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弁護士コラム

賃貸人の修繕義務はどこまで?範囲と責任の境界線を解説

賃貸借トラブル
投稿日:2026年10月20日 | 
最終更新日:2026年10月20日

Q
築30年を超える賃貸アパートを所有しています。賃借人から電球交換や耐震補強などの修繕を求められていますが、大家の修繕義務はどこまで及ぶのでしょうか。

また、修繕費用を借主負担とする特約の有効性や、修繕義務を果たさなかった場合のリスクについても教えてください。
Answer
賃貸物件の修繕義務は、原則として大家が負います。ただし、契約内容や設備の範囲、修繕の必要性などによって判断が異なります。

電球交換などの小規模修繕は特約で借主負担とすることも可能ですが、大規模修繕まで負担させる特約は無効となる可能性があります。

また、建築当時の耐震基準を満たしていれば、現行基準への耐震補強義務を否定した裁判例もあります。

修繕義務を怠ると、賃料減額や損害賠償請求などのリスクがあるため、契約内容と建物の状態を確認し、適切に対応することが重要です。

この記事で分かること
▸ 賃貸人(大家)の修繕義務が及ぶ範囲と判断基準
▸ 修繕費用を借主負担とする特約の有効性と耐震補強の必要性
▸ 修繕義務を果たさなかった場合のリスクと対応策

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
 
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
 
不動産・相続・企業法務を中心に取り扱い、不動産に関する相談を年間100件以上対応。
賃貸借・不動産売買・立ち退き交渉・建築紛争・共有不動産など、幅広い不動産問題の解決に取り組んでいます。

賃貸人の修繕義務とは?民法上の原則と適用範囲

賃貸人(大家)は、賃貸物件を契約の目的に従って使用できる状態に維持・管理し、必要な修繕を行う義務を負います(民法601条、606条1項)。

民法606条1項では、賃貸人が賃貸物の使用・収益に必要な修繕を行う義務を負うことが定められています。修繕義務の範囲は、居住する専有部分だけでなく、共用部分も含め、居住に必要不可欠な性能を維持するために必要な範囲です。

この義務は、賃借人が契約の目的に従って物件を使用・収益するために不可欠なものです。

民法606条に定められた賃貸人の修繕義務

賃貸人は建物や部屋に破損・汚損などの不具合があり、居住に著しい支障が生じている場合、居住できる状態に修繕・回復する義務を負います(民法606条1項)。

修繕は賃貸人の義務であると同時に、自身の財産を適切に管理するための保存行為でもあります。そのため、賃借人は原則として修繕を拒否できません(民法606条2項)。

ただし、修繕のための立入りなどが賃借人の意思に反し、賃借の目的を達成できなくなる場合、賃借人は契約を解除できます(民法607条)。

なお、民法606条1項は任意規定であるため、当事者間の特約によって賃貸人の修繕義務を免除することも可能です。

修繕義務の対象となる設備・共用部分

修繕義務の対象は「賃貸物」であり、専有部分だけでなく、その使用に必要な共用部分も含まれます。また、賃貸人の所有物に限らず、他人物を目的とする賃貸借でも修繕義務は生じます。

修繕の対象となる不具合は、契約成立後に生じた破損・損傷だけでなく、契約成立時から存在するものも含まれます。

修繕義務が発生する要件

賃貸人の修繕義務は、「修繕が必要」であり、かつ「修繕が可能」な場合に発生します。

修繕の必要性が認められる場合

修繕の必要性が認められるのは、不具合によって賃借人が契約上の目的に従って物件を使用・収益できない場合です。

通常の使用に現実的な支障がなければ、修繕義務は生じません(東京地判平成20年8月28日等)。天災などの不可抗力によって破損・損傷が生じた場合でも、修繕が必要であれば賃貸人は修繕義務を負います。

ただし、賃借人の責任で修繕が必要になった場合、賃貸人は修繕義務を負いません。例えば、窓ガラスを叩き割った場合や、カーペットに飲み物をこぼした場合などが該当します。賃借人の責任について、故意・過失は問いません。

また、電球交換や障子・ふすまの張替など、容易かつ比較的安価に修理できる小修繕については、賃借人の負担とする特約が多くの契約書に設けられています。この場合、賃貸人は小修繕について修繕義務を負いません。

