保険金レスキュー

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弁護士コラム

保険金の支払遅滞は許されるのか?~保険金の不払いとその対応~

紛争解決
投稿日:2022年09月09日 | 
最終更新日:2022年12月02日
Q
近隣住宅からの延焼で自宅が全焼し、保険金の支払請求を保険会社にしているのですが、3か月が経過しても全く支払ってくれません。
このような支払遅延は許されるのでしょうか?
Answer
保険金給付の遅滞は、昔から大きな問題とされ、数多くの裁判がなされてきました。
当事務所においても、保険金が多額になるというだけで、調査が1度終了しているにもかかわらず、保険会社が再調査を要請し、保険金支払いをなかなか行わない事案や調査を懈怠している不当な事例が報告されています。
あり得ないと思われるかもしれませんが、実際にある話です。

保険に入る際には、安心と補償をうたい、保険契約の締結を求め、保険料を支払わせたのち、保険金の支払場面になれば、その支払を遅滞させる、このような現状を目の当たりにしているのです。
不当な保険金の支払遅滞は、金融庁が公表する「保険会社向けの総合的な監督指針」や日本損害保険協会が策定し、加盟社に対して遵守を要請している「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」にも抵触するおそれがあります。
約款の内容等を確認し、毅然とした対応を取ることをお勧めします。

保険金遅滞の歴史

保険金給付の遅滞は、昔から大きな問題とされ、数多くの裁判がなされました。

その中で、最高裁判決(最判平9・3・25民集51・3・1565)は、保険金の請求日から30日間の猶予期間を定めた部分については、保険給付の履行時期にかかる特約として有効としつつ、当該期間経過後も調査が終了していないときは調査終了後まで保険給付の履行を猶予する旨を定めた部分は、履行期に関する定めとは解せないと判示し、30日の猶予期間の経過により保険会社が履行遅滞に陥るとの判断を示しました。

これを受け、生命保険における約款の上記取扱いについても、下級審裁判例でも同種の判断が示されたため、保険会社の保険給付の履行期ないし履行遅滞の時期に関する規律の在り方が模索されていました。

そこで、保険法では、保険会社が保険給付を行うにあたり予め保険事故の発生等の一定の事項に関する調査を要するという保険契約上の要請と、保険給付は可及的速やかに行われることが望ましいとの要請を考慮し、保険給付の履行期について規律を設けるに至りました。

保険金の支払期限

保険金の支払期限を徒過した場合、保険会社は、保険金受取人(被保険者)に対して、履行遅滞責任として所定の保険金に加えて遅延損害金を支払う責任を負います

ご相談の事例においても、保険会社が履行遅滞に陥っている可能性があるため、まずは、いつ保険金の支払期限を迎えるのか、保険法と約款の規定について説明します。

保険金の支払期限が定められている場合

調査を終えるのに相当の期間といえるか否か

保険契約において保険給付の期限が定められた場合については、当該期限が、保険事故や免責事由その他の保険給付を行うために調査・確認を要するものとして合理的な期限(相当の期間)かどうかを判断します。

そして、保険契約(多くは約款)で定める履行期限が、上記の調査のための相当の期間を経過する日より前の日であるときは、約定の履行期限を有効とします。

他方で、約定の履行期限が当該調査のために相当の期間を経過する日より後の日であるときは、約定の履行期限の有効性を認めず、相当の期間を経過する日をもって保険給付の履行期限としています(保険法21条1項・52条1項・81条1項)。

したがいまして、約定の保険給付の履行期限が、相当の期間を超えて設定されているときは、保険会社は約定期限の到来前に履行遅滞に陥ることになります

そのため、保険契約において保険給付の期限を定めた場合、保険給付にかかる調査のための「相当の期間」の意義とその解釈が重要な意味を有することになります。そして、この「相当の期間」は、保険契約の種類、保険事故・給付事由の内容・態様、免責事由の内容等を勘案し判断されるものと解されています。

この点について、約定の履行期限が「相当の期間」を超えることの証明責任は、被保険者・保険金受取人がこれを負うとの指摘もありますが、当事務所では、調査期間の合理性の有無を判定する判断材料が保険会社に偏在するのが一般的であることから、保険会社が約款所定の履行期限が相当の期間内であることを立証する必要があると考えています。

