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弁護士コラム
【特別受益について徹底解説!】持戻免除の意思表示・計算方法
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年08月16日 |
最終更新日:2022年08月17日
- Q
- 被相続人の持戻免除の意思表示は、どのような方法でするのがよいでしょうか?
- Answer
-
法律上、特別受益の持戻免除の意思表示方法について、特に限定はありません。
口頭やメモなどであっても意思表示があれば有効です。しかしそれでは証拠が残らず、相続人間でトラブルが発生してしまうリスクが高まってしまいます。
持戻免除の意思表示は「遺言書に内容として盛り込む」など、確実に「被相続人が意思表示を行った」事実を残せる方法で行うのが良いでしょう。
また2019年7月1日から施行された改正民法により、一部のケースにおける持戻免除意思については「推定」されるようになったので、あえて持戻免除の意思表示をしなくても持戻計算は行われないことになりました。
具体的には「20年以上連れ添った夫婦間での居住用不動産」の贈与や遺贈が行われたケースに適用されます。この場合、贈与者(遺贈者)があえて「持戻計算をすべき」と意思表示しない限り、持戻免除意思が推定されるので持戻計算が適用されません。
目次
特別受益と持戻計算
今回のご質問は「特別受益の持戻計算」に関するものです。
こういった言葉を聞き慣れない方も多くおられるでしょう。
まずは「そもそも特別受益とは何なのか」、「持戻計算やその意思表示にはどういった意味があるのか」、基本事項をご説明します。
特別受益とは
特別受益とは、被相続人によって特定の相続人が受けた特別な利益をいいます。
具体的には以下のような贈与や遺贈が特別受益に該当します。
- 遺贈
- 生計の資本としての贈与
- 婚姻や養子縁組のための贈与
具体的には、以下のような場合に特別受益が成立します。
- 特定の相続人へ遺贈が行われた
- 子どもが結婚するとき、親が高額な持参金をもたせた
- 長男が居住するための不動産が親から贈与された
- きょうだいの中で1人だけ大学に進学して留学したり大学院に行ったりして高額な学費がかかった
- きょうだいの中で1人が独立するとき、親が高額な資金を出した
上記はあくまで例であり、他にも特別受益が成立する場面はたくさんあります。
「こういった贈与も特別受益に該当するのか?」と迷われたときには、弁護士へ相談してみてください。
持戻計算とは
持戻計算とは、特定の相続人に特別受益が成立するとき、その相続人の遺産取得割合を減らすための計算方法です。
特別受益を受けた相続人がいる場合、一般原則とおりに遺産相続させると不公平になってしまいます。そこで特別受益を受けた分はその相続人の遺産取得割合から減らす必要があります。
そのために行う計算方法が特別受益の持戻計算です。
持戻計算を適用すると、特別受益を受けた相続人がいてもその相続人の遺産取得割合が減って他の相続人の取得割合が増えるので、結果的に公平に遺産相続しやすくなります。
特別受益持戻計算の具体例
具体的な計算例で特別受益の持戻計算を理解しましょう。
遺産額が3000万円、相続人は子ども3人。長男へ600万円分の贈与が行われたケース
STEP1
まずは遺産額3000万円に対し、長男へ贈与された600万円を加算します。
すると遺産分割の対象となる財産額は3600万円となります。
STEP2
次に3600万円を法定相続分に応じて割り付けます。
すると子ども1人1人の相続割合は1200万円ずつとなります(3600万円×3分の1)
STEP3
長男はすでに600万円を受け取っているので、1200万円から600万円を引き算します。すると長男の遺産取得分は600万円となります。
次男や三男は贈与や遺贈を受けていないので、1200万円ずつ遺産を取得できます。
結果的にこの事案では以下のとおりに遺産分割を行います。
- 長男が600万円
- 次男が1200万円
- 三男が1200万円
長男は600万円分の贈与を受けていますが、遺産分割時に特別受益の持戻計算を適用することにより、600万円が差し引かれて公平に遺産分割ができます。
特別受益の持戻計算を行わなかった場合
もしも上記のケースで特別受益の持戻計算を行わなかった場合、長男と次男、三男はそれぞれ1000万円ずつ遺産を取得する結果となります。
長男は600万円もらっているのにさらに1000万円もらえることになりますし、次男と三男は何ももらっていないのに長男と同じ1000万円しかもらえません。
次男や三男にとっては不公平感の残る遺産分割方法となります。
特別受益の持戻計算を主張する方法
遺産分割に特別受益の持戻計算を適用するには、具体的にどのような手続きをとれば良いのでしょうか?
