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弁護士コラム
不在者財産管理人の業務はいつ・どうやって終わる?家庭裁判所での手続きと相続人が取るべき対応
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2025年08月15日 |
最終更新日:2025年08月15日
- Q
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相続人の一人が長年行方不明だったため、不在者財産管理人が選任されています。
その管理人の業務は、いつ・どのように終了するのでしょうか?
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不在者財産管理人の業務は、不在者が帰ってきた場合や死亡・失踪宣告が確定した場合、または管理すべき財産がなくなった場合などに、家庭裁判所の不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判によって正式に終了します。
終了時には、報告書の提出や相続人等への財産引継ぎといった一連の手続が求められます。不在者の死亡等が判明しただけでは自動的に終わらない点に注意が必要です。
不在者財産管理人の制度は、行方不明となった相続人等の財産を保全し、相続手続を円滑に進めるための重要な制度です。しかし、この管理人の業務が「いつ・どうやって」終わるのかについては、相続人の側でも誤解が多く、トラブルの原因になることがあります。
たとえば、不在者が突然帰ってきた場合、死亡が確認された場合、あるいは失踪宣告を受けた場合など、相続人や利害関係人としては「もう管理人の役目は終わった」と思ってしまいがちです。しかし、実際には家庭裁判所の正式な審判(不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判)を経なければ、管理人の地位は法的には存続し続けます。
本記事では、不在者財産管理人の業務終了に至る典型的な事由と法的根拠、必要な家庭裁判所手続、報告書の作成や報酬申立て、さらには訴訟対応や相続人への財産引継ぎの実務まで、総合的に解説します。不在者が関わる相続に直面している方にとって、制度の正確な理解と適切な対応のために必読の内容です。どうぞ最後までご覧ください。
目次
不在者財産管理制度とは?
「不在者財産管理制度」とは、行方が分からないまま長期間にわたって消息を絶っている人(法律上「不在者」といいます)の財産を、代わりに管理する人を家庭裁判所が選任し、その管理人に財産の保全を担わせる制度です。この制度は、民法第25条以下に定められており、不在者の財産が放置されることによって不利益を受ける第三者や、不在者本人の利益を守ることを目的としています。
具体的には、不在者が不動産や預貯金などの財産を所有しているにもかかわらず、本人が音信不通で管理できない場合に、家庭裁判所が「不在者財産管理人」を選任し、その管理人が代わって財産の維持・管理を行います。
相続手続きにおける不在者の存在がもたらす問題点
相続手続きにおいて、相続人の中に不在者が含まれている場合、大きな支障が生じることがあります。たとえば、遺産分割協議を行うには、原則として相続人全員の合意が必要です。しかし、不在者がいて連絡も取れず、意思表示を得ることができない場合には、遺産分割協議を進めることができません。
このような場面で活用されるのが、「不在者財産管理制度」です。不在者が相続人の一人である場合、家庭裁判所に申立てを行い、不在者財産管理人を選任してもらうことで、不在者の財産や権利を管理し、遺産分割協議への参加や同意の代行をしてもらうことが可能となります。
なお、不在者財産管理人には、家族や親族が選ばれることもありますが、相続や法律に関する専門的な判断が求められることが多いため、弁護士が選任されることも少なくありません。
この制度は、遺産分割を前に進めるための有効な手段ですが、その一方で、管理人の選任・報告義務・業務の終了など、法律的な手続きも複雑であるため、専門家の関与が不可欠です。
▸ 不在者財産管理人の選任手続きについての記事はこちらをご参照ください。
▸ 不在者財産管理人の具体的な業務内容についての記事はこちらをご参照ください。
不在者財産管理人の業務が終了する主なケース
不在者財産管理人の業務は、無期限に続くものではありません。一定の条件が整った場合には、家庭裁判所の審判によってその任務が終了します。
民法第25条第2項による終了事由
まず、民法第25条第2項では、「不在者が自ら財産管理人を置いたとき」などに、不在者財産管理人の選任処分を家庭裁判所が取り消すこととされています。
このような状況としては、たとえば以下のようなケースが挙げられます。
- 長らく音信不通だった不在者が突然帰ってきて、自分で財産管理を再開できるようになった。
- 不在者本人が代理人を選任し、継続的な財産管理が可能となった。
このような場合には、家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の役割は不要となるため、家庭裁判所の審判により、その選任処分が取り消され、業務は終了します。
家事事件手続法第147条による終了事由
不在者財産管理人の業務終了については、家事事件手続法第147条にも明確な定めがあります。この条文は、民法よりも具体的かつ包括的な終了事由を列挙しています。
具体的には、以下のようなケースです。
- 不在者が帰ってきて、自ら財産管理ができるようになったとき
- 管理すべき財産がすべて失われ、もはや管理の必要がないとき(たとえば、全財産が処分済み・供託済みなど)
- その他、財産の管理を継続することが相当でない事情が生じたとき
この「その他の事情」には、不在者の死亡や失踪宣告が含まれます。不在者が死亡した場合には、その財産は相続の対象となり、もはや本人のために管理する必要はなくなるため、選任処分の取消しによって業務が終了することになります。
管理財産がなくなった場合も終了する?
