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弁護士コラム
生前の相続放棄は無効!その理由や、代わりとなる3つの手段をご紹介
- 相続放棄
- 投稿日:2022年07月26日 |
最終更新日:2024年03月14日
- Q
- 被相続人との間で、生前に相続放棄の契約を締結していたのですが、有効なのでしょうか?
- Answer
-
被相続人と生前に締結した相続放棄の契約は、無効です。
たとえ契約が被相続人の意思を尊重したものであったり、契約書を作成していたりしたとしても、法的効力はありません。
相続放棄を選択するには、自己が相続人であることを知って3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てなければならないため、生前に行うことはできないのです。
生前の相続放棄契約ができてしまえば、被相続人が相続人に対して強制的に相続放棄をさせることが可能になり、さまざまな問題が起こる可能性が高くなります。
そうした事態を防ぐために、生前の相続放棄契約はできないのです。
目次
相続放棄とは
親や子供、親戚の方が亡くなった際に覚えておきたい「相続放棄」。
被相続人が亡くなった場合は、相続人はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことができます。「借金があっても相続放棄を選択すればいい」「相続トラブルに関わりたくない場合は相続放棄をしたほうがいい」といった言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか。
しかし相続放棄について詳しく理解しきれていない方も多いでしょう。
ここでは相続放棄の意味と、それ以外の相続方法である単純承認、限定承認についてご説明します。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の財産の所有権を全て放棄することです。
財産と聞くと遺産などのプラスの財産を想像される方が多いと思いますが、財産にはマイナスの財産も含まれています。
そのため相続放棄では、債務のようなマイナスの財産も同様に放棄します。
つまり相続放棄を選択すると、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産全てに関して、自身に所有権が無くなるということです。
相続放棄は生前に相続人と被相続人の間で合意のもとで行ったとしても、法的効力はありません。
自己が相続人であることを知って、熟慮期間である3ヶ月以内に家庭裁判所に書類を提出することによって認められます。
相続放棄と単純承認の違い
相続方法の1つに、単純承認というものがあります。
相続放棄とは、相続人が被相続人のプラスの財産・マイナスの財産、すべての財産の所有権を手放すことです。
一方の単純承認とは、相続人が被相続人のプラスの財産・マイナスの財産、すべての財産を引き継ぐことです。
全ての財産の所有権を手放すか、全てを引き継ぐのかという違いです。
弁済できないほどの債務があれば相続放棄を選択し、債務があるが弁済できる場合や、どうしても引き継ぎたい財産があるような場合は、単純承認を選択することもあるでしょう。
しかし、相続財産を処分したり熟慮期間内に手続きをしなかったりすると、相続放棄が選択できなくなります。その場合は自動的に単純承認を選択したことになるため(法定単純承認)注意しましょう。→法定単純承認の記事はこちら。
相続放棄を選択したい場合は、被相続人の財産をいじることはせずに、熟慮期間内に手続きを行ってください。
相続放棄と限定承認の違い
相続方法には先程紹介した単純承認の他にも、「限定承認」というものがあります。
限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法のことです。
つまり被相続人の借金が4000万円あったとしても、プラスの財産が300万円であれば、弁済しなければいけない借金は、プラスの財産の金額の300万円となります。
被相続人の借金額が明らかでない場合は、限定承認を選択することによって、後から借金が発覚して払わなければらならない事態を防ぐことができます。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄のメリットは次の2つです。
- 1被相続人の借金を弁済せずに済む
- 2相続トラブルを避けることができる
相続放棄最大のメリットの1つが「被相続人の借金を弁済せずに済む」ことです。
被相続人に借金があった場合は、相続人が借金を弁済しなければなりません。さらに借金の弁済が滞っていれば、遅延損害金も支払う必要があります。