調査の起算点について

保険会社が保険約款又は契約締結時の交付書面で定めた一定の書類・証拠のうち、被保険者等に対し提出を求めたものであって、当該調査に関係するものが保険会社に提出された日を、保険金支払のための調査における起算点とします

約款では、被保険会社等が約款所定の書類等のうち、保険会社の求めたものの提出を行った日をもって、当該期間の起算点と定めることが一般的ですが、上記の趣旨から、保険会社の求めた書類等が保険会社として行う調査に関係のないものであるときは、被保険者等がこれを提出しないとしても、上記期間の起算が妨げられることはないと解されています。

なお、保険会社が上記の必要な調査を行い相当の期間内に保険給付を行おうとしても、保険契約者等が保険会社の要請に応じなかったり、調査に協力することを不当に拒絶したり、調査を妨害したりする等の事情が認められる場合(火災現場への立入拒否、保険事故の発生原因調査に必要な証拠の故意による滅失等)は、これにより保険給付が遅延しても、保険会社は履行遅滞の責任を負わないことには注意をしてください(保険法21条3項・52条3項・81条3項)。

ただし、この規定は片面的強行規定(※)であるため(保険法26条・53条・82条)、保険契約者等による正当理由のない調査妨害・協力拒絶以外の事由を遅行遅滞免除理由として追加する約款規定は、原則として無効となり、保険法21条3項等の定める範囲で有効なものと修正されますので、保険会社による不当な調査協力義務違反の主張には、法令以上のものを要求していないか確認することが必要です。

※片面的強行規定
約款の定めが【保険法】の規定よりも保険契約者・被保険者・保険金受取人にとって不利と評価される場合には、その部分を無効とする一方、保険契約者・被保険者・保険金受取人に有利な内容であれば、保険法の条文に反する内容でも約款は無効とならないとする規定
コラム 【注意】

~手続に必要な用紙の交付などがなされなかった場合について~
保険約款で保険給付の履行期を明確化することに伴い、「相当の期間」の起算点となる「保険金請求手続の完了日」(請求完了日)を明記する必要があることから、保険約款において、被保険者等が保険給付の請求に際し、保険会社に対し提出すべき書類・証拠を具体的に列挙し、請求手続の内容の明確化も図ろうと一応は規定されています。

しかしながら、当事務所では、この点が適切に運用されていないことを多く確認しています
例えば、保険会社から手続に必要な用紙の交付がなされなかった場合等が実際にあります。
このような保険会社の対応は、例えば、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の「II-4-5-2    保険金等支払管理態勢」(2)⑤エによって禁じられています。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」の「II-4-5-2    保険金等支払管理態勢」(2)⑤エ
「保険金等の支払事由が発生した場合には、利用者保謹、利用者利便の視点に立った迅速かつ適切な保険金等請求手続の説明、保険金等請求書類の交付、損害調査、事実の確認や顧客対応等」の態勢の整備が義務付けられているのです。

最高裁平成9年3月25日判決は、上記保険会社の手続対応の点について、遅くとも保険会社支社長が本件火災現場を視察した日から30日を経過した日をもって、約款所定の手続がなされた日とみるのが相当であると判示しました。
そこで、示談交渉や訴訟では、「保険金等請求手続の説明、保険金等請求書類の交付」がなされていないような事例については、上記最高裁判決を引用して、保険会社の調査開始時点から30日を経過した日をもって請求手続日として主張するべきです。

保険会社の調査開始時点については、事故発生の通知があれば調査を開始できますので、事故発生の通知日として主張すべきであると考えます。

期限の定めがない場合

調査を終えるのに必要な期間

これに対し、保険契約において、保険給付の履行期限の定めがない場合、保険法は、保険給付の特質を勘案して、保険会社は、被保険者等からの保険給付請求を受けた後、所要の確認を行うために「必要な期間」を経過するまでは、履行が猶予され、その時点までは履行遅滞の責任を負わないものとしています(保険法21条2項・52条2項・81条2項)。

なお、上記の「必要な期間」は、上記⑴(保険金の支払期限が定められている場合)と異なり、免責事由の有無の確認のための期間が含まれず、また、当該期間の立証責任は保険会社が負うと一般的にも解されています。

