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表明保証条項とは? ~投資契約で損をしないために1~

Q 
この度、当社は資金調達することになり、投資契約書のひな型が調達先から送られてきました。
投資契約書の中には、当社や当社の代表取締役が、調達先に対して「表明保証」をするという条項が設けられていますが、気を付けるべきポイントを教えてください。

A 
「表明保証」条項に記載されている内容が、「真実なのか」、「真実でないのか」、または、「分からないことなのか」、決算書や契約書等の具体的な会社資料を基に確認の上、表明保証条項に記載されている内容に違反しないか正確に確認する必要があります。
本記事で、わかりやすく解説していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「表明保証条項~投資契約で損をしないために1~」
について、詳しくご説明します。

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表明保証条項とは

概要

表明保証条項の役割は、発行会社及び経営者が、会社に関する一定の事項が真実かつ正確であることを投資家に対して表明し、保証することです。

もう少し具体的にいうと、表明保証条項とは、例えば、

  • ①発行会社は、投資家に提出した財務諸表が構成な会計基準で作成され、財務諸表に記載されていない隠れた債務は存在しないことを表明し、保証する
  • ②発行会社に対して定期されている訴訟は存在しないことを表明し保証する

など、会社や経営者が会社に関する一定の事項を投資家に対して表明し、保証する条項です。

本記事では、投資契約に沿って解説していきますが、この条項はM&Aの際、事業譲渡契約、株式譲渡契約などでも設けられる条項です。

一般的な条項例

  • 発行会社及び経営株主は、それぞれ、下記の各条項が本契約締結日現在において真実であることを表明し、保証する。
    (1) 発行会社は、本契約の締結及び義務の履行並びに本契約に基づく株式の発行について、必要な能力及び権限を有し、かかる締結、履行及び発行に必要なすべての手続きは適法かつ有効に行われていること。
    (2)・・・

投資の前には、投資家によるDD(デューデリジェンス)が行われることが一般的ですが、その調査を完璧なものとすることは限界があります。
そこで、投資家によるDDの補完として、表明保証条項が機能します。
表明保証の対象に違反があった場合、損害賠償や投資の撤退を認める旨の条項が盛り込まれることが一般的です。

一般的に表明保証の対象となる事項については、以下のものが考えられます。

表明保証の対象となる事項とは

 発行会社について

  • 発行会社または投資契約の締結及び新株発行をするための権利能力及び行為能力を有すること
  • 発行会社の株式の発行状況(発行数、適法に発行されていること等)
  • 本発行について発行会社は適切な機関決定を経ていること
  • 法令等の違反及び訴訟が存在しないこと
  • 許認可、知的財産権の取得がされていること
  • 貸借対照表及び損益計算書が適正であること
  • 反社会的勢力等との関係がないこと
  • 関連当事者取引の開示及び取引条件に問題がないこと
  • 必要資料の提出が適正に行われたこと

 創業株主について

  • 創業株主は投資契約を締結し、履行するために必要な権利能力及び行為能力を有すること
  • 他の法人又は団体における兼職、兼任がないこと
  • 法令等の違反が存在しないこと
  • 反社会的勢力等との関係がないこと
  • 必要資料の提出が適正に行われたこと

シードステージにある発行会社に対し、投資家の投資契約の標準雛形であることをもって 20 項目以上にわたる表明保証を要求しても、その全てを保証することが現実的ではないというリスクがある場合があります。

このため、表明保証として列挙する事項については、発行会社の成長段階や規模、当該表明保証の必要性を勘案し、過剰な保証を求めないよう当事者間において調整を行う必要があります。

発行会社の対応

表明保証条項を盛り込む場合、発行会社サイドは、その対象の真実性について確認をとる必要があります。
確認の結果は3つに分けられ、それぞれ以下のような対処が必要です。

