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弁護士コラム
遺産相続における使途不明金の扱い方~使い込みの立証の仕方も解説~
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2025年01月09日 |
最終更新日:2025年01月09日
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認知症の父の預金から1,000万円が引き出されているのに、使途が不明…。母は「必要な支出だった」と言うものの具体的な説明がなく、弟からは「使い込みでは?」との声も上がっています。
今後の相続時に親族間での争いを避けるためにも、この使途不明金をどう確認し、問題を解決すればいいのかが気になります。使途確認の具体的な方法や、相続時にトラブルを防ぐための対策を詳しく教えてください。
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認知症の父の預金から多額の金額が引き出されているものの、使途が不明という状況は、相続における大きな不安要素となります。特に、親族間で「使い込み」の可能性が指摘されると、相続手続きの進行が滞り、将来的なトラブルにつながるリスクが高まります。
使途不明金が発覚した場合にはまず使途の確認を行うことが大切です。また、その使用目的が不当なものであれば、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を行うために、証拠を集めることが必要になる場合もあります。
この記事では、使途不明金を確認する具体的な方法や、相続における問題を未然に防ぐための事前対策について解説します。特に、取引履歴や証拠書類の収集、親族間での話し合いの進め方、必要に応じた専門家への相談について、実践的なアドバイスを詳しくお伝えします。
目次
使途不明金とは
使途不明金とは、財産や資産が減少しているにも関わらず、その使途や支出の詳細が明らかでない金銭のことを指します。特に相続において、被相続人(亡くなった人)の預金口座から多額の預金が引き出された痕跡があるものの、その用途がわからないお金など、何に使われたのか不明なお金のことを指します。
相続財産を分割する「遺産分割協議」において、相続財産の確認は基本となるプロセスです。使途不明金が存在し、相続財産の内容が正確に把握できない状況では、公平に遺産分割を行うことはできません。使途不明金が発覚した場合、管理責任を巡って争いが生じたり、不適切な使い込みが疑われたりすることがあります。そのため、こうした状況は相続手続の進行を妨げかねません。
使途不明金が発生する一般的な背景としては、相続財産の管理不備、家族や第三者の介入、生活費や介護費用の増加などの要因が考えられます。被相続人が認知症やご高齢であった場合、自身の支出を記録し忘れてしまうことが考えられます。また、親族が財産を無断で使用することも考えられます。
支出が正当なものであったとしても、記録が不十分で疑いを持たれることや、複数の口座が存在しそれぞれのお金の流れを相続人が把握できていない場合は、疑いを持たれてしまうかもしれません。このような背景から、使途不明金が発生するリスクを減らすためには、財産管理を適切に行い、記録を残すことが欠かせません。
相続における使途不明金の種類と対処法
遺産相続における使途不明金の種類は、以下の表のように大別されます。
ここでは、それぞれの対処法について解説していきます。
パターン | 原因 | 対処法 |
被相続人の生前に発生した使途不明金 | 被相続人による使用 | 具体的な使途を確認する |
生前贈与の実行 | 特別受益として持ち戻し計算をして処理する | |
その他の支出 | 不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求 | |
相続開始後に発生した使途不明金 | 相続人による着服 | 不当利得返還請求や損害賠償請求 |
葬儀費用など正当な支出 | 具体的な使途を確認する | |
その他の支出 | 不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求 |
被相続人の生前に発生した使途不明金
被相続人が存命中に発生した使途不明金は、財産管理が不十分な場合や支出に関する記録不足によって生じるケースが多くあります。このような状況では、他の相続人から不正にお金を利用した疑いを持たれかねません。
被相続人の存命中に発生した使途不明金への対応方法として、定期的に銀行口座履歴を確認して支出の詳細を把握することや、領収書や契約書を保管して支出の正当性を証明すること、親族間で生前の財産状況を話し合い、透明性を確保することが大切です。適切な支出の管理が使途不明金の発生を防ぐ鍵です。
被相続人による使用
被相続人が亡くなる前に預金の管理をまかされていた相続人が口座から出金していたケースはよくあります。その中で、入院費用など被相続人のために出金したお金を使っていたパターンを考えましょう。このパターンでは、他の相続人は返還を請求できません。
