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遺産分割の対象になる「遺産」の範囲とは?

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年07月27日 | 
最終更新日:2022年07月27日
Q この度、遺産分割協議をすることとなりました。
遺産分割協議の対象となる「遺産の範囲」とは、何から何までを指すのでしょうか?
具体的に教えてください。

一般的な遺産の範囲

遺産に含まれる権利義務

相続財産(遺産)について、民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と包括承継主義の原則を定めています。

簡単に言うと、同条は、亡くなった方(被相続人)が亡くなった段階で持っていたすべての権利と義務は、被相続人の配偶者や被相続人と血のつながりのある子・兄弟姉妹(相続人)などに承継されるということを定めています。

ここにいう「権利義務」、すなわち相続財産(遺産)は、大別すると

  1. 1物権(不動産、家財道具、現金、車、有価証券などの所有権、抵当権などの担保権、占有権)
  2. 2債権・債務(預貯金、貸金、売掛金、買掛金、借金、保証債務)
  3. 3契約上の地位(被相続人が物を買った場合の買主の地位、物を売った場合の売主の地位)

に分けられます。

したがって、①~③に当たる権利義務は、原則として遺産に含まれることとなります。

遺産に含まれない権利義務

上記①~③の権利義務に当たる場合であっても、例外として、民法896条但書は「一身専属権」は遺産としての権利義務に含まれない旨を定めています。

また、民法897条は「祭祀に関する権利」は相続一般と個別のルールによって承継される旨を定めています。

ⓐ「一身専属権」とは、権利の性質から被相続人の人格や才能、法律上の身分などから被相続人個人のみに属する権利を言い、各種年金の受給権、生活保護受給権、身元保証債務(身元保証人としての地位)、雇用契約における使用者・被用者の地位などが含まれます。

ⓑ「祭祀に関する権利」には、墓地・墓碑・墓石・神棚・神体・神具・仏壇・仏具・位牌・仏像・仏具などが含まれます。

保険金など、ⓒ被相続人の死亡時に発生する権利義務であるが被相続人に属しない財産についても、相続の対象にはなりません。

したがって、ⓐ~ⓒに当たる権利義務については、遺産に含まれないこととなります。

具体的な遺産の範囲についての検討

一般的な遺産の範囲は前述した通りですが、①~③の該当性、ⓐ~ⓒの該当性の判断によって遺産に含まれるかが問題となる財産も存在します。

ここでは、よく問題となる権利義務について、

一身専属的権利(ⓐ)、

被相続人の死亡時に発生するが被相続人に属しない財産(ⓒ)、

債権・債務(②)、

契約上の地位(③)

の順で、相続の対象たる遺産に当たるか否かを説明していきたいと思います。

一身専属的権利(ⓐ)

前述のとおり、被相続人の人格や身分に強く結びついた権利義務である一身専属権については民法896条但書により相続人に相続されません。

以下、具体的な権利義務について、一身専属権に当たるか否か説明していきます。

民法上の明文のあるもの

使用貸借契約における借主の地位(民法597条3項)は、貸主と借主との間で個人的な恩恵に基づく関係として設定されていることが多いことから法律上、相続が否定されています。

また、法律行為の代理における本人(代理される者)・代理人の地位(民法111条)、委任契約における委任者・受任者の地位(民法653条)、組合契約における組合員の地位(民法679条)についても、個人的な信頼関係に基づき契約されていることが多いことから、当事者間に別段の合意がない限り、法律上相続は否定されます。

このように、法律上は、使用貸借、代理、委任、組合は相続が否定されると覚えておくとよいでしょう。

民法上の明文のないもの

扶養の権利義務(民法877条)や親権(民法768条)などは、身分関係に強く結びついた権利義務として一身専属的な権利とされており、その相続は否定されています。

また、離婚に伴う財産分与(民法768条)のうち、扶養的財産分与についても、上記扶養の権利義務と同様に、相続は否定されています。

他方で、清算的財産分与(夫婦が共有する財産を分け合って清算する目的で行う財産分与や慰謝料的財産分与(慰謝料的意味合いのために、分与の対象となる財産分与)は、相続による承継が認められています。

①請負契約における債務(建物工事を完成させる債務など)は、同義務の相続を否定する規定は条文上ありません。もっとも、画家が絵を描く債務のように、当該債務者に特有の技能に基づく代替性のない債務については一身専属的な権利として相続が否定されています。

②身元保証契約上の責任は、責任が具体化する前は、個人的な信頼関係に基づくものとして相続による承継が否定されています(大判昭和18.9.10民衆22巻948頁)。

③一般の借家権(借家契約の借主の地位)は相続の対象になりますが、公営住宅の使用権については当然に相続されないとされています(最判平成2.10.18民集44巻7号1021頁)。これは、公営住宅の使用は一定の条件を満たす者に認められるものであるから、個人的な境遇に基づいて与えられる権利という側面が大きいからであるとされています。

