澤田直彦
監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「企業不祥事対応における社内調査の全体像|初動判断・調査設計・再発防止策」について、詳しくご説明します。
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なぜ今 「社内調査」 が重要なのか
企業を襲う不祥事発覚リスクの現実
企業活動の高度化と情報発信手段の多様化により、不祥事の発見メカニズムは、かつてのように社内で静かに完結するものではなくなりました。
事業部門の担当者が感じた些細な違和感が、内部通報を通じて一気に経営レベルに露見することも珍しくありません。取引先からの指摘・行政による照会・報道機関の事前質問・SNSの匿名投稿など、発覚ルートは想像以上に広範に存在しています。
これらの情報の一つひとつは、企業にとって必ずしも即「不祥事」を意味するものではありません。しかし、発覚後の対応の遅れや判断の誤りが積み重なると、事案の実態以上に深刻な印象を世間に与え、ブランド価値や取引関係に深刻な影響を及ぼします。
特に現在は、「企業が問題を発見した時点」ではなく、「社会が問題を知った時点」で評価が決まってしまう傾向が強く、企業にとっての時間的猶予は極めて短くなっています。
不祥事は「なくすべきもの」であると同時に、「必ず起こりうるもの」と受け止め、平時から適切な社内調査のあり方を準備しておくことが、企業経営に欠かせないリスクマネジメントとなっています。
企業価値を守るための初動と社内調査の役割
不祥事が疑われる情報が社内に持ち込まれた際、企業がまず直面するのは「初動対応をどうするか」という判断です。この初動こそが、企業価値を守るうえで決定的な役割を果たします。
事実関係を正しく認識できないままの見切り発車は、関係者への誤った処分や誤解を生む社外公表、あるいは必要な措置の見落としといった錯誤につながる一方で、慎重を期しすぎれば情報流出や証拠隠滅のリスクも高まります。
この迅速さと正確さという相反する要求を両立させる手段こそ、適切な社内調査です。初動調査では、「不正が実際に存在するのか」「事態の深刻度はどの程度か」「応急措置は必要か」といった最低限の判断材料を短時間で収集することが求められます。その後の本格調査では、発生原因や組織的背景を掘り下げ、再発防止策につながる根本原因の特定が目的となります。
つまり、社内調査は単に事実を調べる行為ではなく、企業が適切な意思決定を行うための土台となるプロセスです。この土台が揺らいでしまえば、再発防止策の構築も、ステークホルダーへの説明責任も、すべてが不十分なものになり、結果的に企業価値を一層毀損することにつながります。
日本取引所 「不祥事対応プリンシプル」 が要求する必要十分な調査とは何か
日本取引所自主規制法人が公表している「不祥事対応のプリンシプル」は、不祥事への向き合い方について企業が拠るべき基本姿勢を示した指針です。そのなかでも特に重要なのが、「必要十分な調査範囲の設定」です。
この指針は、不祥事対応においては、単に表面的な事実の羅列にとどまらず、背後に存在する組織的背景・内部統制の問題・企業風土の影響まで掘り下げる姿勢が求められると明示しています。すなわち、「事案の点だけを見るのではなく、組織全体の線や面としての構造を明らかにしなければ、真の再発防止にはつながらない」という考え方です。
また、調査体制についても、調査対象の部署から独立した立場を確保することが不可欠とされており、社内の利害関係から離れた視点で事実を検証できる体制の構築が求められます。この点を軽視し、形式的な調査に終始した場合、後日、追加の不正が発覚したり、調査の信頼性が社会から否定されたりする危険性があります。
不祥事対応プリンシプルが示す「必要十分な調査」とは、単なる情報収集作業ではなく、企業の自浄能力そのものを問われる行為であり、調査の質が企業の信頼性を左右するという強いメッセージなのです。
小規模不正でも致命傷となる理由
近年では、企業にとって小さな不正であっても、放置すれば甚大な評判被害に発展するケースが後を絶ちません。特に問題となるのは、企業が「軽微だ」と判断した内容と、社会が「重大だ」と受け取る内容との間に、大きな乖離が生じやすい点です。
SNSでは、匿名の投稿が瞬時に拡散し、事実関係が不正確であっても企業名だけが独り歩きする場合があります。また、内部通報制度が整備された現代では、不正の認識が個人の判断に委ねられなくなり、「会社が気づいていない問題」を従業員が直接外部に通報することも珍しくありません。
