後に、具体例を踏まえて共同相続人がいる場合の借金の帰属関係を考えてみましょう。

相続対象者として、質問者の他に兄1名と母がおり、被相続人は質問者の父で、相続財産として借金が1000万円あった場合を例に考えます。

この場合、法定相続分は母が1/2(民法900条1号)、質問者と兄が1/4ずつ(民法900条2号)となるため、父やその委託を受けた第三者の指定がない限りは、母が500万円、質問者と兄が250万円ずつの借金を承継することとなります。

コラム1:負債の調査

実務上、よく相続人の皆様から、お亡くなりになった方(被相続人)の負債はどのように調査できるのか、ご質問をいただくことがあります。

個人的借入れとヤミ金融以外は、下記機関で被相続人の債務を調査できます。

具体的には、JICC,CIC、全国銀行個人信用情報センターに照会することで、債務の存否を確認することが可能です。

JICC、CICの場合は、インターネット、郵送、窓口により請求手続が行えますが、他方で、全国銀行個人信用情報センターの場合は郵送のみの受付となります。

一般社団法人全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター)

株式会社シー・アイ・シー(CIC)

株式会社日本信用情報機構(JICC)

コラム2:遺言

相続債務について、法定相続分とは異なる指定がある遺言はどのように取り扱われるでしょうか(民法902条の2)。

全遺産を特定の相続人に相続させる遺言書がある場合

遺言書に記載がなくても、全負債も当該相続人が相続することになります(最三小判平成21・3・24民集63巻3号427頁)。

ただし、債権者の承認がない限り、債権者には対抗できないことにご注意ください。

相続分の指定がある場合の金銭債務

相続人間では相続分の指定に従って、相続債務を相続することはできますが、債権者の承認がない限り、債権者には対抗できません。

債権者側からの承認

相続債権者から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは可能です。

相続人の対処法

では、相続人は被相続人からの借金の引継ぎを拒むことはできないのでしょうか?

順を追って考えていきましょう。

まず、相続には当然承継主義という原則があります。これは、相続人が相続開始を知ったかどうか、相続をする意思があるかどうかにかかわらず、相続財産は被相続人の死亡と同時に当然に相続人に帰属するという原則です。

この原則は、相続財産が被相続人の死亡によって、一瞬たりとも所有者がいない状態にならないようにするためのものといえます。そのため、被相続人の死亡時に債務を含めた相続財産は相続人に移転するものといえます。

もっとも、この原則は、相続人に対して強制的に相続財産を承継させるためのものではありません。被相続人に多額の借金がある場合に、その借金を必ず承継しなければならないとすると相続人に対して不測の損害を与えることになりかねないからです。

この不都合を回避し、相続人に相続財産を承継するか否かを選択する自由を認めさせるため、民法上相続の承認・放棄の制度が用意されています。この制度によると、相続人は相続開始後、一定期間内(相続の開始があったことを知った時から3か月以内)に相続を承認・放棄ことができ(民法915条1項)、承認・放棄によって相続の効果が相続人に及んだり及ばなかったります。

そして、承認には単純承認(民法920条)と限定承認(民法922条)があり、これとは別に相続放棄(民法939条)があります。

単純承認

相続分に応じて、プラスの財産とマイナスの財産の両方を合わせた相続財産を全面的に承継する方法です。

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

限定承認

相続財産をすべて承継しますが、マイナスの財産についてはプラスの財産の範囲内で承継するという方法です。

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

相続放棄

プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない方法です。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

本ケースにおける相続人も、これらの方法によって対応していくべきと考えられます。

単純承認のメリット・デメリット

前述した通り、単純承認は被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も承継する承継方法です。そのため、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合にこの方法をとってしまうと、相続人は相続によって借金等の債務を負うことになってしまい、これを自己の財産をもって債権者に返済しなければならないことになってしまいます。

したがって、おそれがある点にデメリットがあるといえます。

一方で、前述した3か月の期間内に限定承認や相続放棄をしない限り、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。

そのため、単純承認は、格別の手続きを要することなくできます。

このように、後述する限定承認や相続放棄と異なり格段の手続きを踏まなくてもよい点にメリットがあるといえるでしょう。

法定単純承認

相続財産の全部または一部の処分をした場合(民法921条1号)や、前述した熟考期間が経過した場合(民法921条2号)、背信行為があった場合(921条3号)には法定単純承認が生じ、単純承認があったものとみなされる(民法921条)ため、この点には注意しましょう。

特に注意すべきは、1号の財産の処分と3号の背信行為です。

1号の処分行為は、限定承認や相続放棄をする「前」のものに限られます(大判昭和5.4.26民集9巻427頁)が、相続財産の譲渡や相続債権の取立てのような法律上の処分のほか、故意の損壊などの事実行為も含まれますので注意しましょう。

3号の背信行為の典型例としては、相続財産についてその所在場所を相続債権者に分からなくする秘匿行為や、相続債権者の不利益になることを理解した上で相続財産をひそかに消費する行為などが挙げられます。

1号と異なり、限定承認や相続放棄をした後に3号該当行為をした場合でも限定承認や相続放棄は無効とされ、単純承認がなされたこととなりますので注意しましょう。

限定承認のメリット・デメリット

限定承認は、相続するプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も承継する方法です。

限定承認をした場合、相続人は自己の財産から被相続人の借金を返済する必要がなくなりますので、この点が大きなメリットであるといえます。

借金の額がわからないときにも、限定承認をしておけば、結果として借金がプラスの財産より多い場合でも相続人が借金を負担することはなく、一方で借金がプラスの財産より少ない場合、相続人は借金と差し引きした余剰分の財産を取得できます。

