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弁護士コラム
祭祀財産の承継者は誰がなる?
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2023年07月19日 |
最終更新日:2024年02月20日
- Q
- 祭祀財産の承継者は、誰がなるものなのでしょうか?
- Answer
-
民法によれば、被相続人による指定があればそれにより、被相続人による指定がなければ家庭裁判所が指定することになります。
とはいえ、被相続人の遺族や関係者の協議によって円満に承継者が定まるケースがほとんどです。
本記事でわかりやすく説明します。
目次
祭祀財産の承継者は誰がなる?相続に強い弁護士が動画で解説
祭祀財産とは
祭祀財産とは、「系譜」、「祭具」、「墳墓」のことです(民法897条1項)。
民法の条文解釈の最高の権威書である「新版注釈民法(27)」によれば、
- 「系譜」⇒歴代の家長を中心に祖先以来の系統(家系)を表示するもの
- 「祭具」⇒祖先の祭祀、礼拝の用に供されるもの(位牌、仏壇、霊位、十字架やそれらの従物など)
- 「墳墓」⇒遺体や遺骨を葬っている設備(墓石・墓碑などの墓標、土倉のときの埋棺など)
であるとされています。
祭祀財産の承継者
民法897条1項は、祭祀財産は「前条の規定にかかわらず」「祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と規定しています。
ここで「前条の規定」とは、相続の承継方法を定めた民法896条を指しますので、祭祀財産の承継者は相続とは別の基準で判断されることになります。そのため、祭祀財産は遺産分割の対象とはなりませんし、祭祀承継者となった相続人の相続分が増えることもありません(東京高等裁判所昭和28年9月4日決定)。
民法897条は、「祖先の祭祀を主宰すべき者」の決め方についても規定しています。
それによると、被相続人が指定したときはその指定により、被相続人の指定がないときは慣習により、慣習がないときは家庭裁判所が指定することになります。被相続人の相続人であったり、被相続人と同じ氏であったりする必要はありません。
祭祀財産の承継者は、1人(単独承継)であることが多いものの、複数人(共同承継)であっても構わないものとされています。
被相続人による祭祀主宰者の指定
被相続人が祭祀主宰者を指定する方法は、被相続人の指定の意思が外部から推認されるものであればどのようなものでもよいとされています。
口頭でも書面でも、明示的でも黙示的でも、生前でも遺言でも、これらのいずれの方法でも構いません。
慣習による祭祀主宰者
「新版注釈民法(27)」は、これまで裁判所が祭祀主宰者を定める慣習の存在を認めたことはないとしています。というのは、慣習が成立するには長い年月を要するところ、家父長制を前提とするこれまでの日本の慣習が日本国憲法の成立によって断絶されたと考えられているからです。
家庭裁判所による祭祀主宰者の指定
祭祀主宰者を定める慣習の存在をこれまで裁判所が認めたことがない以上、被相続人による指定がなされていないときは、家庭裁判所が祭祀主宰者を指定することになります。
東京高等裁判所平成18年4月19日決定は、
「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である」 |
と判断しています。
この裁判例は
●東京高等裁判所によるものであること(東京高等裁判所の判例は、最高裁判所の判例を除けば我が国で最も権威があるものと考えられています)や
●新版注釈民法(民法の条文解釈における最高の権威書)が支持していること
から、最高裁判例が出るまでは上記の東京高等裁判所決定が示した基準に従って判断されることになるものと思われます。
相続放棄との関係
祭祀財産は相続財産とは区別されて承継されますので、相続を放棄した元相続人が祭祀主宰者となって祭祀財産を承継することは可能です。
前述したとおり、祭祀承継者となった相続人の相続分が増えることはありませんが、相続人ではない者が祭祀主宰者となったことを理由に特別縁故者として遺産の分与を受けた裁判例がいくつか存在します(高裁レベルにおいて、肯定する裁判例も否定する裁判例も存在します)。
まとめ
祭祀財産は相続財産とは全く別のものであり、その承継者は、相続人を決める基準とは全く別の基準によって決めることになります。
被相続人による指定がなされていればその指定によりますが、被相続人による指定がなければ、東京高等裁判所決定が示した基準によって裁判所が祭祀財産の承継者を指定することになります。
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