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弁護士コラム
相続放棄をしたら不動産はどうなる?空き家や借金がある場合の注意点を徹底解説
- 相続放棄
- 投稿日:2025年10月10日 |
最終更新日:2025年10月10日
- Q
- 相続放棄をすれば、借金も不動産の管理もすべて免れるのですか?
- Answer
-
相続放棄をしても、すべての負担を免れるわけではありません。
特に、相続財産に不動産が含まれている場合には、「管理義務」や「費用負担」が一時的に生じることがあります。
不動産を含む相続放棄は、借金を回避できる一方で、管理義務や費用負担が残りやすく、思わぬ落とし穴となることがあります。
本記事では、不動産を含む相続放棄の注意点や実務対応(管理費・遺品処分・相続財産清算人・競売リスクなど)を、弁護士が分かりやすく解説します。
目次
はじめに
相続財産に不動産が含まれるときの特徴
相続財産に不動産が含まれている場合、現金や預貯金と違って「すぐに分割・処分できない」という特徴があります。とりわけマンションや戸建て住宅、土地などは、所有者の変更登記や維持管理義務が伴います。
さらに、不動産の利用価値がある場合は「住み続けたい」という思いと、「負債や維持費の負担が重い」という現実の間で、相続人が迷うケースが多く見られます。
相続放棄を検討する背景(借金・老朽化物件・空き家問題など)
相続放棄が検討される大きな理由は、被相続人(亡くなった方)に多額の借金がある場合です。不動産を相続すると同時に債務も承継するため、結果的に「マイナスの相続」となりかねません。
また、相続対象の不動産が老朽化した住宅や使い道のない空き家の場合、修繕費・固定資産税・管理費が重荷となります。放置すれば倒壊や不法投棄などのリスクもあり、近隣住民とのトラブルに発展する恐れもあるため、「引き継ぐくらいなら放棄した方がよいのでは」と考える方が増えています。
相続放棄の基本知識
相続放棄とは?(民法915条・938条・939条のポイント)
相続放棄とは、相続人が最初から相続人でなかったことにする制度です。
- 民法915条では、相続人は「自己のために相続開始があったことを知ったときから3か月以内」に承認(単純承認・限定承認)か放棄を選ばなければならないと定めています。
- 民法938条では、相続放棄は家庭裁判所に申述することでのみ可能とされています。
- 民法939条によれば、相続放棄をすると「初めから相続人でなかったものとみなされる」ため、代襲相続も生じません。
つまり、相続放棄をすれば借金を含めた相続財産を一切引き継がずに済みますが、その反面、不動産などプラスの財産も一切承継できなくなります。
相続放棄の効果と他の相続人への影響
相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったことになります。
そのため、放棄者の子どもに相続権が移ることもなく(代襲相続は発生しません)、結果として次順位の相続人に権利義務が移ります。例えば、子が放棄すれば、親や兄弟姉妹に相続権が回ることになります。この点を理解せずに放棄してしまうと、「自分は放棄したけれど兄弟に迷惑をかけてしまった」といったトラブルが生じることもあります。
そのため、相続放棄をする際には「他の相続人にどのような影響が及ぶか」を確認しておくことが重要です。
相続放棄の熟慮期間(3か月ルール)の注意点
相続放棄の申述は、相続開始を知った日から3か月以内(熟慮期間)に行う必要があります(民法915条)。
この期間を過ぎると「単純承認したもの」とみなされ、相続放棄はできません。
ただし、相続財産の全貌がすぐに把握できない場合には、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長申立て」を行うことも可能です。不動産が絡むケースでは、登記・借入状況・担保設定などの調査に時間がかかるため、安易に期限を過ぎてしまわないよう注意が必要です。
不動産を相続放棄する際の注意点
熟慮期間中に住み続けてもよいのか
相続放棄を検討している場合でも、熟慮期間(相続開始を知ってから3か月間)の間は、相続不動産に住み続けること自体は問題ありません。
ただし、この期間中に相続財産を「処分」したとみなされる行為をすると、法定単純承認に該当してしまい、相続放棄ができなくなる点には注意が必要です。
例えば、通常の生活に伴う使用は構いませんが、大規模なリフォームや売却のように財産の性質を変える行為は「処分」にあたります。
不動産の修繕・遺品整理が「法定単純承認」となるリスク
相続放棄を検討中であっても、不動産に手を加えたり、被相続人の遺品を処分したりする行為には注意が必要です。
- 修繕
壁や床の大規模修理などは「保存行為」を超えるため、処分行為と評価されるおそれがあります。結果として法定単純承認(民法921条1号)となり、相続放棄ができなくなります。 - 遺品整理
家具や衣類を持ち出してしまうと「隠匿」にあたり(民法921条3号)、やはり法定単純承認とされます。実際の裁判例でも、被相続人の動産をほとんど持ち帰った行為が「隠匿」と判断されたケースがあります。
このため、熟慮期間中は不動産の維持に最低限必要な管理にとどめ、遺品はそのまま残しておくことが肝心です。
管理費や固定資産税の支払い義務
マンションの場合、管理費や修繕積立金の支払いが生じます。注意しなければならないのは、相続財産から管理費を支払うと「処分」とみなされる点です。
したがって、熟慮期間中に発生する管理費は、相続人自身の負担で支払う必要があります。
また、固定資産税についても同様で、相続放棄を行うまでは相続人に管理義務(民法918条)があるため、滞納による不利益を避けるために一時的に立て替えることが望ましいといえます。
相続放棄後も、相続財産清算人が選任されるまでは管理義務が続くため、管理費や税金を請求されることがあります。その場合は、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てることで、最終的には新所有者や国庫に処理が移される仕組みとなります。