修繕が可能と判断される場合

修繕義務が認められるには、物理的・経済的に修繕が可能であることに加え、技術的・取引上の観点からも修繕が可能である必要があります。

物理的・経済的に修繕が不可能な場合、修繕義務は認められません(東京地判昭和41年4月8日)。

そのため、修繕に過大な費用がかかる場合も、修繕義務の範囲外となります。

賃貸人の修繕義務の範囲を判断する基準と具体例

賃貸人の修繕義務の範囲は、契約締結時に予定されていた物件の性状や賃料額などを踏まえて判断されます。

まず、修繕義務は、契約締結時に予定されていた物件の性状の範囲内で、使用に必要な限度で認められます(東京地判平成23年7月25日)。具体的には、契約締結時に備え付けられていたや、設備されているべきものとして契約内容に含まれていた設備などが判断基準となります。そのため、賃貸人には、契約締結時に予定されていた状態を超えて物件を改善する義務はありません。

また、賃料額が修繕義務の範囲に影響する場合もあります。原則として、賃料の高低だけ修繕義務の有無が決まるわけではありませんが、修繕義務は賃借人の賃料支払義務に対応するものであるため、賃料額に照らして採算が取れないような修繕義務を否定した裁判例もあります(名古屋高判平成15年9月24日)。

このように、不具合の程度に対して修繕が困難な場合や、費用が過大となる場合には、修繕義務が生じないことがあります。特に、築年数が古く賃料もそれなりに低廉な物件では、比較的小さな不具合については賃借人は受忍すべき範囲内として修繕請求が認められない場合があります。

修繕義務の判断事例

賃貸人の修繕義務は、不具合が賃借人の使用・収益を妨げる程度や、修繕の必要性によって判断されます。

修繕義務が否定されたケース

賃借人の使用・収益を妨げる程度に達していないとして、修繕義務が否定された事例があります。

  • レストランとして使用している建物の階段部分にタイルの変色や欠けがあったケース
  • 整骨院として使用している建物の床のタイルにひびがあったケース

これらは「修繕の必要性がない」として、賃貸人の修繕義務が否定されているといえます。

一部の修繕義務が認められたケース

老朽化した商品倉庫について、修繕の必要性に応じて、一部の修繕義務が認められた事例があります。

  • 修繕義務が認められた部分: 柱の腐食、屋根のトタン板の腐食による雨漏り
  • 修繕義務が否定された部分: 外壁、出入口、床などの内装・外装

この事例では、建物の経済的価値や使用状況を踏まえ、使用に著しい障害が生じていない部分については修繕義務が否定されました。

賃借人の責任で修繕が必要になったケース

賃借人の責任によって修繕が必要になった場合、改正民法では、原則として賃貸人は修繕義務を負いません。

例えば、飲食店の賃借人がグリストラップのメンテナンスを怠り、共用部分の排水管が詰まった場合です。ただし、その排水管を他の賃借人も使用している場合には、他の賃借人との関係で修繕義務を負う可能性があります。

また、改正民法が適用されない賃貸借契約では、賃貸人が修繕義務を負う可能性もあります。

なお、賃貸人が損害を被った場合には、賃借人に対して保管義務違反や原状回復義務に代わる損害賠償を請求することが可能です。

既存不適格建物の耐震補強は修繕義務に含まれる?

建築当時の建築基準を満たしている建物については、現行の耐震基準に適合させるための補強工事が必ずしも賃貸人の修繕義務に含まれるわけではありません。

建築当時の基準は満たしているものの、現行の耐震基準を満たしていない建物では、多額の費用がかかる耐震補強工事が修繕義務に含まれるかが問題となります。

この点について、契約締結時に予定されていた建物の性状を基準とし、現行の耐震基準を満たしていなくても、契約上の使用目的が妨げられるとはいえないとして、修繕義務が否定された裁判例があります。そのため、契約締結時に賃借人が建物の耐震性能が不足していることを認識していた場合、賃貸人は耐震補強を行う必要がないと判断されることがあります。

ただし、地震などによって建物が崩壊して賃借人に損害が生じた場合には、建物の管理状況などによって賃貸人の責任が問われるリスクもあるため、注意が必要です。

賃貸人が修繕義務を果たさない場合のリスクと対応策

賃貸人が必要な修繕を行わない場合、債務不履行にあたり、賃借人から損害賠償請求や契約解除などの法的措置をとられる可能性があります。

通常、修繕に必要な費用(必要費)は賃料に含まれていると考えられるため、賃貸人が修繕費用を負担せず、不具合を放置することは債務不履行にあたります。

具体的には、賃借人が以下の5つの法的措置をとることが考えられます。

  1. 1履行の強制
  2. 2損害賠償請求
  3. 3債務不履行による契約の解除
  4. 4賃料減額・賃借目的を達成できない場合の契約解除
  5. 5賃借人による修繕と必要費償還請求(賃料との相殺を含む)

