澤田直彦
監修
弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田直彦
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
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取適法の60日ルール|支払期日の起算点は「受領日」
支払期日の基本ルール
取適法では、委託事業者は検査の有無にかかわらず、物品等を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に、代金の支払期日を定めなければなりません(取適法3条)。
支払期日は、具体的な日を特定できる形で定める必要があります。
- 認められる例 : 「○月○日」「毎月末日納品締切、翌月○日支払」
- 認められない例 : 「○月○日まで」「納品後○日以内」
また、支払期日の定め方によって、法律上の支払期日は、以下のようになります。
- 受領日から60日を超えて定めた場合 : 受領日から60日を経過した日の前日
- 支払期日を定めなかった場合 : 受領日
支払期日までに代金を支払わなければ、支払遅延(取適法5条1項2号)となります。この場合、受領日から起算して60日を経過した日から実際の支払日まで、年率14.6%の遅延利息を支払う義務が生じます(取適法6条1項)。
「受領」の意味と検収基準による支払いの注意点
支払期日の起算点となる「受領日」は、検査・検収の完了日ではなく、原則として目的物の納入を受けた日です。
「受領」とは、検査の有無にかかわらず、給付の目的物を受け取り、自己の占有下に置くことをいいます。そのため、「検収完了日から60日以内に支払う」という運用は認められません。
ただし、情報成果物作成委託については、あらかじめ「一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したこととする」と合意している場合、納期前に成果物の提供を受けても、確認時点を受領日とする例外があります。なお、確認をしないまま納期が到来した場合には、その時点が受領日となります。
また、役務提供委託・特定運送委託では、役務の提供を受けた日(日数を要する場合は提供が終了した日)が起算点です。複数の役務が提供される場合は、原則として各役務ごとに支払期日を設定する必要があります。
納品締切と検収締切の違い
月単位の締切制度では、納品基準と検収基準で支払期日の扱いが異なるため、注意が必要です。
公正取引委員会は、月単位の納品締切制度について、「受領後60日以内」を「受領後2か月以内」として運用しています。そのため、「毎月末日納品締切、翌月末日支払」のように、月初の納品から支払いまで60日を超える可能性がある制度でも、支払遅延として問題にならないとされています。
一方、「毎月末日検収締切、翌月末日支払」いう検収基準の制度では、受領日から2か月を超えるおそれがあります。まずは、自社の支払サイトが納品基準か検収基準かを確認することが重要です。
また、支払日が金融機関の休業日にあたる場合、以下の基準を満たせば、受領から60日を超えても問題とならないとされています。
- 順延期間が2日以内であること
- 翌営業日への順延について、あらかじめ書面等で合意していること
ただし、連休では順延が2日を超える可能性があります。そのため、可能な限り前営業日払いとするか、「当月締め翌月25日払い」などといった余裕のある設計が望ましいとされています。
分割納入と検査未了
分割納入の場合も、原則として各受領日から60日以内に代金を支払う必要があります。
ジャスト・イン・タイム方式などで分割納入を受ける場合、検査・検収が完了していないことを理由に、受領後60日を超えて支払いを遅らせることは認められません。
そのため、分割納入・分割検収を行う取引では、各受領日を起算点として管理できるよう、経理システム上の支払処理単位や起算日の管理方法を整備することが重要です。
取適法による手形払いの禁止と代替決済手段の注意点
手形払い禁止の改正内容
取適法では、手形払いが全面的に禁止され、その他の決済方法についても、支払期日までに代金相当額の現金を受領することが困難なものは禁止されます(取適法5条1項2号)。
