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弁護士コラム
相続税の配偶者控除とは?適用要件・注意点を弁護士が解説!
- 相続税・事業承継対策
- 投稿日:2024年11月12日 |
最終更新日:2024年11月29日
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夫が亡くなり、妻である私と子ども1人が相続人となりました。妻である私には、相続税の配偶者控除が適用されるため、相続税がほとんどかからないと聞いたことがあります。
相続税の配偶者控除が適用されれば、相続税はほとんどかからないのでしょうか?また、子どもが負担する相続税を減らすために、遺産のほとんどを私が相続してよいのでしょうか?
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相続税の配偶者控除が適用されれば、配偶者が相続した遺産の中で課税対象となる遺産額が最低でも1億6000万円になるまで相続税はかからないため、多くの場合で配偶者に発生し得る相続税の支払いは免除されます。
一方、相続人に子どもが含まれる場合、相続税額の負担を減らそうと被相続人の配偶者であるあなたが遺産のほとんどを相続するのは、二次相続を考えるのであれば、かえって相続税が増えることがありますので、注意が必要です。
この記事では、どのような要件を満たすと相続税の配偶者控除を受けられるのか、なぜ二次相続を考えた場合、相続税が増えることがあるのか等について解説します。
目次
相続税の配偶者控除とは
まずは、相続税の配偶者控除がどのようなものであるのかを解説します。似た言葉である「配偶者特別控除」との違いについても解説するので、併せて確認してみてください。
配偶者控除の基本的な概念
相続税の配偶者控除とは、夫婦の一方が亡くなった際、残された配偶者が負担する相続税の税額を軽減する制度です。
残された配偶者が多額の遺産を相続すると、膨大な額の相続税の負担が必要となり、相続を諦めてしまう(相続放棄してしまう)ケースをなるべく減らすために設けられています。
具体的には、配偶者が相続した遺産の中で課税対象となる遺産額が、以下のいずれか多い方の金額に達するまで、配偶者は相続税を支払う必要がありません。
- 1億6000万円
- 配偶者の法定相続分
法定相続分とは、民法で定められた各相続人が取得する相続分のことをいいます。配偶者の法定相続分が1億6000万円を超える場合、配偶者は法定相続分に相当する額までであれば相続税が課税されません。
このように、夫婦の一方が亡くなった場合、残された配偶者は課税対象となる遺産額が少なくとも1億6000万円に達するまでは、相続税を支払わなくてよいのです。
相続税の配偶者控除と配偶者特別控除との違い
相続税の配偶者控除と似た言葉として「配偶者特別控除」があります。
相続税の配偶者控除では、残された配偶者の相続税が控除されるのに対し、配偶者特別控除では配偶者の所得税が控除されるのです。
主たる生計者ではない配偶者が収入を得る際、年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみであれば給与収入が103万円以下)であれば、納税者と生計を一にしているなどの要件を満たし、かつ納税者の年間の合計所得金額が1000万円以下の場合には、所得税の配偶者控除を受けられます。
しかし、年間の合計所得金額が48万円(給与収入のみであれば給与収入が103万円)を超えてしまうと配偶者控除の適用外となり、所得税の負担が大きくなってしまうのです。
そこで、年間の合計所得金額が48万円を超えても、一定の要件を満たすことにより、年間の合計所得金額が133万円になるまでは段階的に所得控除が受けられる制度が設けられています。この制度を配偶者特別控除と呼びます。
「相続税の配偶者控除」と「配偶者特別控除」は似た言葉ではあるものの、控除される税金の種類や適用条件など、さまざまな点に違いがあるため、混同しないように注意してください。
相続税の配偶者控除が適用されるための3つの要件
相続税の配偶者控除が適用されるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 被相続人の配偶者であること
- 相続税の申告期限内に遺産分割が完了していること
- 相続税の申告書を提出すること
各要件の詳細について、以下で見ていきましょう。
①被相続人の配偶者であること
相続税の配偶者控除が適用されるには、被相続人の配偶者である必要があります。