被相続人の死亡時に発生するが被相続人に属しない財産(ⓒ)

死亡保険金

被相続人を被保険者とする死亡保険金請求権は、被相続人の死亡によって発生する権利です。そのため、被相続人が自らをその受取人にしている場合には、相続財産を構成し、相続の対象となるとするのが原則であるといえます。

もっとも、被相続人自らではなく、相続人が受取人とされている場合について、裁判例(大判昭和11.5.13民集15巻877頁、最判昭和40.2.2民集19巻1号1頁、最判平成14.11.5民集56巻8号2069頁、最判平成16.10.29民集58巻7号1979頁など)は、保険金受取人が自ら固有の権利として取得するものであって、被相続人から取得したものではないことを理由に、相続財産に属するものではないとしています(そのため、遺産分割協議の対象になりませんし、相続放棄をしても受け取れます)。

一方で、遺贈・贈与によって取得した財産はその価格分が特別受益として相続財産とみなされる(民法903条1項)とされているので、受取人を相続人としている保険金もこれにあたり相続財産とみなされるのではないかという議論があります。

(特別受益者の相続分)

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

この点について、裁判例(前掲最判平成16.10.29)は上記理由のほかに、保険料と保険金に等価関係がなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないことを理由に、原則として、相続財産に含まれるとすることを認めていません。

ただし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人間に生じる不公平が、到底是認することができないほどに著しい特段の事情がある場合については、その特別受益に該当するとされています。この点については、どういう場合に受取人を相続人とする生命保険金について、特別受益となるのか、こちらの記事において詳しく説明していますので、ご参照下さい。

死亡退職金・遺族給付金

死亡退職金や遺族給付金は、相続人について契約上あるいは法律上の固有の地位に基づいて取得するものであることから、相続財産にあたらず遺産の対象となりません(最判昭和55.11.27民集34巻6号815頁参照)。

もっとも、これが特別受益財産に含まれるか否かについて判例の見解は分かれています。

賃金の後払いの趣旨を協調して死亡退職金の特別受益該当性を肯定した判例として広島高裁岡山支部昭和48年10月3日判決が、志望退職金についても相続人が受取人となっている生命保険金と同様に特別受益該当性を否定した判例として東京高裁昭和55年9月10日決定が挙げられます。

香典葬儀費用

香典は、喪主に対する贈与であって被相続人の死後に発生する権利であるから、相続財産を構成しないと解されています。

そして、葬儀費用についても同様に、被相続人の死後に発生する義務であることから、相続財産を構成しないと解されています(東京地判昭和61.1.28)。

なお、葬儀費用については、喪主が負担するべきとする裁判例、相続財産から支払うべきとする裁判例等、個別の事情によって、裁判例が分かれています。

債権・債務(②)

損害賠償請求権

被相続人がもともと有していた損害賠償請求権という債権はこれも金銭債権の一種であるので、一般論として相続の対象となるとされています。

もっとも、被害者が即死した場合における被害者の逸失利益分(被害者が天寿を全うしたら得たであろう利益分)の損害賠償請求権、被害者の生命・身体・名誉などの人格権が侵害された場合における慰謝料請求権については、その相続財産該当性が問題になるとされています。

被害者即死の場合における逸失利益の損害賠償請求権

被害者が即死してしまった場合には、権利の帰属主体が債権発生と同時に死亡していることから、被害者にそもそも損害賠償請求権が帰属していたかどうかが問題となります。

この点について、裁判例(大判大正9.4.20)は即死の場合と即死でない場合との不均衡が生じること、即死の場合も傷害と死亡との間に観念上時間の隔離があることから被害者は受傷の瞬間に損害賠償請求権を取得したと考えられることから、同損害賠償請求権は相続財産に含まれ相続対象となることを認めています。

慰謝料請求権

慰謝料請求については、前述した一身専属権(民法896条但書)該当性との関係で問題となります。

この点について、裁判例は従来の判例法理を変更し、被害者が慰謝料請求権を放棄したと解しうる特段の事情が存在しない限りは、損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることなく、当然に慰謝料請求権が相続されると判示しました(最大判昭和42.11.1民集21巻9号2249頁)。

そのため、特段の事情がない限りは、慰謝料請求権も相続対象になるといえます。

財産分与請求権・財産分与義務

離婚に伴う財産分与請求権・財産分与義務は、離婚は成立したが財産分与(民法768条)はまだ交渉中で、かつ、一方当事者が死亡した場合にその相続財産該当性が問題になります。

前述のとおり、財産分与には、清算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3つの場合が存在するので、これらの類型ごとに相続財産該当性を検討していきます。

清算的財産分与については、その権利義務はいずれも婚姻中に形成した夫婦共同財産の清算という純粋に財産上の問題であるので、相続財産に含まれ相続対象に当たることには問題ありません。

