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弁護士コラム
相続人の中に行方不明者がいたら?【不在者財産管理人について解説】
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年09月20日 |
最終更新日:2022年09月20日
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先日、父が亡くなりました。
相続人全員による遺産分割協議を行いたいと考えていますが、相続人の1人が20年以上前から行方不明になっているとのことでした。その方が生きているのか亡くなっているのかもわからず、誰も連絡を取ることもできません。
このような場合、どのように遺産分割協議を進めればよいでしょうか?
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以下のような場合には、不在者財産管理人を選任するべきでしょう。
①失踪宣告制度の要件を満たしていない場合
②失踪宣告が取り消されることを想定し、失踪宣告制度の利用を避けるべきと考える場合
③失踪宣告制度を申し立てるのに慎重になっている場合
そのため、まず失踪宣告・認定死亡に当てはまるか調査・確認することが重要です。
ただし、実務的な動き実務的な動きとしては、いきなり失踪宣告・認定死亡を申し立てないで不在者財産管理人を選任する場合も少なくありません。
なお、不在者財産管理人の選任を申し立てるか否かは、不在者の財産も考慮に入れる必要があります。
財産が少額であれば不在者財産管理人の報酬、様々な経費等を申立人が予納金として負担する必要があるからです。
他方で、不在者が死亡していると思われる場合は、失踪宣告、認定死亡の要件に当てはまれば、失踪宣告・認定死亡を申し立てて、不在者が死亡したということで、法律的な手続を行うことができるでしょう。
家庭裁判所に普通失踪宣告の申立て、失踪宣告が確定すれば、この相続人は行方不明から7年を経過したときに死亡したものとみなされます。
そうすると、死亡と見做された相続人に子供がいる場合には代襲相続人となり、代襲相続人と遺産分割協議にその子を参加させれば遺産分割ができるでしょう。
目次
はじめに
被相続人(質問の場合のお父さん)が残した財産を分割するには、相続人である人全員が協議して分け方を決めて、それに同意しなくてはなりません。ここで、1人でも欠けてしまうとその協議は無効となってしまい、また初めからやり直すことになってしまいます。
そのため、相続人の中に行方不明の人がいると、そのままの状態で遺産を分割することはできないのです。
そうすると、相続財産は未分割となり、行方不明者以外は民法上の法定相続分により相続税の申告をすることになります。分割協議ができないことで、不動産の相続登記を行えず売却できない、銀行口座の解約ができないといった問題が出てきます。
法定相続分(民法900条) | 配偶者 | 子供(2人以上のときは全員で) |
配偶者と子供が相続人である場合 | 2分の1 | 2分の1 |
配偶者と直系尊属が相続人である場合 | 3分の2 | 3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合 | 4分の3 | 4分の1 |
※なお、子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。また、民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。
不在者財産管理人、失踪宣告
まずは、その方と連絡をとるのが先決ですので、その行方不明になっている相続人が誰であるかを特定する必要があります。そのためには、行方不明者の住所を特定します。
ご存知の通り、日本に戸籍がある人の場合、戸籍を追っていけば、行方不明者の現在の本籍地にたどり着くことができます。そして、本籍地の市区町村で発行している戸籍の附票を得ることで、行方不明者の現在の住所を確認することができます。行方不明者の現在の住所が特定できたら、手紙や訪問等によって連絡を試みることが第一歩です。
しかし、このような方法でも住所や居所が分からず連絡が取れない場合もあるでしょう。その場合については、
- 1失踪宣告の申立てや認定死亡制度を利用する
- 2家庭裁判所に不在者財産管理任選任の申立てる
という2つ方法がありますので、これから説明します。
①失踪宣告、認定死亡制度
失踪宣告
民法には、行方不明の相続人(不在者)の生死が7年間以上不明であるとき(普通失踪)、利害関係人が家庭裁判所に申し立てをすることにより、一定の条件の下に不在者を死亡したとみなす制度が定められています。また、震災・水害などの危難が原因の場合、危難が去ってから1年以上行方不明であれば(危難失踪)申し立てができます。
(失踪の宣告) 第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。 2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。 |