旧下請法では、支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形の交付が禁止され、実務上は支払サイトが60日を超える手形が指導対象とされていました。しかし、手形払い自体は禁止されていませんでした。
今回の改正は、手形による支払いでは、受託側が現金を受領するまでに時間がかかり、資金繰りのために割引料を負担せざるを得ない実態などを踏まえたものです。
電子記録債権・一括決済方式の設計チェック
手形の代替として利用される電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング等)も、決済条件によっては禁止行為に該当するおそれがあります。
運用基準では、次の2つのケースが具体例として示されています(運用基準第4の2(5))。
- 支払期日に現金を受領するために割引等が必要となる場合
満期日・決済日などが代金の支払期日より後に設定され、受託側が支払期日に現金を得るために、融資による利息の負担や割引を受ける必要があるケースです。
委託事業者が割引料等を負担しても、受託側に割引等の手続きが必要な場合は禁止行為に該当します。 - 決済に伴う手数料等を受託側が負担する場合
電子記録債権や一括決済方式の利用に伴う受取手数料等を、中小受託事業者が負担するケースです。
つまり、中小受託事業者が支払期日に代金の満額に相当する現金を、追加負担なく受領できる状態が確保されていることが基準となります。
電子記録債権等を利用している企業は、満期日の設定や手数料の負担について、この基準に照らして確認する必要があります。
取適法における減額の禁止|振込手数料の天引きも対象
減額禁止の基本ルール
取適法では、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に定めた代金を減額することは禁止されています(取適法5条1項3号)。
減額は、名目・方法・金額の多少を問わず禁止され、4条明示に記載された金額よりも実際の支払額が少ない場合は、減額に該当すると判断される可能性があります。
例外的に認められるのは、以下のような限られたケースです。
- 合理的なボリュームディスカウント
- 相殺による減額
- 1円未満の端数処理
なお、合理的なボリュームディスカウントと認められるには、発注数量の増加に伴う単位コストの低減により、値引き後も中小受託事業者の利益が増加する必要があります。
また、中小受託事業者が減額に同意していても、違反は解消されません。
振込手数料の天引き禁止
取適法では、中小受託事業者との合意があっても、振込手数料を代金から差し引くことは例外なく減額に該当します(運用基準第4の3(1)カ)。
旧下請法では、振込手数料を下請事業者に負担させることは原則として減額に該当しましたが、あらかじめ書面で合意している場合は例外的に認められていました。
しかし、今回の運用変更により、合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から天引きすることは禁止されています。そのため、「契約書で振込手数料は受託者負担と定めている」「長年この処理で異議が出ていない」という事情があっても認められません。
経理システムの支払設定や仕訳に、振込手数料の天引き処理が残っていないかを確認する必要があります。
減額した代金にも遅延利息が発生する
取適法では、支払遅延だけでなく、代金を減額した場合の減額分にも年率14.6%の遅延利息が発生します(取適法6条2項)。
旧下請法では支払遅延のみが遅延利息の対象でしたが、今回の改正で減額分も対象となりました。遅延利息は、当事者間の合意にかかわらず適用されます。
遅延利息の起算点は、以下のいずれか遅い日となります。
- 給付を受領した日から起算して60日を経過した日
- 代金を減額した日
委託事業者は、減額分と遅延利息を支払う必要があり、支払わない場合は勧告の対象となります(取適法10条1項)。そのため、減額が違反と判断された場合には、減額分の返還や遅延利息の支払いなど、追加の金銭的負担が生じるおそれがあります。
受託者側の事情がある場合の支払期日の扱い
中小受託事業者の事情によっても、原則として支払期日を後ろ倒しにすることはできません。
例えば、中小受託事業者が請求書の発行を遅らせた場合や、当月納入分を翌月納入分として扱うよう依頼した場合でも、受領日から60日以内に定めた支払期日までに代金を支払わなければ支払遅延となります。