では、管理対象となる財産がすべて使い果たされたり、消極財産(借金などの負債)しか残っていない場合はどうでしょうか。
実務上、「管理すべき財産がない」と判断されると、不在者財産管理人の選任自体を取り消すべきとの扱いがされます。ただし、注意すべき点として、消極財産しか残っていないからといって、必ずしも「管理すべき財産がない」とは限らないということです。
不在者の財産に対して法的利害関係を持つ人(たとえば債権者や担保権者)がいる場合には、財産がマイナスでも管理を続ける意義があります。つまり、消極財産しかない場合でも、制度の趣旨に照らして管理人の選任や存続が認められる場合があります。
したがって、財産がゼロになったからといって自動的に業務が終了するわけではなく、家庭裁判所による審判で選任処分が取り消される必要があります。
業務終了に伴う手続き
家庭裁判所への報告義務(管理終了報告書の提出)
不在者財産管理人が業務を終了する際には、その事実を家庭裁判所に報告する義務があります。
具体的には、「管理終了報告書」という書類を作成し、家庭裁判所に提出することが求められます(家事事件手続法第146条第2項)。
管理終了報告書には、以下のような内容を記載するのが一般的です。
- 管理業務の期間と内容
- 現在の財産状況(財産目録)
- 引継ぎ先とその方法
- 未処理の事項の有無
この報告書は、不在者の財産が適切に管理されていたかどうか、また、終了時点での財産状況がどのようであるかを明確にするための重要な資料です。特に、利害関係人(他の相続人や債権者)とのトラブルを避けるためにも、報告書はできる限り正確かつ詳細に作成する必要があります。
管理財産の引継ぎと相続人への対応
業務終了にあたり、管理していた財産は適切に引き継がれなければなりません。引継ぎの相手は、不在者の状況によって異なります。
不在者が帰来した場合や、自ら財産管理が可能となった場合
この場合、不在者本人に対して直接、財産を引き渡します。ただし、本人確認を慎重に行う必要があります。なりすましや詐欺のリスクを避けるため、公的身分証明書や戸籍などの確認を行うことが基本です。
不在者が死亡していた場合や、失踪宣告が確定した場合
この場合、相続人に対して財産を引き渡します。ただし、相続人が誰であるか、法定相続人が他に存在しないかなど、相続関係の調査が必要です。
また、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議に基づく合意書がない限り、法定相続分に従って各人に分割引渡しすることになります。相続人全員の同意が得られない場合は、遺産分割協議の成立まで保留とする対応も実務上行われています。
相続人がいない場合の対応(相続財産清算人の選任)
不在者が死亡しており、かつ相続人が存在しない、または不明な場合には、家庭裁判所に対して「相続財産清算人の選任申立て」を行う必要があります。相続財産清算人とは、相続人がいない場合に、残された財産を債権者や国などに適切に配分し、清算を行う役割を担う者です。
不在者財産管理人は、相続人の不存在が明らかになった時点で、速やかにこの申立てを行い、家庭裁判所の選任を待ちます。
選任された清算人に対して、すべての管理財産を引き継ぎ、不在者財産管理人の業務は終了となります。
なお、このような場合でも、家庭裁判所の「不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判」を経ない限り、不在者財産管理人の法的地位は失われません。財産引渡しの前提として、正式な審判を受けることが重要です。

不在者財産管理人としての業務終了には、法律に則った丁寧な報告と、確実な引継ぎ手続きが不可欠です。相続人の立場であれば、管理終了のタイミングで財産の受け取りや相続関係の確認が求められます。
トラブルを防ぐためにも、不明な点がある場合には早めに法律の専門家に相談することをおすすめします。
失踪宣告・死亡判明時の注意点
不在者の死亡が判明した場合の流れ