また、相続財産の中に手放したくない財産がある場合、家庭裁判所で選任された鑑定人の評価額を限定承認者が支払うことでこれ承継取得することができます。

相続人は、先買権という希望する相続財産を優先的に買い取ることができる権利を持っていますので、相続財産が競売にかけられた場合でもこれを優先的に取得することができます。

このように、引継ぎたい財産を手元に残す機会が与えられている点もメリットであるといえます。

一方で、限定承認がなされると、税制上は被相続人から相続人へ時価で財産を売却したとみなされます。

そのため、みなし譲渡によって含み益が発生した場合、すなわち、被相続人がその財産を取得した価格よりその財産の時価が高い場合は、その差額についてみなし譲渡所得となり所得税がかかることとなります。

単純承認ではこの譲渡所得税はかからないため、限定承認には税制面上のデメリットがあるといえます。

さらに、限定承認は、相続財産の目録を作成しこれを家庭裁判所に提出して申述する(民法924条)必要がある上、共同相続人全員で共同して行わなければなりません(民法923条)。

その上、相続人は、譲渡所得税については故人の所得に対して行われる確定申告である準確定申告を、被相続人の死亡日から4ヵ月の間に行わなければなりません。

このような点から、限定承認は、複雑な手続きを踏む必要がある点にもデメリットがあるといえます。

限定承認の手続き

  1. 1相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に限定承認の申立てを行う(民法915条1項、924条)。
  2. 2債権者・受遺者に対して、限定承認をしたこと及び権利がある者は請求の申し出をすべき旨を、官報を通じて公告する(民法927条)。この際、申出の期間は2ヵ月以上とする(927条1項後段)。
  3. 3権利者及び受遺者に弁済をする。なお、弁済の順序については、抵当権や先取特権等の優先弁債権を有している権利者にまず弁済し、次いで申し出た債権者に弁済、その後に受遺者(遺言によって財産を受け取る者)に弁済する。
  4. 4すべての債務の弁済が終わっても相続財産が残っている場合には、相続人が当該財産を受け取る。

相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない方法で、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述し(民法915条1項、938条)、受理の審判がなされることでその効果が生じます。

相続放棄がなされると、相続放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄をした者は借金を弁済する必要もなく、相続人間の遺産分割に参加することも要しないことから相続人間の争いから離脱することができる点にメリットがあるといえます。

一方で、相続人はプラスの財産一切承継することができないため、この点がデメリットです。

また、相続放棄をすることで、相続人の相続分や範囲に変動が生じ得るというデメリットもあります。少しわかりにくいと思うので、この点について具体例を交えて説明していきます。

前述した質問者の父が被相続人で、質問者には母と兄が1人いるケースを例に考えてみましょう。

本来ならば母の法定相続分が1/2、質問者と兄がそれぞれ1/4であるところ、質問者が相続放棄をすると相続分に変動が生じ、相続人は母と兄の2名ということになるので、兄の相続分は1/2となります(民法900条1号)。

なお、相続放棄によって代襲相続(民法887条2項)は生じないことから、質問者が相続放棄することで、その相続分が質問者の子に相続されることはありません。また、質問者と兄がともに相続放棄をした場合で父に父親がいれば、母の相続分は2/3になり、父の父親は相続分1/3の相続人となります。このように、相続人の相続分や範囲に影響を与え得るため、相続放棄をする場合は他の相続人や相続人となり得る者に事前の説明をするようにしましょう。

そして、相続放棄をすることで生命保険金や死亡退職金の非課税枠が使えなくなる点もデメリットであるといえます。生命保険金や死亡退職金には非課税枠があり、500万円×法定相続人の数(ここの数には相続放棄をした相続人も含まれます。)の限度で課税を免れることができます。相続放棄をした者も生命保険金や死亡退職金を受け取ること自体は可能ですが、この非課税枠を使うことができないため、受け取った生命保険金や死亡退職金の全体について課税されることになってしまいます。

それぞれの方法のメリット・デメリットをまとめると、下記のようになります。

 メリットデメリット
単純承認・特段の手続きが不要・収支がマイナスになるおそれがある
限定承認・相続した借金の自腹弁済が不要 ・手放したくない財産について取得の機会がある・譲渡所得税が発生する
・手続きが煩雑
相続放棄・借金の弁済が不要 ・相続人間の争いから離脱できる・遺産を一切相続できない ・相続人の相続分や範囲に変動が生じることがある
・生命保険金や死亡退職金の非課税枠が使えなくなる

遺産分割で困ったら、弁護士に相談を

上記3つの方法はいずれもメリット・デメリットが存在し、どの方法が良いかは具体的場合によって一様ではありません。そのため、いずれを選択するか悩まれている場合には、一度専門家に相談してみましょう。

また、3つの方法選択についての相談以外にも、法定単純承認に該当しないためのアドバイスや、限定承認を行う際の裁判上の手続きやその後の相続税や譲渡所得税の支払い手続きについてのサポートも可能ですから、お困りの際は、ぜひ直法律事務所にお問い合わせください。

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