扶養的財産分与については、扶養請求権が夫婦関係という身分関係や権利者の扶養状態に基づく一身専属的な権利(民法896条但書)であるといえることから、相続財産にあたらないと考えられています。

また、財産分与義務についても一身専属的義務として相続財産に含まれず相続の対象とならないと考えられています。

慰謝料的財産分与については、裁判例の立場を前提にすると、その権利義務について通常の金銭債権・債務と同様に相続財産に含まれ相続対象に当たると考えられています。

保証債務

保証債務は、身元保証債務、信用保証債務、普通の保証債務の3種類があります。このうち、身元保証債務・信用保証債務については、ⅰ.内容が不確定な債務であることやⅱ.本人との個人的な信頼関係に基づく債務であることから、相続による承継は否定的に考えられています。

そのため、これらの債務については相続財産に含まれず、相続の対象にならないと考えられます。

一方で、通常の保証債務は、ⅰ.ⅱ.の性質があまり強くないものであることから、相続による承継が肯定的に考えられています。

そのため、通常の保証債務については相続財産に含まれ相続の対象になると考えられます。

契約上の地位(③)

前述した通り、契約上の地位は民法の明文で相続による承継が否定されている場合や契約の趣旨から一身専属性が認められる場合等、例外的な場合を除いては相続対象になると考えられます。

以下、その相続財産該当性が問題になる類型について詳しく説明していきたいと思います。

ゴルフクラブ会員契約

組合契約における組合員たる地位は組合員同士の信頼関係に基づくものであることから、相続による承継が否定されています(民法679条)。

そこで、団体性を有する預託金制ゴルフクラブにおいても、会員としての契約上の地位(会員権)が当然に相続の対象になるかが問題となりました。

当初の裁判例(最判昭和53.6.16判時897号62頁)は、会員たる地位は一身専属的なものであって相続の対象となり得ないと判断していました。

もっとも、その後の裁判例(最判平成9.3.25民集51巻3号1609頁)は、理事会による承認があれば会員の地位の譲渡を認める規約が存在するが、会員が死亡した場合に関する規約が存在しない事例において、譲渡と相続を区別する理由はないとして、譲渡に準じた手続きで相続人が会員としての地位を承継することができるとしました。

そのため、ゴルフクラブ会員権については、現在、具体的な規約内容やその運用実態によっては相続対象となるものといえると考えられます。

無権代理人の地位と本人の地位

無権代理人とは、本人から特定の法律行為を依頼(委任)されていないにもかかわらず、本人の名の下で相手方との間で特定の法律行為をしたものをいいます。

そして、この無権代理人は、取引相手の選択に従い義務を履行するか、損害賠償を支払うか、いずれかの義務を負います(民法117条)。

一方で、無権代理行為が行われた本人には、無権代理人が行った法律行為を追認する権利もしくは追認を拒絶する権利(民法116条)が認められています。

それでは、無権代理人又は本人が死亡した際に、これらの無権代理人の地位、本人の地位は相続人に相続されるのでしょうか。

この点について、まず、本人の地位と無権代理人の地位は一身専属権に含まれないことから相続対象たる相続財産に該当します。

そして、本人の地位と無権代理人の地位は併存するという考え方が通説的見解であることから、本人、無権代理人の立場からもそれぞれ無権代理人の地位、本人の地位は相続財産に含まれることになります。

もっとも、本人、無権代理人それぞれの地位を相続する順番等によって、法的結論は異なってきます。

【本人が無権代理人を相続する場合】

本人が無権代理人を相続する場合には、本人には本人の地位のみを主張して法律行為の追認を拒絶することができます。

なお、この場合においても相続した無権代理人の地位は併存していることから、本人は無権代理人の地位に基づく責任を負います。

【無権代理人が本人を相続する場合】

一方で、無権代理人が本人を相続する場合、無権代理人が本人の地位を援用して無権代理行為の追認を拒絶することは信義に反することから、無権代理人は本人の地位を援用して法律行為の追認拒絶をすることができません。

【第三者が本人や無権代理人の地位を相続する場合】

そして、第三者が本人、無権代理人の両方の地位を相続した場合には、この第三者が追認拒絶をしても信義に反することにはならないことから、本人が無権代理人を相続した場合と同様、本人の地位のみを主張して法律甲の追認を拒絶することが可能です。

まとめ

このように、遺産の範囲を考える際には、①~③として開設した相続される性質の権利義務といえるかを検討しましょう。次に、ⓐ~ⓒのように例外的に相続を認めない権利義務といえるかという観点から考える必要があります。

本記事で具体的に取り上げた権利義務について、学説でも判断が分かれているものが多いことから、個別具体的にその該当性を判断していく必要があります。

迷われた場合には、当事務所弁護士にお問い合わせください。

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