被相続人の配偶者とは、被相続人との婚姻届が提出されている戸籍上の配偶者を指します。このため、内縁関係にある場合や事実婚の場合には、相続税の配偶者控除は適用できません。
②相続税の申告期限内に遺産分割が完了していること
相続税の申告期限内に遺産分割が完了していることも重要です。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内と定められています。遺産分割が完了するには全ての相続人が合意する必要があるため、期限に遅れないよう早めに遺産分割協議を始めなくてはなりません。
ただし、遺産分割協議の遅れにより、申告期限内に遺産分割が完了できないこともあるでしょう。その場合、相続税の申告書に、必要事項を記入した「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付してください。
本書類を添付して提出し、遺産分割の期限を申告期限後3年以内に遺産分割を完了すれば、配偶者控除の適用を受けられます。
※なお、相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。
③相続税の申告書を提出すること
相続税の申告書を提出することも、要件の1つに挙げられます。
相続税の配偶者控除が適用されたことにより相続税の支払いが不要となれば、「相続税を支払わなくてよいのだから申告もしなくていいだろう」と考える方がいるかもしれません。しかし、相続税の申告書を提出しなければ配偶者控除が適用されません。必ず相続税の申告書を提出し、相続税の申告を完了させるようにしてください。
相続税の配偶者控除を適用するための手続き
相続税の配偶者控除を適用するには、以下の流れで手続きを進めます。
- 1申告先の所轄税務署を検索する
- 2相続税の申告書に必要事項を記入する
- 3必要書類を準備する
- 4相続税の申告期限内に相続税申告を行う
それぞれで重要なポイントについて、以下にまとめました。
所轄税務署の検索方法
相続税の申告は、被相続人が死亡した時の被相続人の住所地を所轄する税務署で行います。
どの税務署が所轄税務署なのかを検索するには、「国税局・税務署を調べる|国税庁」のページを活用してください。郵便番号や住所を入力するだけで、所轄税務署の名前と電話番号が分かります。
申告書の記入方法
続いて、相続税の申告書に記入していきます。
相続税の配偶者控除を適用するには、「第5表 配偶者の税額軽減額の計算書」も必ず記入するようにしてください。記入方法は「相続税申告書の記載例|国税庁」に詳しく記載されているので、必要に応じて参照するようにしてください。
なお、申告書の様式は「相続税の申告書等の様式一覧(令和6年分用)|国税庁」からダウンロードできます。
必要書類の準備方法
申告書以外に、以下の書類も準備しましょう。
- 戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの全て)
- 遺産分割協議書の写し・遺言書の写し
- 遺産分割協議書の写し・遺言書の写しは、手元にある原本のコピーを取ってください。
- 印鑑証明書(法定相続人全員分)
- 戸籍謄本や印鑑証明書は市区町村役場の窓口で取得できます。
相続税の申告方法
相続税の申告は、税務署への持参だけでなく、郵送やe-Taxによる方法でも可能です。必要書類が準備できたことを確認したのち、好きな方法で申告してください。
相続税の配偶者控除の計算例
相続財産が2億円、相続人が配偶者と子ども1人の場合における相続税の配偶者控除の計算例を紹介します。
相続人が配偶者と子ども1人の場合、法定相続人は2人、法定相続分は配偶者・子どもともに、どちらも2分の1です。
この条件をもとに、まずは相続税の基礎控除額について計算します。相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できるため、
「3000万円+600万円×2=4200万円」が基礎控除額となります。
続いて、課税対象となる遺産総額の計算です。相続財産が2億円であるため、課税対象となる遺産総額は「2億円-4200万円=1 億5800万円」となります。
法定相続分に従って相続したと仮定すると、各相続人の相続税額は以下の通りです。
「1 億5800万円×2分の1(法定相続分)×30%(相続税率)- 700万円(控除額)=1670万円」
相続税の総額は、各相続人の相続税額を合計したものであるため、「1670万円+1670万円=3340万円」が相続税の総額となります。