一方、目的物の受領後、契約不適合を理由に返品や修補を求める場合には、当初の受領日ではなく、再納品日または修補完了日が支払期日の起算点となります。
請求書の発行が遅れた場合に備え、請求書の受領を支払処理の条件とせず、発注・検収データに基づいて支払える経理フローへ見直すことが重要です。
取適法で注意すべき費用負担|協賛金・型等の無償保管・附帯業務
取適法では、代金の減額だけでなく、協賛金や型等の無償保管など、中小受託事業者に不当な費用負担を求める行為も禁止されています。
委託事業者が中小受託事業者に対し、自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させ、その利益を不当に害することは「不当な経済上の利益の提供要請)に該当します(取適法5条2項2号)。対象は、協賛金・労務の提供・景品・送料・設計図などの知的財産など、名目を問わず幅広いものに及びます。
「直接の利益」の判断基準
経済上の利益の提供が認められるのは、中小受託事業者の直接の利益となり、その自由意思に基づく場合です。
「直接の利益」とは、利益の提供によって実際に得られる利益が不利益を上回ることをいい、以下のようなケースが考えられます。
- 販売促進への協力 : 対象物品の販売が促進され、受託側がより大きな利益を得られる場合
- 発注システム利用料の負担 : 受託側でも業務効率化が進み、利用料を超えるコスト削減が可能となる場合
一方、「協力すれば将来の取引が有利になる」といった期待は直接の利益に含まれません。
また、直接の利益があると主張する場合には、受託側の利益を定量的に示すことが求められます。協賛金や発注システム利用料を徴収している企業は、こうした基準に照らして、その妥当性を確認する必要があります。
金型等の無償保管と取適法違反のリスク
長期間発注していない製品の金型等を、中小受託事業者に無償で保管させる行為は、取適法違反となるおそれがあります。
金型・木型・治具・検具など(型等)の無償保管は、公正取引委員会が積極的に執行している違反類型です。勧告件数は、2023年度3件・2024年度9件・2025年度19件と急増しており、直近では全体の勧告件数の半数以上を占めています。
違反事例では、「1年間以上」発注が行われていないことが明示されており、長期間かどうかを判断する一つの目安と考えられます。
ただし、1年間であれば無償保管が認められるという意味ではありません。委託事業者には、保管期間に応じた適切な費用負担が求められ、無償保管の合意があっても違反と判断されるリスクがあります。
また、対象となる型等は委託事業者所有物に限りません。中小受託事業者が所有していても、処分に委託事業者の承認が必要な場合など、事実上管理しているものは対象となり得ます。
実務上は、以下の点を確認することが重要です。
- 保管継続の必要性 : 長期間発注のない製品の型等について、引取り・廃棄を含めて検討する。
- 保管費用の負担 : 自社倉庫の使用料相当額、外部倉庫の使用料、運送費、メンテナンス費用等を適切に負担する。
- 受託側との協議 : 保管継続の要否や費用負担について協議し、合意する。
特定運送委託における無償の荷役・荷待ちのリスク
特定運送委託では、荷役や荷待ちなどの附帯業務を無償または安価で行わせることが、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあります。
新設された特定運送委託では、貨物の積込み・積卸し・倉庫内作業などの附帯業務は「運送」に含まれません。実際に、運送委託先に荷役作業や荷待ちを無償で行わせていたことが、違反と判断された勧告事例もあります。
附帯業務も委託する場合には適切な報酬を支払う必要があり、その判断には、国土交通省が定める「標準的な運賃」の告示に示された、荷積み・荷卸し・荷待ちなどの標準的な料金が参考になります。
物流委託を行う企業は、運送代金に附帯業務の対価が含まれているか、契約内容と実際の運用を確認することが重要です。
経理実務におけるチェックポイント
取適法への対応では、契約書や発注書だけでなく、実際の支払条件や経理処理が法令に適合しているかを確認することが重要です。
対象取引について、以下の10項目を確認しましょう。
| 項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 支払期日の設定 | 受領日から60日以内の具体的な日付を定めているか 「納品後○日以内」などの表現が残っていないか |