多額の借金であれば弁済することが難しいので、その場合、相続放棄を選択することで借金を払わずに済みます。
当然マイナスの財産だけではなくプラスの財産を引き継ぐことができなくなり、相続人ではなくなりますが、負債を相続することや相続トラブルを避けることができます。
たとえ仲のいい親族でも、相続トラブルは起こる可能性があるため、相続放棄によってそのリスクを避けることができるのも大きなメリットでしょう。
しかし、相続放棄を選択すると次の相続人が弁済などをする必要が発生し、そこからトラブルに発展する恐れもあるため、自身が相続放棄をする際は事前に連絡をしておくのが無難です。
一方で、相続放棄のデメリットは次の2つです。
- 1すべての財産を手放さなければならない
- 2場合によっては相続放棄が認められないことがある
相続放棄を選択すると、被相続人の財産の所有権を全て手放す必要があります。被相続人が一緒に住んでいた親であるような場合は、テレビ、電化製品などは全て持ち出せません。
もし家が親名義であれば、家に住むこともできなくなります。
もし親のものを売却したり、財産の形を変えたりすると相続放棄は認められませんので、相続放棄を選択したい場合は注意が必要です。
また、一度相続放棄を選択した場合は、撤回や取り消しは、民法に定められた一定の事由(民法96条等)を除いては、原則としてはできないため慎重に行うことが必要です(民法915条1項)。
なお、家庭裁判所の実務においては、相続放棄の申述書が家庭裁判所に提出されてから受理されるまでに一定の時間がかかる場合があることに鑑み、相続放棄の申述が受理されるまでは相続放棄の申述の撤回(取下げ)は認められています。
生前の相続放棄契約は無効
子どもや妻など複数の相続人がいる場合、特定の人に財産を相続させたいという場合があるでしょう。
その場合、生前に契約を締結しようという方が多いと思います。
しかし、生前の相続放棄契約は無効です。
書類を書いたとしても、お互い合意の上であったとしても、生前の相続放棄契約は全て無効となります。
ここでは相続放棄契約とは何なのか、生前に相続放棄を選択することが、無効となる理由を詳しく見てみましょう。
相続放棄契約とは
相続放棄契約とは、相続が発生した場合に、相続放棄をしてもらいたい相続人に対して相続放棄をする約束のことです。
一般的に、相続放棄は自己が相続人であることを知って3ヶ月以内に、手続きを行う必要があります。
しかし相続人は法定順位で決まり、自身が引き継ぎたい相続人を選ぶことはできません。
そこで特定の人に相続を引き継ぎたい場合や財産を引き継ぎたくない場合に、相続放棄契約を結ぶ方がいるのです。
相続放棄は生前に行うことはできない
お互い合意の上で相続放棄契約を行う、もしくは契約書や念書を作成していたとしても、法的効力はなく無効になります。
たとえ推定相続人が承諾して相続放棄をしたいと思っていても、同様です。
生前の相続放棄契約が無効となる理由
先述のとおり、生前の相続放棄契約をしたい場合に遺言書を作成したとしても、法的効力はありません。
なぜなら、被相続人が相続人に対して強制的に相続放棄をさせてしまうと、さまざまな問題が起こる可能性があるために、相続人の平等性を担保できなくなってしまうからです。
ただし、生前の相続放棄契約はできないものの、次に紹介する3つの手段で相続放棄契約に代わる対応が可能です。
生前の相続放棄契約に代わる3つの手段
生前の相続放棄契約に代わる手段は次の3つです。
- 生前贈与
- 遺言
- 推定相続人の廃除・相続欠格の利用
それぞれの手段を詳しく見てみましょう。
生前贈与
生前贈与とは、生前に相続人以外の人あるいは特定の相続人へ財産贈与をする方法のことです。
相続人以外の人に生前贈与を行うことで、相続させたくない人への相続財産を減らすことができます。特定の相続人に多く財産を引き渡すことも可能です。
たとえば長男の配偶者に介護をしてもらい、そのお礼としてその配偶者に遺産を渡したい場合、生前贈与を選択することで、確実に財産を渡せます。
ただし贈与する時期や贈与の割合などによっては、遺産分割協議によって相続財産に生前贈与された財産を持ち戻さなくてはならないといったケースがあります。
さらに、贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っていて生前贈与をした場合には、遺留分侵害請求をされることがあるため注意しましょう。
遺言
生前贈与とは、生前に相続人以外の人あるいは特定の相続人へ財産贈与をする方法のことです。
相続人以外の人に生前贈与を行うことで、相続させたくない人への相続財産を減らすことができます。特定の相続人に多く財産を引き渡すことも可能です。