今回のケースで、配偶者が4分の3、子どもが4分の1の割合で相続したとすれば、配偶者の相続税額は「3340万円×4分の3=2505万円」です。
ただし、配偶者が相続する課税対象遺産が1億5800万円×2分の1=7900万円であり、1億6000万円を下回っているため、相続税の配偶者控除が適用されれば、配偶者の相続税額は0円になります。
二次相続を考慮した遺産分割
配偶者控除を存分に活用しようとすると、二次相続で大きな問題が発生する可能性があります。
配偶者が全ての遺産を相続し、その総額が1億6000万円以下であれば相続税額がゼロになります。しかし、その配偶者がやがて亡くなった場合には、子どもが相続する遺産の額が大きくなってしまい、その結果、相続税が多額に発生するおそれがあります。
配偶者も亡くなり子どもが相続する場合には、相続税の配偶者控除のような相続税額を減らせる制度が充実していないため、多くの相続税を支払うことになってしまいます。そのため、子どもがいる場合には二次相続の相続税を考慮した遺産分割を検討されることもよいでしょう。
以下で、どうすれば二次相続を考慮した遺産分割ができるのかを解説します。
配偶者の生活に必要な資金を考慮
遺産分割を考える際には、配偶者の今後の生活に必要な資金を確保することも重要です。日常の生活費や医療費、介護費用、さらには住居費用や修繕費などを確保すれば、残された生活の質を維持し、経済的な不安を軽減できます。
必要な資金以外は子どもが相続すれば、配偶者が亡くなった際の遺産がほぼゼロになるため、二次相続の負担が最小限で済ませられるでしょう。
生前贈与や生命保険の非課税枠の活用
生前贈与や生命保険の非課税枠を活用することは、相続税対策において有効です。生前に子どもや孫に贈与することで、相続時の遺産総額を減少させられます。
また、生命保険の死亡保険金に設定されている一定の非課税枠を活用することで、相続税がかからない形で資産を残すことが可能です。
こうした制度の活用により、相続全体の負担を大幅に軽減できるでしょう。
相続税の配偶者控除に関するよくある質問
Q.相続税の基礎控除と相続税の配偶者控除は併用可能ですか?
相続税の基礎控除は、遺産の総額が一定額を超えた場合に相続税が課される仕組みで、配偶者控除は基礎控除に加えて配偶者が受け取れる控除です。
このため、配偶者控除が適用されれば、配偶者にとって大きな税負担の軽減につながるでしょう。
Q.相続税申告の期限を過ぎた後でも配偶者控除は適用されますか?
相続税の申告期限を過ぎた場合でも、配偶者控除が適用されることがあります。
通常、配偶者控除を受けるには期限内に申告する必要がありますが、申告期限を過ぎてからでも控除を利用できるケースもあります。さらに、相続後に新たな財産が発覚した場合には修正申告が必要となりますが、この際も配偶者控除が適用できる場合があるのです。 ただし、税務調査が入って税務署から指摘があった場合には配偶者控除が認められなくなる可能性があるため、注意してください。
Q.配偶者が認知症である場合も、配偶者控除は適用できますか?
はい。配偶者が認知症であっても、配偶者控除を適用することは可能です。
たとえば、配偶者に成年後見人を選任し、当該成年後見人が配偶者の代理として遺産分割協議や相続税の申告を行うことで、配偶者控除を適用することができます。
このようなケースでは、早めに成年後見人の選任手続きを行い、相続に必要な対応を進めることが重要です。
東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所
相続税の配偶者控除をはじめ、遺産相続を行う際に相続税の減免措置を受けられる制度が複数設けられています。このような減免措置を利用しない場合、多額の相続税を支払わなければならないこともあるでしょう。
適用できる相続税の減免措置があるのかどうかを知りたい方は、弁護士をはじめとする専門家にぜひ相談してみてください。
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相続税・事業承継においては、ご自身にとってどの方法が効果的な対策となるのか、見極めることがまず大事です。トラブル防止の観点からも最適な対策・進め方ができるよう、プロの弁護士が専門家とも連携して安心のサポートをいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。
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