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弁護士コラム

熟慮期間中の相続財産の管理義務とは?具体的な管理の内容・相続放棄した後の流れを解説

相続放棄
投稿日:2022年07月26日 | 
最終更新日:2022年07月26日
Q
3ヶ月の熟慮期間中、相続財産は誰がどのように管理するのでしょうか?
また、具体的にどのような管理が求められるのでしょうか?
Answer
3ヶ月の熟慮期間中の相続財産の管理は相続人が行います。
しかし熟慮期間中は、被相続人の相続財産を相続人の固有財産とは別に管理します。
相続人が複数人いる場合は、全員で共同して管理することになるため、注意してください。

熟慮期間とは

相続をする際に必ず知っておきたい言葉が「熟慮期間」です。熟慮期間を知らなければ、相続の方法が自動的に単純承認になってしまうことになりかねません。そうした事態を避けるためにも、本項目で紹介する「熟慮期間」についてしっかりと認識しておきましょう。

相続の方法を決める期間

熟慮期間とは、相続人が相続放棄や限定承認をする際に、家庭裁判所に申述するまでの期間です。熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヶ月以内と定められています。

相続の方法を決める際は、熟慮期間である3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述しましょう。もし熟慮期間内に申述が難しい場合は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てをすれば延長することが可能です。

手続きの詳細については最高裁判所のウェブサイト相続の承認又は放棄の期間の伸長 | 裁判所 (courts.go.jp)に記載されていますので、必要に応じて確認してください。

何もせず熟慮期間が経過した場合どうなる?

熟慮期間の延長の申立てをせず、期間内に相続の方法を決めなかった場合は、「単純承認を選択した」とみなされます。そのため相続放棄や限定承認を選択したい方でも、何もせずに熟慮期間が経過すれば単純承認となるのです。

単純承認を選択すれば、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を全て引き継ぐことになります。相続放棄・限定承認を希望する場合は、必ず熟慮期間内に家庭裁判所へ申述をしましょう。

熟慮期間が開始するのはいつ?

ここでは熟慮期間が開始するタイミングについて、以下の2つのテーマに沿って見てみましょう。

●「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは

●相続人が複数いる場合

「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは

熟慮期間が開始するタイミングは、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」です。

具体的には、以下の2つを知ったときに、熟慮期間が開始します。

●相続開始原因

●自身が相続人であることを知ったとき

1つ目の相続開始原因とは被相続人が死亡したこと、または失踪宣言のことを指します。

2つ目の「自身が相続人であることを知ったとき」とは、相続人の先の順位に応じて相続放棄・死亡を知ったときのことを指します。

以上をまとめて、熟慮期間が開始するのは、「被相続人の死亡または失踪宣言を知り、自身が相続人であることを知ったとき」とおぼえておきましょう。

相続人が複数いる場合

相続人が複数人いる場合、熟慮期間が開始するタイミングは、被相続人が亡くなった事実に加えて、自己が相続人であることを知った時です。

そのため、相続人が複数人いるからといって、すべての相続人が同時に熟慮期間を迎えるということにはならないのです。それぞれの複数人で別々に進行する場合もあることを頭に入れておきましょう。

【コラム】

再転相続があった場合の熟慮期間について最高裁は、再転相続の場合に必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、再転相続人たる地位そのものに基づき、第1相続と第2相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきであるとしました。

熟慮期間中の相続財産の管理義務とは

熟慮期間の意味や開始時期は知っているものの、熟慮期間中の相続財産を誰が管理するのかを知っておくことも大切です。

基本的に、熟慮期間中の財産管理は相続人が行います。しかし、相続人が存在しない場合は、相続財産管理人を選定することも可能です。ここでは、熟慮期間中に管理義務がある理由と、管理の内容について詳しく見てみましょう。

熟慮期間中に管理義務がある理由

熟慮期間中に相続財産を管理する義務がある理由は、相続財産が管理者不在の財産として放置される可能性があるからです。

また、熟慮期間中の管理義務は、相続の放棄を選択した者に適用される場合もあります。

具体的には、相続人Aが相続放棄を選択したものの、他の相続人がすぐに相続財産の管理を始められない場合です。他の相続人、次の相続人、相続債権者などの利益を守るために、相続人Aが相続放棄を選択したとしても、放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始められるまでは、相続人Aが相続財産の管理を継続しなければなりません。

熟慮期間中に相続放棄を選択したとしても、相続財産を管理し続けなければならないケースがあることを頭に入れておきましょう。


「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」(民法940条1号)。

最終順位の相続人全員が相続放棄をしてしまった場合には、相続財産管理人選任の申立てをして、相続財産管理人に管理を引き継ぐ以外、相続財産の管理義務を免れる方法はありません。

求められる管理の程度は?