この場合、特別受益の持戻計算を適用したい相続人が遺産分割の際に「持戻計算を適用すべき」と主張しなければなりません。誰も何も言い出さなければ一般原則通りに法定相続分が適用される可能性が高いでしょう。
たとえば上記のケースでは、次男または三男が遺産分割協議の際に「長男の受けた贈与について特別受益の持戻計算を行ってほしい」と主張する必要があります。
その後、兄弟3人で話し合って全員合意できれば特別受益も持戻計算を適用した遺産分割が可能となります。
このように、特別受益の持戻計算は「100%必ず適用されるものではない」ので注意すべきです。
遺産分割協議が成立しない場合には調停や審判になる
受益を受けた相続人が納得しなければ遺産分割協議で特別受益の持戻計算を適用できません。協議によって解決できない場合には、家庭裁判所で「遺産分割調停」を行う必要があります。
調停でも合意できない場合、遺産分割は「審判」となって審判官が遺産分割方法を指定します。審判で当事者が特別受益の主張をしていれば、審判官は特別受益が成立するかどうかを判定します。
そのうえで、特別受益がある場合には持戻計算を考慮して遺産分割方法を決定します。
特別受益が争いになると、相続人間の意見が合致せず調停や審判などの法的トラブルに発展するケースが少なくありません。相続が「争族」となってしまう典型的なパターンです。お困りの場合には弁護士へ相談しましょう。
持戻免除の意思表示とは
特別受益の持戻計算は、被相続人の意思によって免除できます。
遺贈や贈与は被相続人の希望によって行われるものであり、法律があるとしても被相続人の希望を尊重すべきだからです。
被相続人が「特別受益の持戻免除の意思表示」をすれば、特別受益の持戻計算は行われません。受益を受けていない相続人が「特別受益の持戻計算をしてほしい」と希望しても、そういった希望は実現されないのです。
持戻免除の意思表示の方法
特別受益の持戻免除の意思表示はどのようにして行えば良いのでしょうか?
法律上、「このようにしなければならない」という明確なルールはありません。理屈としては、口頭やメモなどの簡易な方法でも有効です。
もしも口頭で特別受益の持戻免除が行われ、相続人全員が「確かに免除されている」と納得すればそういった方法でも問題になりません。
しかし現実として、口頭で特別受益の持戻免除が行われたとしても受益を受けていない相続人は納得し難いでしょう。
「実際には免除など行われていない」と主張され、トラブルが大きくなってしまうリスクが高まります。そこで特別受益の持戻免除意思は「明確に証拠が残る方法」で行うべきです。
具体的には「遺言書」の一内容として盛り込むのがもっともわかりやすく関係者も納得しやすいでしょう。
被相続人の立場として、特別受益に絡む相続トラブルを避けたい場合には遺言書に「特別受益の持戻計算は免除する」とはっきり記載しておくのがおすすめです。
また遺言書の方式としては公正証書遺言の利用を推奨します。自筆証書遺言や秘密証書遺言は無効になってしまうケースも多いためです。公正証書遺言であれば公証人が職務として作成するので、要式違反で無効になるおそれがほとんどありません。
特定の相続人へ遺贈したり贈与したりするなら、公正証書遺言に特別受益の持戻計算免除意思を明らかにしておくのが相続を回避するポイントになります。
特別受益の持戻計算と遺留分の関係
特別受益の持戻計算に関しては「遺留分」との関係も押さえておくべきです。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められる最低限の遺産取得割合をいいます。
遺留分を侵害する贈与や遺贈が行われると、侵害された相続人(遺留分権利者)は侵害者に対し、「遺留分侵害額請求」ができます。
遺留分侵害額請求が行われると、侵害者(請求された相続人)は遺留分権利者へ「遺留分侵害額」というお金を払わねばなりません。
特別受益が成立すると、遺留分侵害額請求が起こる可能性があります。
遺留分侵害額は以下のような場合に請求できるからです。
- 遺贈
- 特別受益が成立する贈与(ただし相続開始前10年以内のもの)
- 相続開始前1年以内に行われた贈与
- 遺留分権利者を害すると知って行われた贈与
遺留分侵害額請求が起こると、受贈者や受遺者は権利者へ遺留分侵害額を返還しなければなりません。これは特別受益の持戻計算とは異なります。たとえ特別受益の持戻免除の意思表示をしていても、遺留分侵害額請求をされたら金銭を支払わねばなりません。
遺言書で特別受益の持戻免除をしていても遺留分トラブルは防げないといえるでしょう。
遺留分対策としては別途検討が必要です。
たとえば受贈者や受遺者に生命保険金を受け取らせるなどの対策法が考えられます。
相続を防ぐ方法について悩まれたときには、一度弁護士などの専門家に相談してみてください。
民法改正による持戻免除意思の推定とは
特別受益の持戻計算を免除するには、被相続人(予定)が遺言などで「特別受益の持戻免除」を表示しなければならないのが原則です。
