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弁護士コラム
不在者財産管理人の実務と家庭裁判所対応~相続手続を前に進めるための全体像と具体的業務~
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2025年07月25日 |
最終更新日:2025年07月25日
- Q
- 相続人の一人が行方不明で、遺産分割ができません。家庭裁判所で不在者財産管理人を選任したあと、その管理人はどんな仕事をするのですか?
- Answer
-
不在者財産管理人は、行方不明の相続人の代わりにその財産を管理・保全し、場合によっては遺産分割協議に参加する法定代理人です。
選任後には、不在者の財産を調査・目録作成し、家庭裁判所へ報告する義務があります。さらに、不動産・預金・有価証券・債務などの管理、場合によっては裁判所の許可を得て不動産売却や遺産分割協議への署名なども行います。
管理業務には多くの専門知識と裁判所との連携が必要なため、弁護士が管理人に選ばれることも多いです。
相続人の中に長年音信不通となっている「不在者」がいる場合、遺産分割協議を進めることができず、相続手続が中断してしまうケースは少なくありません。こうした状況に対処するために、法律上設けられているのが「不在者財産管理人」の制度です。
不在者財産管理人は、家庭裁判所の選任を受けて、不在者に代わり財産を管理し、必要に応じて遺産分割協議などの法的手続にも参加できる代理人として行動します。しかし、その業務範囲は非常に広く、財産の調査から報告書作成、管理方針の立案、権限外行為の許可申立てに至るまで、実務には多くの手続と専門性が求められます。
本記事では、不在者財産管理人の具体的な業務の流れ、管理対象ごとの対応方法、家庭裁判所との連携、報告義務の実務ポイント、そして相続における活用法まで、網羅的かつ実践的に解説します。不在者の存在で相続が止まっている方、または管理人に選任された方にとって、必ず役立つ内容となっています。
目次
不在者財産管理人とは?
不在者とは何か?法律上の定義と意味
相続手続や遺産分割を進める際、「相続人の一人と連絡が取れない」「長年音信不通で居所がわからない」という状況に直面することがあります。このような場合、相続人であっても、所在不明の者を無視して遺産分割を進めることはできません。
法律上、「不在者」とは、生死は明らかであるものの、所在が知れず、財産管理を行うことができない者を指します(民法第25条)。このような不在者が財産を所有していると、管理が放置され損壊や滅失のリスクが生じたり、他の相続人が相続手続きを進められなくなったりします。
このような場合に、不在者に代わって財産を適切に管理・保全するのが「不在者財産管理人」です。
不在者財産管理人が必要となるケース
不在者財産管理人の選任が必要となる主なケースは、次のとおりです。
- 相続手続における問題解決
相続人の一人が長年行方不明で、遺産分割協議が進まない場合に、行方不明の相続人の代理として不在者財産管理人を選任します。
- 不在者所有の財産管理の必要性
不在者が所有する不動産が老朽化し、近隣への被害や倒壊の危険がある場合など、その財産の管理・保全を誰かが行う必要があります。
- 不在者が契約当事者となっている取引関係の整理
不在者名義で借地・借家契約が残っている、または税金や保険料などの支払いが発生している場合に、これらの処理のために管理人が必要とされます。
このように、不在者が存在するだけで多くの法的・実務的な支障が生じるため、財産管理人の選任は、相続トラブルの早期解決に不可欠な手段の一つといえます。
選任の流れと家庭裁判所の関与
不在者財産管理人は、家庭裁判所によって選任される法定代理人です。任意に選ぶことはできず、必ず以下の手続きに従う必要があります。
【申立人】
・ 利害関係人(たとえば他の相続人、家屋の隣人、債権者など)
・ または検察官(民法第25条)
【申立先】
不在者の「従来の住所地又は居所地」を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法第145条)
【申立に必要な書類の一例】
・ 申立書
・ 不在者が長期間所在不明であることを示す資料(返戻郵便、行方不明届受理証明書など)