サプライチェーンにおいても、協力会社の不祥事が自社のコンプライアンス違反として評価される例が増えており、企業の説明責任は従来より遥かに広範に及んでいます。
こうした状況を踏まえると、どれほど小規模な不正であっても、企業の初動や社内調査の姿勢次第で「企業としての真摯性」が問われる時代になっているといえます。いわば、小さな火種でも、風向きひとつで企業全体を巻き込む炎上へと転じる可能性があり、その意味でも、社内調査の精度とスピードは企業の生命線といって過言ではありません。
社内調査の全体像 : 初動調査と本格調査の役割分担
初動調査が果たすべき3つの役割
不正や不祥事を疑わせる情報が寄せられた瞬間、企業が最も重視すべきなのは初動対応で判断を誤まらないことです。
初動調査は、事案をどの程度のリスクとして受け止めるべきかを見極めるための短期的な確認プロセスであり、その後の対応方針や調査の進め方に大きな影響を与えます。
① 不正リスクの有無と程度を見極める
初動調査の第1の役割は、不正が存在する可能性や、その進行度を把握することです。
これは、全容解明を目的とする本格調査とは異なり、不正が「存在し得るのか」「存在し得ないのか」を見極めるための最低限の確認にとどまります。
通報内容に不自然な点がないか、関係資料やログが存在するか、関係者からどのような説明が得られるかといった情報を踏まえ、不正の可能性の濃淡を見極める段階といえます。
② 後日の検証と説明に耐えうる状態を確保する
第2の役割は、後日の調査や説明に支障が生じないよう、証拠を保全することです。
初動調査の時点で不正の可能性が否定できない場合には、後に改ざんや消失のリスクがある情報を早期に保全する必要があります。
仮に証拠や記録が失われれば、事実認定が困難になるだけでなく、企業側の説明責任が果たせなくなることがあります。
③ 初動対応を支える暫定的な調査体制を整える
第3の役割は、初動対応を行う体制の一時的な立ち上げです。
初動調査は短期間で終わらせる必要がありますが、だからといって現場任せで対応すると、客観性や中立性が担保されません。
そのため、法務・コンプライアンス部門が中心となり、調査範囲に関わりのある部署を避けながら、最小限かつ独立性を確保した初動調査チームを編成することが重要です。
この3つの役割を意識して初動調査を位置付けることで、初動段階での混乱を最小化し、その後の本格調査へのスムーズな橋渡しが可能になります。
初動調査については、別記事「【不正調査の初動対応】企業法務が押さえるべき社内調査の進め方とリスク回避策を解説」にて詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。
初動段階における経営判断と応急措置の考え方
初動調査の結果、不正や重大なリスクの存在が疑われる場合には、企業は応急措置を講じるか否かの経営判断を迫られます。応急措置とは、不正の拡大防止やステークホルダー保護のため、緊急的に講じなければならない臨時措置を指します。
例えば、製品やサービスに関する問題であれば、出荷差止や提供一時停止といった措置が必要になります。これらは早期に実行することで影響を最小化できますが、判断を誤れば企業活動に過度な負担が生じるため、慎重さと決断力の両方が求められます。
また、従業員の不適切行為が疑われる場合には、当該従業員の自宅待機やアクセス権限の一時停止が必要となることがあります。ただし、軽率な処分は名誉侵害につながることもあるため、あくまで「調査の妨げを防ぐための一時的措置」という位置付けで判断することが重要です。
経営陣は、これらの応急措置が企業の信用を守るうえで不可欠であることを理解しつつ、過度な恐れや軽視によって意思決定が遅れないよう、初動調査チームの報告をもとに速やかに判断する姿勢が求められます。
本格調査に移行すべきケースとその判断基準
初動調査で得られた情報は、本格調査に移行するかどうかを判断するための材料となります。企業が本格調査に踏み切るべき典型的なケースとして、次のような状況が挙げられます。
まず、不正の存在が現実味を帯びている場合です。メールの痕跡、帳簿の不整合、ログの異常など、一定の客観的証拠が認められれば、初動段階で対応を止めることは危険です。また、不正が個人レベルなのか組織レベルなのかが判然としない場合も、本格調査の対象となります。特に、不正発生の背景に内部統制の欠陥や部門文化の問題が疑われるときは、より深い検証が求められます。
