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弁護士コラム

配偶者居住権とは?メリット・デメリットを弁護士がわかりやすく解説!

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年03月11日 | 
最終更新日:2024年04月19日
Q
夫が亡くなったので、私と息子で夫の遺産を分割することになりました。夫と二人で住んでいた家の所有権は息子が相続することになりそうです。
この場合私は住み慣れた家から出ていかなくてはいけないのでしょうか?
2020年4月から施行された「配偶者居住権」についても教えていただきたいです。
Answer
亡くなった夫と住んでいた家の所有権を子が相続する場合、残された妻が住み慣れた家に住み続けることができなくなると、生活が困難になってしまいかねません。そのため、配偶者の住み慣れた住居での生活を保護する制度として配偶者短期居住権と配偶者居住権が創設され、これを定めた改正民法が2020(令和2)年4月に施行されました。

配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に遺産の建物に住んでいた場合、遺産分割によりその建物が誰に相続されるか決まった日または相続の開始時から6か月を経過する日のうち、遅いほうの日までの間、無償でその建物を使用できる権利です。仮に配偶者が相続放棄をしたとしても、この権利は認められます。これにより、配偶者は、最短でも相続開始から6か月の間は、住み慣れた住居に、無償で住み続けることができます。

また、長期的な居住権を配偶者に認めるのが配偶者居住権です。この配偶者居住権は、遺贈か遺産分割協議によって取得できます。ただし、相続開始時に配偶者が居住していたことが必要です。

そのため、夫が亡くなり、配偶者が住んでいた家の所有権を息子が相続する場合、残された配偶者は、夫が亡くなった日から6か月の間はその家に無償で住み続けることができます(配偶者短期居住権)。

また、夫が配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺言をしている場合か、息子との遺産分割協議によって配偶者が配偶者居住権を取得していれば、配偶者は終身又は一定期間、その建物に無償で住み続けることができます。

このように、残された配偶者には、配偶者の居住する権利を保護する権利があります。この記事では、配偶者居住権の具体的な要件、メリット、デメリットなどを解説していきます。

配偶者居住権とは

配偶者居住権ってなに?~概要~

【亡くなった配偶者が所有していた家に残された配偶者が住み続ける方法と問題点】

方法問題点
建物の所有権を相続する所有権の評価が高いと、それだけで相続分相当になってしまい、他の預貯金などを取得することができず、生活困難になる恐れがある。
建物の所有権を相続した者から
家賃を払って借りる(賃借)
毎月の賃料を支払うために、生活困難になる恐れがある。
建物の所有権を相続した者から
無償で借りる(使用貸借)
建物所有権を相続した者が建物を売却した場合、使用貸借を第三者に対抗できないため、退去せざるを得なくなる。
配偶者居住権を設定してもらう遺言または遺産分割によって設定してもらう必要がある。

夫婦の一方の死後、残された配偶者は、住み慣れた住居に住み続けつつ、生活を支える資金として預貯金等も確保したい、と考えることが多いと思います。

従来、残された配偶者が住居を確保するためには、家屋の所有権を取得するか、家屋所有権を相続した者から有償または無償で借りるしかありませんでした。しかし、所有権を取得すると、それだけで相続分相当になってしまい、他の預貯金などを取得することができないケースが多くありました。また、賃料を払って家を貸してもらう場合、賃料の支払いによって老後の資金が枯渇しかねません。さらに、無償で家を借りる場合は、家屋の所有権を相続した者がその家屋を売ってしまえば住み続けることができません。このように従来の方法では、残された配偶者の生活が困難になる懸念がありました。

そこで、配偶者居住権という権利が民法改正により創設され、令和2年に施行されました。この配偶者居住権は、残された配偶者が、生存中または一定期間、無償で、居住している建物を使用又は収益できる権利です。配偶者居住権は、遺贈又は遺産分割によって取得させることができます