・ 不在者の財産内容を示す資料(登記事項証明書、通帳の写しなど)
・ 利害関係人の関係性を示す資料(戸籍謄本など)
【選任後の流れ】
家庭裁判所が調査を経て、不在者財産管理人を選任する審判を出します。選任された管理人は、1~2か月以内に財産目録と初回の管理報告書を作成し、家庭裁判所に提出する義務があります。以後も定期的な報告義務があります。
不在者財産管理人の基本的な業務
不在者財産管理人に選任された弁護士等が最初に行うべきことは、不在者の財産を把握し、その管理方針を定めて家庭裁判所と共有することです。
ここでは、不在者財産管理人の基本的な業務の流れを3つのステップで解説します。
財産の調査と把握
不在者財産管理人の最初の仕事は、不在者の財産状況を徹底的に調査し、正確に把握することです。不在者がどのような財産を持ち、現在どのような収支状況にあるかを確認することで、その後の管理計画を立てる基礎となります。
【主な調査対象】
・ 現金・預貯金(通帳の記帳・金融機関への残高照会)
・ 不動産(登記事項証明書の取得、固定資産税評価証明書や名寄帳の取得)
・ 有価証券・保険契約(証券会社・保険会社への照会)
・ 債権・債務(未回収の売掛金や借入金の有無)
・ 動産(貴金属、美術品、家具類など)
・ 郵便物の転送手続(新たな財産情報を得る手段)
また、事件記録の閲覧・謄写や、申立人、親族、近隣住民などからの聞き取り調査も不可欠です。現地調査では、不在者の住居に立ち入り、財産関係の書類や鍵・印鑑・証券などの物品を確認・回収します。不在者の通帳が見つかった場合には、解約前に全ページをコピーすることが実務上の重要ポイントです。
財産目録の作成と初回報告
調査結果をもとに、不在者の財産を一覧にまとめた「財産目録」を作成します。これは、選任後1か月から2か月以内に家庭裁判所へ提出することが義務付けられています(家事事件手続法第146条、家事規則第87条・82条)。
【財産目録の記載内容】
・ 不動産:所在地、種類、面積、評価額
・ 預貯金:金融機関名、支店名、口座番号、残高
・ 現金:金額
・ 有価証券・保険:銘柄、契約内容、評価額
・ 債権・債務:内容、金額、発生日、相手方の情報
これらを記載したうえで、通帳や証券、登記事項証明書などの写しを添付します。
また、家庭裁判所には、財産目録とともに「初回の管理報告書」と「管理状況一覧表」を提出します。ここでは、どのような調査を行い、どのような財産が判明したか、今後の管理に向けた準備状況を報告します。
管理方針の立案と家庭裁判所への共有
不在者財産管理人は、単に財産を調査するだけでなく、その後の管理方針(中長期的な方針)を立てる責任も負っています。この方針は、家庭裁判所と共有され、以後の管理業務の方向性を定める基盤となります。
【管理方針の内容例】
・ 管理対象財産の区分(不動産、預貯金など)
・ 管理終了時期の見通し(例:失踪宣告確定時、遺産分割終了時)
・ 必要な権限外行為の有無(例:不動産の売却、遺産分割協議への参加)
・ 財産処分の要否と判断基準
・ 借家等の解約や建物修繕の可否と手続方法
この管理方針は初回報告書に記載されるほか、状況が変化した場合には速やかに家庭裁判所に報告・相談し、随時見直しを行うことが求められます。家庭裁判所との密な連携が、不在者財産管理人の実務では最も重要な姿勢といえます。

不在者財産管理人に選任された後は、限られた時間の中で迅速に調査・報告・方針立案を行う必要があります。不在者がいて相続が進まないという状況でも、適切に管理人が選任され、実務が進めば、相続手続を前に進めることが可能になります。
各財産ごとの具体的な管理方法
不在者財産管理人は、家庭裁判所からの選任後、不在者に属する財産を適切に管理・保全する責任を負います。ただし、管理人の権限は法律上「保存行為」や「性質を変えない範囲での利用・改良行為」に限られており、それを超える処分等は家庭裁判所の許可が必要です(民法28条、103条参照)。
ここでは、代表的な財産類型ごとの管理実務について詳しく解説します。
不動産の管理と賃貸借対応
【管理の基本】
不在者が所有する土地や建物がある場合、鍵の管理や施錠の徹底、必要に応じた鍵の交換、火災保険の加入などを行います。また、敷地が無防備な場合には、柵や掲示を設けることも可能です。費用はすべて不在者の財産から支出されます。
【賃貸物件の管理】
