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弁護士コラム

特別受益者の相続分確認訴訟は可能?裁判手続きを弁護士が解説!

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年12月13日 | 
最終更新日:2024年12月13日
Q
共同相続人の間で、生前贈与を受けたかどうか、あるいは生前贈与の額などについて争いがある場合、特別受益者の相続分確認の訴訟が許されるでしょうか?
Answer
特別受益者の相続分の確認を求める訴えは、これまでの判例によれば、不適法として却下されています。特別受益に関する確認の訴えを提起して、仮に、ある財産が特別受益に当たることが確定しても、相続開始時の相続財産の範囲や価額が定まらない限り、具体的相続分が確定しないため、相続分をめぐる紛争を直接かつ根本的に解決することはできません。そのため、確認の利益がないと判断され、確認の訴えは認められません。

そこで、特別受益者の相続分が争われている場合、まず、家庭裁判所の遺産分割調停の中で、話し合いにより解決することが考えられます。この遺産分割調停の中で合意ができれば、特別受益の有無や特別受益の価額についても解決したことになります。

次に、遺産分割調停でも特別受益の有無や価額について合意ができない場合、家庭裁判所は事件を審判手続きに移します。審判では、家庭裁判所が、法律に従って、特別受益の有無や価額についての判断を示します。遺産分割審判に対し、当事者は即時抗告をすることができますが、即時抗告の期間(2週間)の満了により審判は確定します。審判が確定すれば、特別受益の有無や価額についての争いが解決したことになります。

この記事では、特別受益の確定と争いがある場合の手続き等について、詳しく解説していきます。また、持戻し免除の意思表示がある場合や、相続放棄と特別受益の関係、相続放棄と「相続分なきことの証明書(特別受益証明書)」との関係などについても解説していきます。

特別受益とは

特別受益」とは、被相続人から共同相続人に対してなされた「遺贈」や、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」として生前になされた「贈与」により得た特別の利益のことをいいます(民法903条1項参照)。

特別受益と具体的相続分の確定

共同相続人のうち一部の人に対し、被相続人(亡くなった方)が遺贈をすることや、生前に贈与をしていることがあります。この場合、その一部の相続人が相続する相続分と、他の相続人が相続する相続分が同じであると不公平です。そこで、民法は、共同相続人間の公平を図るために、特別な受益(贈与)があった場合、計算上、相続分を前渡ししたものとして、相続人が受けた贈与の額を相続財産の額に加算して相続分を算定することにしています(民903条)

具体的には、次のように具体的相続分が確定されます。

  1. 1相続開始の時に被相続人が有していた積極財産(債務を控除しないもの)の額に、相続人が受けた贈与(相続分の前渡しと評価されるもの)の額を加算して「みなし相続財産」を算出します。
  2. 2その「みなし相続財産」を基礎に、各共同相続人の相続分を乗じて各相続人の相続分(一応の相続分)を算定します(持戻し)。
  3. 3特別受益を受けた者については、②の額から特別受益分を控除し、残った額を特別受益者が現実に受ける相続分(相続開始時点での具体的相続分)とします。

特別受益に関する裁判手続き

特別受益があったのか否か、また、特別受益の価額などについて当事者間に争いがある場合、どのような裁判手続きをとればよいのでしょうか。

①遺産分割調停での解決

まず、家庭裁判所の遺産分割調停の中で、話し合いにより解決することが考えられます。遺産分割調停は、被相続人の遺産がどのようなものであるか(遺産の範囲)、遺産を相続人の間でどのように分けるかについて、裁判官と調停委員で組織される調停委員会が中立公正な立場で相続人らと関わり、話し合いで円満に解決することを目指す解決手段です。この遺産分割調停の中で合意ができれば、特別受益の有無や特別受益の価額についても解決したことになります。

では、遺産分割調停の中で合意できない場合はどうなるのでしょうか。その場合は「②遺産分割審判での解決」に移行します。

②遺産分割審判での解決

遺産分割調停でも特別受益の有無や価額について合意ができない場合、家庭裁判所は事件を審判手続きに移します。

審判では、家庭裁判所が、法律に従って、特別受益の有無や価額についての判断を示します。遺産分割審判に対し、当事者は即時抗告をすることができますが、即時抗告の期間(2週間)の満了により審判は確定します。審判が確定すれば、特別受益の有無や価額についての争いが解決したことになります。

③民事裁判での解決

このように、遺産分割調停や審判の中で特別受益について争うことができることがわかりました。

では、特別受益の有無や価額についてだけを通常の民事裁判で争うことができるのでしょうか。遺産分割は、家庭裁判所の審判事項であり民事訴訟の対象ではありません。この遺産分割の前提となる特別受益の有無や価額について、民事訴訟で争うことができるのか問題となります。