さらに、社会的影響が想定される事案、あるいは将来的にメディアや行政からの照会が予想されるようなケースでは、早期に本格調査へ移行し、事実を自ら掌握しておく必要があります。企業が先手を打つか後手に回るかで、世間からの評価は大きく変わります。
つまり、本格調査は単なる深掘りではなく、企業の信用を守るための防衛的手段でもあり、初動段階の兆候を軽視すべきではないということです。
再発防止策までの一連の流れ
社内調査の最終目的は、事実の解明そのものではなく、再発防止策を実効性のある形で構築し、企業の信頼を取り戻すことにあります。そのためには、調査結果を単なるレポートで終わらせず、一連の流れとして組み立てていく必要があります。
最初の段階は、正確な事実認定です。ここでは、関係者の供述だけに依存せず、客観的証拠を中心に総合的な評価を行う必要があります。事実認定が曖昧であれば、その後のすべての判断が不安定なものとなってしまいます。
次に、原因究明へ進みます。不正の直接的な行為者だけに焦点を当てるのではなく、なぜその行為が可能になったのかという組織的要因を掘り下げることが重要です。内部統制の不備・部署文化・管理職の認識不足など、根本原因を明らかにすることで、再発防止策の精度が格段に高まります。
そのうえで、再発防止策の策定と実務への実装が必要になります。制度の見直しだけでなく、教育研修、承認フローの改訂、ガバナンス体制の強化など、多面的な対策が求められます。ここで重要なのは「実効性」であり、形式的な制度の変更だけでは意味を持ちません。
最終的には、これらの対応をステークホルダーに適切に説明し、企業としての真摯な姿勢を示すことで、信用の回復につながります。社内調査から再発防止策、そして信頼回復に至るまでの一連の流れこそが、不祥事対応の核心部分であり、企業価値維持の要となるのです。
コンプライアンス研修の詳細はこちら調査の端緒 : 不正を早期の捉えるための構造設計
発見統制の重要性
企業の不正対策は、しばしば予防統制に偏りがちですが、近年の実務では、それと同等以上に発見統制の強化が求められています。不正は、最終的には必ずどこかで顕在化します。その瞬間をいかに早く捉えられるかが、被害の拡大防止、世間からの評価、さらには企業価値に直結します。
不正は、必ずしも大規模な不正だけに限られません。日常業務の中で、決裁書類の不整合や、帳簿の違和感、担当者の異常な残業時間など、小さな異変が積み重なって発覚に至ることが少なくありません。発見統制の本質は、この「違和感」を組織として拾い上げる仕組みを持つことにあります。
もし発見統制が脆弱であれば、不正は長期間潜伏し、結果として問題が大きくなった段階で公表せざるを得なくなり、企業は大きなダメージを負うことになります。したがって、「予防できなくても、早期発見すれば守れる領域は広い」という視点が、現代企業には不可欠です。
事業部門で起こりやすい見逃しと防止策
事業部門は、日常業務に最も近い立場にあるため、実は不正や違反行為の最初の兆候に触れやすい層でもあります。一方で、最も見逃しが起こりやすい層でもあります。その背景には、数字へのプレッシャー、部署内の暗黙の慣習、上司への遠慮、自分の評価への影響など、複雑な心理要因が存在します。
「多少のルール違反は許される」という空気が組織に漂っていると、小さな違反が日常の中に埋もれ、不正の芽が見過ごされてしまいます。特に、営業部門では売上目標のプレッシャー、経理部門では締切優先の文化などが見逃しを助長することがあります。
この見逃しを防ぐためには、「悪いニュースを歓迎する」という文化を経営陣が率先して示すことが重要です。部下が不正の疑いを報告した際に評価を下げるのではなく、適切な報告を称賛する制度や行動が必要です。また、定期的な対話や現場ヒアリングを通じ、形式的ではない聞き取り文化を定着させることが、早期発見の第一歩となります。
管理部門が拾うべきシグナル
管理部門は、各種データの集計・分析や、複数部署の横断的な情報に触れる立場にあります。そのため、不正を疑わせる微細なサインを最も発見しやすい立場でもあります。
例えば、経理であれば仕訳の不自然なパターン、人事であれば特定の部署だけ異常に離職率が高い状況、法務であれば特定の取引先との契約だけ例外的な条件が重なるケースなど、多様な違和感がシグナルになります。
管理部門が見逃してはならないのは、「説明はつくが、腑に落ちない不自然さ」です。不正の初期段階では、行為者は丁寧に理由を取り繕い、表向きの整合性を整えることが多いため、表面的な説明を鵜呑みにせず、数字の背景や担当者の行動など、複眼的な視点を持つことが求められます。