不在者が賃貸に出していた物件については、家賃の受領や滞納分の回収も管理人の職務に含まれます。
信頼関係の破壊があれば、契約解除も可能です(ただし訴訟を伴う場合は家庭裁判所の許可が必要)。
【無権原占有者の対応】
不在者名義の不動産に第三者が無権限で居住している場合、任意に明渡しを求めることは可能ですが、訴訟提起には家庭裁判所の「権限外行為許可」が必要です。
【建物の修繕・解体】
建物が老朽化している場合、軽微な修繕は権限内ですが、建て替えや解体は「権限外行為」に該当するため、家庭裁判所の許可が必要となります。
預貯金・現金・貸金庫の管理
【現金・預貯金の管理】
不在者の預貯金口座は解約し、管理人口座(「不在者○○財産管理人○○」名義)に資金を移し替えます。現金についてもすべてこの口座に入金して一元的に管理します。自己の財産と混同しないよう厳重に区別します。
【貸金庫の対応】
貸金庫を契約していた場合は、内容を確認し、不要であれば解約することも可能です。契約解約は原則権限内とされますが、迷う場合は家庭裁判所に確認するのが無難です。
有価証券や保険の取り扱い
【有価証券】
株式や債券などの有価証券がある場合には、証券会社に対して不在者財産管理人の選任を通知し、配当金などがある場合は受領して管理人口座で保管します。ただし、有価証券の売却は「処分行為」にあたり、家庭裁判所の許可が必要です。
【保険契約】
保険証券を確認の上、保険会社に対し管理人選任を通知します。満期を迎えている保険金の受領は保存行為に該当するため、管理人の権限内で可能です。また、今後の保険料の引き落としなどについても管理口座で対応します。
債権・債務への対応
【債権の回収】
不在者に未回収の売掛金や貸付金がある場合には、管理人が債権回収を行います。相手方が任意に支払わない場合には、訴訟提起が必要ですが、これは権限外行為に該当するため家庭裁判所の許可を得なければなりません。
【債務の履行】
支払期限が到来している債務については、保存行為として管理人が支払いを行うことが可能です。ただし、本当に債務が存在するかの調査が重要であり、事前に契約書や請求書などの確認を行うべきです。
【主な債務の例】
・ 借入金(金融機関・親族等)
・ 税金・社会保険料
・ 水道光熱費・通信費
・ 医療費
動産類の管理と処分
【動産の分類と対応】
不在者の家財道具、家具、貴金属、美術品などは、保管状況や価値に応じて以下の対応が取られます。
・ 高価な動産(貴金属、美術品等):金庫や貸倉庫で保管
・ 一般的な家具・生活用品:不在者宅で保管、処分が必要なら家庭裁判所の許可を取得
・ ゴミや腐敗物:保存行為として廃棄も可能だが、事前に家庭裁判所へ報告することが望ましい
【処分の判断基準】
基本的に動産類の売却や廃棄は処分行為に該当するため、原則として家庭裁判所の許可が必要です。ただし、腐敗・劣化によって財産価値が著しく低下するものについては、保存行為として管理人の判断で処分できます。

不在者財産管理人の業務は、財産の性質に応じて柔軟かつ正確に対応する必要があります。
特に「権限内行為」と「権限外行為」の区別を誤ると、無権代理として行為が無効となる恐れがあるため、不明点は家庭裁判所に必ず確認する姿勢が重要です。
家庭裁判所への報告義務
不在者財産管理人は、選任後、家庭裁判所の監督のもとで業務を行います。そのため、財産の状況や管理の経過、今後の方針について、定期的かつ正確な報告を行う義務があります。報告が不十分であると、家庭裁判所からの指導や業務停止、さらには解任につながる可能性もあるため、適切な報告は極めて重要です。
管理状況報告と計算書の提出
不在者財産管理人に選任された後、まず行うべきは、財産目録とともに提出する「初回の管理報告書」の作成です。
【初回報告の内容】
・ 財産調査の経過と結果
・ 確認された財産の一覧(財産目録)
・ 管理人口座の開設状況
・ 初動で要した費用の明細
・ 今後の管理方針
この報告書には、「管理状況一覧表(管理経過一覧表)」と呼ばれる支出入の記録表(計算書)を添付します。これは、どのような費用を何のために使ったのかを時系列で記録したものです。出納帳に加えて、領収書や証拠書類も併せて提出するのが実務上の通例です。
以後も、報告義務は継続します。たとえば、財産の大幅な変動や重要な判断(権限外行為の申立てなど)があった場合には、臨時報告も求められます。
報告の頻度と書式
【定期報告の頻度】