相続放棄後は不動産に居住できなくなる
相続放棄が家庭裁判所に受理されれば、相続人は初めから相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、相続不動産に住み続ける権利は失われます。そのため、相続放棄後は速やかに退去する必要があります。
退去の際にも注意が必要で、被相続人の遺品を勝手に処分して持ち出すと「隠匿」とされ、相続放棄の効力を失うリスクがあります。したがって、遺品は室内に残したまま退去し、その後の処理は相続財産清算人や新しい所有者に委ねることが原則です。

不動産を含む相続放棄は「住み続けていいのか?」「管理費は誰が払うのか?」といった細かい点でつまずきやすいため、実務上の注意が非常に重要です。
相続放棄後も残る「管理義務」
相続放棄後も一定の管理責任が続く理由(民法940条)
相続放棄をすると、法律上は「初めから相続人でなかったもの」とみなされます(民法939条)。しかし、だからといって不動産をそのまま放置してよいわけではありません。
民法940条は、相続放棄をした者にも一定の管理義務を課しています。これは、相続財産が放置されることで他の利害関係人(債権者・管理組合・近隣住民など)に損害が及ぶのを防ぐためです。
具体的には、相続放棄をしても、新しい管理者(次順位の相続人や相続財産清算人)が財産の管理を始めるまで、放棄した相続人が「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって財産を管理しなければならないとされています。
もっとも、民法940条の管理義務は「相続人が実際にその不動産を占有していた場合」に限られます。
例えば、亡くなった親の家に同居していたり、鍵を持っていて自由に出入りして使用していたような場合には、放棄後も一時的に管理を続ける義務が残ります。
一方で、遠方に住んでいて不動産を一度も使っていなかった、全く占有していなかったというケースでは、管理義務を負うことはありません。
つまり、「放棄しても管理義務が残る人」と「最初から管理義務がない人」がいるので、ご自身がどちらに当てはまるかを確認することが大切です。
管理費・維持費の扱い
相続放棄をしても、相続財産の不動産には次のような維持費が発生します。
- マンションの管理費・修繕積立金
- 固定資産税
- 最低限の維持管理費(除草・雨漏り対策など)
問題は、相続放棄後も新たな管理者が決まるまで、これらを一時的に負担せざるを得ないケースがあることです。例えば、マンションの管理組合は滞納分を新所有者に請求できますが、新所有者が決まるまでは相続放棄した人に督促が来る可能性があります。
ただし、最終的に管理費や滞納分は競売で取得した新所有者や国庫が負担するため、相続放棄した人が永久に負担を背負うわけではありません。あくまで「管理者が決まるまでの間の仮の責任」と考えるのが正確です。
管理義務から解放される方法(相続財産清算人の選任)
相続放棄後に管理義務から解放される確実な方法が、相続財産清算人の選任申立てです。
- 相続財産清算人は、家庭裁判所の決定により選任され、相続財産の管理・清算・処分を担います(民法952条以下)。
- 相続財産清算人が選任されると、相続放棄をした人は管理義務から解放され、管理費や税金の請求も原則として管理人が処理します。
- ただし、選任の際には予納金(30万〜100万円程度)が必要とされる場合があり、経済的負担が課題となります。
実務上は、相続財産に価値があれば債権者や管理組合が申立てを行うことも多いため、相続放棄者自身が必ず申立てを行わなければならないわけではありません。
しかし、周囲が動かない場合には、自ら相続財産清算人の選任を申し立てることを検討する必要があります。
相続放棄と比較検討すべき選択肢
単純承認して売却するケース(メリット・デメリット)
相続放棄を選ぶ代わりに、単純承認して不動産を相続し、その後売却する方法もあります。
メリット
不動産の売却代金から、建物解体費用や諸経費を差し引いてもプラスが残る場合、経済的利益を得ることができます。特に不動産の価値が高い場合や需要が見込める地域であれば、有効な選択肢となります。
デメリット
一度承認して所有者になると、売却までの間に建物が倒壊して近隣に被害を与えた場合には工作物責任(無過失責任)を負う可能性があります。また、借金などマイナスの財産も引き継ぐため、相続財産全体で債務超過になっている場合はリスクが大きくなります。

相続財産に価値がある場合は「相続して売却」という選択も現実的ですが、借金が多い場合や不動産の市場価値が低い場合は慎重な判断が必要です。
古い空き家をそのまま放置した場合のリスク(倒壊・不法投棄など)
不動産を相続したものの、放置してしまうと深刻な問題を引き起こします。
- 倒壊の危険:老朽化した住宅が崩れ、近隣住民や通行人に損害を与えると、所有者責任を問われる可能性があります。
- 火災・放火リスク:空き家は火災や放火の温床になりやすく、地域の防災上も問題視されます。
- 不法占有やごみ投棄:管理されていない土地や建物は、不法侵入者や不法投棄のターゲットとなり、周辺環境を悪化させます。
資料でも指摘されているとおり、時間が経過するほど建物は朽ち、土地も荒廃していきます。結果として管理義務違反を問われるリスクが高まるため、「放置」は最も避けるべき選択肢といえます。
金融機関や債権者による競売の可能性
不動産に抵当権が設定されている場合、金融機関は抵当権を実行して競売にかけることができます。
また、被相続人に多額の借金があると、債権者が裁判で債務名義を取得し、不動産を差し押さえて競売にかけるケースも考えられます。この場合、不動産の所有権は落札者に移り、マンション管理組合や債権者は新所有者に未払い管理費や債務を請求できるようになります。
したがって、相続人が相続放棄を選択した場合でも、債権者や抵当権者が相続財産清算人の選任申立てを行い、競売によって処理される可能性が高いといえます。
よくある質問(Q&A)
- Q
- 相続不動産について相続放棄した後に、管理費を請求されることはありますか?