また、第2ラインが拾ったシグナルを迅速に第3ラインや経営層に共有できるルートを平時から整備しておくことも、発見統制の強化には欠かせません。
内部監査の違和感の扱い方
内部監査部門は、企業の最後の砦として、業務プロセスや内部統制の実効性を検証する立場にあります。そのため、現場から上がらなかったリスク情報を拾う機会が多く、他の階層では発見しにくい違和感に気付くことがあります。
監査の現場では、「直接的な証拠はないが、説明の一部に不自然な点がある」「通常の業務フローと微妙に異なる動きがある」といった弱いシグナルをどう扱うかが重要です。
内部監査は、明確な証拠がない段階であっても、違和感を放置せず、横串で他部署の状況を照合したり、サンプルを増やして検証したりする姿勢が求められます。こうした違和感を軽視すると、監査が機能不全に陥り、発見すべき不正を見逃すリスクが高まります。
したがって、内部監査部門には、弱いシグナルを強制的に無視させない権限と独立性が必要であり、それを支える組織文化が重要です。
内部通報制度の改善ポイント
内部通報制度は、不正発見の最も有効な手段のひとつですが、制度があっても信頼されなければ機能しません。多くの企業で通報が寄せられない理由として、「会社はどうせ動いてくれない」「通報すると不利益を受ける」という不信感が根深く残っています。
信頼される窓口づくりの第一歩は、通報者を守る仕組みを制度として明確に示し、実際に保護された事例を公開することです。また、通報後に何が起きるのか、どの段階で誰が関与するのかといったプロセスを透明化することで、通報の心理的ハードルを下げることができます。
さらに、社外窓口の活用も実効性を高める重要な手段です。弁護士や専門機関が窓口となることで、通報者は組織への依存度を下げ、中立性の高い環境で通報できます。企業としては、通報内容を真摯に受け止め、結果を社内に適切にフィードバックする姿勢が求められます。
近年、この内部通報制度によって、テレビニュースで取り上げられるような大規模な不祥事が発覚するという事態も多く見受けられます。
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不正の端緒は社内だけに存在するものではなく、外部から寄せられる情報も極めて重要です。報道機関からの事前質問は、内部で把握していなかった問題を指摘するケースがあり、即座に初動調査に移る必要があります。
また、SNSは企業のレピュテーションに影響する代表的な発見チャネルとなっています。匿名の投稿であっても、その内容が事実である可能性がある以上、真摯に向き合わなければなりません。担当者が「ただの噂」と軽視した瞬間に、数万件の拡散が生じることがあります。
行政当局からの照会や取引先の通報は、より深刻なシグナルです。特に、下請法・労働問題・消費者被害・人権・サプライチェーン関連の指摘は、その背後に組織的問題が潜んでいることも多く、事実の確認を怠ると企業としての信頼を大きく失うことになります。
初動で誤ると企業価値はなぜ毀損するのか
不正の発見段階で誤った判断をすると、企業価値は一気に毀損します。特にSNS時代は、企業が発表する「第一報」がその後の世論の方向性を決定づけます。曖昧な説明や誤った初動は、「隠蔽しているのではないか」という印象を生み、実際の不正内容よりも大きな非難を浴びる原因となります。
また、初動のミスから派生する二次不祥事も深刻です。例えば、不適切な処分・通報者への報復・証拠保全の失敗・誤った説明による株主や顧客の混乱など、初動対応の誤りが新たな問題を生じさせることがあります。
つまり、初動で求められるのは「迅速さ」ではなく、「迅速かつ正確」であることです。正しい端緒の捉え方と誠実な対応が、企業の信用を根底から支えるのです。
調査対象事実 (スコープ) の設定
不祥事対応プリンシプルが求める 「必要十分な調査範囲」
不祥事対応において最も重要といえるのが、調査の範囲をどのように設定するかという問題です。
日本取引所自主規制法人が示す「不祥事対応プリンシプル」では、原因究明にあたっては必要十分な調査範囲を設定することが求められます。ここでいう「必要十分」とは、単なる事実確認にとどまらず、不祥事の背景や動機・内部統制の問題・企業風土など、事案を成立させた要因まで含めて明らかにすることを意味しています。