不在者財産管理人が業務を行っている途中で、不在者の死亡が確認された場合、その管理業務は当然に終了するわけではありません。法律上は、不在者の死亡が確認されたとしても、家庭裁判所の「選任処分取消しの審判」がなされるまでは、不在者財産管理人の法的地位は継続しており、財産管理義務も引き続き負っていることになります。
そのため、死亡が判明した場合には、まず以下の手続きを踏む必要があります。
- 1戸籍や医療記録などにより死亡の事実を確認
- 2相続人の調査(戸籍謄本の収集、相続関係説明図の作成など)
- 3家庭裁判所に対し、不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判の申立てを行う。
- 4審判が出された後に、相続人へ管理財産を引き渡す。
このように、単に死亡を知っただけでは管理人の権限は終了しないことに注意が必要です。
失踪宣告確定による相続開始と管理人の対応
長期間の行方不明が続いており、不在者の生死が確認できない場合には、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てを行うことができます。民法上、失踪宣告が確定すると、不在者は「死亡したもの」とみなされ、法律上の死亡と同じ効果が発生します。これにより、相続が開始されます。
失踪宣告により相続が開始した場合でも、管理人の業務が直ちに終了するわけではありません。ここでもやはり「不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判」が必要となります。
そのため、管理人は以下の対応を取ることになります。
- 1失踪宣告の確定証明書を取得
- 2相続人の調査を進める
- 3家庭裁判所に取消審判を申し立てる
- 4審判が出た後に、管理財産を相続人に引き渡す
なお、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議が必要になります。協議の成立後、合意内容に従って財産を引き渡すか、合意が整わない場合は法定相続分に応じた引渡しが検討されます。
遺産分割協議との関係と効力の有無
不在者が相続人である場合、遺産分割協議にあたっては、不在者財産管理人が代わりに協議に参加し、不在者の立場で合意することが可能です。
しかし、遺産分割協議や遺産分割調停の後に「実はその時点で不在者はすでに死亡していた」と判明した場合、その協議や調停の効力がどうなるのかという問題が生じます。
この点について、裁判例では「不在者の死亡が後に判明しても、家庭裁判所の取消し審判がされるまでは不在者財産管理人の権限は有効に存続しており、その間にされた行為は有効である」とされています。
たとえば、大阪高裁昭和30年5月9日判決では、以下のように判断されています。
「家庭裁判所から選任された不在者の財産管理人の資格権限は、本人死亡の事実により当然消滅するものではなく、利害関係人の申立てにより家庭裁判所がその選任を取消さない限りはその権限を失うものではない」
このように、遺産分割協議の効力は、不在者の死亡が後に判明したからといって直ちに無効になるわけではなく、原則として有効と扱われます。ただし、明らかに詐欺的な情報隠匿や重大な事実誤認があったような例外的ケースでは、協議のやり直しや無効主張が問題となる可能性もあるため、慎重な対応が必要です。

不在者の死亡や失踪宣告が関係する場合には、通常の相続とは異なる特殊な手続きや判断が求められます。
誤った引き渡しや権限逸脱を防ぐためにも、不在者財産管理人および相続人の双方が、家庭裁判所との連携を密にし、適切な法的手続を踏むことが重要です。
訴訟中の場合の受継ぎと注意点
不在者が帰来した場合の訴訟の受継ぎ
不在者財産管理人が選任されている間に、不在者を当事者とする民事訴訟が係属していた場合、不在者が帰ってきたときには、訴訟の当事者が変更される必要があります。