特別受益に関する民事裁判を提起する場合、仮に特別受益の有無や価額が確定しても、遺産分割をしない限り財産等を請求することはできないため、民事裁判の形態としては特別受益の有無や価額の確認を求める訴え(確認の訴え)をすることになると考えられます。

確認の訴え」は、原告が、請求の内容となっている権利関係についての存在または不存在を確認する判決を求めるものです。確認の訴えが適法と認められるためには、原告の法的保護に値する地位や権利について、危険や不安が現に存在し、その危険や不安を除去するために原告・被告間で訴訟物たる権利や法律関係の存否を判決により確定することが有効適切であること(確認の利益)が必要です。

しかし、特別受益に関する確認の訴えを提起して、仮に、ある財産が特別受益に当たることが確定しても、相続開始時の相続財産の範囲や価額が定まらない限り、具体的相続分が確定しないため、相続分をめぐる紛争を直接かつ根本的に解決することはできません。そのため、確認の利益を認めることは困難で、確認の訴えは不適法として却下される可能性が高いです。最高裁も、特別受益に関して提起された次の①②の具体的な確認の訴えについて、民事訴訟で争うことは不適法としました。

具体的な特別受益に関する民事裁判例

①最判平成12年2月24日・民集54巻2号523頁
特別受益を考慮して算定された具体的相続分の確認を求める訴えについて、確認の利益がなく、不適法と判断しました。
➡具体的には、具体的相続分は、遺産分割の前提となる計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するもので、それ自体を実体法上の権利関係とはいえない。具体的相続分は遺産分割審判事件等の前提問題として審理判断される事項であり、これのみを別個独立に判決によって確認する利益がないとしました。
②最判平成7年3月7日・民集49巻3号893頁
特定の財産が特別受益財産であることの確認の訴えについて、確認の利益がなく、不適法と判断しました。
➡「…ある財産が特別受益財産に当たるかどうかの確定は、具体的な相続分又は遺留分を算定する過程において必要とされる事項にすぎず、しかも、ある財産が特別受益財産に当たることが確定しても、その価額、被相続人が相続開始の時において有した財産の全範囲及びその価額等が定まらなければ、具体的な相続分又は遺留分が定まることはないから、右の点を確認することが、相続分又は遺留分をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならない。また、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかは、遺産分割申立事件、遺留分減殺請求に関する訴訟など具体的な相続分又は遺留分の確定を必要とする審判事件又は訴訟事件における前提問題として審理判断されるのであり、右のような事件を離れて、その点のみを別個独立に判決によって確認する必要もない。
以上によれば,特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法である。」 としています。

持戻し免除の意思表示がある場合

特別受益に該当する贈与等がある場合でも、被相続人が、生前、特別受益を遺産分割において持戻す必要がない旨を意思表示していれば、持戻し計算をする必要はないとされています。

この意思表示は、明示でも黙示でも構いません。ただ、黙示で持戻しの意思表示がされたか否かを認定するためには、被相続人が特定の相続人に対して、相続分以外に財産を相続させる意思を有していたことを推測させる事情があるか否かを検討する必要があります。このような認定について争いが生じることは想像に難しくありません。そこで、生前贈与や遺贈をする際に持戻し免除の意思があれば、遺言書等で明記しておくことをお勧めします。

相続放棄と特別受益

相続人は、相続をするかしないかについて、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内であれば、選択することができます。

相続放棄をした場合、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切、承継しません。また、特別受益も考慮されることはありません。

相続放棄と「相続分なきことの証明書(特別受益証明書)」との関係

共同相続人の一人が不動産を取得するなどの場合、不動産の所有権移転登記をする際に、民法903条により相続分がない旨の証明書(特別受益証明書あるいは相続分不存在証明書と呼ばれる書面)を作成することがあります。通達により、このような書面を登記原因証書とすることが認められています。

ここで注意が必要なのは、この特別受益証明書や相続分不存在証明書を作成したからといって、相続放棄をしたことにならないという点です。仮に被相続人に借金等債務があった場合、その負担は免れません。

相続放棄をするためには、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければならない点、しっかり理解しておきましょう。

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共同相続人の間で、生前贈与を受けたかどうか、あるいは生前贈与の額などについて争いがある場合、この部分だけを取り上げて民事訴訟をすることは困難です。当事者同士の話し合いで解決できない場合、遺産分割調停や遺産分割審判の中で、順を追って確定していく必要があります。

特別受益の有無や価額については、争いになった場合には調停が長引くことも考えられます。しかし、できるだけ早い段階で弁護士などの専門家に相談して事実関係を整理し、共同相続人間でしっかり説明をすることで早期解決が可能なケースもあります。できれば言い争いが生じる前の段階で、弁護士に相談するなどして話し合いを進めていくことをおすすめします。

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