- Answer
-
相続放棄をした場合でも、新しい管理者が確定するまでの間は管理義務が残ります(民法940条)。そのため、マンションの管理費などが一時的に請求される可能性があります。
ただし、相続財産清算人が選任されたり、競売で新所有者が決まれば、未払い分は新所有者に請求できる仕組みになっています。したがって、放棄後に管理費を請求された場合でも、最終的には自分が永久に負担するわけではありません。
また、上述したとおり、不動産を実際に占有していなかった場合は管理義務が生じないケースもありますので、ご留意ください(民法940条)。
- Q
- 遺品を処分したら相続放棄できなくなりますか?
- Answer
-
相続人が遺品や不動産の一部を処分すると、「法定単純承認」とみなされ(民法921条1号・3号)、相続放棄ができなくなる可能性があります。
例えば、被相続人の家具や衣類をほとんど持ち帰る行為は「隠匿」と評価され、相続放棄の効力を失うリスクがあります。
相続放棄を検討している間は、遺品整理や修繕は行わず、最低限の管理にとどめることが重要です。
- Q
- 相続財産清算人の費用は誰が負担するのですか?
- Answer
-
相続財産清算人の選任には、予納金(30万〜100万円程度)が必要です。
原則として申立人が負担しますが、相続財産に十分な価値があれば、その中から管理費用や報酬が支払われます。
もし相続財産に債務しかない場合、相続人が負担するインセンティブは低いため、実務では債権者やマンション管理組合などが申立人となるケースが多いです。
- Q
- 相続放棄後に不動産に住み続けたい場合の方法はありますか?
- Answer
-
残念ながら、相続放棄をすると最初から相続人でなかったものとみなされるため(民法939条)、その不動産に住み続ける権利は失われます。そのため、相続放棄後も居住を続けることは原則できません。
どうしても住み続けたい場合は、相続放棄ではなく限定承認や単純承認して不動産を相続する方法を検討する必要があります。
ただし、この場合は被相続人の借金も含めてすべて承継するため、債務超過のリスクを負うことになります。実務上は、債務が少なく、不動産の価値が明らかに高い場合にのみ選択される方法といえるでしょう。
まとめ
不動産がある場合の相続放棄は特に注意が必要
相続放棄は、借金などマイナス財産の承継を回避できる有効な手段です。
しかし、相続財産に不動産が含まれる場合は、現金とは違って住居・土地という形ある資産であるため、放棄の過程で特別な注意が必要となります。
熟慮期間中の過ごし方や、修繕・遺品整理といった行為が「法定単純承認」とされて放棄ができなくなるリスクもあります。
放棄しても「管理義務」や「費用負担」が残る可能性
相続放棄をしても、新しい管理者が確定するまで相続財産の管理義務が続くことは見落とされがちです(民法940条)。マンションであれば管理費や修繕積立金、土地や建物であれば固定資産税や最低限の維持管理費を一時的に負担しなければならないことがあります。
また、相続財産清算人を選任する場合には30万〜100万円程度の予納金が必要となるケースもあり、実務上の経済的負担は小さくありません。
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不動産付きの相続は、相続放棄をすべきか、承認して売却すべきか、あるいは管理人を選任すべきかなど、判断を誤ると大きなリスクを伴います。放置すれば空き家問題や債権者からの競売申立てにつながり、近隣トラブルを引き起こす可能性もあります。
そのため、相続放棄を検討する際は、弁護士などの専門家に早めに相談することが最も確実な解決への近道です。専門家は、財産や債務の全体像を調査し、最適な手続きを提案することで、相続人の不利益を最小限に抑えてくれます。
相続放棄を検討している方は、独断で判断せず、必ず専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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