この場合、家庭裁判所による「不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判」がなされた時点で、管理人の権限は終了し、訴訟は一時中断します。この中断後、不在者本人が訴訟を受け継ぐ(受継申立てを行う)ことで、訴訟が再開されます。
ここで重要なのは、「訴訟の受継」は義務であり、本人が訴訟を放棄できるわけではないという点です(破産法第44条第5項の類推適用が根拠とされています)。
もっとも、不在者本人が自ら受継申立てを行わない場合には、相手方当事者が申立てを行うことも可能です(民事訴訟法第126条)。これにより、当事者の一方の対応が遅れたとしても、訴訟全体が長期にわたり停滞することを防げます。
不在者死亡後における訴訟の受継ぎと地位の承継
不在者の死亡が確認されたり、失踪宣告により法律上「死亡した」とみなされると、相続が開始されます。
この場合、不在者を当事者とする訴訟は中断し、その地位を相続人が承継することになります。
このときの流れは以下の通りです。
- 1不在者の死亡(または失踪宣告)を把握
- 2家庭裁判所に管理処分取消審判を申し立て、管理人の選任を取り消す
- 3相続人が裁判所に「訴訟の受継申立て」を行い、訴訟を再開
ここでも、相続人が受継申立てをしない場合には、相手方が申立てることが可能です(民事訴訟法第126条)。
一方で、訴訟係属中に不在者が死亡していたことが後から発覚した場合であっても、その訴えは直ちに却下されるわけではなく、相続人への承継手続を経て訴訟が継続されるのが実務です。
裁判例から見る受継手続の実務的扱い
受継ぎに関する訴訟上の対応については、以下のような裁判例が参考になります。
東京地裁平成元年3月28日判決(判時1342号88頁)
この判決では、「不在者財産管理人が資格を喪失した場合において、帰来した本人が訴訟手続を受継し得る明文の規定は存在しないが、破産手続解止の規定を類推適用して、受継は可能である」と判断されました。
この見解は、受継制度の本旨に照らして妥当とされており、実務でも一般的な取扱いとなっています。
東京地裁昭和56年10月23日判決(判時1037号124頁)
この事案では、不在者の相続人が、管理処分取消しの審判を経る前に、管理人に対して直接財産の引渡しを求めた点について、「訴えは不適法である」として却下されました。
この裁判例は、不在者財産管理人の権限は、家庭裁判所の審判で明確に終了しない限り継続することを示しており、法的安定性の観点からも重要な示唆を与えます。

不在者を当事者とする訴訟は、当事者の生死や所在が不明確なため、通常よりも複雑な対応が求められます。
特に「訴訟中に管理人の地位が終了する事由」が発生した場合、速やかに家庭裁判所との連携を図り、審判を経て正当な受継手続を取ることが肝要です。
また、訴訟の受継申立ては当事者の権利であると同時に責任でもあるため、相続人となる可能性のある方は、事前に必要書類(戸籍、相続関係説明図、訴訟記録など)を準備しておくとスムーズです。
管理処分取消審判の申立て
管理処分取消審判とは
「管理処分取消審判」とは、不在者財産管理人の選任を取り消すことを家庭裁判所に申し立てる手続きです。
不在者財産管理人は、家庭裁判所の審判によって正式に選任されるため、その任務を終了させるためには、再度家庭裁判所の判断を仰ぐ必要があります。たとえ不在者が帰ってきた場合や死亡が確認された場合でも、自動的に管理人の職務が終了することはなく、この取消審判を経ることが必要不可欠です。
この制度は、財産管理の継続性と法的安定性を確保するために設けられており、管理人による処分や引渡しの正当性を支える基盤となっています。
誰が申立てできるか(申立権者)
管理処分取消審判を申し立てることができる人(申立権者)は、状況によって異なります。
法律上は以下の通りに定められています。
民法第25条第2項に基づくケース
不在者が自ら財産管理人を選任した場合など、民法に基づく取消しにおいては、申立てを行うことができるのは以下の者です。
- 不在者本人が選任した新財産管理人