求められる管理の程度は、民法918条1項で、次のように定められています。

「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければならない」

「固有財産におけるのと同一の注意」とは、「自己の財産に対するのと同一の注意」(民法659条)、「自己のためにするのと同一の注意」(民法827条)と同じ意味であり、自己の財産に対する注意義務をもって管理を行えば足りるということです。

相続財産の管理の内容

ここでは相続財産管理の内容として、次の4つを紹介します。

  • 保存行為
  • 利用行為
  • 改良行為
  • 熟慮期間中の債務の返済

管理人になったからといって、相続財産を自由に扱えるわけではないため、注意しましょう。

なお、相続財産の一部を処分すると単純承認とみなされ、限定承認や相続放棄が選択できなくなります。

保存行為

保存行為とは、相続財産の価値を下げずに現状のまま維持するために必要な行為のことです。

具体的には、期限が迫っている被相続人の借金の弁済や、腐敗しやすいものを処分する行為などが保存行為に該当します。

上記の行為以外であっても、財産の現状維持のために必要な行為と認められれば、相続財産の処分行為には該当しません。

利用行為

利用行為とは、財産の収益を図る行為のことです。

具体的には預金で利息を得たり、物を貸したりする行為が該当します。つまり、財産の性質を変えない範囲内で価値を増加させることを指します。

相続財産を売却して利益を得ることは処分行為に該当し、権利外となるため注意しましょう。処分行為をする際は、家庭裁判所に対して申立てをする必要があります。

改良行為

改良行為とは、財産の価値を上げるための行為のことです。

具体的には、建物の価値を上げるために、例えば建物にエアコンを付ける契約を結ぶことなどです。

他にも屋根に造作を加えることなども、法律上の行為となります。

熟慮期間中の債務の弁済

熟慮期間中に被相続人の債務を弁済する場合は、被相続人の預金などを使用して行ってはいけません。

被相続人の預金を使用して債務を支払った場合は、相続財産の一部の処分に該当し、相続放棄ができなくなります。

そのため債務の弁済をする場合は、相続人自身の預金を使用しなければなりません。

知っておくべき「相続財産の保存に必要な処分」とは?

前述のとおり、相続人や管理人であっても、相続財産を家庭裁判所の許可なしに処分することはできません。

処分をしたい場合は家庭裁判所に申立てをする必要がありますが、場合によっては保存に必要な処分として、家庭裁判所が処分を命じることがあります。

ここでは保存に必要な処分の具体的な内容について見てみましょう。

「保存に必要な処分」の具体的な内容

保存に必要な処分は主に次の5つが想定されます。

  • 相続財産の封印
  • 換価その他の処分禁止
  • 占有移転禁止
  • 財産目録の調製と提出命令
  • 相続財産管理人の選任

それぞれの具体的な内容を見てみましょう。

1:相続財産の封印

財産の封印とは、管理を確実にするための行為です。

2:換価その他の処分禁止

換価その他の処分禁止とは、債権者に対して差押財産を金銭に変えたり処分したりすることです。被相続人のものは、管理者であっても処分したり売却したりすることはできません。

3:占有移転禁止

占有移転禁止とは、他の人に占有を移転されないためのものです。特定物の占有状態の現状維持を目的としています。これにより、他の者が占有を取得したとしても強制執行が可能です。

