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弁護士コラム

遺産の不動産を、共同相続人の1人が占有していたらどうする?

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年07月21日 | 
最終更新日:2022年07月21日

共同相続人の1人が遺産の不動産を占有している場合、相続開始後は明け渡す必要があるのかどうか、本コラムで解説していきます。

はじめに

さん(被相続人)が死亡し、法定相続人として甲の妻、子の4人がおり、甲名義の不動産(以下「本件不動産」といいます)を、子(B,C,D,のうちの誰か)が占有しているというケースで考えてみましょう。

子乙に本件不動産を適法に占有する法的根拠がなければ、子乙は本件不動産を明け渡さなければなりません。

この点、本件不動産を適法に占有する法的根拠(これを「占有権原」といいます)については、物権と債権の2つの視点から検討する必要があります。

まず物権ですが、子乙は本件不動産の共有持分を有しています。

なぜなら、甲の死亡によって相続が開始すると、遺産分割によって最終的な取得者が決まるまでの間、甲の遺産は法定相続人全員の共有物となるからです(民法898条1項。この状態を「遺産共有」と呼びます)。

民法898条2項は、法定相続分をもって各相続人の共有持分とすると定めていますので、妻Aは2分の1、子B,C,Dは6分の1ずつの共有持分を有することになります(配偶者と子が相続人であるときの法定相続分は、配偶者が2分の1で、残りの2分の1を子の人数で頭割りして算出します)。

つぎに債権ですが、甲の生前に本件不動産の所有者であった甲と子乙との間で本件不動産の利用権が設定されているケースが考えられます。

子乙が甲に対し、対価を支払って本件不動産を利用する約束をしていたのであれば賃貸借契約が、対価を支払うことなく本件不動産を利用する約束をしていたのであれば使用貸借契約が成立していることになります(親子間で賃料を支払っているケースは多くはないでしょうから、子乙が本件不動産をタダで利用しているという前提で話を進めることにします)。子Dと甲との間で使用貸借契約が有効に成立していれば、子Dは甲(甲の死後は甲の相続人)に対し、本件不動産を無料で貸す債務の履行を求めることができるようになります。

これから、子乙が本件不動産を明け渡す必要があるかどうかについて、共有持分使用貸借契約の2つの視点に基づき、ケースごとに考えてみます。

3つのケース

子Dが甲(被相続人)の死亡後に本件不動産を占有したケース

このケースでは、子Dの占有開始時点で既に甲は死亡していますので、子Dと甲との間の使用貸借契約については考慮する必要はありません。

そうすると、子Dの共有持分について検討することになるわけですが、子Dの法定相続分は6分の1ですので、子Dは全ての遺産について6分の1ずつの共有持分を有することになります。

そのため、子Dは、本件不動産についても6分の1の共有持分を有することになりますので、子Dの本件不動産の占有は、共有持分という占有権原に基づく適法なものとなります(民法249条1項は、共有物の「全部」について、持ち分に応じた使用ができると規定しています)。

しかし、他の共同相続人にしてみれば、子Dは6分の1の共有持分しか有していないわけですから、子Dが本件不動産の6分の1を利用するのであればまだしも、本件不動産の全部(6分の6)を利用するのは納得がいかないと思うかもしれません。そのようなときは、過半数の持分(例えば、妻Aと子Bが団結すれば6分の4の持分となります)をもって本件不動産の利用者を子Dではない誰か別の者に指定した上で子Dの利用を認めない旨の決議をすれば、子Dの占有権原が失われるため、子Dは本件不動産を明け渡さなければならなくなります。

なお、子Dの共有持分は遺産分割が行われるまでのものにすぎませんので(遺産分割とは、どの相続人がどの相続財産を取得するかを決める手続のことです。本件不動産も、遺産分割によってどの相続人が取得することになるかが決まります)、遺産分割によって子Dが本件不動産を取得することにならない限り、子Dは、遺産分割によって本件不動産を取得した者から本件不動産の明渡請求を受けることになります。

子Dが甲の生前から甲と本件不動産で同居し、甲の死後も居住を継続していたケース

子Dが甲と同居していたときは、子Dと甲との間には、「甲が死亡したときは、遺産分割が終了するまでの間、賃料を支払うことなく本件不動産を利用することができる」という内容の契約(甲の死亡を始期とする使用貸借契約)が黙示的に成立していると解釈することができます(契約は暗黙の了解でも有効に成立します。甲と子Dが同居していたということは、甲は子Dが本件不動産をタダで利用することについて、口に出さずとも腹の中では承知していたと言えますので、甲と子Dとの間における使用貸借契約の黙示的な成立を認定することができます)。