意思表示がなかったら、特別受益の持戻計算が適用されてしまいます。
ただし一定の贈与の場合、被相続人がわざわざ特別受益の持戻免除の意思表示を行う必要がありません。持戻免除意思が「推定」されるので、特別受益の持戻計算は行われないのです。
遺産分割協議において受益を受けていない相続人が「特別受益の持戻計算を適用すべき」と主張しても適用できませんし、審判になっても特別受益の持戻計算は原則的に行われません。
特別受益の持戻免除意思が推定される贈与とは
特別受益の持戻免除意思が推定される贈与は「20年以上連れ添った配偶者間での居住用不動産の贈与」です。
法の趣旨としては、高齢となった配偶者がパートナーに先立たれたときに家を失うのを回避するための配慮の側面が大きくなります。
特別受益の持戻免除意思の推定規定を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 配偶者間の贈与であること
- 贈与されたのが居住用不動産(自宅)であること
- 20年以上婚姻期間があること
子どもへの贈与や居住用不動産以外の財産の贈与には特別受益の持戻免除意思が推定されません。また配偶者の関係は「20年以上連れ添ったこと」が要件となります。
婚姻期間が足りない場合には特別受益の持戻計算が適用されてしまうので、注意しましょう。
特別受益の持戻免除意思推定の効果
特別受益の持戻免除意思の推定規定が適用されると、具体的にどのような効果があるのでしょうか?
この場合、被相続人が「特別受益の持戻免除意思をもっていた」事実が「推定」されます。
よって原則的に特別受益の持戻計算が行われません。
ただし、被相続人自身があえて「特別受益の持戻計算をすべき」と意思表示した場合には推定が崩れます。よって20年以上つれそった配偶者間の居住用不動産の贈与にも特別受益の持戻免除が適用されます。
つまり特別受益の持戻免除意思の推定規定は、従来規定の原則と例外を転換させるものです。
特別受益の持戻免除意思が推定される場合
特別受益の持戻免除推定される場合に被相続人があえて「配偶者への家の贈与に特別受益の持戻計算を適用すべき」と考えるなら、遺言書などで「配偶者への家の贈与には特別受益の持戻免除をしない(特別受益の持戻計算を適用すべき)」と意思表示しておく必要があります。
そういった意思表示が明らかにならない限り、配偶者への家の贈与には特別受益の持戻計算が行われず、配偶者は贈与に足して法定相続分までの遺産相続が可能となります。
特別受益の持戻免除意思が推定されない場合
子どもへ不動産やお金を贈与した場合など、特別受益が成立する一般的なケースでは、特別受益の持戻免除を行うのが原則です。
被相続人が「特別受益の持戻計算を適用したくない」と考えるなら、遺言書などで「特別受益の持戻計算を行わない」と意思表示しなければなりません。
改正法が施行された時期
20年以上連れ添った配偶者に対する居住用不動産贈与の場合に特別受益の持戻免除意思が推定される規定がもうけられたのは、近年の改正民法です。
施行日は2019年7月1日なので、それ以降に発生した相続のケースで特別受益の持戻計算免除意思の推定が及ぶようになります。
2019年6月30日までの相続では、20年以上連れ添った配偶者への居住用不動産贈与であっても、特別受益の持戻免除意思が推定されません。他のケースと同じように、免除意思が明らかにならない限り特別受益の持戻計算が適用されてしまうので、注意が必要です。
特別受益が問題になる相続の注意点
特別受益が問題になる相続事案では、相続トラブルが発生しやすいので関係者は慎重に遺産分割を進める必要があります。
そもそも受贈者が特別受益を認めないケースが多数ですし、特別受益を認めたとしても、どのくらいの受益があったのか「評価」でもめてしまうケースが少なくありません。
結果として相続人同士の意見が合わず調停や審判となり、数年以上ももめてしまう事案が多々あります。
親の生前は仲の良かった兄弟姉妹でも、相続トラブルが長引くとお互いに憎しみ合い、絶縁してしまう事例も多数みられます。
相続トラブルを避けるには弁護士へ相談を
なるべくスムーズに争いを少なくして遺産分割を進めるには、客観的かつ冷静に判断できる弁護士に対応を相談するのがおすすめです。弁護士に遺産分割協議の代理を依頼すると、当事者同士で直接話し合う必要もなくなり、感情的な対立を防ぎやすくなります。調停や審判も有利に進められる可能性が高くなるので、困ったときには弁護士へ相談してみましょう。
ただし相続トラブルをソフト・ランディングさせるには、一定のスキルが必要です。弁護士の中でも相続関係に積極的に取り組んでいる専門家を選べばトラブルが生じにくくなるでしょう。
お困りの際、悩まれた際は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
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