しかし、配偶者は、配偶者居住権があるからといって、その建物を売却することや他人に自由に賃貸することはできません。このように、配偶者居住権は、所有権より制約のある権利であるため、評価額を低くすることができ、残された配偶者が預貯金など生活のための資金を相続できる可能性を高めることができるのです。

配偶者居住権の機能

配偶者居住権は、住んでいる建物の全部に権利が及びます。そのため、二世帯住宅などの場合は注意が必要です。

ただし、分譲マンションのように区分所有となっている建物であれば、配偶者居住権の及ぶ範囲は区分所有部分に限られます。

しかし、アパートなどの賃貸用物件のように区分所有権が設定されておらず、その一室に配偶者が住んでいる場合、どのような扱いになるのか問題となります。

この点、相続開始時に既に賃貸されていた部分の賃借人に対して、配偶者は明け渡しを求めることはできず、その賃料は、賃貸人の地位を承継する建物所有者に帰属すると考えられています。

他方、配偶者が住んでいる建物の一部が賃貸物件で、空き部屋がある場合、配偶者はその空き部屋も使用・収益できます。ただ、第三者に賃貸するためには、建物所有者の承諾が必要となります。

また、原則として、もともと住むために利用していた部分を賃貸するなど収益のために使うことはできませんが、建物所有者の承諾があれば賃貸することも可能です。

なお、残された配偶者自身がその建物に住むことができるのは当然として、家族や使用人と同居することも可能で、建物所有者の承諾は不要と考えられています。

これらの点については別記事「配偶者居住権を取得した配偶者による居住物件の収益化は可能か?」で詳しく解説していますので、ご参照ください。

そして、配偶者は必要な修繕をすることができますが、増改築をする場合には建物所有者の承諾が必要です。

配偶者短期居住権とは?

残された配偶者には、相続開始時に、遺産の建物に住んでいた場合、次の期間、無償でその建物を使用できる権利があります。これを配偶者短期居住権といいます。

(配偶者短期居住権で居住できる期間)
 相続開始時から①または②のいずれか遅い日まで

  ① 遺産分割で建物の帰属が確定するまでの間
  ② 相続開始の時から6か月を経過するまでの日

配偶者居住権が遺言や遺産分割によって取得させる必要があるのに対し、配偶者短期居住権は相続開始と同時に自動的に付与されます。

また、配偶者居住権は配偶者の生存する期間で設定することが可能ですが、配偶者短期居住権は短期間である点で大きく異なります。

この配偶者短期居住権は、亡くなった人の建物に残された配偶者が無償で住んでおり、その建物が別の人に遺贈された場合や配偶者が相続放棄する場合等に、残された配偶者がすぐに退去しなければならないとすると負担が大きいことから、残された配偶者を保護するために設けられました。

配偶者短期居住権の特徴は次のとおりです。

配偶者短期居住権の特徴
・亡くなった人の意思に関係なく成立(遺言などで定める必要がない)
・配偶者が相続放棄した場合でも認められる
・使用できるのはもともと配偶者が無償で使用していた部分のみ
・配偶者の死亡、建物を取得した者からの消滅請求・消滅の申入れ、配偶者居住権の取得により消滅

配偶者居住権の設定と手続き

配偶者居住権の成立要件

※ 配偶者居住権を取得する配偶者が、相続開始時にその建物に居住していることが必要!
※ 亡くなった者の単独所有または配偶者との共有の建物に限られる。
※ 家庭裁判所の遺産分割審判によっても配偶者居住権を取得することが可能。

配偶者居住権を取得するには、遺言による贈与(遺贈)をしてもらうか、相続人らの合意で行う遺産分割が必要です。また、家庭裁判所の遺産分割審判によっても配偶者居住権を取得することが可能です。

また、配偶者居住権を取得する配偶者が相続開始時にその建物に居住していることが必要です。そのため、相続開始時に残された配偶者が建物に居住していない場合、遺言があっても、また、遺産分割で配偶者居住権を設定しても無効になってしまうので注意が必要です。