- 利害関係人
- 検察官
家事事件手続法第147条に基づくケース
不在者が帰来した場合、死亡が確認された場合、または管理すべき財産がなくなったといった事情による取消しについては、以下の者が申立権者となります。
- 不在者本人
- 不在者財産管理人
- 利害関係人(相続人・債権者など)
※この場合には、検察官には申立権が認められていません。
なお、実務では不在者財産管理人自身が、業務終了の必要性を認識した段階で、速やかにこの申立てを行うことが多く、また家庭裁判所との事前の打合せを通じてタイミングが調整されることも少なくありません。
審判の効力と不服申立ての可否
管理処分取消審判は、家庭裁判所による非訟手続(訴訟ではない簡易な手続)の一つであり、その効力は管理人に対する告知時から発生します(家事事件手続法第74条第2項)。
この審判が出されることで、正式に不在者財産管理人の法的地位が終了し、それ以降は財産管理権限が失われます。
そのため、審判が出る前に財産を引き渡してしまうと、後に問題が生じるおそれがありますので、手続きの順序には十分な注意が必要です。
不服申立ての可否
この取消審判については、原則として不服申立てを行うことはできません(即時抗告不可)。
ただし、家事事件手続法第78条により、「即時抗告できない非訟裁判」であっても、取消しまたは変更を求める申立てをすることが可能です。もっとも、これは形式的な申立てにとどまり、実際には家庭裁判所に再判断を促すに過ぎません。
したがって、取消審判が出た場合には、それを前提に粛々と引継ぎや報告を進めるのが実務的対応といえるでしょう。

【実務上のポイント】
・ 業務終了の前に、必ず取消審判の申立てが必要
・ 申立てできる人は限定されており、要件に合致しているか要確認
・ 審判の効力発生時点と引渡し・報告のタイミングを厳守
・ 不服申立ては原則できないため、事前に裁判所と密に調整を図るのが望ましい
不在者財産管理人の報酬とその精算
報酬の決定と請求方法
不在者財産管理人は、選任されてから不在者の財産を調査・保全・管理するなど、さまざまな業務を行いますが、その労務に対しては報酬を受け取ることができます。ただし、報酬額は当事者間の合意で自由に決めるのではなく、家庭裁判所の「報酬付与審判」によって決定されるのが原則です(民法第29条2項、家事事件手続法第39条、家事事件手続法別表第1第15項)。
報酬の請求方法としては、不在者の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に対し、「報酬付与審判申立書」を提出します。
この申立てにおいては、次のような書類の添付が必要です。
- 管理終了報告書(業務内容・期間の記載)
- 財産目録(残高、資産の内容)
- 管理人が支出した経費の明細
なお、報酬の額は一律ではなく、以下の事情を総合考慮して裁判所が相当と認める金額を決定します。
- 管理人と不在者との関係(親族か弁護士などの第三者か)
- 業務の内容・難易度・期間
- 管理した財産の種類・額・残高
- 特別な事由の有無(訴訟対応、調停対応など)
特に、親族が管理人である場合には「無報酬」であるべきとの判断がされることもありますが、専門的業務を行った場合には例外的に報酬が認められることもあります。
報酬の受領時期と注意点
家庭裁判所が報酬額を定める審判を出した後、不在者財産管理人は、管理財産の中から当該報酬額を差し引いて自ら受領するのが通常の方法です。この際の注意点として、審判が出る前に報酬を受け取ってはいけないことが挙げられます。審判前に報酬を支出した場合、越権行為とみなされる可能性があり、後に問題となることがあります。
また、報酬の受領は、管理財産を相続人や不在者本人に引き渡す前に行う必要があります。引渡し後に報酬を請求しようとしても、既に財産の管理権限を喪失しているため、事実上受け取れなくなるおそれがあるためです。
さらに、報酬付与審判には不服申立てができないため、内容に納得できなくても基本的にはそのまま受け入れるほかありません。
