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弁護士コラム

訴訟の当事者となるケースを弁護士が解説!~遺言執行者の当事者適格~

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年12月20日 | 
最終更新日:2024年12月20日
Q
私 Xの夫は既に亡くなっていますが、最近、夫の父 Aも亡くなりました。Aの遺言書には、Xに甲土地を遺贈する、そして遺言執行者は叔母のYとする旨の記載がありました。しかし、Aの相続人である夫の弟 Cが、勝手に甲土地の相続登記をしてしまいました。
この土地の登記名義を私にするよう請求するには、どのような訴訟をしたらよいのでしょうか?
Answer
本件は、被相続人Aが、甲土地をXに遺贈したにもかかわらず、相続人Cが甲土地をC名義で相続登記してしまった事案です。
甲土地はXに遺贈されているので、Aの死亡によりXが甲土地の所有権を取得します。そのため、Xは、遺贈を原因とする甲土地の所有権移転登記を請求できます。
そして、遺言執行者が選任されていない場合であれば、Aの相続人Cに対して、甲土地の所有権移転登記を請求できます。
しかし、本件では、Aが遺言で遺言執行者Yを指定しています。
遺言執行者がいる場合、遺贈を履行する権限を有するのは遺言執行者のみです。遺言執行者Yは、Xへの遺贈を履行するために、Xへ所有権移転登記をする権利と義務があります。他方、相続人Cは、遺言の執行について権利義務がないため、Xに対して遺贈を原因とする所有権移転登記をすることができません。
本件の遺贈を履行するためには、遺言執行者Yは、相続人Cに対して所有権移転登記の抹消を請求し、その抹消登記を経た上で、受遺者であるXに対して遺贈を原因とする所有権移転登記をする必要があります。
しかし、遺言執行者Yが対応してくれない場合、受遺者Xとしては、遺言執行者Yを相手方として、遺贈を原因とする所有権移転登記を請求することになります。ただ、遺贈を原因とする所有権移転登記の前提として相続人Cに対する所有権移転登記を抹消する必要があります。そこで、早期に遺贈による所有権移転登記を実現するためには、遺言執行者に代位して、相続人Cに対する相続登記の抹消登記を請求することが考えられます。(X自らの所有権に基づく妨害排除請求権を行使して、Cに対して相続登記の抹消登記請求をすることも考えられます。)

このように、遺言執行者がいる場合に訴訟当事者は誰かについては、状況に応じて検討する必要があります。以下では、遺言執行者の役割や当事者適格について簡単に説明しつつ、遺言執行者が訴訟当事者となるか否かが問題となる場面について解説していきます。

遺言執行者の当事者適格

遺言執行者の法的立場と訴訟への関わり

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言の効力が生じた後に、遺言の内容を法的に実現する目的のために選任された者をいいます。遺言執行者は、法人でもなることが可能です。選任方法としては、遺言者の指定、遺言で委託された受託者による指定、家庭裁判所による選任があります。

このような遺言執行者が必要とされる背景は次のとおりです。

遺言がある場合、遺言をした人が死亡すると遺言の効力が発生します。そして、遺言の内容を実現させる必要がありますが、遺言をした人はすでに亡くなっています。そのため、遺言者に代わって遺言の内容を実現する人が必要となります。

通常、相続人が遺言の内容を実現する義務を負います。しかし、全財産を相続人以外の者に遺贈するなどといった遺言があった場合等、相続人の利益に反する遺言内容であれば、相続人が適切に遺言内容を実現してくれない恐れがあります。このような場合、相続人以外の人に遺言の内容を実現させたほうがよいと考えられます。

そこで、遺言の内容を実現するため遺言執行者を選任することができるのです。

遺言執行者の立場

では、遺言執行者はどのような立場で遺言内容を実現するのでしょうか。

遺言をした人の意思を実現する役割なので、遺言をした人の代理人という立場がぴったりですが、死亡した人の代理人になることはできません。また、遺言執行者が遺贈を実現しようとする行為などは、あたかも受遺者の代理人のようにみえます。しかし、民法では、遺言執行者が権限の範囲で行った行為は、相続人に対して直接、効力が生じるとされており(民法1015条)、効力的には相続人の代理人的な立場に立ちます。

遺言執行者の役割

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています(民法1012条1項)。他方、相続人は、遺言執行者がある場合、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1012条・1013条)

このように、遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており、民事裁判において原告又は被告となって本案判決を受けることができます。つまり、遺言執行者は自らが訴訟の当事者となって訴訟を担当します(法的訴訟担当