家庭裁判所への報告は、初回の報告を除き(初回の報告は選任後1~2か月以内)、通常は年1回の頻度で定期的に行います。ただし、裁判所の運用によっては半年に1回、あるいは事情に応じて柔軟に設定されることもあります。
【提出書類と書式】
多くの家庭裁判所では、不在者財産管理人専用の「報告書」や「経過一覧表」の書式を用意しています。裁判所のウェブサイトからダウンロードできる場合もあるため、選任された家庭裁判所の運用を確認することが大切です。
【報告書の主な記載事項】
・ 不在者の状況(生死・消息の変化など)
・ 管理財産の現況(不動産、預貯金、動産等)
・ 管理業務の経過(行った調査・手続き)
・ 今後の見通しや課題
・ 添付資料:財産目録(更新後)、収支報告一覧、領収書等
このように、報告書は単なる業務記録ではなく、「家庭裁判所に対する監督報告」であることを念頭に、簡潔かつ客観的に記載することが求められます。
管理業務の終了時期と処理
不在者財産管理人の職務は、永続的なものではありません。以下のような事由が発生した場合には、管理業務の終了および終了報告書の提出が必要となります。
【終了原因】
・ 不在者が帰来した場合
・ 不在者の死亡が確認された場合(=相続開始)
・ 失踪宣告が確定した場合
・ 家庭裁判所が管理終了を認めた場合
【終了手続】
管理業務の終了時には、管理終了時点の財産目録および収支報告書を作成し、家庭裁判所に提出します。また、管理人口座の残金や保管中の現物財産について、不在者やその法定代理人、相続人に引き渡す手続きを行います。
なお、終了時には、弁護士報酬や実費等の精算も必要になります。報酬については、裁判所の判断を受けて決定されるため、事前に報酬請求書を添えて報告するのが実務上の通例です。

不在者財産管理人の報告義務は、家庭裁判所との信頼関係を保ち、適切な財産管理を証明するうえで極めて重要な業務です。報告は、単なる義務ではなく、相続や遺産分割などの法的手続を前に進めるうえでも必要不可欠なプロセスとなります。
不在者がいることで相続が止まってしまっている方は、弁護士などの専門家に相談し、管理人の選任と適切な報告体制を整えることをおすすめします。
権限外行為の取り扱いと許可申立て
不在者財産管理人には、法律上認められた「権限内」の行為と、家庭裁判所の許可を得なければ行えない「権限外」の行為があります。管理人として適切な判断を下すためには、両者の区別を正しく理解し、必要に応じて迅速に家庭裁判所に申立てを行うことが不可欠です。
権限内・権限外行為の区別とは?
権限内行為とは
民法第28条・第103条に基づき、不在者財産管理人が許可なく行えるのは、以下の行為に限られます。
- 保存行為:財産の現状を維持する行為(例:建物の修繕、火災保険の加入、賃料の回収)
- 性質を変えない範囲の利用・改良行為:財産の使用価値や収益性を維持・向上させる行為(例:預金への入金、必要最小限の設備更新)
権限外行為とは
これに対し、以下のような行為は「権限外行為」に該当し、家庭裁判所の許可が必要です。
- 処分行為:不動産や動産の売却、贈与、担保提供など
- 性質を変える改良行為:建物の解体・改築、投資行為など
- 法律的地位に重大な変更を伴う行為:遺産分割協議、訴訟の提起、和解など
判断が難しい場合には、事前に家庭裁判所に相談することが実務上の鉄則です。
権限外行為に必要な許可の手続
不在者財産管理人が権限外行為を行うには、家庭裁判所に「権限外行為許可審判」の申立てを行い、許可審判を得る必要があります。
【申立人】
不在者財産管理人本人
【申立先】
不在者の従前の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所(通常は選任を受けた裁判所と同じ)
【必要書類】
・ 権限外行為許可申立書
・ 申立ての趣旨・理由書
・ 行為に関する疎明資料(契約書案、見積書、協議書案など)
・ 登記事項証明書や財産目録の写し
・ 収入印紙(800円)および郵券(裁判所ごとに異なる)
【審理と判断】
家庭裁判所は、申立てた行為が本当に権限外行為であるかどうか、そしてその行為が不在者の利益を損なわないかを審査します。審理は通常、書面のみで行われ、許可された場合は審判書が申立人宛に郵送されます。
主な許可申立事例
以下は、実務上よく見られる権限外行為の典型例です。
【不動産の売却・解体】