修繕義務不履行に対する5つの法的措置

賃貸人は、修繕義務の有無を確認し、必要な修繕を速やかに実施することが重要です。

修繕の必要性・可能性や契約条件を確認したうえで、修繕義務を負う場合には、賃借人が法的措置をとる前に対応しましょう。

修繕に時間がかかる場合は、賃借人に修繕計画を提示するなどの対応が必要です。

履行の強制

賃借人は、裁判所の手続きを通じて、賃貸人に修繕義務の履行を強制することができます。

損害賠償請求

賃貸人が修繕義務を怠り、賃借人に損害が生じた場合、債務不履行に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。

例えば、以下のようなケースです。

  • 雨漏りによって賃借人の家具が濡れて使用できなくなったケース
  • 飲食店などの事業用物件において、修繕されないことによって営業できず利益を失ったケース

これらの損害が賃貸人の修繕義務不履行によって生じた場合、賠償請求の対象となる可能性があります。

債務不履行による契約解除

賃貸人が必要な修繕を行わず、不具合を放置した場合、賃借人は債務不履行を理由に契約を解除できることがあります。

賃料減額・賃借目的を達成できない場合の契約解除

賃借人の責任によらず、賃貸物の一部が使用・収益できなくなった場合、その割合に応じて賃料は当然に減額されます。この場合、賃借人から賃料減額を請求する必要はありません。

また、残存する部分だけでは賃借の目的を達成できない場合、賃借人は契約を解除できます。

賃借人による修繕と必要費償還請求

賃貸人が必要な修繕を行わない場合、一定の条件のもとで賃借人が自ら修繕し、その費用を請求できます。

民法607条の2では、以下のいずれかに該当する場合、賃借人による修繕が認められています。

  • 賃借人が修繕の必要性を通知し、または賃貸人がその必要性を知っていたにもかかわらず、相当の期間内に修繕しない場合
  • 急迫の事情がある場合

賃借人は、修繕に要した費用を必要費として賃貸人に償還請求できます。また、費用償還請求権と賃貸人の賃料債権を対当額で相殺する方法もあります。

賃借人の責任と修繕費用・原状回復義務

賃借人の責任で不具合や損傷が生じた場合、賃貸人は原則として修繕義務を負わず、賃借人による必要費償還請求や賃料減額も認められません。

一方、賃借人に責任がない場合、賃貸人には原則として修繕義務があり、賃借人が修繕した費用の償還請求や、一部が使用できない場合の賃料減額が認められます。

また、賃貸物の明渡し時における原状回復義務も、不具合や損傷が賃借人の責任によるものかどうかで異なります。

両者の違いをまとめると、以下のとおりです。

項目賃借人に責任がない場合賃借人に責任がある場合
賃貸人の修繕義務ありなし
必要費償還請求権できるできない
一部が使用できない場合の賃料減額認められる認められない
明渡し時の原状回復義務なしあり

賃貸人の修繕義務を軽減するためのポイント

賃貸人の修繕義務は、賃貸借契約で特約を定めることで、負担を軽減・免除できる場合があります。

民法の修繕義務に関する規定は任意規定であり、当事者間の特約によって賃貸人の修繕義務を免除することも可能です。

ただし、賃貸人の修繕義務を免除したからといって、直ちに賃借人が修繕義務を負うわけではありません。近年の民法改正に伴い、賃貸人の修繕義務の負担は大きくなっています。

そのため、居住用・事業用といった建物の用途や種類による違いを踏まえ、修繕に関する責任分担を特約に明記することが重要です。

居住用・事業用物件における修繕特約の違い

修繕特約の有効性や負担範囲は、居住用か事業用かによって異なります。

事業用物件の場合

映画館や家電量販店などにビル一棟を貸す場合、賃借人の過失の有無を問わず、テナント会社がすべての修繕義務を負う特約が設けられることがあります。

店舗や事務所などの事業用物件では、公平の観点から、修繕義務のすべてを賃借人に負担させても、特段問題はないと考えられます。

居住用物件の場合

居住用物件では、通常の使用によって生じる故障や汚損などの「通常損耗」について、賃借人に修繕義務を負わせることは公平ではないと考えられます。

そのため、通常損耗について賃借人に修繕義務を負わせるには、契約書で負担範囲を明確にし、あらかじめリスクを説明する必要があります。

具体的には、以下の事項を特定することが求められます。

  • 修繕箇所
  • 損耗の原因
  • 修繕方法と費用

さらに、消費者契約法が適用される場合、修繕費用が賃料と比較して著しく高額でないことも必要です。契約書で修繕義務を明確に定めていても、費用が相当性を欠く場合には、特約が無効となるリスクがあります。