すなわち、調査範囲は行為者の特定にとどまらず、なぜその行為が可能になったのか、なぜ組織が気付かなかったのかという構造的な原因に迫ることが不可欠です。調査範囲が狭すぎれば真因にたどり着けず、広すぎれば時間だけが浪費され、企業活動に過度な負担を与えてしまいます。
この絶妙なバランスを見極めることこそが、調査チームに求められる高度な判断です。
スコープ設定の原則
調査範囲を設定する際に最も有益なフレームワークが「① 他部署でも不祥事がないか」という視点と「② 上層部の関与がないか」という考え方です。
「① 他部署でも不祥事がないか」という視点は、同種・類似の不正が他部署や関連領域でも発生している可能性を視野に入れ、調査対象を横方向に拡張することを指します。例えば、循環取引や経費不正の事案では、行為者個人の問題に見えても、手口が組織内で共有されていたり、同じ条件で複数部署に再現していたりすることがあります。
一方、「② 上層部の関与がないか」とは、行為者の上司や役員など、組織のどの階層まで認識や関与があったのかを上方向に遡っていく調査です。上層部の黙認や見て見ぬふりがないか、または内部統制が形骸化していなかったかを確認することで、組織的要因を明らかにすることができます。
件外調査 : 類似案件の洗い出し ・ 他部署への波及
「① 他部署でも不祥事がないか」という視点は、件外調査とも呼ばれ、不正の再現性や伝播性を確認する調査です。不正行為は、特定個人が独自に行うケースもありますが、企業の現場においては、過去の慣行や暗黙の了解、手続の抜け穴が共通して存在しているケースも少なくありません。
例えば、経費精算の虚偽申請が1件見つかった場合、その部署だけでなく、他部署でも同様の申請方法が受け継がれていたり、誰からともなく「この程度は大丈夫」という誤った認識が共有されていたりすることがあります。
件外調査のポイントは、不正の特徴から調査範囲を広げることです。不自然な数値の動き、業務フローの例外処理、担当者の固有の裁量など、類似の兆候が他部署に存在していないかを精査することで、潜在的な不正の芽を摘み取ることができます。
組織性調査 : 上司 ・ 役員までの認識と関与を調べる
「② 上層部の関与がないか」は、組織性調査とも呼ばれ、不正がどの階層まで認識されていたか、または黙認されていたかを検証する調査です。組織の上層部に認識や関与があった場合、不正の原因は行為者本人だけに限定されず、組織文化やガバナンスの欠陥にまで及びます。
例えば、行為者が「上司に報告したが注意すらされなかった」と供述した場合、そのヒアリングだけで判断するのではなく、関連する会議資料、メール・チャットログ・決裁手続の履歴など、客観的な証拠に基づき認識の有無を確認することが求められます。
この調査では、「調査対象者の供述の一貫性」「客観証拠との整合性」「過去の意思決定の痕跡」などを丁寧に検証し、認識の有無だけでなく、リスクに対する無関心や放置の実態にも踏み込むことが重要です。
他に不正がないことをどのように説明するか
社内調査において、ステークホルダーが最も不安視するのが、「まだ隠れた不正があるのではないか」という点です。特に株主や行政当局は、1件の不正が判明した場合、その背後に他の不正が潜んでいる可能性を疑います。
企業としては、「他に不正がない」という断定的な主張は危険である一方、「必要十分な調査を行った結果、他に不正が存在するとは合理的に認められなかった」という形で説明できることが重要です。
合理的推認を示す際には以下の視点が有効です。
- 客観的証拠に基づく網羅的な検証を行ったこと
- 不正の特徴に基づき高リスク領域を重点的に調査したこと
- 調査体制の独立性 ・ 専門性を担保していたこと
これらを総合的に説明することで、調査の信頼性が担保され、ステークホルダーの納得も得やすくなります。
調査体制の構築 : 独立性 ・ 専門性を備えた体制設計
セルフ調査の危険性とステークホルダーからの信用低下
不正調査において最も避けなければならないのが、いわゆるセルフ調査です。
調査対象となる部署や当事者に近い人物がそのまま調査チームを構成してしまうと、調査の独立性が欠如し、結果の信頼性が著しく損なわれます。調査対象者と同じラインに属する人物は、無意識的に身内を庇ったり、逆に過度に厳しく接したりと、判断が歪む可能性があります。
セルフ調査は、外部から見れば「隠蔽の疑いがある」「本気で調査していないのでは」と受け止められ、ステークホルダーからの信用を一気に失います。特に上場企業や大規模事業者においては、調査の独立性は最も注目されるポイントであり、調査の姿勢そのものが企業のコンプライアンスレベルを示す指標と見られています。