子Dを除く相続人が過半数の持分をもって上記使用貸借契約を解除する旨を決議することはできますが、その解除の意思表示が法的に有効か(裁判所が解除を認めるか)どうかは全く別の問題です。子Dが甲の生前にしていた利用方法と同等の利用方法を甲の死後も継続する限り、裁判所が「遺産分割が終了するまで」という上記使用貸借契約で定められた本件不動産の返還時期よりも前に本件不動産の明渡しを認めることはないものと考えられます。

なお、子Dは、本来であれば6分の1の共有持分しか有しないにもかかわらず、共有物全部を一人で独占的に利用していることになるため、残りの6分の5の利用利益に相当する金額を不当利得しているとも考えられます。しかし、子Dは共有持分に基づいて本件不動産の全部を利用しているものではなく、甲との間で黙示的に成立している使用貸借契約(本件不動産の全部をタダで利用できる契約)に基づいて本件不動産の全部を利用しているわけですから、この場合には、他の相続人による子Dに対する不当利得返還請求は認められません。

子Dが相続開始後に占有している本件不動産が、甲(被相続人)の生前から甲の許諾を得て占有していたものであったケース(甲と同居していないケース)

子Dが甲の生前に甲の許諾を得て本件不動産を利用していたということは、子Dと甲との間には、本件不動産に関する使用貸借契約が甲の生前から存在していたということを意味します。

使用貸借契約において、契約で借用物の返還時期を定めたときは、その時期に返還することになります。これに対し、契約で返還時期を定めなかったときは、契約に定めた目的に従った使用及び収益が終わったときに返還することになります(民法597条)。具体的には、契約締結の事情、目的物の種類や性質、契約がなされた目的、契約後にどれくらいの期間が経過したか、その他諸般の事情を総合考慮して判断されます。

そのため、子Dの使用貸借契約に基づく本件不動産の占有権原がいつまで続くかについては、子Dと甲との間の使用貸借契約の内容の解釈次第ということになります。

例えば、子Dが全くお金を出さずに甲名義の土地建物をタダで利用していたのであれば、子Dの返還時期は遺産分割が終了するまでという判断になりやすいでしょうし、子Dが甲名義の土地の上に建物を建築したときは、子Dと甲との間における建物所有を目的とする土地の使用貸借契約が認められることになりますので、使用貸借期間を相当長期間とする合意があったという判断になりやすいでしょう。

配偶者居住権の新設

被相続人が2020年4月1日以降に死亡したときは、被相続人の配偶者には、

  1. 1配偶者短期居住権(民法1037条)
  2. 2配偶者居住権(民法1028条以下)

が認められます。

配偶者短期居住権とは、被相続人の配偶者に対し、被相続人の死亡時に無償で居住していた建物に最低でも6か月間は無償で居住し続けることを認める権利のことです。配偶者が無償で居住していた建物を被相続人が第三者に遺贈すると、配偶者はこの建物から退去しなければならないことになりますが、配偶者短期居住権を主張することで、第三者による退去要求から6か月間は無償居住を継続することができるようになります。

つぎに配偶者居住権とは、建物の所有権から居住権を切り離し、配偶者の建物居住権を認めたものです。これまでは、配偶者が建物に居住し続けるためには遺産分割で建物所有権を取得するしかありませんでした。しかし、配偶者が建物の所有権に加えて十分な預貯金を取得することができなければ生活費に困窮することになります(2000万円の住居と3000万円の現金がのこされたケースで考えてみます。

配偶者の法定相続分は2分の1ですので、5000万円×2分の1=2500万円の相続財産を取得することができます。しかし、2000万円の住居を取得すると500万円の現金しか取得できないことになります。ここで2000万円の住居について、1000万円の所有権と1000万円の居住権に分解することで、配偶者は1000万円の居住権と1500万円の現金を取得することができるようになるわけです)。

まとめ

子Dが本件不動産を占有していたとしても、遺産分割によって子Dが本件不動産を取得するのであれば、子Dが本件不動産を占有していたことが実務上問題になることはないでしょう(子Dが本件不動産をタダで利用したことにより子Dは賃料相当額の利益を得ているものの、本件不動産の価値は減少せず、遺産の前渡しという性格もないことから、特別受益であるとも言えません)。

そのため、子Dが本件不動産を占有しているときには、子Dが本件不動産を取得する方向の遺産分割を目指すことになります。

しかし、子Dでない者が本件不動産を相続し、かつ子Dの使用借権が遺産分割後も継続して認められるときは、子Dの「本件不動産を無償で使用することができる利益」については子Dの特別受益として金銭換算し、他の相続人とのバランスをとる必要があります(本件不動産の価値が子Dの使用借権の分だけ減少するため)。

使用借権を幾らと金銭評価するかは難しいところですが、実務上は更地価格の概ね1~3割程度とされているようです。

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