空き家となっている不在者名義の建物を売却したい場合や、老朽化して倒壊の危険があるため取り壊したい場合には、処分行為・改良行為に該当するため必ず許可が必要です。
【遺産分割協議】
不在者が相続人の一人である場合、他の相続人との間で遺産分割協議を行うには、協議内容が不在者に不利益でないことを前提として、家庭裁判所の許可が必要です。実務では、あらかじめ協議書案を添付して申立て、許可審判後に署名押印する流れになります。
【訴訟の提起】
不在者が有する債権を回収するため、訴訟を提起する場合も権限外行為に該当します。ただし、時効完成を防ぐための「保存目的」の訴訟提起については、例外的に権限内行為とされる場合があります(判例あり)。
実務で注意すべき家庭裁判所との連携
- 迷ったら事前に相談
権限内と権限外の区別が曖昧な事案も多いため、裁判所書記官との非公式な相談(照会)を活用することが勧められます。誤って無権限行為を行うと、その行為は無効となるリスクがあります。
- 書面提出の精度
申立書には、行為の必要性・経緯・合理性を詳細に記載し、客観的な資料(見積書・協議書案など)を添付することが実務上の鉄則です。不備があると却下や再提出の指示を受けることがあります。
- 不在者に不利益がない内容であること
家庭裁判所は、不在者本人の利益を最重視します。不利益を伴う分割案や処分が含まれている場合、許可が下りない可能性があるため、内容の慎重な設計が求められます。

不在者財産管理人の職務を遂行する中で、処分・改良・協議・訴訟などの重要な行為を行う際には、必ず家庭裁判所の許可を得る必要があります。形式的な申立てにとどまらず、実体面での慎重な検討と裁判所との綿密な連携が、円滑な管理業務の鍵となります。
不在者を含む相続手続を前進させるためにも、法的な段取りを踏んだうえで、実務に精通した弁護士の関与が望ましいといえるでしょう。
相続トラブルにおける活用と注意点
相続人の一人が「不在者」である場合、そのままでは遺産分割協議を進めることができません。不在者が相続人に含まれている以上、法定相続人全員による協議が整わなければ協議自体が無効となってしまうからです。このような場合に活用されるのが、不在者財産管理人の制度です。
ここでは、不在者を含む相続への対応方法と実務上の注意点を紹介します。
不在者が関与する相続手続の進め方
- 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる
不在者の従前の住所地を管轄する家庭裁判所に、利害関係人(他の相続人など)から選任申立てを行います。申立てが認められれば、弁護士等が不在者財産管理人に選任されます。
- 管理人が不在者の代理人として協議に参加
選任された不在者財産管理人が、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得たうえで、遺産分割協議に代理人として参加し、協議書に署名押印します。
- 協議内容に不在者の不利益がないか慎重に審査される
家庭裁判所は、協議内容が不在者に不利なものでないか、適正な分割となっているかを厳しく審査します。
遺産分割協議への対応と「帰来時弁済型」協議
不在者が帰来する可能性が低い場合には、「帰来時弁済型(きらいじべんさいがた)」の遺産分割協議が活用されることがあります。
帰来時弁済型とは、不在者財産管理人が不在者の代理人として遺産分割協議に参加し、協議書に以下のような条項を設けて調整する方式です。
「相続人Aは、遺産のうち不在者Bの相続分に相当する金額○○円を、不在者Bが帰来し請求した場合に限り支払う。」
このようにすることで、他の相続人は遺産の名義変更等を進めることが可能となり、一方で、不在者の権利も保全されます。この方法は、不在者の所在が不明なまま数十年経過しているようなケースでも、相続手続を前に進めるための現実的な解決策として活用されています。

【実務上のポイント】
・ 帰来時弁済額は、不在者の法定相続分とするのが原則
・ 不在者に相続人がいない場合、代償金は将来的に国庫に帰属する
・ 家庭裁判所の許可を得たうえで協議成立させる必要あり
不在者の法定相続分確保と裁判所の審査
不在者財産管理人が遺産分割協議に参加する場合、家庭裁判所はその内容について特に慎重な審査を行います。不在者の法定相続分を確保しているかどうかが最重要の審査ポイントです。