遺言執行者が訴訟当事者となる場面

遺言執行者と当事者適格

特定の訴訟物について訴訟の当時者として訴訟を追行して本案判決を求めることができる資格を当事者適格といいます。遺言執行者が当事者適格を有する訴訟がどのような訴訟であるかを考えるに際しては、遺言執行者がどのような権限を有しているのか検討する必要があります。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。つまり、その遺言執行者の権利義務は、あくまで遺言の内容を実現するために必要な範囲に限られているのです。

そのため、遺言執行者が訴訟当事者となるか否かについては、遺言の内容を実現するために必要な行為であるか否か又はこれに係る内容であるかという点が重要です。

  • 遺言の執行行為に関する訴訟
    • 遺言の内容を実現するための行為(遺言の執行行為)に関する訴訟について、遺言執行者は当事者となります。遺言の執行行為は、遺贈の目的物に対抗要件を具備させることや、遺贈の目的を引き渡すなどの行為です。例えば、受遺者が遺贈の目的についての所有権移転登記請求をする訴訟について、被告となるのは遺言執行者です。相続人は被告となることはできないので注意しましょう。
  • 遺言の執行のために必要な行為に関する訴訟
    • 遺言の執行のために必要な行為というと、遺贈の目的となっている物について第三者が占有している場合や第三者が登記しているような場合にこれらを排除する行為です。第三者による占有や登記を排除しなければ、受遺者に遺贈の目的を引き渡すことや移転登記をすることができないからです。なお、この場合、受遺者自身も所有権に基づき、第三者の占有や登記を排除することができます。例えば、遺贈の目的となっている不動産について無効な登記があり、この登記の抹消請求をする場合、遺言執行者を原告とすることができます。それと同時に、所有者である受遺者自身も原告になることができます。

遺言執行者の当事者適格が問題となる具体例

では、具体的にどのような訴訟で遺言執行者が訴訟当事者となることができるのかを解説していきましょう。

遺言無効確認の訴え

遺言の有効性に関して争いがある場合、相続人や受遺者は、遺言無効確認の訴えを提起することができます。

【遺言が無効となるケース】
遺言能力の欠陥:被相続人が遺言をした時点で遺言の内容を理解し、遺言の結果について理解できるだけの意思能力がなかった場合
遺言意思の欠陥:他人から騙されて誤解に基づいて遺言をした場合のように遺言意思がなかった場合
方式違背:夫婦で一つの遺言書を作成する等、方式違背がある場合

この遺言無効確認の訴えについて、遺言執行者は被告となることも、原告となることもできます。

なお、遺言無効確認の訴えにおいては、相続人、遺言執行者、受遺者に同一の趣旨の判決をしなければ目的が達せられないので、個別的に訴えることや訴えられることは可能ですが、一旦、訴訟当事者とされた後は弁論の分離等ができず、勝敗を一律に決します(類似必要的訴訟

包括遺贈に関する訴訟

包括遺贈の場合も、遺言執行者は遺言執行行為や遺言の執行のために必要な行為に関する訴訟について、訴訟の当事者となると解されています。

例えば、預金債権を含む財産全部を遺贈させる趣旨の包括遺贈がされた場合、遺言執行者が原告となって銀行に対して預金の払戻請求訴訟をすることができます(民法1014条3項、東京地判平成14年2月22日)

※かつては、包括遺贈の場合、遺言の効力が発生すると、受遺者は遺贈があったことを知ると否とにかかわりなく、遺贈された割合の権利義務を取得するので、遺言執行者の職務執行行為を観念することができないとして、遺言執行者は訴訟の当事者にならないという考え方があり、見解の争いがありました。

特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言に関する訴訟

特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言の場合、相続開始によりその特定の相続人が当該財産の所有者となります。これにより受遺者が所有者として権限行使すれば足りる場合が多く、遺言執行者の権限は限定的に解されています。

【具体
賃借権確認訴
被相続人Bの相続財産である不動産Aを相続人Cに相続させる趣旨の遺言があり、遺言執行者がいる事案で、Dが、被相続人Bが生前、不動産AをDに賃貸する賃貸借契約を締結していたと主張し、賃借権の確認訴訟を提起した場合、被告適格は、特段の事情がない限り、相続人Cであり、遺言執行者ではありません。

不動産登記に関する訴訟

相続を受ける相続人は、単独で自己名義に所有権移転登記をすることができるため、平成30(2019)年7月1日より前は、遺言執行者はこの登記手続きをする義務を負わないとされ、遺言執行者は、当該財産の所有権移転登記請求訴訟における当事者にはなりませんでした。