調査体制の構築において最初に意識すべきは、利害関係から切り離された体制であるかという点です。
独立性の確保 : ラインから切り離すべき範囲
調査の独立性を担保するには、調査対象のライン(指示・報告の階層)から調査担当者を切り離す必要があります。不正が疑われている部署はもちろん、その上司・関連部署・過去にその業務を担当していた職員など、利害関係がある人物は調査から外すのが原則です。
どこまでを調査対象ラインとみなすかは事案ごとに異なりますが、ポイントは「調査対象者の説明に影響を受け得る立場かどうか」です。例えば、部下の不正が疑われている上司は、管理監督責任を問われる可能性があるため、調査チームから排除すべきです。逆に、同じ部署でも既に業務担当から外れており、当該事案に関わりがない場合は、調査協力者として情報提供を受けることが可能です。
この線引きを誤ると、調査の信頼性は一気に崩壊します。ステークホルダーは、調査の内容より先に、調査の体制を評価するという事実を忘れてはなりません。
調査協力者を使う場合の留意点
調査チームに専門知識が不足している場合、現場の業務に精通した調査協力者の存在は非常に重要です。業務の流れ・内部の慣行・システム仕様など、現場でなければ分からない情報が多く、これらを迅速に把握することで調査の精度と速度が大きく向上します。
しかし、調査協力者の役割は初動と本格調査の段階で異なります。初動調査では「どこに問題が潜んでいそうか」を示す水先案内人としての役割が中心であり、事実認定は彼らの証言に依存してはいけません。本格調査では、調査協力者自体が調査対象者となる可能性があり、彼らの関与の有無を慎重に確認する必要があります。
つまり、調査協力者は調査チームの一部ではなく、調査チームを支援する情報源に過ぎないというスタンスを貫くことが重要です。過度に依存すれば、調査そのものが誘導される危険性があります。
弁護士を活用するメリット
社内調査に弁護士を関与させることは、調査の実効性と信頼性を高めるうえで、重要な意味を持ちます。
弁護士を関与させた場合、以下のような点がメリットとして挙げられます。
- 厳格な守秘義務による情報管理
弁護士には厳格な守秘義務が課されているため、調査で得た情報が外部に漏れるリスクを最小化できます。
社員が安心してヒアリングに応じられるという心理的効果も大きく、調査の円滑化につながります。 - 法令 ・ 規制を踏まえた専門的な分析
「不正が法令違反に該当するのか」「行政通報や自主申告が必要か」「株主への開示義務が発生するか」など、判断が分かれやすい論点を精緻に整理できます。 - 第三者性 ・ 中立性の確保
弁護士が関与することで、調査に第三者性・中立性が付与されます。
特に、社外公表や行政対応が必要な事案では、「弁護士が関与した調査である」という事実がステークホルダーへの重要なメッセージとなります。
このように、調査の信頼性を確保するうえで、弁護士の役割は単なる法律専門家にとどまらず、調査プロセス全体の品質を担保する存在であるといえます。
社外専門家とのハイブリッド型調査体制のメリット
大規模な不正や技術的な要素を含む調査では、弁護士だけでなく会計士・フォレンジック専門家・ITセキュリティの専門家・産業特有の技術者など、複数の専門領域を横断したハイブリッド型調査体制が有効です。
例えば、売上粉飾の事案では会計士が決算数字を精査し、IT不正アクセスではフォレンジック専門家がログ解析を担い、ハラスメント事案では第三者性を高めるために外部の労務専門家が関与するケースがあります。
このハイブリッド型のメリットは、調査の精度が飛躍的に向上する点にあります。各分野の専門家が互いに補完し合うことで、個別の視点では見落とされる複合的な原因を明らかにでき、再発防止策も立体的に構築できます。
企業規模が大きいほど、この体制の必要性は高まりますが、中小企業でも必要な部分だけ外部に委託するというスリムなハイブリッド型が十分に機能します。
中小企業でも可能な 「最適 ・ 最小の調査チーム」
「社内調査」と聞くと、大企業のような大規模チームを想定しがちですが、中小企業でも十分に実行可能です。重要なのは人数ではなく、機能を満たしているかどうかです。
最低限必要な機能は、以下の3つです。
- 調査の独立性
- 事実調査の実務能力
- 法律的 ・ 規制的な判断
この3つを満たすためには、例えば以下のような構成で十分とされます。
- 社内の法務 ・ 管理部門の担当者 : 1名
- 業務内容を理解するための調査協力者 : 1名
- 外部弁護士 : 1名