財産が乏しい場合の取り扱い
実務上しばしば問題となるのが、「管理財産がほとんど残っていない」「債務超過状態にある」といったケースです。このような場合でも、家庭裁判所は状況に応じて「相当な範囲での報酬」を認めることがありますが、報酬額が著しく制限される可能性があります。たとえば、最低限の事務経費や労務に対する実費相当額のみが認められるといったケースです。
一方で、管理人が弁護士等の専門職である場合には、一定の報酬が認められる傾向があり、これまでの活動内容や資料提出が重要な判断材料となります。
また、財産がまったく残っておらず、報酬を実質的に受領できない場合には、あらかじめ家庭裁判所と相談し、申立てのタイミングや報酬請求の方針を協議することが望ましいといえます。

【実務上のポイントとアドバイス】
・ 報酬は必ず「家庭裁判所の審判」で決定される
・ 審判を経ずに報酬を受け取るのはNG
・ 管理財産の引渡し前に報酬の受領を完了すべき
・ 財産が乏しい場合には、支払可能額を見据えて早めに裁判所と協議
不在者財産管理人としての業務をきちんと締めくくるためには、報酬付与の申立て・精算も手続きの重要な一部です。無報酬で終えてしまわないためにも、業務日誌や報告書の整理、定期的な家庭裁判所との連携を怠らないようにしましょう。
まとめ
相続人が知っておくべき不在者財産管理人の終了プロセス
不在者財産管理制度は、不在者の財産を保全し、関係者の利益を守るために重要な制度です。しかし、その管理がいつ・どのように終了するのかは、相続人にとって見落とされがちなポイントでもあります。
本記事で解説してきたように、不在者財産管理人の業務は、以下の流れを経て終了します。
- 1終了事由の発生(不在者の帰来、死亡、失踪宣告など)
- 2家庭裁判所への不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判の申立て
- 3審判が確定し、管理人の地位が法的に終了
- 4財産の引継ぎと管理終了報告書の提出
- 5報酬付与審判の申立てと精算
特に重要なのは、管理人の業務終了には必ず「家庭裁判所の審判」が必要であるという点です。たとえ不在者が死亡していたとしても、自動的に管理が終わることはありません。この制度は、法的安定性を確保するために、明確な「手続による終了」が定められているのです。
また、訴訟が係属している場合や、相続人が複数存在する場合など、終了後の処理はさらに複雑になることがあります。こうしたケースでは、より慎重な対応が求められます。
トラブル回避のために早めに専門家へ相談を
不在者を含む相続案件では、通常の相続手続とは異なり、家庭裁判所の関与が不可欠であることや、複数の法的手続が絡み合う点で、専門的な判断が必要になります。
たとえば以下のような場面では、弁護士等の専門家への相談が特に有効です。
- 相続人の中に行方不明者がいる場合
- 不在者の死亡や失踪宣告が想定される場合
- 遺産分割協議を進めたいが全員の同意が得られない場合
- 管理人の報酬や引継ぎ、債務の処理で悩んでいる場合
専門家に相談することで、不要な紛争や手続の遅延を避けるだけでなく、将来の相続税・債権債務処理、登記や金融機関対応なども円滑に進められます。
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不在者が関与する相続は、家族にとっても大きな精神的・法的負担となることが少なくありません。だからこそ、正確な知識と適切なサポート体制を整えることが大切です。
相続人としては、「誰が、いつ、どうやって」不在者の財産を受け継ぐのか、その流れを理解し、戸惑わずに対応できるよう準備しておくことが、後のトラブルを防ぐ第一歩です。
不安な点があれば、早めに弁護士などの専門家に相談することで、より円滑な相続手続と財産管理が実現できます。
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