たとえば長男の配偶者に介護をしてもらい、そのお礼としてその配偶者に遺産を渡したい場合、生前贈与を選択することで、確実に財産を渡せます。
ただし贈与する時期や贈与の割合などによっては、遺産分割協議によって相続財産に生前贈与された財産を持ち戻さなくてはならないといったケースがあります。
推定相続人の廃除・相続欠格の利用
相続人の中には遺産をより多く獲得するために、通常では考えられない行動をする人がいるのも事実です。
そのような相続人に被相続人の財産を相続させないために、「推定相続人の廃除」「相続欠格」の制度というものがあります。
相続欠格とは、相続制度の基盤を維持するため被相続人に対する生命侵害等の行為、被相続人の遺言作成等に対する不当干渉行為があった場合に、相続人としての資格を失われることをいいます(民法891条)。
「推定相続人の廃除」とは、推定相続人に相続欠格事由ほどではないが、被相続人からみて相続させたくないと考えるような一定の事由があり、かつ、その者に相続させることを欲しない場合に、家庭裁判所の審判によってその者の相続権を剥奪する制度です。
これらの制度を利用すれば、相続させたい相続人へ多く財産を引き渡すことが可能です。
しかし「推定相続人の廃除」「相続欠格」は意見の対立程度では認められません。常識の範囲外である侮辱行為などである必要があります。
遺留分放棄は生前でも手続き可能
生前の相続放棄手続きは認められないものの、生前の遺留分放棄手続きは認められています。
遺留分の意味と遺留分放棄の概要・手続きについて詳しく見てみましょう。
遺留分とは
遺留分とは法律で定められたもので、相続人が最低限受け取ることのできる相続分です。
相続順位によって取得割合が定められており、被相続人が遺言を残したとしても遺留分を侵害できません。
遺留分は配偶者、子、父母に認められており、父母が被相続人よりも先に死亡した場合は直系卑属(孫、ひ孫、祖父母など)に認められます。
兄弟姉妹には遺留分はないため注意してください。
遺留分放棄の概要・手続き
遺留分放棄とは、遺留分の権利者が遺産に関する権利を自ら放棄することです。
遺留分を放棄すると遺留分侵害額請求ができなくなり、遺留分トラブルの可能性が低くなります。
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分が認められているため、遺言によってもこれら遺留分を奪うことができません。
しかし、遺留分放棄が認められた場合は、「財産のすべてを特定の人に相続させる」等、遺留分を気にすることなく遺言することが可能となりますので、効果的な対策を立てることができます。
なお遺留分放棄には、以下のような費用や書類が必要です。
費用は次のとおりです。
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手代
申立先は、被相続人の住所地の家庭裁判所です。
必要書類は次の2つです。
- 申立書
- 標準的な申立添付書類
- 被相続人の戸籍謄本
- 申立人の戸籍謄本
場合によっては追加書類の提出が必要なため、事前にしっかりと確認をしましょう。
詳しくはこちらをご参照ください。
遺留分放棄は裁判所の許可を経ることで可能なものであるため、強い効力を持ちます。
個人間での遺留分放棄の合意は成立しないため、注意が必要です。
また、第三者が勝手に遺留分放棄をしたり、本人の意志を無視して遺留分放棄の手続きをしたりすることもできません。
遺留分の放棄を許可されるかどうかは、主に、遺留分権利者の放棄が自由な意思に基づいているかどうか、放棄について合理的な理由があるかどうかについて判断されます。
被相続人の圧力により強制されて申立てを行ったなどの事情が判明した場合は、自由な意思に基づいていないため放棄は許可されません。
申立ての動機が強い干渉の結果と推認され、真意とは即断できないとして申立てを却下した事例がありますので、ご留意ください。
まとめ
本記事では生前の相続放棄契約についてご紹介しました。生前の相続放棄は不可能であるものの、それに代わる「生前贈与」「遺言」「推定相続人の廃除・相続欠格の利用」は可能です。
生前に相続放棄をしたいと考える方は、上記の3つから自身に合ったものを選びましょう。
しかし生前の遺留分を放棄する場合、家庭裁判所の許可が必要となります。さらに一度許可されたものを撤回はできないため、十分に検討してから行いましょう。
遺留分放棄するべきかどうかが分からない方は、当事務所弁護士までお問い合わせください。
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