さらに、建物が亡くなった者とその配偶者以外の者の共有となっていた建物については、配偶者居住権の成立は認められない点にも注意が必要です。例えば、亡くなった者と子どもの共有となっている建物に残された配偶者が住んでいた場合、配偶者居住権を取得することはできません。

なお、事実婚等の内縁の配偶者には配偶者居住権は認められません。法律上の配偶者のみに認められています。

配偶者居住権の登記手続き

配偶者居住権を取得した配偶者に対して、建物の所有者は、配偶者居住権の登記をする義務があります

この登記により、配偶者居住権は第三者に対抗できるようになります。建物所有者が建物を第三者に売却した場合でも、配偶者は、配偶者居住権を対抗でき、その建物に住み続けることができます。

配偶者居住権の登記は、建物所有者と共同で、法務局で手続をする必要があります。その際、遺言書または遺産分割協議書、建物所有者の印鑑証明書等の必要書類を添付して申請します。

ただ、配偶者居住権を配偶者に取得させる旨の遺言があったとしていても、建物の所有者が指定されていない場合、遺産分割協議をしなければならず、遺産分割協議が成立するまで建物の帰属が決まらず、配偶者居住権の登記をする前に第三者に売却されてしまうと、配偶者は住み続けることができなくなってしまいます。このような事態にならないよう、配偶者としては、相続人全員の共有の相続登記申請をした上で、相続人らに対して配偶者居住権の登記を求める必要があります

なお、相続人全員の共有の相続登記申請は、共同相続人の一人からすることが可能なので、配偶者が単独で申請することができます。また、相続人が配偶者居住権の登記手続に応じない場合、遺言執行者の選任の申立をして登記を求めることが考えられます。

配偶者居住権の権利放棄や設定後の変更手続き

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の死亡時までです。しかし、配偶者居住権は次のような場合、消滅します。

  1. 1存続期間の満了
  2. 2建物の使用方法違反
  3. 3配偶者の死亡
  4. 4建物全体が使えなくなった
  5. 5配偶者居住権の放棄
① 存続期間の満了
配偶者居住権は、遺言や遺産分割協議によって存続期間を定めることができます。存続期間が満了した場合、配偶者居住権は消滅します。

② 建物の使用方法違反(消滅請求)
配偶者は、建物所有者の承諾なく、建物を増改築したり、他人に使用させたりすることはできません。このようなルールに違反した場合、建物の所有者は、相当の期間を定めて是正するよう催告をします。しかし、その期間内に是正がされない場合、建物所有者は、配偶者居住権を消滅させることができます。

③ 配偶者の死亡
配偶者相続人が死亡した場合、存続期間の満了前でも配偶者居住権は消滅します。なお、配偶者居住権は、相続の対象にはなりません。

④ 建物全体が使えなくなった
配偶者居住権が設けられた建物全体が倒壊するなどして使えなくなった場合、配偶者居住権は消滅します。

⑤ 配偶者居住権の放棄または建物所有者との合意による解除
配偶者は、配偶者居住権を放棄することができます。例えば、建物所有者が第三者に建物を売却したい場合、配偶者居住権がついたままでは売却が困難です。そのため、建物所有者が配偶者に対して代償金等を支払って、配偶者居住権を放棄してもらうまたは合意で解除するということがあります。配偶者居住権を放棄または合意解除すれば、配偶者居住権は消滅します。

配偶者居住権が消滅した場合、建物所有者と配偶者が共同で配偶者居住権の登記を抹消します。ただし、配偶者の死亡による配偶者居住権の消滅の場合は、建物所有者が単独で申請します。

なお、存続期間の満了配偶者の死亡建物の全部滅失等による配偶者居住権の消滅の場合には、建物所有者に対する相続税や贈与税の課税はありません。しかし、消滅請求による消滅の場合や放棄または合意解除の場合で十分な対価を支払っていなければ建物所有者に贈与税が課されることがあります。また、所得税が課される場合もありますので注意が必要です。