修繕特約の有効性と適用範囲

修繕特約がある場合でも、賃借人がすべての修繕義務を負うとは限りません。特約の有効性や適用範囲は、契約内容や締結時の事情などを踏まえて判断されます。

例えば、「修繕は賃借人が行う」という特約では、賃貸人の修繕義務や必要費償還義務が免除されると解されますが、賃借人が修繕義務を負うかは別途検討が必要です。

実際に、居住用建物の賃貸借契約で「入居後の大小修繕は賃借人がする」と定めた条項について、賃貸人の修繕義務を免除する趣旨にとどまり、賃借人にすべての汚損・破損を修繕する義務を負わせるものではないと判断した裁判例があります。

修繕特約の解釈では、以下のような事情を総合的に考慮します。

  • 契約書の文言や契約締結の経緯
  • 賃貸借契約の目的
  • 建物の種類・構造などの性質
  • 他の契約条項や慣習
  • 経済情勢などの事情

また、実務上は以下のような特約が用いられています。

  • 小修繕特約: 軽微・小規模な修繕を賃借人の負担とする特約
  • 賠償特約: 賃借人が破損させた場合の損害を賠償する特約

ただし、借地借家法では借主の保護が図られており、賃貸人が本来負担すべき修繕費用を不当に転嫁したり、民法上の修繕義務や必要費償還請求を不当に回避したりすることは認められません。

一方的に賃借人に不利益を与える特約は、無効となる場合があるため注意が必要です。

よくある質問(Q&A)

水漏れ対応を理由に賃借人が賃料の支払いを拒否した場合、どうすればよいですか?

水漏れによって賃貸物の一部が使用できない場合、修繕義務の不履行を理由に、賃料の支払拒絶が認められることがあります。

まずは水漏れの状況や原因を確認しましょう。借主の責任で生じた不具合であれば、改正民法では賃貸人に修繕義務は生じません。

一方、賃貸人に修繕義務がある場合でも、賃料全額ではなく、被害の程度に応じた減額にとどまる場合があります。実際に、排水管の閉塞による支払拒絶が賃料の30%相当額に限られた事例もあります。

借主が勝手に修理業者を手配した場合、修繕費用を支払う必要がありますか?

借主が自ら修繕した場合でも、必ずしも賃貸人が費用を負担するわけではありません。

民法607条の2では、賃貸人が通知を受けても相当期間内に修繕しない場合や、急迫の事情がある場合に、借主による修繕を認めています。

排水トラブルによって室内が水浸しになるなど、緊急性が高い場合には費用償還が認められる可能性があります。一方、不要な修理費用については請求を拒否できる余地があります。

なお、修繕費用を借主負担とする特約や、修繕に賃貸人の承諾を必要とする特約がある場合は、その内容と有効性も確認する必要があります。

古いアパートの耐震補強を入居者から求められた場合、応じる必要がありますか?

建築当時の耐震基準を満たしている建物については、必ずしも現行基準に適合させるための耐震補強義務を負うわけではありません。

裁判例では、建築当時の耐震性能が契約内容となっている場合、現行基準に合わせた修繕義務を否定したものがあります。

ただし、地震などで建物が崩壊し、入居者に損害が生じた場合、管理状況によっては賃貸人の責任が問われる可能性があります。耐震診断や耐震補強など、危険を防止するための措置を検討することが重要です。

東京都千代田区の不動産に強い弁護士なら直法律事務所

賃貸人の修繕義務は、建物の状態や契約内容、修繕の必要性などによって負担範囲が異なるため、個別の事情を踏まえて判断することが重要です。

また、修繕費用を賃借人の負担とする特約があっても、必ずしも有効とは限りません。適切な判断をせずに修繕を拒否した場合、賃料減額や損害賠償請求、さらには訴訟に発展するおそれがあります。

こうしたトラブルを防ぐためにも、早い段階で弁護士に相談し、契約書の見直しや入居者との交渉を進めることをおすすめします。事前に法的リスクを確認することで、訴訟の可能性も見据えた適切な対応につながります。

直法律事務所では、賃貸物件の修繕義務に関する契約書の見直しや入居者との交渉・訴訟対応など、借地借家に関する案件について豊富な経験を有する弁護士が丁寧にサポートいたします。賃貸人の修繕義務や費用負担についてお悩みの方は、まずは一度ご相談ください。

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