利害関係人は、行方不明者の最後の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申請をします。失踪宣告の申立てを受けた家庭裁判所は、申立人の利害の有無、不在者の生死が7年間明らかでないかどうかなどを調査し、失踪に関する届出の公告をします。
公告期間は3カ月以上で(家事手続148条3項)、家庭裁判所は公告期間が経過すれば失踪宣告の審判をすることができるようになります。
失踪宣告が確定すると、不在者は、失踪期間満了の時に死亡したものとみなされます(民法(以下民といいます)31条)。
失踪宣告の申立人は、戸籍法による届出義務がありますので、審判確定の日から10日以内に不在者の本籍地又は届出者(申立人の所在地の市町村役場に失踪届をします(戸籍法25条1項・63条1項・94条)。届出には,審判書謄本と確定証明書が必要になりますので、審判をした家庭裁判所に確定証明書の交付の申請をしてください。
失踪宣告を受けた行方不明者は法律上、「死亡したもの」として扱われますので、遺産分割協議の参加義務はもちろん、相続人から除外されることになります。代わりにその人の法定相続人がいれば、遺産分割協議に参加ができます。
なお、行方不明者が死亡したとみなされた日の後に被相続人に相続が開始した場合、不在者に子がいるときは子が被相続人の代襲相続人となります。そのため、行方不明者の子が遺産分割協議に参加しなければ、有効な遺産分割をすることができません。
もし、失踪宣告を受けた人の生存が後から確認された場合には、当然ながら、「失踪宣告の取り消し」手続きが必要になります。また、相続人の生死が7年以上不明の場合でも失踪宣告の申し立てはせずに、行方不明者(不在者)の財産管理人の選任を請求することもできます。
しかしながら、失踪宣告の手続きには1年~1年半ほどの時間がかかることがあるため、決して迅速とはいえません。相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。)を考慮すると、後に説明する「財産管理人の選任」をして遺産分割をすすめることも多いといえます。
申告期限までに申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合がありますのでご注意ください。
認定死亡制度
認定死亡とは、死亡したことが確実であろうが死体を発見できないような場合に、官公庁による死亡の報告により、その人が死亡したものとして戸籍上取り扱うことを認めた制度であり、死体が確認できないが死亡と認定するものです。
具体的には、水難、火災、震災、航空機事故等で死体が発見されなくても周囲の状況から死亡が確実とみられる場合に利用されます。
戸籍法89条に、「水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。」と規定されています。
②不在者財産管理人選任の申立て
生きている可能性があるが、所在が分からない相続人がいる場合や、前述の失踪宣告を申し立てられる期間(7年)が経過していないような場合は、相続人などの利害関係人が、行方不明者の最後の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を請求することができます。
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」といいます。)に対して、権利行使をしようとする場合や財産を保護する必要が生じた場合には、利害関係人又は検察官からの請求に基づき、家庭裁判所は、不在者の財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民25条)
(不在者の財産の管理) 第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。 2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。 |
家庭裁判所は、書類を確認し、利害関係を考慮した上で不在者の財産を管理する人(不在者財産管理人)を選任して、不在者の財産の管理を行わせます。利害関係のない親戚や友人などを候補者にすることもできますが、一般に、弁護士や司法書士などの専門家を候補者にすることが多いです。
では、選任された不在者管理人は、何をする人なのでしょうか。
不在者財産管理人の権限等
家庭裁判所から選任された不在者財産管理人は、財産目録の調整(家事手続規87条・82条)、財産の保存に必要であるとして家庭裁判所から命じられた処分の遂行(民27条3項)、財産の状況報告及び管理の計算(家事手続146条2項)などを行います。
不在者財産管理人の権限は、権限の定めのない代理人と同一であり、保存行為及び目的たる権利の性質を変えない範囲での利用又は改良を目的とする行為に限られています(民28条・103条)。
主な職務は、不在者のため財産を管理し財産目録を作成し家庭裁判所に報告することです。
最初に、不在者の財産を調査し、財産目録、管理報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。
その後も、家庭裁判所には定期的に財産状況の報告をします。
