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弁護士コラム

遺言書と異なる遺産分割協議は可能?遺産分割の対象と「相続させる」の効力とは

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年07月24日 | 
最終更新日:2024年07月24日
Q
父が亡くなり、母と私と妹が相続人です。
父は賃貸用にしている不動産を母に、自宅となっている不動産を私に、預貯金を妹に相続させるという遺言を残していました。
しかし、母は高齢のため、賃貸用物件の管理は難しい状態です。
そのため、三人で話し合った結果、母には当面の生活に必要な金銭を相続させ、私と妹で残りを分けようということになりました。

遺言がある場合でも、相続人で話し合って遺言に反する遺産分割をすることもできるのでしょうか?
Answer
特定の遺産を特定の相続人に相続させるという趣旨の遺言がある場合、それぞれの遺産は相続と同時にその相続人に直接帰属し、遺産ではないことになります。そのため、遺言で特定の相続人に相続させるとされている特定の遺産は、そのままでは当然に遺産分割の対象となる財産にはなりません。

しかし、すべての相続人が合意できれば、遺言と異なる内容で遺産分割をすることもできます。

ただし、相続人以外の受遺者がいる場合は、受遺者が遺贈を放棄しない限り、相続人全員の合意があっても遺言と異なる遺産分割をすることはできません。
また、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の同意も必要です。さらに、遺言書で一定期間の遺産分割を禁止している場合、その期間は遺産分割協議ができません。

本件では、遺言で第三者への遺贈がされておらず、遺言執行者も選任されておらず、また、遺産分割も禁止されていないため、相続人全員の合意があれば遺言と異なる内容で遺産分割をすることが可能です。

この記事では、遺言書がある場合の遺言書と異なる遺産分割の可否や方法について、また、「相続させる」という遺言の意味や効果について詳しく解説していきます。

遺言書と異なる遺産分割協議の可否

遺言書がある場合の原則と例外

遺言は被相続人の最終の意思表示として尊重されます。

遺言では、法定相続分と異なる相続分の指定や、現物分割、代償分割、換価分割またはこれらを組み合わせて分割するかという遺産分割の手段、土地を長男に、預貯金を次男になどという帰属などについて遺産分割方法の指定をすることができます。

そして、相続人らは遺言に従って相続するのが原則です。

しかし、被相続人の意思を尊重するといっても、被相続人が生前に予期した状況と異なる状況になっている可能性もあり、遺言に従った相続が困難な場合もあります。

そこで、一定の条件を満たす場合には、遺言と異なる方法で遺産を分割する協議や調停を成立させることができるとされています。

なお、自筆証書遺言であろうと、公正証書遺言であろうと遺言の種類によって遺言と異なる遺産分割協議の可否は変わりません。

遺言と異なる遺産分割をする条件

では、遺言の内容と異なる方法で遺産分割をするためには、どのような条件が必要なのでしょうか。
まず、①相続人全員の合意が必要です。
次に、②遺言で相続人以外の第三者に遺贈している場合、その遺贈を受ける者(受遺者)の合意が必要です。
また、③遺言が遺言の執行を要する内容であって遺言執行者がいる場合、遺言執行者の同意承諾が必要です。

なお、「相続させる遺言」によれば対象となる遺産は遺言の効力発生と同時に相続人に帰属すると解すれば、遺言執行の余地がないと考えられますので、遺言執行者がいる場合に同意が必要か否かが問題となります。この点については後で解説します。

さらに、④遺言で遺産分割を禁止していない必要があります。

遺言に納得できない相続人がいる場合

遺言と異なる遺産分割をする前提として、相続人全員が遺言の有効性に納得している必要があります。

しかし、例えば、遺言をした時点で被相続人の認知症が進行していて遺言能力がなかったと考えられるような場合や、被相続人の意思に反して遺言書が作成されていると考えられるような場合、相続人が遺言を有効とする前提に納得できない可能性があります。この場合、まず遺言無効確認訴訟を提起することなどを検討する必要があります。

また、遺言に従えば多くの遺産を受け取ることができる相続人が遺言と異なる遺産分割をすることに合意しないことも多いと考えられます。このような場合には、遺留分侵害額請求を検討するようにしましょう。

遺言と異なる遺産分割協議や調停の効力

遺言と異なる遺産分割協議や調停は、通常の遺産分割協議や調停と同様の効力があります。

しかし、相続人の中に一人でも遺言の存在を知らないまま、遺産分割協議が成立した場合、その遺産分割協議は無効となってしまいます。このような場合、相続人に錯誤があったとみなされるからです。