しかし、民法改正により平成30年7月1日以降、特定財産を特定の相続人に相続させる遺言があったときは、遺言執行者は、その特定の相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができるとされました(民法1014条2項)。したがって、遺言執行者は、特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言がある場合、当該財産の所有権移転登記請求訴訟における当事者になることができます。

預金の払戻しに関する訴訟

民法改正により、特定の預金を特定の相続人に相続させる遺言があった場合、遺言執行者は、対抗要件を具備させる行為のほか、預金の払戻の請求や(預金債権の全部が当該遺贈の目的である場合には)解約の申し入れができるようになりました(民法1014条2項)

遺言の実現が妨害されている場合

当該財産について遺言の実現が妨害されている場合、遺言執行者は遺言執行のために必要な行為として、妨害を排除することができます。

【具体例】
真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求訴訟
当該財産について、第三者に所有権移転登記がされているような場合、その第三者に対して当該相続人への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求をすることができます。

なお、本記事の冒頭のQ&Aの場面でも、遺言執行者は相続人に対して真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求をすることは可能であり、受遺者は遺言執行者に代位して相続人に対して当該請求について訴訟することも可能であると考えられます。ただ、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記によれば、本来の不動産の移転経緯と異なる形となってしまいます。

そのため、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記は、不真正な登記がされている間に抵当権等の登記がされてしまい、抵当権者が抹消に応じてくれない場合など、やむを得ない場合にのみ検討されるべきです。

相続債務の履行を求める訴訟

相続債務の債権者が、相続人に対して相続債務の履行を求める訴訟をして勝訴判決を得た場合、相続財産に対して強制執行をしようとすることが考えられます。しかし、遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産についての管理処分権限を持っていないため、債権者はこの勝訴判決によって相続財産に対して強制執行することができません。

そこで、債権者は、遺言執行者を相手として、遺言執行者の管理する相続財産の限度で支払を命じる判決を求める訴訟を提起することができ、この判決により、相続財産に対し強制執行が可能となります(東京高決平成13年11月19日)。

遺留分減殺訴訟

遺言執行者は、遺言執行が終了するまでの間、遺留分減殺訴訟の被告となることができます。

訴訟における当事者は、訴訟物である権利または法律関係について管理権を有するものでなければなりません。遺言執行者がいる場合、相続財産の管理、処分に関する訴訟についての訴訟追行権は遺言執行者に帰属し、相続人は訴訟追行権を失っており、遺言執行者のみが当事者適格を有します。

例えば、相続財産である不動産について遺留分減殺を原因とする所有権移転等の登記を求める訴えがあり、遺言執行者がいる場合、相続財産の管理、処分に関する訴訟といえるので、被告適格があるのは相続人ではなく、遺言執行者ということになります(東京高判平成5年5月31日)。

遺言執行者の報酬及び遺言執行費用の請求訴訟

遺言執行者は、相続人に対し、報酬や遺言執行費用を請求することができます。そして、これらについて訴訟となった場合、遺言執行者は訴訟の当事者となることができます。

遺贈の目的の管理に関する訴訟のうち遺言執行と必ずしも関係しないもの

遺言執行者の管理権は、遺言執行との関連がある範囲で認められるものです。そのため、遺贈の目的の管理に関する訴訟であっても、遺言執行と必ずしも関係ないものについて、遺言執行者は当事者適格を有しません。

遺贈の目的となっている賃貸不動産の賃料の収受など、遺贈の目的物から生じる果実の収受に関する行為は、受遺者が所有権に基づいて行うものであり、遺言執行者の権限には属さないと考えられます。そのため、遺贈の目的の管理処分や果実の収受に関する訴訟について、遺言執行者は訴訟当事者になりません。

遺言執行終了後の行為

遺言執行者は、遺言執行に必要な行為に限り権限があるので、遺言執行終了後の行為に関する訴訟の当事者適格はありません。遺言執行終了後に、相続人が遺贈を原因とする所有権移転登記の抹消を求める訴えを提起した場合、被告適格があるのは遺言執行者ではなく受遺者のみです(最判昭和51年7月19日)。

東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所

このように遺言執行者が権利義務を有するのは、遺言執行行為と遺言執行のために必要な行為に関するもののみです。この範囲の行為に関する訴訟であれば、遺言執行者は当事者適格を有すると考えることができます。ただ、この判断は複雑で難しいものがあります。相続や相続財産に関する争いが生じ、やり取りをしていたのに、その相手が当事者適格を有しない者であった場合、最終的な解決が遅れる可能性があります。

そのため、遺言執行者がいる場合、あらかじめ、誰を相手に請求等をするべきかを弁護士に相談することをおすすめします。

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