①表明・保証内容が真実であり、正しい場合

⇒そのまま、表明保証条項に盛り込む。

②表明保証内容が事実と異なる場合

例:「商標権を発行会社が有する」ことを表明・保証する条項があるが、実は商標権は他社に保有されている

⇒このまま、契約を締結してしまうと契約違反となってしまうため、条項の文言を変更・修正する必要があります。

修正例:「会社はその事業活動に必要なすべての知的財産権を保有している。ただし〇〇の商標権は有していない。」

③表明・保証内容が正しいか不明である場合

例:「発行会社が訴訟を提起されるおそれがない」ことを表明・保証する条項があるが、訴訟を提起されるかは相手次第なのでわからない。

⇒このような場合には、発行会社としては条項の文言を変更・修正する必要あります。

修正例:「発行会社の知る限りでは訴訟を提起されるおそれがない」

なお、交渉段階で、投資家側から、「発行会社の知りうる限りでは訴訟を提起されるおそれがない」にしてほしいと修正を求められることがあります。

この場合、「知り得た=合理的に調査すれば分かった」事項については、発行会社は表明・保証したことになるので、仮に表明・保証した内容が事実と異なることについて知らなかったとしても、合理的に調査すれば知り得た事項については、表明・保証違反の責任を問われるおそれがあります。

このように、表明・保証条項を定めるあたり、発行会社側としては、極力責任を回避したいため「発行会社の知る限りにおいて保証する」の他にも「・・・・は重要な点において違反がない」といったように、表明・保証の範囲を限定する趣旨の文言を用いようとします。

これに対して、投資家側は、できる限り広くかつ詳細な表明・保証を望むため、「全ての法令等を遵守しており、過去の法令等の違反をしていない」といった包括的・網羅的な趣旨の規定を設けようとします。

実際の交渉においては、交渉により両者の妥協点を見つけ、規程内容を調整します。

表明保証の効果について

裁判例では、表明保証が認められる場合を限定的に解釈する場合があります。

また、買主側に十分な情報が提供されており、わずかな注意を払えば表明保証違反であることを知り得たような場合には、表明保証責任を免れると解する余地があるとする裁判例もあるので、調査が不十分でも表明保証条項さえ規定しておけばなんとかなるという認識は改めるようにしましょう

表明保証に関する裁判例

東京地判平成19年7月26日判タ1268号192頁
譲渡人の子会社の株式全部を買受けたところ、当該子会社の資産は基本契約及び株式譲渡契約締結前に説明していたものよりはるかに価値が低いものであり損害を被ったため、譲渡人の表明保証に違反するとして損害補償等を請求した事案です。

一部の表明保証違反事由について説明義務違反があったことを認定し、その限度で原告の主張を認容しました。

この裁判例では、表明保証の対象について、株式の譲渡人側から譲受人側に対して、考え得るすべての事項の情報開示やその正確性を保証の対象とするというのは非現実的であるとし、表明保証の内容について、実際に重要性や重大性の要件を定めているか否かにかかわらず、当該取引に応じるか否か、又は買収価格の決定に影響を及ぼすような事項について重大な相違や誤りがないことを保証したものであると認定しています。


東京地判平成18年1月17日判タ1230号206頁(アルコ事件)
譲受人は、A社の株式全部を譲渡人らから取得したところ、A社の貸借対照表に不当に資産計上された資産が存在し、株式譲渡契約で合意した表明保証違反であるとして、譲渡人らに対して損害賠償を求めた事案です。

裁判所は、わずかな注意を払いさえすれば表明保証違反を知り得たにもかかわらず、そのまま看過したような場合、つまり、表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが譲受人の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、表見保証責任を免れると解する余地があるとしました。

他方で「企業買収におけるデューデリジェンスは、買主の権利であって義務ではなく、主として買収交渉における価格決定のために限られた期間で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外負債の発見)という限られた範囲で行われるものである」との前提を示し、本件表明保証事項の発覚経緯に照らし、譲受人の悪意重過失を否定し、損害賠償請求を認めました。

このように買主の善意無重過失を要するという解釈がなされないよう、買主の善意無過失の要否を明記しておくことが望ましいとも考えられます。

(具体例)
売主が表明及び保証した事項に関する買主の認識及び認識可能性は、表明及び保証の効力又はそれに関連する補償若しくは救済手段の効力に影響を及ぼさない。

東京地判平成23年4月19日金商1372号57頁
被買収者が表明保障上の責任を負うか否かは、買収者が譲渡契約を実行するか否かを的確に判断するために必要となる客観的情報が正確に提供されていたか否かという観点から判断すべきであり、被買収者が表明保証の対象となる事項について「重要な点」で不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかった事実も認められず、また、子会社の財務諸表の記載が一般に公正妥当と認められる会計基準に反していることを認めるに足りる証拠も見当たらず、実質的に見ても、譲受人が譲渡契約を実行するか否かを判断するに必要な情報は提供されていたということができる判示の事実関係の下においては、被買収者は買収者に対して当該表明保証に基づく責任を負わないとしました。


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