しかし、たとえ本当に被相続人のために使っていたとしても、その金額があまりに大きければ他の相続人が疑念を抱くのは当然です。生活費や医療費に充てていた場合、領収書があれば大きな問題になる心配はありません。それらの書類が欠けている場合には、支出の整合性を確認する必要があります。
いずれにせよ、「被相続人のために使った」と主張された場合には、具体的な使途を確認するようにしましょう。
生前贈与の実行
相続人が被相続人から承諾を得て、被相続人の口座から生前贈与として自分のために預金を引き出した場合、被相続人の承諾は得られているため、不正な出金とは言えません。ただし、この金額が贈与税の基礎控除額110万円を越えている場合、納税および申告の義務が生じます。
また、生前贈与が特別受益として持ち戻しの対象となる可能性があります。このケースでは、遺産分割の際、生前贈与を特別受益として相続財産に持ち戻して計算します。
その他の支出
上記以外のパターンとして、預金の管理を任されている相続人がその立場を利用して被相続人の承諾を得ずに引き出し、自分のためにお金を利用しているケースもあり得ます。これは法的根拠のない不正出金であり、問題になりやすいです。この場合、他の相続人は、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求により、お金を取り戻すことができます。
相続開始後に発生した使途不明金
相続開始後に発生する使途不明金は、遺産分割が進む中で支出に関する記録や相続財産の管理が不十分な場合に生じやすい問題です。これにより、相続人同士の信頼関係が損なわれ、トラブルが発生する場合があります。
そのため、相続財産管理の透明性を保ち、支出内容を全相続人で共有することで相続開始後の使途不明金のトラブルを防ぐことが重要です。ここでは、相続開始後に発生した使途不明金への対処法を解説します。
相続人による着服
相続に関係する必要経費でないお金が引き出されていた場合、引き出した相続人が自分のために使ったと評価されることになります。
この場合は、他の相続人は不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求により、使途不明金を取り戻すことになります。使途不明金の問題は、遺産分割の調停では解決することができないため、民事訴訟を提起する必要があります。
生前の入院費用などに関する支出
被相続人の死亡後に相続人が出金し、葬儀費用や生前の入院費用を支払うケースです。生前の入院費用は相続財産から支出する必要があるお金なので、領収書などでその使途が明確に出来れば、問題になりません。他方、葬儀費用を相続財産から支出すべきかについて、裁判例や学説が分かれるところであるため、相続財産からの正当な支出として認められない可能性があります。
その他の支出
相続開始後のその他の支出については、関係者全員合意がなくとも支出できる場合があります。例えば、遺産分割協議の成立前に、相続財産の預金の一部を利用して不動産の修繕等の保存行為を行う場合です。相続開始により、共有状態となっている不動産等の相続財産の保存行為は、各相続人が単独で行うことができます。ただし、他の相続人に事前の説明がなければ、資金使途の正当性を疑われる可能性がありますので、支出前に保存行為のために必要な費用に関する情報を共有すると良いでしょう。
使途不明金があった場合の対応
使途不明金がある場合、どのように対応する必要があるのでしょうか。基本的な対応は以下のようになります。
まず、出金された金銭の使途を相続人間で慎重に確認する必要があります。この際、相続人間で無用なトラブルを引き起こさないために、相手を疑ってかかることは避けたほうがよいでしょう。まずは預金履歴などから使途不明金の金額を確認しておくと良いでしょう。
次に、お金を引き出した相続人の主張の整合性を確認する必要があります。領収書を確認することや、使途に見合った金額であるかを確認することが必要です。ここで整合性を確認することができれば、これ以上問題にする必要はないでしょう。
それでも、説明のつかない使途不明金が多額にある場合や相続人の間で解決することが難しい場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
使途不明金の立証方法
使途不明金があり、不正出金の疑いがあったとしても、証拠がなければお金を取り戻すことはできません。ここでは、使途不明金を取り戻すために、どのような証拠を集めればよいかを解説します。
預金通帳と取引履歴
まずは、出金された事実を証明しなければなりません。預貯金通帳や取引履歴があれば出金の証明となります。しかし、出金した相続人が通帳を持っている場合など、通帳を入手できない場合もあり得ます。通帳がなくても相続人であれば取引履歴の取得は可能なので、金融機関に問い合わせるとよいでしょう。
払戻請求書
出金の証明だけでなく、だれが出金したかの証明も必要となります。証拠となりうるものとしては、引き出し時の払戻請求書が挙げられます。