このコンパクトなチームでも、必要十分な調査機能を果たせます。むしろ中小企業においては、過剰な体制よりも、少数精鋭で柔軟かつ迅速に動ける方が、調査のスピードと質が両立しやすいという側面もあります。
大切なのは「サイズ」ではなく、「調査の構造的な質」です。独立性を保ち、必要な専門性を確保し、透明性のあるプロセスで調査を進めることができれば、企業規模にかかわらず高い信頼性を得ることができます。
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社内調査で押さえるべき4つの基本
社内調査は、不正の発覚後に企業が何らかの対応を迫られた際に実施される事後的プロセスではありますが、実際には企業価値の維持・回復に直接影響する極めて戦略的な取り組みです。
効果的な社内調査を実現するためには、以下の点を基本として意識する必要があります。
- 調査の独立性の確保
調査対象となるラインから切り離された体制を組まなければ、どれほど精緻な分析を行っても結論は信頼されません。 - 客観的証拠に基づく事実認定
事実認定は、ヒアリングだけに依存するのではなく、客観的証拠に基づいて進める必要があります。
ヒアリング偏重の調査は、後から容易に否定され、社会的信頼を損ないかねません。 - 調査範囲の必要十分な設定
調査範囲が狭すぎれば真因を見誤るおそれがあり、広すぎれば無駄な時間とコストを消費することになります。 - 調査の透明性の確保
調査チームの構成・調査方法・判断基準を明確に示すことで、ステークホルダーからの信頼性が高まります。
これらの4つの基本が揃ってはじめて、社内調査は企業の防御線として機能し、再発防止に向けた建設的な議論に繋がっていきます。
経営判断を誤らないために必要な調査の質
調査の質は、企業の経営判断に直結します。不正が単なる担当者レベルの問題なのか、部署ぐるみの問題なのか、さらにはガバナンスの欠陥に根差しているのかで、企業が取るべきアクションは大きく異なります。
調査の質が低いと、経営陣は誤った判断を下し、結果として対応が遅れ、二次不祥事が発生する危険があります。例えば、調査の初期段階で誤った結論を出し、ステークホルダーに誤解を与える発表を行うと、その後どれほど正しい説明を重ねても信頼を取り戻すのは困難です。
逆に、調査の質を高く維持できれば、企業は事実を把握したうえで最適な判断を下す能力があると評価され、事案が深刻であっても信頼回復に向けた強い一歩を踏み出すことができます。調査とは、問題の解決そのものではなく、適切な経営判断のための基盤づくりであるという認識が不可欠です。
調査後の再発防止につなげる重要性
社内調査は、事実を調べるだけでは完結しません。むしろ本質は、調査結果をもとに再発防止へとつなげるプロセスにあります。仮に事案が軽微であったとしても、背景にある業務プロセスの脆弱性や内部統制の不足が改善されなければ、同種の問題が再発し、企業の信頼は繰り返し損なわれることになります。
再発防止策は単に新しいルールを設ければよいわけではありません。制度の見直し、権限と責任の明確化、システムの改修、教育研修の強化、現場の意識改革など、複数の手段を組み合わせて実効性を担保する必要があります。特に、従業員がなぜそのルールが必要なのかを理解して初めて、再発防止策は機能し始めます。
また、調査で明らかになった論点をステークホルダーに適切に説明し、透明性のあるプロセスとして外部に示すことも信頼回復には欠かせません。「調査したうえで何を変えたのか」が明確でなければ、企業の姿勢は評価されません。
不正調査に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
社内調査は、不祥事が発覚した後に形式的に行う事後対応ではなく、企業価値を守り、将来の信頼回復につなげるための極めて戦略的なプロセスです。
特に、不正・不祥事の社内調査は、企業の力だけで完結させることには限界があります。調査の独立性や客観性を確保しつつ、行政・メディア対応や将来的な説明責任まで見据えて進めるためには、外部専門家の関与を含めた体制構築が不可欠となる場面も少なくありません。
不正事案は、初動や調査設計を一歩誤るだけで、企業にとって取り返しのつかないダメージを受けるおそれがあります。
直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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