調査の起算点について

上記で述べた事項と同じです。

不当な支払遅延を正当化する約款について

保険給付の履行期を定めた場合に関する上記の保険法の規律は片面的強行規定とされています(26条・53条・82条)。

そのため、皆様が契約をされている保険契約の保険約款において、保険法に違反する不当な保険金支払遅滞を正当化する内容が盛り込まれていないか、確認することが肝要です。

例えば、以下の規定は無効になると考えられています。

  • 保険給付の履行期を具体的日数として定めつつ、保険会社がこの期間内に必要な調査を終えることができなかったときは、調査終了後に遅滞なく保険給付を行う旨のみを定める約款規定(この種の約款規定を無効と判示したものとして最判平9・3・25があります)
  • 事実確認のため特に日数を要する場合は履行期の定めを適用せず、調査終了後まで履行遅滞とならない旨の約款規定

実務上、多く確認される保険約款の内容とその対応

火災保険契約の約款では、

  1. 1保険金支払請求が完了した日から30日以内に保険金を支払うために必要な一定事項の確認を終え、保険金を支払う
  2. 2一定事項の確認のため、警察、医療機関等の専門機関への特別な照会、被災地における特別な調査等が必要である場合には、保険金支払請求の完了日から照会、調査の内容に応じて、30日よりも長い期間内(60日〜180日)に保険金を支払う

と規定されていることが多いです。

ここでのポイントは、これらの規定は、それぞれ「必要な調査が終了した場合には直ちに支払う」という趣旨が含まれていると解釈すべきということです。

なぜなら、必要な調査が終了しているにもかかわらず、保険会社にさらに猶予を与えるべき理由はないからです。

したがって、これらの約款の解釈として、必要な調査が終了していれば、所定の日数が経過していなくとも履行遅滞になると考えられます。

そのため、必要な調査が終了しているにもかかわらず保険会社にさらに猶予を与えるべき理由は存在しませんから、もし調査が終了しているような事案においては、「信義則上、保険会社は約款所定の履行期、すなわち期限の利益を主張することはできない」と述べるべきでしょう。

支払期限の合意

約款の期限とは別に、具体的な調査の進行状態等に鑑みて、保険金の支払期限について、個別的に保険会社・被保険者との間で合意がなされることもあります。

この点につき、 30日以内に調査を終えることができなかった保険会社が、「更に確認すべき点があるので協力をお願いする、調査は迅速に進め、結果が出れば保険金支払の可否についての最終判断を速やかに連絡する」旨の協力依頼書を送付し、被保険者が調査に協力をしたという場合に、履行期を延期する合意を認めた判例があります(最一小判平20・2・28判時2000号130頁)。

したがって、保険会社との交渉過程では、このような約束がされていないか確認の上、約束がされているとすれば、遅延損害金もこの合意された期限に基づいて請求するべきでしょう。

不払いに対する対応

さて、上記で回答しましたように、当事務所では保険金の不当な支払遅延の実態を確認することが多いです。

このような保険金の不当な支払遅延等の問題について、2005年以降に生命保険・損害保険で多数の保険金不払や保険料過払が判明した、いわゆる「保険金不払問題」を契機として、日本損害保険協会が策定したガイドラインがあります。「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」というものです。このガイドラインは、日本損害保険協会のホームページで公開されています。

同様に、「契約概要・注意喚起情報(重要事項)に関するガイドライン」、「第三分野商品(疾病または介護を支払事由とする商品)に関するガイドライン」及び「保険約款および募集文書等の用語に関するガイドライン」が策定されています。

保険会社が保険金の支払いを遅滞している場合には、是非ご一読ください。

なお、金融庁が公表する「保険会社向けの総合的な監督指針」でも、保険会社に対して、保険業法に基づく保険契約者を守るべき規律を定めています。

不当な保険金支払遅滞がある場合には、これらに抵触している可能性があることから、行政機関への上申やこれらのガイドラインに基づく苦情申入れをすることが大事です。

保険金の不払いに関するお悩みは、弁護士に相談を

本記事で述べたように、当事務所では保険金の不当な支払遅延に関するご相談を受けることがよくあり、このような実態を多く確認しています。

お悩みの際は、当事務所の弁護士まで、早めにお問い合わせください。

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