窓口に提出された請求書の筆跡が相続人のものといえれば、相続人が引き出したと証明することができます。ATMでの出金の場合、出金した場所と被相続人の生活圏との関係などから被相続人が引き出したものでないといえる場合があります。
証言|関係者からの情報収集
被相続人に密接に関わっていた家族や介護者、友人などの証言も証拠になり得ます。資金の使用目的や状況を質問し記録することで、異なる関係者から集めた証言が一致すれば信頼性が向上します。この証言を他の証拠と照らし合わせ整合性を確認し、不明金の使用状況を検討するとよいでしょう。
その他の証拠|医療記録、介護記録など
病院の入院記録や介護記録も有力な証拠になります。例えば、被相続人の入院中に、病院と遠く離れた場所での出金記録があれば、本人が引き出していない、すなわち相続人が引き出した証明となります。また、重度の認知症などの症状の事実が明らかになれば、被相続人が引き出しを承諾できないことになるので、相続人が承諾を得ていないことの証明となります。
遺産の使い込みがあった場合の解決方法
一部の相続人が相続財産を着服した疑いが濃厚な場合、交渉民事訴訟で解決する方法が考えられます。
ここでは、相続財産の使いこみのトラブルを解決する基本的な流れを解説します。
相続人間の交渉で解決する
初めに、交渉で解決を図ります。例えば、被相続人の介護をしていた相続人が相続財産を着服していたとしても、その相続人がその事実を認め、その分遺産分割での取り分が少なくなることに納得すれば、解決に至る可能性が高いでしょう。
また、着服した金額が少額なら、これまでの介護の労力との均衡を考慮して他の相続人との判断でこれを不問とすることもあるかもしれません。このように、交渉で柔軟に解決を図ることを考えるべきです。
なお、使途不明金については、相続人が着服の事実を認めない限り、遺産分割の調停や審判で解決することができないため、次項に記載する民事訴訟を提起する必要があります。
相手が認めない場合は法的手段で請求する
遺産分割調停でも着服を認めず、話し合いでの解決が見込めない場合には、着服の疑いのある相続人に対して不当利得返還請求や、不法行為にもとづく損害賠償請求などの訴訟を提起することになります。
これらには時効期間の差がありますが、事例によって、基本的にどちらを選択しても構いません。訴訟を行う場合、相手が被相続人のお金を無断で引き出し使っていたことを裁判所に認めてもらう必要があり、そのためには適切な証拠を集めることが非常に重要になります。
着服が認められ、着服した相続人に支払いを命じる判決が出されて確定した場合には、判決に拘束力があるため、相手が任意に着服を認めない場合でも問題を解決することができます。
使途不明金に関する税務上の注意点
相続において使途不明金が存在する場合、税務上の扱いにも注意を払う必要があります。特に相続税申告時や税務調査で問題が発覚すると、加算税や延滞税が課されるリスクがあるため、正確な申告と記録管理が重要です。
以下に、基本的な考え方と具体的な注意点を解説します。
税務調査における使途不明金の扱い
税務調査では、使途不明金が相続財産の一部と見なされる可能性が高く、資金の使用目的や出所について説明を求められることがあります。この場合、通帳や領収書などの証拠を提出する必要があります。
税務署が使途不明金を生前相続人への贈与と判断した場合、課税対象となり、追徴課税が発生する可能性があります。このような事態を防ぐために、書類の管理を徹底することが大切です。日付順など、領収書や請求書はすぐに参照できるようにファイリングし、紛失が起こらないように適切に保存すべきです。
また、取引の際に詳細を記録することで、取引の記録が失われにくくなります。
使途不明金を追求できる時効期間
使途不明金に関して税務署が追及できる期間は、法律に基づいて決まっています。通常、相続税の追徴課税が可能な期間は申告期限から5年間です。しかし、故意による財産隠しなどがあった場合、この期間は7年間に延長されます。
時効が成立するまでの期間内に税務署が調査を開始した場合、追徴課税のペナルティが科される可能性があるため、適切に対応するようにしましょう。
東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所
相続における使途不明金の問題は、親族間でのトラブルを招きやすく、慎重な対応が求められます。特に、使途不明金の確認、訴訟提起、訴訟の立証活動などは複雑で、専門的な知識が必要です。
また、相続人間で話し合いがまとまらない場合や、着服が疑われるケースでは、法的な解決手段を視野に入れる必要があります。しかし、解決までのプロセスで新たなトラブルが生じる可能性もあります。
そのため、弁護士などの専門家に相談し、早期に正確な対応を進めることが重要です。直法律事務所では、相続や使途不明金に関する経験豊富な弁護士が、親身になって問題解決をサポートします。相続問題にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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