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権により、配偶者は無償で住み慣れた住まいに住み続けることができます。しかし、建物の所有権を取得する場合と何が違うのでしょうか。

配偶者居住権を取得するメリットは、残された配偶者の継続的な生活の場所の確保と老後の資金の確保が両立できる可能性が高くなる点にあります。

配偶者居住権の価値は、建物の所有権と敷地利用権を合わせた価値より低く評価されます。配偶者居住権の価値は次のような計算式により算出されます。

出典:国税庁ホームページ「No.4666 配偶者居住権等の評価」

配偶者の相続分は限られているため、その相続分の中で建物所有権と土地の利用権を取得してしまうと、預貯金等を相続できない可能性や、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、結果として金銭を請求される恐れがあります。そこで、制限があるため価値が低く評価される配偶者居住権を相続すれば、その分、預貯金等を相続できる可能性が高まるのです。

また、建物所有権や敷地利用権を相続する他の相続人としても、配偶者居住権がある分、建物や敷地利用権の評価が下がるため、相続税が低くなる点、メリットがあります。

配偶者居住権のデメリット

このように配偶者居住権にはメリットがありますが、次のようなデメリットもあります。

① 配偶者居住権を取得すれば相続税も課される
前述のとおり、配偶者居住権は建物所有権や敷地利用権より評価が低いものの、経済的価値が存在する以上、相続税の課税対象となる点、注意が必要です。配偶者の年齢が若ければ、配偶者居住権の評価は上記のように存続年数を基に算出されるため、価値が高くなり、相続税も高くなる可能性があります。

② 建物や土地を売却することが難しい~施設入所や認知症になった場合の問題
建物や土地の所有者としては、配偶者居住権がある場合には売却が困難です。存続期間が配偶者の終身中となっている場合は特に、いつ使用・収益が可能になるかわかららないので、買主を見つけるのは難しくなります。

この点は、配偶者にとってデメリットとは言えなさそうにも思えますが、もし、配偶者が老人ホームなどの施設に入所するための資金を作るために建物や土地を売却しようとしても、配偶者居住権があることで売却困難となってしまうので、デメリットとなるのです。配偶者居住権を放棄や合意解除すれば売却可能性が高まりますが、認知症等の場合、配偶者居住権を放棄や合意解除することができません。その場合、成年後見人を選任した上で、合意解除して抹消登記をする等の煩雑な手続きが必要となり、費用や時間もかかってしまいます。

③ 配偶者居住権を譲渡・売却できない
配偶者は、配偶者居住権を譲渡・売却することができません。第三者に使用収益させる場合には所有者の承諾が必要であり、用途が制限されている点、注意が必要です。

④ 建物所有者と配偶者間でトラブルが発生する可能性
建物所有者が売却をして金銭を得たい場合などには、配偶者とトラブルになる可能性もあります。配偶者の建物の使用方法等を理由に、所有者が損害賠償請求や配偶者居住権の消滅請求をするなどして争いになることもあります。遺言や遺産分割協議に際しては、配偶者が安心して生活できるよう、建物所有権を相続する者を誰にするか注意する必要があります。

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配偶者居住権は、被相続人が遺言によって、または共同相続人らが遺産分割協議によって、配偶者に取得させる必要があります。配偶者に住まいを残したいと考える者や、残される心配のある配偶者は、配偶者居住権という権利の存在と機能をしっかり理解し、配偶者が住み慣れた家に住み続けつつ、老後の資金を確保できるよう、対策をたてておかなければなりません。

しかし、遺産全体の分割方法や、相続税がどれくらいになるのか、残された配偶者が次いで亡くなった場合にはどうなるのか、なども想定して対策を立てておく必要があり、後にトラブルとならないよう、弁護士等の専門家に相談し、助言を受けながら対策することをおすすめします。

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