原則として、不在者の相続分を法律上の割合より低くする協議案は認められません。なぜなら、本人の意思確認ができない以上、不利益を被るおそれがあるからです。
以下のような事情がある場合には、例外的に家庭裁判所が認めることがあります。
- 不在者が生前に多額の特別受益(生前贈与等)を受けていたことが明白
- 他の相続人に明確な寄与分が存在する
- 不在の期間が非常に長く、帰来の可能性が極めて低い
- 他の相続人に対する強い衡平の必要性
このような場合でも、管理人が提出する申立書には、事実と証拠に基づいた合理的説明と資料の提出が求められます。

不在者が相続人に含まれているケースでも、家庭裁判所を通じて不在者財産管理人を選任し、適切な手続きを踏めば、遺産分割協議を進めることが可能です。
ただし、不在者の利益を害さない内容であることが大前提であり、帰来時弁済型の協議や、法定相続分の確保といった工夫が求められます。
不在者を理由に相続手続が進められず悩んでいる方は、早期に弁護士に相談し、家庭裁判所の手続を活用することを検討すべきでしょう。
専門家への相談のすすめ
相続人の中に長期間行方不明となっている「不在者」がいる場合、相続手続が一時的にストップしてしまうことがあります。しかし、法律上はこのようなケースにも対応する制度が用意されており、適切に手続きを進めることで、相続を前に進めることが可能です。
ここでは、これまでの内容をふまえて、実務上のまとめと、専門家の活用について解説します。
不在者がいても相続手続は進められる
相続人全員の合意が必要な遺産分割協議において、「一人でも不在であると協議が成立しない」という原則は、相続人にとって大きな壁となることがあります。しかし、不在者財産管理人を選任することにより、実質的に不在者を手続に参加させることができる仕組みが法律上整備されています。
この制度を活用することで、以下のようなメリットがあります。
- 不在者の財産を適切に管理・保全しつつ、
- 遺産分割協議を進めることができ、
- 相続人間のトラブルや財産の損壊リスクも防止できる。
つまり、不在者がいるからといって「相続手続が永久に止まってしまう」わけではなく、法的手続きを正しく踏めば前に進めることができるのです。
早期の対応と弁護士による支援の重要性
不在者財産管理人制度を利用するには、家庭裁判所への申立てや、報告義務、権限外行為の許可申請など、多くの法的手続と書類作成が必要です。また、遺産分割協議を行う際には、裁判所の厳格な審査に耐えうるだけの合理的説明や証拠が求められます。
こうした煩雑なプロセスを、相続人自身が独力で進めることは容易ではありません。そこで、相続問題に詳しい弁護士の関与が極めて重要となります。
弁護士であれば、以下のようなすべての手続を一括して支援することが可能です。
- 不在者財産管理人の選任申立ての代行
- 財産調査の実施と財産目録の作成
- 家庭裁判所への報告書作成
- 遺産分割協議書案の整備と裁判所への許可申立て
- 帰来時弁済型協議の設計と実務対応
また、弁護士が不在者財産管理人に選任されるケースも多く、中立的な立場で管理・調整役を担うことで、他の相続人との信頼関係を維持しつつ、手続を円滑に進めることができます。
東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所
不在者がいる相続は、確かに一筋縄ではいかない場面もありますが、それでも解決の道筋は明確に用意されています。重要なのは、早めに手を打つこと、そして専門家の助けを借りて確実に進めることです。
「不在者がいて相続が進まない…」とお悩みの方は、どうか一人で抱え込まず、まずは弁護士にご相談ください。的確なアドバイスと手続によって、あなたの相続問題を一歩ずつ解決へ導くことができるはずです。
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協議が円滑に進まない、お話し合いがまとまらない等、遺産分割にはさまざまなトラブルが生じがちです。遺産分割協議書の作成から、分割協議の交渉、調停申立て等、プロの弁護士が丁寧にサポートいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。
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