そのため、遺産分割協議書を作成する際には、遺言書が存在すること、遺言書の内容と異なる遺産分割協議に相続人全員(受遺者がいる場合は受遺者も含む)が合意していることを明記するようにしましょう。

なお、相続人の中に一人でも遺言の存在を知らないまま遺産分割協議が成立した場合であっても、遺言執行者が選任されている場合や遺産分割協議が禁止されている場合でない限り、相続人全員が、遺言書の存在を知った上で遺産分割協議を優先させる合意をすれば、遺産分割協議を有効とすることもできます。

遺言書と異なる遺産分割協議をする場合の注意点

遺言に従った遺産分割をしていない段階で、遺言と異なる遺産分割協議をする合意をした場合、税務上は、最終的に相続人全員が合意した遺産分割協議の内容に応じた相続税申告を行えば足り、余分な税金がかかることはありません。

国税庁HPのタックスアンサーNo.4176の概要では、「特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。」とあります。

しかし、既に遺言に従った遺産分割をした後に、相続人全員で遺言と異なる遺産分割協議をする合意をした場合、税務上、無償または理由のない移転がされたと認定されてしまいます。

当事者は個人であるため、贈与税の課税対象となる場合もあります。

また、所得税・不動産取得税・登録免許税などが課税される可能性もあり、注意が必要です。

相続させる遺言と異なる遺産分割と遺言執行者の同意の要否

原則

遺言書で遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者は相続財産についての管理処分権を有し、遺言内容を実現する義務があります。他方、相続人は遺言執行者の遺言執行を妨げることはできません。

しかし、相続人全員が遺言と異なる遺産分割を希望する場合、遺言の執行を強行すべきではないケースもあります。

そこで、遺言執行の余地のない場合を除き、遺言と異なる遺産分割協議や調停について、原則として遺言執行者の同意承諾を得た上で成立させる必要があります。

例外:遺言執行の余地のない場合

では、どのような場合に遺言執行の余地がないと言えるのでしょうか。

例えば、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる遺言」の場合、対象となる遺産は遺言の効力発生と同時に相続人に帰属すると考えられていますが、その遺言で遺言執行者が選任されている場合、遺言執行の余地がないと言えるのでしょうか。

この点、「相続させる遺言」であっても、対抗要件を具備するまで遺言内容を完全には実現していないとして、対抗要件の具備(例えば所有権移転登記)について遺言執行をする余地があるとする説もあります。

しかし、裁判例(東京高判平成11年2月17日)では、特定の遺産について相続人に「相続させる」旨の遺言がある場合、直ちに当該相続人に相続により所有権が帰属するため、遺言執行の余地がないと判断しています。

東京高判平成11年2月17日金判1068号42頁
相続人各自に遺産を相続させ、一部遺産については相続人に各3分の1ずつ相続させ、第三者にも遺贈するという遺言がある場合、遺産は遺言の効力発生と同時に確定的に相続人に帰属し、かつ、受遺者も遺贈の放棄をしているなど遺言執行の余地がなくなっている場合、遺言執行者があっても遺言と異なる遺産分割協議ができる。

ただ、この裁判例は民法改正前の事例です。

特定の相続人は登記なくして「相続させる」旨の遺言による物権変動を第三者に対抗できるとする判例に基づき遺言執行の余地がないと解していたと考えられます。

しかし現在は、民法改正により、遺言執行者は、遺言による権利移転について対抗要件を備えるために必要な行為をするなどの権限が付与されました(民法1014条2項・3項)。

そのため、遺言執行の余地がないとは言い難く、「相続させる」旨の遺言の場合でも、遺言と異なる内容で遺産分割協議や調停を成立させるためには遺言執行者の同意承諾を得たほうがよいと考えられます。

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遺言があれば、遺言に従うのが原則です。

しかし、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割協議や遺産分割調停を成立させることが可能です。

遺言の内容が現状にそぐわないものであれば、相続人全員で話し合って、よりよい遺産分割をすることができるのです。

ただ、遺産分割協議が成立した後に、その効力を争うことにならないよう、しっかりと遺言と異なる遺産分割をする旨を遺産分割協議書に明記するようにするなど注意が必要です。

遺産分割協議の期限はありませんが、相続税の申告期限などもあるため、早期に成立できるよう、弁護士等の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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