| 締切制度の運用 | 納品基準か検収基準かを確認し、検収締切によって受領から2か月を超える支払いが生じていないか |
| 金融機関休業日の扱い | 支払日の順延について、2日以内・書面等による事前合意の要件を満たしているか |
| 決済手段の確認 | 手形払いが残っていないか 電子記録債権・一括決済方式で、支払期日に満額の現金を追加負担なく受領できるか |
| 振込手数料の天引き | 支払設定や仕訳に、振込手数料の天引き処理が残っていないか |
| 代金の減額 | 4条明示の記載額と実際の支払額に差異がないか 差異がある場合、減額禁止の例外に該当するか |
| 分割納入の管理 | 各受領日を起算点とした60日管理ができているか |
| 協賛金・システム利用料 | 徴収について、中小受託事業者の「直接の利益」を定量的に説明できるか |
| 型等の無償保管 | 長期間発注のない型等を無償保管させていないか 費用負担や引取り・廃棄について協議・合意しているか |
| 特定運送委託の附帯業務 | 荷役・荷待ちなどに適切な報酬を支払っているか |
よくある質問(FAQ)
Q1.「毎月末日納品締切、翌月末日支払」の支払サイトは変更が必要ですか。
原則として変更は不要です。公正取引委員会は、月単位の納品締切制度について「受領後60日以内」を「受領後2か月以内」として運用しており、この支払制度自体は問題とならないとされています。
ただし、検収基準の締切制度では、受領から2か月を超えるおそれがあるため注意が必要です。また、金融機関の休業日による支払日の順延も考慮し、前営業日払いなどを検討しましょう。
Q2.電子記録債権での支払いを続けたいのですが、何を確認すればよいですか。
電子記録債権での支払いを続ける場合、主に以下の2点を確認する必要があります。 ・満期日の設定:支払期日に現金を受領するため、受託側に割引等の手続きを求める仕組みになっていないか ・手数料の負担:決済に伴う受取手数料等を受託側に負担させていないか
委託事業者が割引料を負担しても、受託側に割引等を求める場合は禁止行為に該当します。また、電子記録債権による支払額や満期日等は4条明示の対象となるため、発注書面の記載も確認してください。
Q3.誤って減額処理をしていたことが判明しました。差額を返金すれば足りますか。
差額の返金だけでは足りない可能性があります。
取適法では、減額分にも年率14.6%の遅延利息が発生します。起算点は、受領日から60日を経過した日または減額した日のいずれか遅い日です。
また、違反の期間・範囲の把握や再発防止策の整備、また当局への自発的な申出の要否も検討する必要があります。判明した場合は、速やかに専門家へ相談することをお勧めします。
Q4.量産が終了した製品の金型を、取引先に預けたままにしています。急いで対応すべきでしょうか。
優先的に対応すべきです。金型などの無償保管は、取適法違反となるおそれがあります。
特に、長期間発注していない、今後の具体的な発注予定がない、受託側が引取り・廃棄を希望している、再使用が見込まれない場合などは注意が必要です。
まずは対象となる金型等を把握し、保管継続の必要性を判断しましょう。継続する場合は適切な保管費用を協議し、不要な場合は費用負担も含めて引取り・廃棄を進めることが重要です。なお、無償保管の合意があっても、違反と判断されるおそれがあります。
取適法に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
取適法の支払ルールでは、「受領日から60日以内の支払期日設定」「手形払いの禁止と代替決済手段の適切な運用」「代金の減額禁止と遅延利息への対応」が重要となります。特に、検収基準による支払期日の管理や、合意があっても禁止される振込手数料の天引きには注意が必要です。
取適法では、契約書の記載だけでなく、実際の支払状況が問われます。法務・経理部門が連携し、支払期日の設定や決済手段、仕訳処理などを点検しておきましょう。
直法律事務所では、支払条件や経理フローの取適法への適合性確認、決済手段の変更に伴う契約変更のご支援、違反が疑われる場合の初動対応など、王匡に応じたサポートを行っております。ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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