これ以外の行為については権限外行為として家庭裁判所の許可が必要になります。
不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を要する権限外の行為は、不在者の所有物の売買・交換、所有不動産への抵当権の設定、賃借権の設定・更新、訴訟行為などがあります。
不在者財産管理人による遺産分割協議
遺産分割協議は、相続財産の保存行為とはいえないため、不在者財産管理人の権限外の行為となります。このため、不在者財産管理人が遺産分割協議を行うには、家庭裁判所の許可が必要となります(昭39・8・7民3第597号民事局第3課長回答)。
家庭裁判所は、遺産分割協議の内容が不在者の相続法上の権利ないし利益を不当に害するものではないかどうかを審査して、許可するか否かを判断します。
そして、不在者財産管理人が遺産分割協議に加わる場合の遺産分割協議書は、不在者に代わって不在者財産管理人が連署し、不在者財産管理人の実印を押印します。
なお、不在者の管理人が、不在者の相続財産を家庭裁判所の許可を得て処分した行為は、不在者本人にとって単純承認(民921条1項)となります。
【コラム】:遺産分割協議の内容について
遺産分割協議について、家庭裁判所の許可を得るためには、遺産分割の中身が、不在者にとって不利でないということが大前提になります。
そのため、本来なら、法定相続分に見合うだけの相続分を取得するのが原則です。その理由としては、不在者が戻ってくる(帰来する。)可能性があるので、本来不在者が遺産分割協議に参加していれば、少なくとも法定相続分を取得したであろうと思われるからです。
しかし、次のような場合には、不在者の取得分が法定相続分以下でも家庭裁判所が認めてくれる可能性があるといわれています。
①不在者が帰来する可能性が低い場合
②不在者が遺産分割協議に参加していても、不在者が法定相続分以下の取得で遺産分割協議が成立したと思われる場合
ただし、遺産協議において、不在者以外の相続人が不在者に遺産を取得させないという協議が行われる場合もありますが、原則として、家庭裁判所は認めないでしょう。
終了
不在者財産管理人の仕事は、主に以下の場合に終了します。
- 1不在者が現れたとき。
- 2不在者に失踪宣告がされたとき。
- 3不在者が死亡したことが確認されたとき。
- 4不在者の財産がなくなったとき。
失踪宣告と不在者財産管理人制度の違い
いずれも不在者が行方不明の場合に利用できる手続ですが、不在者財産管理人は、不在者が生存していることを前提として不在者の財産を維持・管理することを目的としているのに対して、失踪宣告は、不在者が死亡したものとみなす制度であることに大きな違いがあります。
失効宣告を受けた不在者には、死亡し相続が開始した扱いになる点に留意してください。
どの手続を選ぶかは、どの手続に当てはまればその後の手続が進めやすいかで判断します。
一般的には、死亡とみなしてもらえる失踪宣告制度を利用するのが、その後の手続が他の手続に比べれば楽であるといわれています。
例えば、音信不通の相続人がいる場合を考えてみましょう。
現住所が分からないだけの場合は、本籍地で調査することにより現在の住民票の住所を知ることは可能です。
行方不明だけど生存していることが分かっている場合は、不在者財産管理人の選任を選ぶべきでしょう。
また、失踪宣告の要件を満たしていない場合も、不在者財産管理人の選任を選ぶべきです。
相続財産管理人制度
本記事で説明した不在者財産管理人制度と似た制度として、相続財産管理人制度というものがあります。
※関連記事はこちら:「相続財産管理人が誰がなるの?選任の流れや報酬・権限について解説!」
この制度は、相続人の存在、不存在が明らかでないとき(民952条、家手203条)、推定相続人の全員が相続放棄した場合(民918条、家手201条)に法定相続人を探し出すまでの間、相続人の代わりとなって財産を管理(相続財産の管理、清算・国庫への帰属及び相続人の探索)するために家庭裁判所から選任された者が相続財産を管理する制度です。
相続人がいない状態で被相続人が死亡した場合、国を相続人にせず、清算に基づいて残余財産を国が取得します。
死亡から清算まで被相続人の財産が無主物になることを避ける法技術として相続財産法人が成立しますが、相続財産を管理・清算するのに当該法人のための相続財産管理人を選任する必要があり、主にはこのような状況の際に利用されています(民952条)。
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被相続人の遺言がない場合には、相続人間で遣産分割の協議等をする必要があるところ、遺産分割は相続人全員が参加する必要があり、1人でも欠けた場合、 遺産分割協議や調停・審判のいずれにおいても効力が生じません。
相続人の中に行方不明者がいる場合でも、その相続人を無視して手続を進めることはできません。
当事務所では、不在者財産管理人の申立てをお客様のニーズを捉えながら適切な形で進め、解決に導いた実績もあります。相続人の中に行方不明者がいる、どうしたらよいかわからない等お困りの際は、お早めにお問い合わせください。
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