4:財産目録の調製と提出の命令

財産目録とは、相続財産の内容が一覧でわかるようになっているものです。

財産目録の作成自体は義務ではないものの、家庭裁判所へは提出しなければなりません。

5:相続財産管理人の選任

管理人が遠方に住んでいる場合、財産管理を適切に行うことは難しいでしょう。その場合は家庭裁判所で相続財産管理人を選任し、財産を引き渡して管理をしてもらいます。

「保存に必要な処分」が命じられるまでの流れ

「保存に必要な処分」は、相続人による請求もしくは検察官の請求により命じられます。

家庭裁判所からの命令でされるイメージがあるかと思われますが、実は相続人自身が家庭裁判所へ請求することも可能なのです。

相続放棄を選択しても管理義務は残る

「熟慮期間中の相続財産の管理義務とは」の項目でもご紹介しましたが、相続放棄を選択しても管理義務は残ります。

具体的にどのような場合に、相続放棄を選択しても管理義務が残るのか、またいつまで管理しなければならないのかについて紹介します。

次の相続人が相続財産の管理を始めるまで

相続放棄をして管理義務が残るのは、次の相続人が相続財産の管理ができない場合です。そのため、次の相続人が相続財産の管理ができるようになれば、管理義務は無くなります。

複数の相続人がいる場合は、熟慮期間が異なることがあることを頭に入れておきましょう。

「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」を軸に考えればイメージしやすいでしょう。

管理義務が残る具体的なケース

相続放棄をしても管理義務が残るのは、具体的には次のような場合です。

●相続人が1人しかおらず後順位の相続人がいない

●複数の相続人が全員相続放棄を選択した

上記の場合には財産管理義務が残ります。

複数の相続人が全員相続放棄を選択した場合は、最後に放棄した相続人が遺産を管理しなければなりません。

相続放棄に関するトラブルは多いものです。トラブルを防ぐためにも、複数の相続人がいる場合は、財産管理について話し合っておくこと、あるいは弁護士等の専門家に相談することすることもおすすめします。

財産を管理しなかった場合どうなるのか

財産管理には難しいイメージが有るため、できれば管理したくない方もいるでしょう。

財産管理を行わないことには、次の3つのリスクがあります。

●損害賠償を請求される

●事件に巻き込まれる

●相続放棄の効果がなくなる可能性がある

きちんと管理しなかったために財産が壊された場合、債権者が債権回収できなくなったり、遺産をもらえなかったりする可能性が生じます。さらに管理を行わなかった原因であるとし、損害賠償をされるリスクもあります。

財産管理を行わなかったことで負傷者が発生した場合は、その負傷者からも損害賠償請求されることがあるため、適切な管理をしておきましょう。その他にも、財産である家が犯罪に利用されると共犯を疑われたり、勝手に遺産を処分されて相続放棄の効果がなくなったりすることもあるため、財産管理はしたほうが良いでしょう。

相続放棄者が管理を免れる2つの方法

相続放棄者が管理を免れるには2つの方法があります。

●次の相続人に管理を引き継ぐ

●相続財産管理人を選任する

1:次の相続人に管理を引き継ぐ

相続放棄をしても管理が発生する期間は、次の相続人が管理を始めるまでとなります。そのため、次の相続人がいる場合は、その方に財産を引き渡せば、管理をする必要はありません。

相続人が複数人いる場合は、全員が相続放棄をすれば最後の相続人が管理する必要が出てくるため、事前に話し合いをするのがおすすめです。

2:相続財産管理人を選任する

全員が相続放棄を選択した、もしくは相続人が1人しかいない場合は、後順位の相続人に管理をしてもらうことはできません。

その場合は、家庭裁判所で「相続財産管理人」を専任する必要があります。

相続財産管理人に財産を引き渡すことで、「相続放棄を選択したのに管理しなければならない」といったことを防ぐことができます。

まとめ

本記事では、熟慮期間中の財産の管理義務についてご紹介しました。財産管理を一歩間違えると、処分行為として単純承認とみなされる可能性もあります。また、財産管理を放置し続けることは、犯罪に巻き込まれたり損害賠償を請求されたりといった事態に発展する可能性もあります。

相続人が管理するのが難しい場合は、相続財産管理人を専任するようにしましょう。とはいえ費用を払うのが難しいと自己判断で行動するのもリスクがあります。その際は、被相続人の生前に被相続人自身が売却や寄付する方法も考えられます。

相続財産には難しいイメージがあるものの、しっかりと調べたり専門家に相談したりすることでトラブルを防げます。わからない方は弁護士へ相談してみることをおすすめします。

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